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5.1 深刻度が高い場面の返信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

5.1.5 メールの【終了部】の構造と意味公式

136 ページの表 5-1 に示したように、メールの終了部の意味公式として[メールの終 結][連絡の要求][終了の挨拶][署名]の 4 種が見られた。この中で出現率が 50.0%以上であったのは、[署名]のみである。[署名]は開始部の[名乗り]と同様 に自分の名前を書く意味公式であり、目下へのメールに 95.0%出現しているが、対等へ のメールには 40.0%しか出現していない。

[名乗り]と[署名]の出現率から考えると、目下の場合はメールの開始部と終了部 共に 2 回自分の名前を書いている例が 5 例(25.0%)、メールの終了部のみに書いてい る例が 14 例(70.0%)、メールの開始部にも終了部にも書いていない例は 1 例(5.0%)

あった。一方、対等の場合はメールの開始部と終了部共に 2 回自分の名前を書いている 例は 1 例(5.0%)、メールの終了部のみに書いている例は 7 例(35.0%)、メールの開 始部にも終了部にも書いていない例は 12 例(60.0%)あった。

このことから、メール返信者は指導教員で、相手が自分より立場が低い場合でも調査 協力者は、ほぼ全員[署名]として自分の名前を書いてメールを終了する傾向が強いと いえる。しかし、対等の場合は目下の場合と異なり、自分の名前を書くことは、必須で あるとはいえないようである。

153 続いて、終了部に[署名]の次に多く出現しているのは、[終了の挨拶]である。

[終了の挨拶]は目下へのメールに 7 例(35.0%)、対等へのメールに 3 例(15.0%)

出現している。目下の場合と対等の場合共に相手が「体調を崩した」という理由でキャ ンセルした場合は、メール返信者がほぼ全員[終了の挨拶]として「では、お大事にな さってください。」「どうぞお大事にしてください。」「どうぞお大事に。」「ではお 大事に。」「では、お大事に。」というように、「お大事に。」の表現を使用している。

「お大事に」は「早くよくなってください。」や「体を大事にしてください。」とい う意味で使われており、「これ以上大事にならず病気が治るように」という祈りが込め られているだろう。このような挨拶表現を使用することで、メール返信者が風邪など病 気にかかっている相手の体調への気遣いを表すことになると考えられる。一方、「体調 を崩した」というキャンセル理由以外の場合は、「よろしく。」という表現を使用して いる。

最後に、[メールの終結]と[連絡の要求]という意味公式について述べる。[メー ルの終結]は締めの言葉として「取り急ぎ」というような用件のみを伝えて、メールの 終結を表す表現である。目下へのメールに 1 例(5.0%)出現しているが、対等へのメー ルには 1 例も出現していない。

[連絡の要求]は「ご連絡お待ちしてます。」「お返事待ってます!」「またご連絡 お待ちしています。」のように、相手からの返事や連絡を求める意味公式である。これ はいつ再度約束をするかについて、キャンセルした側に返事をもらいたいという意図で使わ れているのだろう。目下へのメールに 5 例(25.0%)、対等へのメールに 2 例(10.0%)

出現している。

以上、深刻度が高い場面の返信メールの構造の分析結果と考察を述べた。以上の結果 から、返信メールは送信メールと異なり、相手が目下か対等かに関わらず、相手からの メールを受け取ってから、【開始部】と【終了部】をあまり書かずに、【主要部】の内 容のみを中心にして書く傾向が強いといえる。返信メールの場合はメール返信者とメー ルを送ってくれた相手が今回のメールのやりとりの話題と目的がお互いにわかっていた ため、調査協力者はできればあまりくどく書かずに、開始部と終了部を書かなくても、

大事なところである主要部のみ返信すれば十分であろうと考えていることが窺える。

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5.1.6 目下へのメールと対等へのメールの相違点

以上、深刻度が高い場面の返信メールの構造を分析した。その結果、目下へのメール と対等へのメールの構造には、以下のような相違点があることがわかった。

(1)メールの意味公式は 26 種に分類できた。26 種の中で目下へのメールに出現してい るが対等へのメールには出現していないのは、メールの開始部の「感謝表明」[メ ール受信の報告]とメールの終了部の[メールの終結]である。一方、目下へのメ ールには出現していないが対等へのメールに出現しているのは、メールの主要部の [埋め合わせの要求]である。

