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注入障壁と拡散電流の影響

法 )

5.3 注入障壁と拡散電流の影響

前述の∆B法,ω∆G法,GC法では単電荷注入モデル,すなわちオーム性接触を 前提としている.しかしながら,実際の有機デバイスにおいて理想的なオーム性接触 を実現することは難しく,注入障壁がある場合が一般的である [22].

勿論,有機半導体への注入現象にはまだ不明なところが多いが[22],ショットキー型 の注入過程を仮定し,移動度決定における注入障壁の影響をデバイスシミュレーショ ンソフトウェアATLASにより調べた[14, 16].計算に使用した物理量を表5.1に示す.

本節では正孔の単注入とした.陽極と陰極の仕事関数を等しくし,内蔵電位は常に0 V となるようにした.

また単電荷注入モデルでは拡散電流はドリフト電流に比べて十分に小さいとして無 視している.しかし,有機EL素子に用いられるような数十nm程度の膜厚に対して,

拡散電流を無視して良いか否かは十分考慮する必要がある.そのため,本節では次式 で与えられるドリフト‐拡散モデルの電流を用いて,コンダクタンス,キャパシタン スの周波数特性を計算し,−∆B法,ω∆G法,GC法によって移動度を算出した.

Jp =qpµpF +qDpdp

dx +ε∂F

∂t (5.12)

ただし,qは電気素量,pは自由正孔密度,µpは正孔移動度,F は電界である.Dpは正 孔の拡散係数であり,熱平衡時にボルツマン分布のもとでドリフト項と拡散項がバラ ンスすることを意味するアインシュタインの関係式(Dp =kT µp/q)から算出した.こ こでkはボルツマン定数,T は測定温度である.しかし,本来絶縁体である有機材料 において,熱平衡の仮定がどこまで成り立っているのかは慎重に検討しなければなら ないことを付言しておく.有機EL素子に用いるアモルファス有機半導体では,トラン スファ積分が小さいために熱平衡に到達せず,アインシュタインの関係が成立しない 場合がある [23].

図5.4(a), (b)に数値計算により得られた∆Bおよびω∆Gの周波数特性の注入障壁 依存性を示す.∆Bにおいては注入障壁が0.2 eVより大きくなると,走行時間効果

図5.5に∆C/Cgeoおよび∆G/G(ω → ∞)の注入障壁依存性を示す.ここで∆Cお よび∆Gは,それぞれキャパシタンス,コンダクタンスの走行時間効果による変化量 である.同じ注入障壁に対しては∆C/Cgeoよりも∆G/G(ω→ ∞)の方が値が大きい ために,ω∆G法ではより高い注入障壁でも走行時間効果によるω∆Gの極大値を観測 できていることが分かった.そのためにω∆G法ではより高い注入障壁でも移動度の測 定が可能であると考えられる.

∆B法,ω∆G法,GC法により得られた移動度の注入障壁依存性を図5.6(a)–(c)に それぞれ示す.∆B法およびω∆G法においては,走行時間効果が観測され,移動度が 算出できる注入障壁までは,正確に移動度を評価できることが分かる.つまり,−∆B 法よりも本論文で提案したω∆G法の方が,より注入障壁の影響を受けにくく,正確な 移動度評価に適することが分かった.すなわち,注入障壁が0.3–0.4 eVでは空間電荷 制限[E(x0) = 0 (x0は陽極から仮想陽極までの距離 [13])]ではないが,コンダクタン スには走行時間効果が現れ,ω∆G法によって移動度を算出することができるというこ とである.GC 法に関しては,S/N比の関係で走行時間効果が観測されない場合にも 移動度を算出することが可能であるが,図5.6(c)に示すように,注入障壁の影響を大 きく受けるので,正確な移動度評価のためには電極材料の選択が非常に重要となる.

低電界では拡散電流の影響が大きくなると考えられるが,印加電圧2 Vにおいても 入力した移動度を正しく評価できていることから,いずれの方法においても拡散電流 の影響を考慮せずに移動度を算出しても大きな影響はないと考えられる.

なお,入力する移動度の値を変えても,図5.6(a)–(c)と同様の結果が得られた.以上 より,ω∆G法が三つの移動度評価法の中で最も注入障壁の影響を受けにくく,正確な 移動度測定ができることが分かった.次節以降では,注入障壁が存在しても正確に移 動度を評価することのできる∆B法,ω∆G法のみ用いることにする.

5.1  数値計算に用いた物理量.

測定温度 T (K) 300

有機半導体層膜厚 d (nm) 50

素子面積 S (mm2) 1

有機半導体層の比誘電率 εr 2.82 伝導帯 (価電子帯)の有効状態密度Nv (Nc) (cm3) 2.5×1019 陽極および陰極の仕事関数 φm (eV) 5.4–5.8 伝導帯下端のエネルギー準位 Ec (eV) 2.6 価電子帯上端のエネルギー準位 Ev (eV) 5.8 正孔移動度 µp (cm2/Vs) 105 印加直流電圧 V0 (V) 2–10

10

0

10

3

10

6

10

9

Frequency (Hz)

10

-9

10

-8

10

-7

10

-6

10

-5

10

-4

10

-3

10

- ∆ B = ω [C ( ω )- C

geo

] (S )

0 eV 0.1 eV 0.2 eV

barrier height

φ

B

E

HOMO

E

LUMO

φ

m

(a)

10

0

10

3

10

6

10

9

Frequency (Hz)

10

-9

10

-6

10

-3

10

0

10

3

10

6

ω ∆ G = ω [G ( ω )- G ( ∞ )] ( S /s )

0 eV 0.1 eV 0.2 eV

0.3 eV 0.4 eV barrier height

(b)

5.4 数値計算により得られた(a)∆B,(b)ω∆Gの周波数特性の注入障 壁依存性.印加電圧は10 V.その他の計算に用いた物理量は表5.1 に示す.

0 0.2 0.4

Barrier height (eV)

10

-6

10

-5

10

-4

10

-3

10

-2

10

-1

- ∆ C /C

geo

, ∆ G /G ( ∞ ) - C/C

geo

∆ G/G( ∞ )

5.5 印加電圧10 Vでの走行時間効果によるキャパシタンスとコンダク タンスの変化量の注入障壁依存性.その他の計算に用いた物理量は 表5.1に示す.

0 0.2 0.4

Barrier height (eV)

10-11 10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4

E xt ra ct e d m o b ili ty ( cm

2

/V s)

2 V 4 V 6 V 8 V 10 V Applied dc bias

0 0.2 0.4

Barrier height (eV)

10-7 10-6 10

E xt ra ct e d m o b ili ty (

2 V 4 V 6 V 8 V 10 V Applied dc bias

0 0.2 0.4

Barrier height (eV)

10-7 10-6 10-5 10-4

E xt ra ct e d m o b ili ty ( cm

2

/V s)

2 V 4 V 6 V 8 V 10 V Applied dc bias

(b)

(c)

5.6 −∆B法,ω∆G法,GC法によって得られた移動度の注入障壁依存 性.計算に用いた物理量は表5.1に示す.