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有機発光素子のインピーダンス分光に関する研究

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(1)

府立大学), 学位の種類: 博士(工学), 学位記番号:

論工第1222号, 学位授与年月日: 2009-03-31, 指導

教員: 内藤 裕義.

(2)

有機発光素子の

インピーダンス分光に関する研究

2009年2月

(3)

目 次

第 1 章 序論 6 1.1 次世代表示素子としての有機エレクトロルミネッセンス (EL) 素子 . . . 6 1.2 有機 EL 素子の発光機構 . . . . 10 1.3 有機 EL 素子の劣化機構 . . . . 13 1.4 インピーダンス分光法 . . . . 14 1.5 本研究の目的 . . . . 16 1.6 論文構成 . . . . 16 参考文献 . . . . 19 第 2 章 インピーダンス分光測定 22 2.1 測定方法 . . . . 22 2.1.1 測定原理 . . . . 22 2.1.2 測定機器 . . . . 23 2.1.3 測定条件 . . . . 24 2.1.4 本研究での測定条件 . . . . 25 2.1.5 測定手順 . . . . 26 2.2 解析方法 . . . . 28 2.2.1 Cole-Coleプロットによる解析 . . . . 28 2.2.2 等価回路定数に関する注意点 . . . . 32 2.2.3 周波数特性による解析 . . . . 33 2.2.4 C–V 特性による解析 . . . . 33

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2.3 測定試料 . . . . 33 2.3.1 フルオレン系高分子 . . . . 33 2.3.2 素子構造 . . . . 34 2.3.3 素子作製手順 . . . . 35 参考文献 . . . . 37 第 3 章 単層構造素子 (ITO/F8/LiF/Ca/Al) のインピーダンス分光測定 41 3.1 はじめに . . . . 41 3.2 発光閾値電圧以下における測定結果 . . . . 41 3.3 発光閾値電圧以上における測定結果 . . . . 42 3.4 発光閾値電圧以下における測定結果の物理的解釈 . . . . 47 3.5 発光閾値電圧以上における測定結果の物理的解釈 . . . . 50 3.6 まとめ . . . . 52 参考文献 . . . . 53 第 4 章 二層構造素子 (ITO/PEDOT:PSS/F8/LiF/Ca/Al) のインピーダンス 分光測定 55 4.1 はじめに . . . . 55 4.2 発光閾値電圧以下における IS 測定結果 . . . . 55 4.3 発光閾値電圧以上における IS 測定結果 . . . . 68 4.4 発光閾値電圧以下および以上における測定結果の物理的解釈 . . . . 68 4.5 まとめ . . . . 74 参考文献 . . . . 75 第 5 章 インピーダンス分光による移動度評価 76 5.1 はじめに . . . . 76 5.2 IS測定による移動度評価法 . . . . 77

(5)

5.2.2 コンダクタンスに現れる走行時間効果からの移動度評価法 (ω∆G 法) . . . . 78 5.2.3 コンダクタンスとキャパシタンスからの移動度評価法 (GC 法) . 80 5.3 注入障壁と拡散電流の影響 . . . . 82 5.4 局在準位の影響 . . . . 88 5.5 まとめ . . . 105 参考文献 . . . 107 第 6 章 インピーダンス分光による局在準位分布評価 110 6.1 はじめに . . . 110 6.2 局在準位分布評価の理論 . . . 111 6.3 数値計算による分解能の確認 . . . 114 6.3.1 数値計算手順 . . . 114 6.3.2 仮定した局在準位分布 . . . 114 6.3.3 数値計算結果 . . . 115 6.4 高分子有機 EL 素子の移動度と局在準位分布の同時評価 . . . 125 6.4.1 移動度の決定 . . . 125 6.4.2 局在準位分布の決定 . . . 129 6.5 まとめ . . . 132 参考文献 . . . 133 第 7 章 局在準位が存在する有機 EL 素子の等価回路 135 7.1 はじめに . . . 135 7.2 単一の離散準位を有する単電荷素子の等価回路 . . . 137

(6)