(2)26 種の中で半数以上出現している意味公式の数は、目下の場合は 6 種で、対等の 場合は 4 種である。目下へのメールには〈[件名]→[宛名]→[キャンセル報告 の了解]→[気遣い表明]→[再約束の承諾]→[署名]〉という 6 種の出現順序 が最も多かった。一方、対等へのメールには〈[件名]→[キャンセル報告への反 応]→[謝罪の受け入れ]→[再約束の承諾]〉という 4 種の出現順序が最も多か った。

(3)目下の場合は送信者全員が[宛名]を書いているが、対等の場合は 45.0%のみで あった。

(4)[キャンセル報告への反応]は対等へのメールに 50.0%出現しているが、目下へ のメールには 5.0%しか出現していない。

(5)[謝罪の受け入れ]は対等へのメールに 50.0%出現しているが、目下へのメール には 10.0%しか出現していない。

(6)[気遣い表明]は目下へのメールに 50.0%出現しているが、対等へのメールには 35.0%しか出現していない。

(7)[署名]は目下へのメールに 95.0%出現しているが、対等へのメールには 40.0%

しか出現していない。

(8)目下の場合は[名乗り]と[署名]としてメールの開始部と終了部共に 2 回自分の 名前を書いている例が 25.0%あったが、対等の場合は 5.0%しかなかった。反対に、

メールの開始部にも終了部にも書いていない例が対等の場合は 60.0%あったが、目 下の場合は 5.0%しかなかった。また、目下の場合はメールの終了部のみに書いて いる例が 70.0%あったが、対等の場合は 35.0%あった。

155 以上の相違点から、調査協力者は相手からの約束キャンセルのメールを受け取ったら、

そのメールに返信する際に、目下にも対等にも相手に気遣う気持ちを表す傾向が見られ たが、相手への気遣いの仕方が異なることがわかった。相違点(2)(4)(5)(6)で わかるように、目下の場合は相手からの約束キャンセルのメールを受け取ったら、返信 者は[キャンセル報告の了解]の意味公式で「了解しました。」や「了解です。」など というように、相手が約束をキャンセルしたいということを了解したと簡潔に知らせ、

「インフルエンザと診断されたとのこと、大丈夫ですか。無理をせず、今日はゆっくり休んで ください。」や「お父様のご心配を優先させてください。」などというように、はっきり相 手の現状について聞いたり、対処方法を提示したり、相手に心配する気持ちや気遣う気持ちを 表してから、相手からの再約束の依頼を引き受ける傾向が強い。

しかし、対等の場合は相手からのメールを受け取ったら、返信者はまず[キャンセル 報告の了解]の代わりに、「そっか」や「そうなんだ、」などというように、相手から の約束キャンセルの報告に対するがっかりや驚きなどというような気持ちを伝達するこ とで、相手からの[キャンセル報告への反応]を表している例が多かった。[キャンセ ル報告への反応]を表わした後、相手からの再約束の依頼を引き受ける前に、[気遣い 表明]も表しているが、目下への場合ほど多くなかった。さらに、そのように[キャン セル報告への反応]と[気遣い表明]で相手への気遣う気持ちを表しているだけでなく、

相手との関係に支障が生じるのではないかと不安に思うキャンセルした側を安心させた り、怒っていると思われないように「全然大丈夫だよ!」や「こちらの方は全然大丈夫 なので気にしないでね。」などの[謝罪の受け入れ]をはっきり表す傾向が見られた。

目下の場合は[謝罪の受け入れ]を使用している例が 2 例(10.0%)しかなかった。

つまり、相手からの再約束の依頼を引き受ける前に、目下の場合は相手からの約束キ ャンセルの報告に対するがっかりや驚きなどというような気持ちを伝達せずに、相手が 約束をキャンセルしたいということを了解したと知らせてから、はっきり相手の現状に ついて聞いたり、対処方法を提示したり、相手に心配する気持ちや気遣う気持ちを表す傾向が ある。しかし、対等の場合は相手からの再約束の依頼を引き受ける前に、まず相手から の約束キャンセルの報告に対するがっかりや驚きなどというような気持ちを伝達してい る。その後、はっきり相手の現状について聞いたり、対処方法を提示したり、相手に心配す る気持ちや気遣う気持ちを表すだけでなく、相手との関係に支障が生じるのではないかと 不安に思うキャンセルした側を安心させたり、怒っていると思われないように相手から