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3.3 分析方法 .1 メールの構造 .1 メールの構造

3.3.3 メールのやりとりの構造

以上の一回目の送信メールと一回目の返信メールを分析した後に、約束をキャンセルすると いう話題が終了するまでの一連のメールのやりとりの構造を分析した。第 2 章の 2.2.5 でも述べ たように、本研究で取り扱う約束をキャンセルする謝罪メールは、会話のように相互にやりと りをするものとみなすことができるため、その一連のメールのやりとりの構造を分析するため に、「ターン交替」(メイナード:1993、Sacks, Schegloff and Jefferson:1974)、「話題」

(筒井:2012)、「隣接ペア」(Schegloff & Sacks:1973、高木他:2016)という 3 つの概念が 用いられている会話分析の方法を援用しながら分析を行うことにした。ここで例を挙げながら、

この分析方法と手順を説明する。

まず、42 ページの例 1 のように、一連のメールのやりとりにおいて、送信メールと返信メー ルがそれぞれ何回送られているかを分かりやすくするために、会話のターン交替のように、1回 送・返信されたメールを 1 つのターンにし、一連のメールのやりとりの構造図を示した。

42

<例 1:1F-S2>(ターン交替)

【ターン 1】<送信メール①>

△△先生

おはようございます。

ご相談の時間を設けてくださるとのこと、ご対応ありがとうございます。

当日の申し出で大変申し訳ございませんが、

昨晩から体調を崩してしまい、今も熱があります。

大変恐縮ですが、ご相談の日程のご変更願えますでしょうか。

誠に申し訳ございません。

どうぞ宜しくお願い致します。

△△

【ターン 2】<返信メール①>

△△さん

メール拝見しました。

体調不良では仕方がありませんね。

では、面談はまた後日にしましょう。

体調が戻ったら、次回の面談の候補日をいくつか挙げてください。

改めて日程を調整しましょう。

では、お大事になさってください。

△△

【ターン 3】<送信メール②>

△△先生

ご返信ありがとうございます。

本日は、大変申し訳ございません。

日程の候補は、また後日連絡いたします。

変更してくださり、ありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

△△

例 1 から、1F-S2 のメールのやりとりにおいて送信メールが 2 回、返信メールが 1 回合計 3 回 のメールが送られていることがわかった。つまり、このメールのやりとりにおいては、約束を キャンセルするという話題が終了するまで 3 つのターンで構成されている。

次に、メールのやりとりを分析するためには、一連のメールのやりとりが終了するまでどん な話題が出現するのかということも明らかにした。第 2 章の 2.2.5 で述べたように、本研究で は、筒井(2012)による話題の判断基準に基づいて、約束をキャンセルする話題が終了するま でのメールのやりとりに現れる話題を考察することにしたが、メールのやりとりは会話と異な るところがあり、メールのやりとりに書かれている内容、特にメールの開始部とメールの終了 部にはメールのやりとりのための慣用的な言語形式で書かれることが多く、メールの開始部と メールの終了部における内容は短くて、1 つの話題には 1 つの文のみ書かれるものが少なくない

43 と予想されるため、筒井による話題の質的な異なりを判断する基準だけでは、全ての内容を話 題で区分できないことがあると考えられる。

したがって、本研究では、筒井による話題の判断基準と、メールの開始やメールの終了に用 いられている言語形式を目印として話題を区分する判断基準を併用して、約束をキャンセルす るメールのやりとりを話題で区分し、それぞれの話題に書かれる内容を考察した。筒井による 話題の判断基準は、中心内容としてみなされるメールの主要部の話題を区分するのに用いてい るが、メールの開始やメールの終了に用いられている言語形式(開始の挨拶、宛名、名乗り、

感謝、メール送信への謝罪、メール受信の報告などメールを開始させるとみなされるメールの 開始表現、または終了の挨拶、メールの終結、署名、連絡の要求などメールを終了させるとみ なされるメールの終了表現)での判断基準は、メールの開始部とメールの終了部の話題を区分 するのに用いている。

各メールを話題で区分した結果、44 ページの例 2 のように、1F-S2 のメールのやりとりには、

【始めの挨拶】【終わりの挨拶】【約束キャンセルの言及】【約束キャンセルの承諾】【約束 キャンセルの再言及】【再約束の交渉】の 6 つの話題が出現しており、1 つの話題が一回のみ出 現している場合もあれば複数出現している場合もあったことがわかった。なお、本研究で取り 扱う 80 例のメールのやりとりに出現している全話題の定義と例については、第 6 章の表 6-2 と 表 6-12 に示す(193 ページと 246-247 ページを参照)。

また、例 2 で各メールを話題で区分した後に、それぞれの話題にどんな意味公式が入ってい るかを考察し、一連のメールのやりとりに送信メールと返信メールの意味公式が隣接ペアにな る部分を抽出した。分析結果は、45 ページの例 3 のとおりである。