7.3 二つの離散準位を有する単電荷素子の等価回路 . . . 141 7.4 連続準位を有する単電荷素子の等価回路 . . . 143 7.5 実験結果 . . . 144 7.6 まとめ . . . 147 参考文献 . . . 148 第 8 章 インピーダンス分光によるキャリアバランス評価 150 8.1 はじめに . . . 150 8.2 数値計算について . . . 151 8.3 再結合定数と負のキャパシタンスの関係 . . . 152 8.4 キャリアバランスと負のキャパシタンスの関係 . . . 160 8.5 まとめ . . . 179 参考文献 . . . 180 第 9 章 インピーダンス分光による劣化機構の解析 181 9.1 はじめに . . . 181 9.2 等価回路による駆動初期における劣化に関する考察 . . . 181 9.3 等価回路による長期経時劣化に関する考察 . . . 186 9.4 その他の劣化解析法について . . . 186 9.5 まとめ . . . 189 参考文献 . . . 190 第 10 章 結論 191 謝 辞 196 付 録 A 単電荷注入 (single injection) モデル 197 A.1 単電荷注入モデルの定常状態での解析 . . . 197

(7)

付 録 B 複注入 (double injection) モデル 206 B.1 複注入モデルの定常状態での解析 . . . 206 B.1.1 半導体領域での解析 . . . 208 B.1.2 絶縁体領域での解析 . . . 210 B.2 複注入モデルの微小交流信号解析 . . . 211 B.2.1 半導体領域での解析 . . . 212 B.2.2 絶縁体領域での解析 . . . 220 参考文献 . . . 221 付 録 C 局在準位を考慮した単電荷注入モデル 222 C.1 局在準位を考慮した単電荷注入モデルの定常状態の解析 . . . 222 C.2 局在準位を考慮した単電荷注入モデルの微小交流信号解析 . . . 223 参考文献 . . . 229

(8)



1

序論

1.1

次世代表示素子としての有機エレクトロルミネッセン

(EL)

素子

1987年,イーストマンコダック社の Tang らが報告した二層構造の有機発光素子 [日 本では慣習的に有機エレクトロルミネッセンス (Electroluminescence:EL) 素子と呼ぶ ことが多いので,本論文でも有機 EL 素子と呼ぶ] に関する学術論文 [1] が発端となり, 有機 EL の研究が本格化した.現在では数千人にも及ぶ研究者達が,究極のディスプレ イを夢見て日夜研究に励んでいる.シリコン等の無機半導体にはない有機化合物の無 限の可能性に多くの研究者が魅かれ,有機エレクトロニクス研究分野は大きな盛り上 がりを見せている. 数年前から携帯電話の背面ディスプレイや携帯オーディオプレーヤーのディスプレ イ等の,比較的に要求性能 (寿命,輝度) の低い用途として商品化され始めていた有機 EL素子は,2007 年頃から実用化が本格的に始まった.携帯電話のメインディスプレイ として採用され,ついに同年 11 月には 11 インチ (約 28 cm) のディスプレイが市販さ れた. 有機 EL 素子の性能 (寿命,効率,色純度等) は飛躍的に向上し続けてはいるものの, 現在実用化されている有機 EL ディスプレイは,あくまで対処療法的に素子性能の改善 を試みてきた結果であるという感が否めない.素子内で生起する物理現象の多くが十

