発光閾値電圧以上におけるF8単層構造有機EL素子のZ プロットを図3.3に示す.
低周波域(図3.3の第4象限)において誘導成分が観測された[1–4].図3.3の(a)と(b) に示すように,誘導成分が一つのみ現れる素子と,二つ現れる素子が存在した.従っ て,発光閾値電圧以上での等価回路は,発光閾値電圧以下の等価回路に誘導成分を表 すR-L直列成分を一つ,もしくは二つ並列に加え,図3.4(a), (b)のように決定した.
図3.3(a), (b)中の実線で示すように,図3.4(a), (b)から求めたインピーダンスは実験 結果とよく一致することが分かる.
(a)
0 0.5 1
Re[Z] (M )
0 0.2 0.4 0.6 0.8
-I m [Z ] (M )
0 V 0.5 V 1.0 V 1.5 V 2.0 V
ITO/F8 (113 nm)/LiF/Ca/Al
Applied dc bias A.C. modulation voltage
0 0.5 1
Re[Z] (M Ω )
0 0.2 0.4 0.6 0.8
-I m [Z ] (M Ω )
0 0.05 0.1 0.15 0.2
Re[Z] (kΩ) 0
0.05 0.1
-Im[Z]
high low
ω
high ω
0 0.5 1 1.5
Re[M] (1/nF)
0 0.5 1
Im [M ] (1 /n F )
0 V 0.5 V1.0 V 1.5 V 2.0 V
ITO/F8 (113 nm)/Li/Ca/Al
Applied dc bias
0 0.5 1 1.5
Re[M] (1/nF)
0 0.5 1
Im [M ] (1 /n F )
ω
low
high
(b)
図 3.1 ITO/F8/LiF/Ca/Al有機EL素子の発光閾値電圧以下における(a)Z プロット,(b)M プロット.(a)中の挿入図は原点付近の拡大図で,
直列抵抗の存在が分かる.図中の直線は図3.2に示す等価回路によ るフィッティング結果である.
R
SR
bC
b図 3.2 ITO/F8/LiF/Ca/Al有機EL素子の発光閾値電圧以下における等価 回路.Rs,Rb,Cbは,それぞれ電極等の接触抵抗,有機半導体バル ク層の抵抗,バルク層の容量.
0 2 4 6
Re[Z] (k Ω )
0 2 4
-I m [Z ] (k Ω )
ITO/F8 (62 nm)/LiF/Ca/Al
5 5.5 6 6.5 7
Re[Z] (kΩ) -0.5
0 0.5
-Im[Z] (kΩ)
Ω
Ω
0 0.5 1 1.5
Re[Z] (k )
0 0.5 1
-I m [Z ] (k )
low high
ω high low
ω
low
ITO/F8 (57 nm)/LiF/Ca/Al
(a)
(b)
図 3.3 ITO/F8/LiF/Ca/Al有機EL素子の発光閾値電圧以上におけるZプ ロット.(a)は誘導成分が一つの例.(b)は誘導成分が二つの例.M プロットでは誘導成分がほとんど見えないため,Zプロットのみ示 す.印加直流電圧は(a),(b)いずれも12 V.図中の直線はそれぞ
れ図3.4(a),(b)に示す等価回路によるフィッティング結果である.
R S
R b
C b
R 1
R 2
L 1
L 2
R S
R b
C b
R 1 L
1
(a)
(b)
図 3.4 ITO/F8/LiF/Ca/Al有機EL素子の発光閾値電圧以上における等価 回路.(a)は誘導成分が一つの場合.(b)は誘導成分が二つの場合.
Rs, Rb,Cbは,それぞれ電極等の接触抵抗,有機半導体バルク層の 抵抗,バルク層の容量.R1, L1,R2, L2は,低周波域の誘導成分に 対応する.
の起源を調べ,等価回路の回路定数がどのような物理量を与えるのかという知見を得 るため,電荷輸送過程を解析し,インピーダンスを算出した.発光閾値電圧以下では 電子,正孔のうちのいずれか一方のみが注入されている.従って,発光閾値電圧以下 の測定結果を単電荷注入 (single injection)モデル[5–11]により考察を行った.解析に は,電流の式,ポアソンの式,電流連続の式を用い,拡散電流および捕獲準位の存在 を無視した (付録A参照).最終的に,
Y1 =G1+jB1 (3.1)
を得た.ここで,
G1 = gΩ3 6
Ω−sinΩ
(Ω−sinΩ)2+(Ω22 + cosΩ−1)2
(3.2)
B1 = gΩ3 6
Ω2
2 + cosΩ−1
(Ω−sinΩ)2+(Ω22 + cosΩ−1)2
(3.3)
である.gは低周波域におけるコンダクタンス (すなわち微分コンダクタンス)であり,
次式で与えられる.
g = 9 4εµV0
d3 (3.4)
εは有機半導体の誘電率,µは有機半導体のキャリア移動度,V0は印加直流電圧,dは 有機半導体の膜厚,Ωは走行角である.
式(3.2),(3.3)から分かるように,単電荷注入モデルの等価回路は図3.5に示すよう
なR = 1/G1,C =B1/ωのR-C並列回路となる.これは図3.2に示すIS測定より決定 した発光閾値電圧以下における等価回路とよく一致する.ただし,単電荷注入モデル では電極抵抗を考慮していないため直列抵抗成分は含まれていない.
Ωは角周波数ωとキャリア走行時間ttの積で与えられるため,単電荷注入注入モデ ルの等価回路定数にはキャリア走行時間 (すなわち移動度)の情報が含まれていること が分かる.
R= 1 /G
C=B /ω
1
1
図 3.5 単電荷注入モデルの等価回路.G1,B1はそれぞれ式(3.2),(3.3)で 与えられる.
式(3.2), (3.3)より,コンダクタンス,キャパシタンスの周波数特性を図示すると,図
3.6のようになる.高周波域から低周波域に向かって,コンダクタンスは増加し,キャ パシタンスは減少していることが分かる.これは,微小電圧信号により注入されたキャ リアによる空間電荷が微小交流電圧に完全には追従できずに,電流に位相遅れを生じ るためである.高周波域においては,注入キャリアは交流電界に追従できないため,幾 何容量が測定される.コンダクタンスに関しても,同様の理由により変化が生じる.こ れを走行時間効果(transit-time effect)と呼び [5, 8, 10–12],これを利用してキャリア移 動度を測定することができる.
等価回路定数や走行時間効果を利用した移動度の決定法についての説明およびF8有 機EL素子の等価回路定数から移動度を決定した結果については第5章で述べることに する.
(a)
(b)
10-3 100 103 106
ω t
t(rad)
0.6 0.8 1
G ( ω )/ G (0 )
10-3 100 103 106
ω t
t(rad)
0.8 1
C ( ω )/ C
geo図 3.6 式(3.2), (3.3)より計算した単電荷注入モデルの(a)コンダクタン ス,(b)キャパシタンス.tt:キャリア走行時間.