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5.2 深刻度が低い場面の返信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

5.2.3 メールの【開始部】の構造と意味公式

162 ページの表 5-8 に示したように、メールの開始部の意味公式として[宛名][開 始の挨拶][名乗り][感謝表明][メール受信の報告]の 5 種が見られた。深刻度が 高い場面と同様にこの中で[宛名]は、全ての目下へのメールに出現しているが、相手 が対等の場合は 45.0%しか出現していない。このことから、受け取ったメールに返信す る際に、相手が目下の場合であっても[宛名]としてまず相手の名前を書くのは、指導 教員と学生のメールのやりとりがフォーマルな場面であるからだと考えられる。

目下である自分の学生へのメールは、名前を書くだけでなく、名前の後に「さん」や

「君」という敬称も書かれている。一方、友達へのメールは名前のみ書いている例もあ れば、名前の後に「さん」「君」「ちゃん」のような敬称をつけている例もあった。

目下の場合は例 37 のように[宛名]を書いてから[開始の挨拶]のみ書いている例が 1 例(5.0%)、例 38 のように[宛名]を書いてから[名乗り]のみ書いている例が 3 例

(15.0%)、例 39 のように[宛名]を書いてから[感謝表明]のみ書いている例が 2 例

(10.0%)、例 40 のように[宛名]を書いてから[メール受信の報告]のみ書いている 例が 3 例(15.0%)あった。そして、例 41 のように[宛名]を書いてから[名乗り]と

[感謝表明]を書いている例が 1 例(5.0%)あった。

<例 37:3F-S9>

△△さん こんにちは。

[宛名]

[開始の挨拶]

<例 38:3M-S6>

△△くん

△△です。

[宛名]

[名乗り]

<例 39:3F-S10>

△△さん

連絡ありがとう。

[宛名]

「感謝表明」

<例 40:3F-S2>

△△さん

メール拝見しました。

[宛名]

[メール受信の報告]

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<例 41:3M-S9>

△△君

△△です。ご丁寧にありがとう。

[宛名]

[名乗り]+[感謝表明]

一方、対等の場合は例 42 のように[宛名]を書いてから[開始の挨拶]のみ書いてい る例が 2 例(10.0%)、例 43 のように[宛名]を書いてから[開始の挨拶]と「感謝表 明」を書いている例が 1 例(5.0%)あったが、[名乗り]と[メール受信の報告]を書 いている例は 1 例もなかった。

<例 42:4F-E2>

△△へ おはよう。

[宛名]

[開始の挨拶]

<例 43:4F-E7>

△△~

お疲れ!

連絡ありがとう。

[宛名]

[開始の挨拶]

[感謝表明]

目下へのメールには前に挙げた例 37 のように[開始の挨拶]として「こんにちは。」

が 1 例(5.0%)出現しているのに対して、対等へのメールには「おはよう。」「お疲 れ!」「バイトお疲れ様!」のような挨拶表現が 3 例(15.0%)出現している。一方、

[感謝表明]は[開始の挨拶]と同様に出現率が非常に少なかった。目下の場合は「連 絡をありがとう。」「連絡ありがとう。」「ご丁寧にありがとう。」のように、連絡し てくれたことに感謝している例が 3 例(15.0%)あったのに対して、対等の場合は「連 絡ありがとう。」というような[感謝表明]を使用している例が 1 例(5.0%)あった。

最後に、[メール受信の報告]の意味公式である。[メール受信の報告]は「メール 拝見しました。」「メール拝読しました。」「メール、拝見しました。」のように、メ ールを受け取ったこと、メールの内容を読んだことを報告するものである。目下へのメ ールには 3 例(15.0%)出現しているが、対等へのメールには 1 例もなかった。この出 現率から見ると、メールに返信する際に、相手からのメールが無事に届いているという ような内容をわざわざ知らせずに、主要部の内容のみ書けば十分だと考えられているので はないかと思われる。