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化等) を実現し,液晶ディスプレイ (Liquid Crystal Display:LCD) やプラズマディス プレイ (Plasma Display Panel:PDP) に取って代わるためには,従来の研究の取り組 み方を省みる必要があるだろう.新規材料の開発やデバイス構造の最適化のみならず, 有機材料自身への理解や,動作機構および劣化現象の詳細な解析が一層重要となって きている. まず表示素子全体を概観しながら,現在のディスプレイの主流である LCD と比較 し,有機 EL ディスプレイの特徴を述べたい.近年,薄型ディスプレイの需要が高まり, LCDと PDP が急速に市場を拡大している.それに伴い LCD と PDP は競い合うよう に大型化,薄型化,高画質化等の目覚しい進化を続けている.これを受けて,長らく主 流であったブラウン管 (Cathode Ray Tube:CRT) のパーソナルコンピュータ (PC) 市 場での需要は,特殊用途を除いて 2005 年にはほぼ消滅している [2].CRT はコスト面 や耐久性に優れるものの,薄型化や軽量化が困難であり,テレビ用途でも LCD や PDP 等のディスプレイに置き換わるのは時間の問題であると思われる.LCD はノート PC や,車載ナビゲーション等,CRT では考えられなかったような市場を創出したという 意味でも果たした役割は大きい. LCDは携帯電話のような小型用途から大型用途まで需要があり,大型テレビとして 最も人気が高い.LCD は液晶がシャッターの役目をし,バックライトの光を遮ること で表示する素子である.偏光フィルムを用いるため光量の半分は無駄になる.またフル カラー表示のためにはバックライトの白色光のうち,赤・緑・青 (RGB) のカラーフィ ルタを用いてそれぞれ一色のみを透過させなければならず,残りの光はやはり無駄に なる.省エネルギーを謳う LCD であるが,光の利用効率は極めて低いのである.また 視野角特性があり,斜めから見ると色が変わって見える,もしくは白黒が反転して見 える問題や,応答速度が遅い,黒の表示が苦手でコントラスト比が低い等の欠点があ

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る.これらの問題点は駆動方式等の工夫により大幅に改善されつつあるが,原理上限 界がある. 「ユビキタス社会:いつでも,どこでも,誰でもが,種々の情報を手に入れ活用でき る社会」では,PC はもとより,ネット家電や,ウェアラブル PC 等を用いた情報ネッ トワークの構築が必須であり,マンマシーンインターフェイスとしてのディスプレイ には,使用シーンによって多様な性能が要求される.例えばモバイル機器では,長時間 持ち歩けるように低消費電力であり,小さくても高精細なディスプレイでなければな らない.家庭内のディスプレイは,大画面かつ壁にかけられる重量であることが望ま しい.LCD よりも高性能かつ機能性を持つディスプレイが必要とされているのである. LCDがバックライトを必要とする非発光デバイスであるのに対して,有機 EL 素子 はそれ自体が発光する自発光デバイスである.そのため視野角特性はない.黒の表示 を得意とし,コントラスト比の極めて高い鮮明な画像を得ることができる.応答速度 も LCD の数 ms より三桁早い数 µs であるため,まさにテレビ等の動画表示に長けた ディスプレイであると言える.また,LCD が液晶セル,偏光フィルム,カラーフィル タ他,様々なフィルムを用いているのに対して,有機 EL 素子は厚さが 100 nm 程度の 有機半導体をガラスで挟んだだけの極めて簡単な構造である.そのため LCD と比較し て遥かに軽く,薄く,エネルギー変換効率も高い.ガラスの代わりにプラスチック等の フレキシブル基板を使用すれば,巻物のように曲げられるディスプレイも実現できる. 紀元前 1500 年頃に古代エジプトでパピルスが発明されてから「紙に書かれた情報が動 けば」という思いを人間は抱き続けてきたが,その願望が実現するのである.フレキ シブルディスプレイは従来の CRT,LCD,PDP のいずれをもってしても成し得ない. LCDよりも省エネルギーで,美しく,軽く,薄い,そして曲げられる,まさにユビキ タス社会に必要とされる究極のディスプレイが実現できる可能性が有機 EL 素子には ある. また,有機 EL 素子は照明デバイスとしても実用化が期待される.水銀を含まず,蛍

