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4.2 深刻度が低い場面の送信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

4.2.7 深刻度が低い場面の送信メールの構造のまとめ

122 を書く際には謝罪表現を 1 回、対等に書く際には 1 回か 2 回使用するという傾向が見られ た。また、謝罪表現は「約束をキャンセルする本題の前置きとしての用法」「配慮表明と しての用法」「約束をキャンセルすること自体に対する謝罪としての用法」「謝罪メール の終結としての用法」の 4 種に分類できた。この 4 種の用法の中で、目上と対等で出現数 が大きく違うのは、「約束をキャンセルすること自体に対する謝罪としての用法」である。

対等へのメールには 16 回現れているが、目上へのメールには 8 回しか現れていない。

つまり、調査協力者は目上にメールを書く際には、相手との約束をキャンセルするとい う事柄自体に対する直接的な謝罪を、配慮表明としての謝罪と同じ程度で重視しているが、

対等の場合には、配慮表明としての謝罪よりも相手との約束をキャンセルするという事柄 自体に対する直接的な謝罪の方を重視する傾向があるということである。このような違い は目上へのメールと対等へのメールの根本的な謝罪の仕方の違いではないかと考えられる。

以上、目上の場合と対等の場合の相違点をまとめた。深刻度が高い場面と同様に以上の(1)

(2)(3)のように、メール全体の構造、メール全体の意味公式の出現率および意味公式の全 体の出現順序の違いには大きな差が見られなかったため、メール全体の構造に大きな違いがあ るとはいえない。しかし、(7)で述べたように、目上の場合と対等の場合に重要な違いが見ら れたのは、謝罪表現の用法についてである。謝罪表現の用法の違いは、目上の場合と対等の場 合の約束キャンセルのメールでの謝罪の仕方の根本的な違いとみなすことができる。

123 順序が最も多かった。一方、対等へのメールには〈[件名]→[宛名]→[前置き]→[キャ ンセル理由]→[キャンセル報告]→[配慮表明]→[謝罪表明]→[キャンセルに対する対 応の言及]→[署名]〉という 9 種の出現順序が最も多かった。この出現順序より、全 22 種 の意味公式の中で半数以上出現している意味公式は、[件名][宛名][開始の挨拶]

[名乗り][前置き][キャンセル理由][キャンセル報告][配慮表明][謝罪表明]

[残念な気持ちの表明][キャンセルに対する対応の言及][別の機会での対面の期待]

[署名]の 13 種となる。これらの 13 種の意味公式は深刻度が低い場面の送信メールの構造と して重要な要素で、メールを書く際に書くべきものだと考えられる。意味公式をこのような 出現順序で組み合わせることにより、まとまった 1 つのメールが成り立つ。今回のデータで は、このようなパターンを深刻度が低い場面の送信メールの典型的な構造とみなすことにする。

(2)件名

メールの件名は「明示的な件名」と「非明示的な件名」の 2 種に分類でき、目上の場合と対 等の場合共に明示的な件名よりも非明示的な件名の方が多く使用されている。また、目上への メールに最も多く見られたのは、「~の件」「~のこと」「~の連絡」という表現でつける件 名と、「~について」「~に関して」という表現でつける件名である。一方、対等へのメール に最も多く見られたのは、「~の件」「~のこと」「~の連絡」という表現を使った件名であ る。「の件」「のこと」「の連絡」「について」「に関して」の前に書かれている内容を見る と、来週どのような約束をしていたかということについての内容が最も多かった。「の件」

「のこと」「の連絡」「について」「に関して」という表現を使った件名は、明示的な件名で はなく、メールの内容が明示的な件名ほど予想しやすく簡潔で具体的な件名であるとはいえな いが、送信者と返信者が既にお互いに約束をしたことを意識しているため、このような件名を つけてもメールを受け取った側がメールの内容がなんとなく予想できるだろうと考えられる。

(3)メールの【開始部】の構造と意味公式

メールの開始部の意味公式は[宛名][開始の挨拶][名乗り]「感謝表明」[メール送信 への謝罪]の 5 種が見られたが、出現率が半数以上であった意味公式は、目上へのメールは

[宛名][開始の挨拶][名乗り]であるが、対等へのメールは[宛名]のみである。この 5 種の中で全ての目上へのメールに出現しているのは[宛名]であり、対等へのメールの 70.0%

にも出現しているため、相手が目上か対等かに関わらず、[宛名]としてまず相手の名前を書 くことは、メールを開始するための重要な意味公式だといえよう。また、目上の場合は[宛名]

124 を書いてから[開始の挨拶]として相手に挨拶している例が 60.0%あったが、対等の場合は開 始部で相手に挨拶している例は 25.0%しかなかった。そして、目上の場合は[開始の挨拶]を 書いてから[名乗り]として自分の名前を書いている例は 65.0%であったが、対等の場合は少 なかった。また、目上の場合と対等の場合のいずれも「感謝表明」と[メール送信への謝罪]