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5.2.4 メールの【主要部】の構造と意味公式

162 ページの表 5-8 に示したように、メールの主要部の意味公式として[キャンセル 報告の了解][キャンセル報告への反応][謝罪の受け入れ][状況の受け入れ][キ ャンセル理由への言及][気遣い表明][応援表明][残念な気持ちの表明][キャン セルに対する対応の言及][別の機会での対面の期待][参加できる人への伝言][参 加可能の期待][共有事項への言及]の 13 種が見られた。この中で目下へのメールの 50.0%以上のメールに出現しているのは、[残念な気持ちの表明][キャンセルに対す る対応の言及][別の機会での対面の期待]の 3 種である。一方、対等へのメールの 50.0%以上のメールに出現しているのは、[キャンセル報告への反応][残念な気持ち の表明][キャンセルに対する対応の言及][別の機会での対面の期待]の 4 種である。

それぞれの意味公式に関しては、次の 5.2.4.1 から 5.2.4.4 までで述べる。それ以外の 50.0%未満の出現率であった 9 種の[キャンセル報告の了解]「謝罪の受け入れ」[状 況の受け入れ][キャンセル理由への言及][気遣い表明][応援表明][参加できる 人への伝言][参加可能の期待][共有事項への言及]の意味公式に関しては 5.2.4.5 に述べる。

5.2.4.1[キャンセル報告への反応]

5.1.4.2 で述べたように、[キャンセル報告への反応]は相手からの約束キャンセル に対する反応を表すものである。対等へのメールには半数以上(65.0%)出現している が、目下へのメールには 1 例(5.0%)しか出現していない。

65.0%の対等の場合は「そうなんだー」「そうなんだ!」「そっか、」「そっかぁ」

「そっかぁ~」「そっかぁ 」「そうなんや(>_<)」「そっかー」「おう、」「まじ か!」「そうか、」というように、相手からの約束キャンセルの報告に対してがっかり や驚きなどというような気持ちを伝達する表現と、「そうなんだ(>_<) 来れないのか〜」

「そうなの?」というように、相手のキャンセル報告を確認する表現が出現している。

一方、目下の場合の 1 例で「参加できないのですか。」というように、相手のキャンセ ル報告を確認する表現が使用されている。

5.1.4.2 で述べたように、返信メールに出現している「そうなんだー」「そうなん だ!」「そっか、」「そっかぁ」「そっかぁ~」「そっかぁ 」「そうなんや(>_<)」

「そっかー」「そうか、」の「そう」系の言葉は、単なるあいづちとしてではなく、相 手のキャンセル報告への反応として出現している。また、これらの表現を用いることで、

167 メール返信者は相手が約束をキャンセルしたいという情報を受け取ることになり、相手 のキャンセル理由を納得しているが、その情報は意外なので多少がっかりや驚きなどの 気持ちも含まれているのではないかと考えられる。

5.2.4.2[残念な気持ちの表明]

深刻度が低い場面の返信メールの[残念な気持ちの表明]は、第 4 章の深刻度が低い 場面の送信メールの[残念な気持ちの表明]という意味公式と同じ名称であるが、定義 が異なる。深刻度が低い場面の送信メールの[残念な気持ちの表明]は、メール送信者 がゼミの食事会を楽しみにしていたが、参加できなくなり、残念な気持ちを表すもので あるが、ここでいう深刻度が低い場面の返信メールの[残念な気持ちの表明]は、約束 をキャンセルした相手との食事会を楽しみにしていたが、相手が参加できなくなったた めに生じる残念な気持ちや寂しい気持ちを表すものである。つまり、深刻度が低い場面 の送信メールの場合は、自分のことを残念に思っていることを表すが、深刻度が低い場 面の返信メールの場合は、相手のことを残念に思っていることを表すということである。