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による発光ダイオード (Light-Emitting Diode:LED) が注目されている.交通信号機 や LCD のバックライトは「点光源」である LED を多数集積したものに置き換わって いる.また,草の根的な取り組みとして,環境問題に取り組む非営利団体 (NPO) やボ ランティア団体等が,家庭用の照明としても,白熱電球から LED への交換を推奨する 活動を行っている [3].ただし,LED は大面積デバイスを作製することが困難であり, 「線光源」である蛍光灯のような拡散光源としての用途には適さない.一方,有機 EL 素子は「面光源」であり,アモルファス膜で構成されるために,広い範囲に均一な膜 を容易に形成でき,大きなデバイスを作製可能である.「面光源」の応用範囲は多岐に 亘ると予想され,「線光源」から「面光源」へのパラダイムシフトが及ぼすインパクト は計り知れない.商品の展示や,空間デザイン等ではこれまでになかったようなもの が誕生するだろうし,LED を多数集積しなければならない場合でも,「面光源」ならば 一素子で事足りる.2009 年中に有機 EL 素子による照明機器が発売されるそうである が,将来的には LED が「点光源」として,有機 EL 素子が「面光源」として,それぞ れに適した用途に用いられることが予想される. ついにテレビとして実用化された有機 EL 素子であるが,寿命,効率,色純度の向上 等,克服しなければならない課題はまだ多い.有機 EL 材料は低分子系と高分子系に大 別されるが,特に高分子系の有機 EL 素子は,実用化で先行する低分子系に素子寿命や 効率が大きく劣る.しかし,高分子系の材料は溶液に可溶であるため,インクジェット 等の印刷プロセスで素子作製ができる.インクジェットを用いれば大型基板での RGB 三色の塗り分けが容易であり,フレキシブル基板にも低コストで製膜できるため,実 用化のインパクトは低分子系のそれよりもはるかに大きい.素子寿命や効率を向上さ せるためには,素子の劣化機構,動作機構を明らかにする必要があり,非破壊で素子 動作を調べることができ,かつ,劣化過程を追跡できる手法の確立が望まれる.

(12)

次世代ディスプレイとしては有機 EL 素子の他に,表面伝導型電子放出素子ディスプ レイ (Surface-conduction Electron-emitter Display:SED) 等が挙げられるが,実用化 の目処は立っていない.

1.2

有機

EL

素子の発光機構

有機 EL 素子の発光の各素過程は十分に解明されたとは言えないものの,正負キャリ アの電極からの注入,有機半導体層中のキャリア輸送,再結合および励起状態の生成, 発光という一連の発光機構は,現在では疑う余地がない.ここでは各素過程をごく簡 単に説明する. 図 1.1 に最も基本的な単層構造有機 EL 素子のバンド図を示す.数十 nm 程度の膜厚 を有する有機半導体薄膜の両側に陽極と陰極を配置する.各電極と有機半導体が接合す ると,両電極のフェルミ準位が一致するように電荷が移動し,平衡に達する (図 1.1(b)). このとき両電極が異なることにより,内蔵電位 Vbiおよびそれに対応する内蔵電界が生 じている.有機半導体はキャリア密度が極めて低く,低電界では絶縁体的な働きをす るので,電界分布は一様になるように記述している.電極界面で電気二重層が形成さ れたり,バンドギャップ中の局在準位にキャリアが捕獲されていたりすればバンドに 曲がりが生じる.電圧を印加することにより内蔵電界は打ち消されバンドはフラット になり (図 1.1(c)),陽極である透明電極から有機半導体の正孔伝導準位に正孔を,陰 極から電子伝導準位に電子を注入する (図 1.1(d)).ただし図 1.1 では伝導準位ではな く最高被占準位 (Highest Occupied Molecular Orbital:HOMO) と最低空準位 (Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO) を記述している.これらのエネルギー差は小 さいので混同して使用される.電極界面に分極が生じていない場合には,各電極の仕 事関数と伝導準位の差が注入障壁となるが,実際には界面で電気二重層が形成される ことにより,必ずしも仕事関数と伝導準位の差が注入障壁の大きさと等しくなるわけ ではない [4, 5].注入の機構としては熱電子放出 [6] とトンネル注入 [7] が考えられて

(13)