を使用している例が少なかった。

(4)メールの【主要部】の構造と意味公式

メールの主要部の意味公式として[前置き][キャンセル理由][キャンセル報告][配慮 表明][謝罪表明][残念な気持ちの表明][キャンセルに対する対応の言及][別の機会で の対面の期待][参加できる人への伝言][参加可能の期待][共有事項への言及]の 11 種が 見られた。この中でメールの半数以上出現しているのは、[前置き][キャンセル理由][キ ャンセル報告][配慮表明][謝罪表明][残念な気持ちの表明][キャンセルに対する対応 の言及][別の機会での対面の期待]の 8 種である。

[前置き]は送信されたメールがどんな内容であるかを伝えるものであるが、謝罪表現を

[前置き]として使用している例が少数あった。[前置き]として既に約束をしたことにつ いて言及することにより、受信者は約束の変更についてのメールだと予想できるため、

受け入れやすくなるのではないかと考えられる。また、目上の場合と対等の場合共に「来 週の食事会なのですが、」や「来週の食事会だけど、」など、「〜が、」や「~けど、」の表 現を用いて、約束を実行することができないという本題に入る前に、既に約束をしたこ とについて言及している例が非常に多かった。これはメールでの約束キャンセルの前置き の代表的な言語形式だといえよう。

[キャンセル理由]は送信者が全員使用している。深刻度が低い場面の送信メールは当日の 約束をキャンセルするものではないが、当日のキャンセルと同じように相手の時間を無駄にし てしまい、大変失礼になるため、キャンセルの理由や事情などを説明しないと、相手に納得し てもらえないおそれがある。約束のキャンセル理由は「バイトや就職の関係(バイトが入った、

会社面接が食事会と同日になった)」「予定・用事・急用・私用・所用が入った」「家族の事 情(両親や親戚が来ることになった、親戚のお葬式)」「都合が悪くなった」の 4 つにまとめ られたが、最も多かったのは「バイトや就職の関係」という理由である。バイトや就職の関係 で食事会の約束をキャンセルすることは、納得できる理由だと考えられる。

[キャンセル報告]は約束に行くことができないことの知らせや、約束のキャンセルをさせ てもらいたいことを表す意味公式である。[キャンセル報告]は相手に自分が約束の通りに会

125 えないことを知らせる働きをしており、メールの中で最も中心的な内容で、メール全体の主題

(テーマ)を表す「主題文」とみなしてもよいと考える。データの中で、対等にメールを書く 際に、送信者全員が明示的に来週の食事会に参加できないという約束のキャンセルを報告して おり、目上の場合にも 90.0%と、ほぼ全員が明示的に[キャンセル報告]を書いている。これ を明示的に書くことにより、受信者は相手との約束がキャンセルになったという旨を正確に理 解できると考えられる。[キャンセル報告]の最も多く見られた言語形式は、「V 可能形+

なくなってしまった/~なくなっちゃった」の表現である。この表現を多く使用しているのは、

相手が忙しいところゼミの食事会をやってくれるのに、送信者自身が約束の通りに食事会に参 加できなくなったのは残念に思い、さらに後悔もしているために使用しているからではない かと考えられる。

[配慮表明]は相手が誘ってくれたのに約束をキャンセルすることになったこと、店 の予約や企画などの幹事をしてくれたのに約束をキャンセルすることになったこと、店 の予約の後のキャンセルや急なキャンセルや直近のキャンセルをしたこと、勝手に約束 をキャンセルしたこと、約束キャンセルで迷惑をかけることになったことなどに対する 申し訳ない気持ちを伝達をする意味公式で、対等の場合は50.0%出現しているが、目上の場 合には 45.0%しか出現していない。[配慮表明]を使用していない人へのフォローアップ・イ ンタビューの結果では、「この食事会は、先生も入れると 10 人以上が集まるため、私一人だけ が参加できなくても食事会が予定通り行える」「この食事会はゼミのイベントで、プライベー トなものではない」ため、[配慮表明]を書かなくてもよいのではないかと考えていた人がい ることがわかった。送信者は今回の約束は相手に食事する約束をしてもらうように自分から誘 っているわけではないし、当日のキャンセルではないため、深刻度が高い場面と同じように、

[配慮表明]を使用しなくてもよいと考えていたと思われる。[配慮表明]の言語形式として、

目上の場合と対等の場合共に「せっかく誘っていただいたのに」や「予約してくれたのに、」

などの「~のに、」の表現が最も多かった。これは、約束をキャンセルする際の代表的な「配 慮表明」の 1 つだといえよう。

[残念な気持ちの表明]は送信者がゼミの食事会を楽しみにしていたが、参加できなくなり、

残念である気持ちを表す意味公式である。送信者は食事会に参加できないのは、ゼミの食事会 を大事に思っていないからではないということを相手に伝えるために、この意味公式を使用し ており、相手との関係を修復するために使用していると考えられる。目上へのメールには 70.0%使用されているが、対等へのメールには 40.0%しか使用されていない。送信者は友達の 場合はお互いの都合がよければ、いつでも一緒に食事ができるが、先生の場合はゼミの食事会