例 3 から、1F-S2 のメールのやりとりには【始めの挨拶】【終わりの挨拶】【約束キャンセル の言及】【約束キャンセルの承諾】【約束キャンセルの再言及】【再約束の交渉】の 6 つの話 題が出現しているが、【始めの挨拶】は 3 回、【終わりの挨拶】は 3 回、【約束キャンセルの 言及】、【約束キャンセルの承諾】、【約束キャンセルの再言及】は、それぞれ 1 回、【再約 束の交渉】は 3 回出現しているため、話題の出現回数は合計 12 回となっている。

44

<例 2:1F-S2>(話題の区分)

【ターン 1】<送信メール①>

【始めの挨拶】

おはようございます。

ご相談の時間を設けてくださるとのこと、ご対応ありがとうございます。

【約束キャンセルの言及】

当日の申し出で大変申し訳ございませんが、

昨晩から体調を崩してしまい、今も熱があります。

【再約束の交渉】

大変恐縮ですが、ご相談の日程のご変更願えますでしょうか。

誠に申し訳ございません。

【終わりの挨拶】

どうぞ宜しくお願い致します。

【ターン 2】<返信メール①>

【始めの挨拶】

メール拝見しました。

【約束キャンセルの承諾】

体調不良では仕方がありませんね。

【再約束の交渉】

では、面談はまた後日にしましょう。

体調が戻ったら、次回の面談の候補日をいくつか挙げてください。

改めて日程を調整しましょう。

【終わりの挨拶】

では、お大事になさってください。

【ターン 3】<送信メール②>

【始めの挨拶】

ご返信ありがとうございます。

【約束キャンセルの再言及】

本日は、大変申し訳ございません。

【再約束の交渉】

日程の候補は、また後日連絡いたします。

変更してくださり、ありがとうございます。

【終わりの挨拶】

よろしくお願いいたします。

話題ごとにどんな意味公式が入っているかを観察すると、45 ページの例 3 に示したように、

話題によって意味公式の内容と数が様々であることがわかった。1 つの話題に 1 つのみの意味公 式が入っているものもあれば、複数の意味公式が入っているものもある。また、1F-S2 のメール のやりとりに送信メールと返信メールの意味公式が隣接ペアになる部分を抽出した結果では、

以下のような 3 つの「基本の隣接ペア」のみ見られており、「隣接ペアの先行拡張となる意味 公式」「隣接ペアの後続拡張となる意味公式」は、見られなかったことが明らかになっている。

<[配慮表明+謝罪表明+キャンセル理由]-[状況の受け入れ]>

<[謝罪表明+再約束の依頼]-[再約束の承諾]>

<[都合報告の要求]-[連絡の予告]>

45

<例 3:1F-S2>(メールのやりとりにおける隣接ペア)

【ターン 1】<送信メール①>

【始めの挨拶】

おはようございます。 開始の挨拶

ご相談の時間を設けてくださるとのこと、ご対応ありがとうございます。 感謝表明(1)

【約束キャンセルの言及】

当日の申し出で 配慮表明

大変申し訳ございませんが、 謝罪表明(謝罪 1)

昨晩から体調を崩してしまい、今も熱があります。 キャンセル理由

【再約束の交渉】

大変恐縮ですが、 謝罪表明(謝罪 2)

ご相談の日程のご変更願えますでしょうか。 再約束の依頼

誠に申し訳ございません。 再約束の依頼の終結(謝罪 3)

【終わりの挨拶】

どうぞ宜しくお願い致します。 終了の挨拶

【ターン 2】<返信メール①>

【始めの挨拶】

メール拝見しました。 メール受信の報告

【約束キャンセルの承諾】

体調不良では仕方がありませんね。 状況の受け入れ

【再約束の交渉】

では、面談はまた後日にしましょう。 再約束の承諾 体調が戻ったら、次回の面談の候補日をいくつか挙げてください。 都合報告の要求

改めて日程を調整しましょう。 再約束の承諾 【終わりの挨拶】

では、お大事になさってください。 終了の挨拶

【ターン 3】<送信メール②>

【始めの挨拶】

ご返信ありがとうございます。 感謝表明(2)

【約束キャンセルの再言及】

本日は、大変申し訳ございません。 謝罪表明(謝罪 4)

【再約束の交渉】

日程の候補は、また後日連絡いたします。 連絡の予告

変更してくださり、ありがとうございます。 感謝表明(3)

【終わりの挨拶】

よろしくお願いいたします。 終了の挨拶

以上のような手順で分析した上で、46 ページの図 3-1 のようにメールのやりとりの全体の構 造図を示し、メールのやりとりの特徴を明らかにした。その特徴を明らかにした後に、目上へ のメールのやりとりと対等へのメールのやりとりの相違点を検討した。最後に、以上の結果を 踏まえて、タイ語を母語とする日本語学習者に対して約束をキャンセルする謝罪メールのやり とりの指導上の留意点の提案を行った。