接合 電圧印加 高電圧 陽極(透明電極) 陰極 HOMO 発光層 (a)接合前 (c)発光開始 (d)電荷の注入 (b)接合後 図 1.1  電圧印加時の電極と有機半導体のバンド図. いる. 有機半導体中の輸送,再結合,発光プロセスの概略を図 1.2 に示す.注入されたキャ リアは電位勾配を駆動力として隣接分子間との間で電子交換 (酸化・還元) を行い,対向 電極に向かって移動する.つまりキャリア輸送過程は,隣接分子との間で酸化・還元反応 を繰り返し,ラジカルカチオンとラジカルアニオンが移動していく過程である.有機半 導体中のキャリア密度は極めて小さいのにも関わらず,有機 EL 素子では∼1 A/cm2に も達する高電流密度の電流が流れる.詳細に関しては後述することにするが,これは電 荷輸送機構が次式で表されるような空間電荷制限電流 (Space-Charge-Limited Current: SCLC)機構となるからである [8, 9]. JSCLC = 9 8εµ V2 d3 (1.1) ここで ε は有機半導体の誘電率,µ は有機半導体の移動度,V は有機半導体層にかかる 電圧,d は有機半導体の膜厚である.上式からわかるように,キャリア密度は電流の大 きさに関与しておらず,キャリア移動度さえある程度大きければ「極薄膜の (d が極め

(14)

て小さい)」有機半導体に多量の電流を流すことが可能である.SCLC が起こる条件は, 少なくとも一方の電極から有機半導体に注入される電荷密度がその熱平衡状態におけ る電荷密度よりも大きいことである.SCLC が起こると空間電荷効果によって図 1.1 の ような一様な電界ではなくなる [8, 9]. 発光層中を移動してきたラジカルカチオンとラジカルアニオンが同一分子に入り,再 結合することで,励起状態を生成する (図 1.2).生成される励起子には一重項励起子と 三重項励起子が存在し,蛍光材料では一重項励起子が,燐光材料では三重項励起子が 発光に寄与する.これらの励起子は輻射失活もしくは非輻射失活プロセスを経て,基 底状態へ戻る.輻射された光は,有機半導体薄膜,透明電極内を伝搬し,ガラス基板 表面から光が放射される.以上が有機 EL 素子の発光機構の概略である.

陽極

陰極

正孔

電子

M

+・

M

*

M

‐・ M+・:ラジカルカチオン M‐・:ラジカルアニオン M* :励起状態 図 1.2  有機半導体中の輸送,再結合,発光プロセスの概略.

(15)

体薄膜を積層させており,前述した注入,輸送,再結合に加え,界面での蓄積や局在 準位での捕獲・放出といった様々な光・電子過程が複数の有機層で見られる.それだ け劣化機構も複雑となり,劣化過程の詳細な解析を妨げる.以下に劣化の原因と考え られている現象の一部を記載しておく [10].なお本研究では高分子系の有機 EL 素子を 主な研究対象としているので,劣化機構も高分子系を想定して記述している. 1. 電極 (特に陰極) 表面の酸化膜の生成 電子を効率よく注入するために陰極には仕事関数の低い Ba 等の材料が用いられ る.しかし仕事関数の低い材料は活性が高く不安定なため酸化膜が生成されやす い.酸化物層が生成されると電流の注入を阻害する.一方で数 ˚Aの酸化物層や絶 縁体層を陰極界面に挿入することにより電子注入が改善されることも報告されて いる [1, 4].この場合も酸化物層や絶縁体層が厚くなると絶縁層として働き,注 入効率は極度に低下する. 2. イオン性不純物による劣化 例えば陽極として用いられるインジウムスズ酸化物 (Indium-Tin-Oxide:ITO) 透 明電極から In イオンが有機層に侵入して劣化する可能性が報告されている.高分 子系では陽極バッファ層としてポリチオフェン誘導体:ポリスチレンスルホン酸複 合体 (poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/polystyrenesulfonnic acid:PEDOT:PSS) を ITO 上に製膜して拡散を抑えることができる [11].ただし PEDOT:PSS は吸 水性であるので,製膜後の脱水が不十分では水分が遊離し,金属と反応して酸化 膜を生成することが考えられる. 3. 発光層と電荷輸送層界面での反応

(16)