目下へのメールに 13 例(65.0%)、対等へのメールに 12 例(60.0%)出現している。

ゼミの食事会は大学やゼミによって開催する回数が異なるが、一学期でそれほど多く ないだろうと予想される。そのため、最初は参加する予定だったが、途中で参加できな くなった人がいる場合は、参加できなくなった人自身だけでなく、参加する先生や幹事 をする人も残念に思うことが多いだろう。[残念な気持ちの表明]は、残念なのは参加 できなくなった相手だけでなく、メール返信者自身も残念であることを伝えるために出 現していると考えられる。

目下の場合の[残念な気持ちの表明]の言語形式としては、メール返信者が全員「残 念」という言葉を用いて残念な気持ちを伝えているが、表現の仕方が多少異なっている。

「残念ですが、」「食事会は残念ですが、」「欠席は残念ですが、」「とても残念です が、」というような「残念ですが、~」で表している例が最も多かった(13 例中 7 例)。

このような「~が、~」の表現は、その文はまだ終わっておらず、メール返信者が「残 念ですが、」の後に別のことを伝えたいということになる。「残念ですが、」の後の内 容を観察すると、「仕方ありませんね。」「ご家庭の事情であれば仕方がないですね。」

「それでは仕方ありませんね。」というように、「参加できなくなったのは残念だが、

仕方がない。」の表現が最も多く出現している(7 例中 4 例)。残りの 3 例では、「残 念ですが、」の後に「またの機会にしましょう。」「ま、食事をする機会は今後いくら

168 でもありますので、次の面接に向けて、しっかり準備をしてくださいね。」「ぜひ面接 の方を頑張ってきてください。」というような表現が使用されている。

また、13 例中 5 例が「食事会に参加できないとのこと、残念ですね。」「せっかくの 機会なのに、とても残念ですね。」「食事会欠席とのこと、残念ですね。」「他の院生 ともゆっくり交流できるせっかくの機会なだけに、残念ですね。」「それは残念です ね。」というように、「残念です+ね」のような表現を使用している。深刻度が高い場 面の返信メールの[キャンセル理由への言及]で述べたように、このように、「残念」

の表現に「ね」という終助詞をつけると、福島他(2008)が指摘しているように、メー ル返信者は相手が食事会に参加できなくなったことを本当に残念に思っており、相手に 暖かい気持ちや感じのよい気持ちを伝達していることになる。最後に、残りの 1 例で

「いつも場を明るくしてくれる、△△さんの顔を見ることができず、私だけでなくみん なも残念でしょうが、」というように、残念に思うのは自分だけでなく、食事会に参加 できる他の人も残念に思うだろうというような表現で表されている。

一方、対等の場合の[残念な気持ちの表明]の言語形式としては、目下の場合とほぼ 同じで 12 例中 10 例が「残念 T^T」「残念…(>_<)」「今回は残念だけど、」「食事会来 られないのは残念だけど、」「残念(>_<)」「せっかくだし、皆そろって行けたら良い なって思うけど、他の皆にも予定空けてもらってたから今回は決まった日に打ち上げす るね。△△来れないのは凄く残念だけど…」「残念(><)」「残念やったなぁ 」「残念 やね>_<」「残念だけど」というような「残念」の言葉を用いて残念な気持ちを伝えて いる。残りの 2 例は「最後のゼミの食事会に来てもらえないのは寂しいけど」というよ うな「寂しい」の言葉を使用しているのは 1 例で、「残念」と「寂しい」の言葉を用い ずに、「△△くんの面白い話聞けるの期待してたけど、それはまた今度の食事会の楽しみ にしとくわ(笑)」というように、相手が今回来ていれば楽しく過ごせただろうという期 待を表現している例は 1 例であった。

5.2.4.3[キャンセルに対する対応の言及]

[キャンセルに対する対応の言及]は幹事や店の人などの関係者へのキャンセルにつ いての連絡の報告やお願いをしたり、店の予約変更やキャンセル料の支払などについて 述べたりする、キャンセルに対する対応について言及する意味公式である。目下の場合 と対等の場合共に[キャンセルに対する対応の言及]を書いている例は、10 例(50.0%)

であった。