インターレイヤーを PEDOT:PSS と発光層の間に導入することにより寿命が大 きく向上することが報告されている [12, 13].インターレイヤーの機能としては PEDOT:PSS層へ流入する電子をブロックし [12],PEDOT の脱ドーピングおよ び正孔輸送機能の低下 [14] や,PSS の分解劣化 [15] を防ぐこと等が挙げられる. 4. 発光材料の酸化劣化 駆動中にカルボニル基が生成しているとの報告がある [16].この場合にはカルボ ニル基が消光中心となり,材料の蛍光収率が低下する. 5. 材料の凝集 一例を挙げると,PEDOT:PSS を用いた素子では駆動することにより発光層が不 溶化することが報告されている.これは S を含有する基の拡散により,発光層が 架橋ないし溶媒に難溶性となり蛍光強度が低下すると説明されている.インター レイヤーを導入することにより拡散を防ぐことができると考えられている [17]. ここで挙げた以外にも様々な要因によって発光層の蛍光強度が低下したり,キャリ アバランスが低下して効率が低下したりする.劣化についてはこれまで数多くの研究 がなされてきたが,まだまだその機構は解明されていないのが実情である.

1.4

インピーダンス分光法

インピーダンス分光 (Impedance Spectroscopy:IS) 法は直流電圧に重畳した微小正 弦波電圧信号を素子に印加してインピーダンスを算出する測定法である [18].交流信 号の変調周波数を低周波から高周波まで幅広く変化させることで,インピーダンスの スペクトル解析を行うことができる. 前節までに述べたように,有機 EL 素子は発光層やバッファ層等の,光・電子物性の 異なる複数の有機半導体薄膜の積層体である.有機 EL 素子の極薄膜多層を,化学的な

(17)

じめ,主要な構成物質である発光層自体も通常の有機分析の限界レベルにあるからで ある [10]. IS法では,有機半導体層や電極/半導体界面層のインピーダンスを時定数の違いによ り分離,測定することができるため,有機エレクトロニクス素子の半導体層や界面層 を,抵抗や静電容量等で表現した等価回路を決定することが可能である.この知見は, 駆動回路設計に有用であるのみならず,素子内の劣化部位を特定することにも役立つ. つまり,駆動時間経過による等価回路定数や,等価回路の形状の変化を調べることに より,素子内のどの部分がどのように劣化していくのかを非破壊で連続的に調べるこ とができる.有機エレクトロニクス素子ではすでに,有機 EL 素子 [19–25] の他に,有 機 MIS (Metal-Insulator-Semiconductors) 素子 [26],有機太陽電池 [27–31] の IS 測定が 報告され,等価回路の決定が試みられている. また前述の通り,有機 EL 素子内では,電極からの電荷注入,各層の輸送,界面での 蓄積,局在準位での捕獲・放出等の複数の過程を経て,電子と正孔が再結合することに より発光する.このように多数の光・電子過程が見られるため,劣化部位の特定のみ ならず,有機 EL 素子の動作原理を解明し,劣化の機構を明らかにすることは容易では ない.IS 法では,印加電圧信号の周波数の関数としてインピーダンススペクトルを得 ることにより,時定数の異なる複数の動作過程を分離することができる.これにより 有機 EL 素子のキャリア移動度,再結合時間,局在準位分布等の物理量を決定すること が可能となる.これら有機 EL 素子の性能を決定する物理量を測定するということは, 動作原理および劣化機構の解明に有用であると共に,有機 EL 素子の性能向上において も重要な指針を与える. 高分子有機 EL 素子ではこれまでに,poly(2-methoxy,5-(2’-ethyl-hetoxy)-p-phenylene vinylene) (MEH-PPV) [19, 20],poly(phenylene vinylene) (PPV)

(18)

[20–22],poly(9,9-dioctylfluorene) (F8) [23–25]等による有機 EL 素子において,低分子有機 EL 素子では tris(8-hydroxyquinoline)aluminum (Alq3) [32]や N ,N ’-diphenyl-N ,N

’bis(1naphtylphenyl)1,1’biphenyl4,4’diamine (αNPD) [33],4,4’,4” tris[N , (3methylphenyl)N

-phenylamino] triphenylamine (m-MTDATA) [34]等による有機 EL 素子においてイン

ピーダンススペクトルが報告されている.

1.5

本研究の目的

これまでに述べたように,有機 EL 素子の最大の課題は長寿命化であるため,劣化機 構を解明することは重要である.しかし,IS 測定は近年非常に注目を集めているもの の,有機 EL 素子に適用した例はまだ少なく,IS 測定から決定できる物理量や等価回 路の形状に関する議論はまだ緒についたばかりである.そこで本研究では,典型的な 有機 EL 素子の等価回路がどのようになるのか,得られた等価回路をどのように物理的 に解釈すればよいのかをまず始めに明らかにしようと試みた.その過程で,ドリフト 移動度,再結合時間,局在準位分布等の物理量やキャリアバランスに関する知見が得 られることを見出した.本論文ではこれらの知見から有機 EL 素子の劣化過程をどのよ うに解析できるかについても述べる.

1.6

論文構成

本論文は 10 章から構成され,各章の概要は以下の通りである. • 第 1 章 序論 本研究の背景と目的および概要について述べた. • 第 2 章 インピーダンス分光測定

(19)

• 第 3 章 単層構造素子 (ITO/F8/LiF/Ca/Al) のインピーダンス分光測定 ITO/F8/LiF/Ca/Al有機 EL 素子の IS 測定結果から等価回路を決定する.得ら れた等価回路を物理的に解釈し,等価回路の回路定数と物理量との関連について 考察する. • 第 4 章 二層構造素子 (ITO/PEDOT:PSS/F8/LiF/Ca/Al) のインピーダンス分 光測定 陽極バッファ層として PEDOT:PSS を用いた ITO/PEDOT:PSS/F8/LiF/Ca/Al 有機 EL 素子の IS 測定結果から等価回路を決定する.電荷輸送方程式を解析する ことによって得られた等価回路の妥当性を検討する. • 第 5 章 インピーダンス分光による移動度評価 IS測定による移動度評価法について述べた後,注入障壁,拡散電流,局在準位の 影響を数値計算により考察した結果を述べる.実験結果から実際に高分子有機半 導体の移動度を求める. • 第 6 章 インピーダンス分光による局在準位分布評価 IS測定による局在準位分布評価法について述べた後,その妥当性を数値計算に より考察した結果を述べる.実験結果から高分子有機半導体の局在準位分布を求 める. • 第 7 章 局在準位が存在する有機 EL 素子の等価回路 局在準位が等価回路としてどのように表されるのかを理論的に明らかにする.得 られた等価回路によって実験結果を説明できることを示す.

(20)

• 第 8 章 インピーダンス分光によるキャリアバランス評価 発光時に観測される誘導成分の物理的起源を数値計算結果から考察し,再結合や キャリアバランスとの関係を明らかにする. • 第 9 章 インピーダンス分光による劣化機構の解析 前章までに得られた知見から劣化現象をどのように解析するかを示す. • 第 10 章 結論 本論文で議論した内容についてまとめ,今後の研究の方向性を示す. • 付録 A  単電荷注入モデルの微小信号解析 第 3 章で得られた単層構造素子の発光閾値電圧以下における等価回路の物理的な 解釈の基礎となる単電荷注入モデルについて説明する. • 付録 B  複注入モデルの微小信号解析 第 3 章,4 章で得られた有機 EL 素子の発光閾値電圧以上における等価回路の物 理的な解釈の基礎となる複注入モデルについて説明する. • 付録 C  局在準位の影響を考慮した単電荷注入モデルの微小信号解析 第 4 章で得られた二層構造素子の等価回路の物理的な解釈の基礎となり,局在準 位分布評価法の基礎となる局在準位の影響を考慮した単電荷注入モデルについて 説明する.

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参考文献

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(22)

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(23)

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(24)



2

インピーダンス分光測定

2.1

測定方法

IS法の用途は幅広く,主に電気化学測定によく用いられている [1].前述のように IS 法は有機エレクトロニクス素子においても非常に有効な測定手法であるが,まだその 歴史は浅く,測定方法や解析方法,測定結果を十分に解釈するための理論も確立され たとは言い難い.そこで本節では,有機 EL 素子においてどのような条件や手順で IS 測定を行うかを詳述する.なお,以下には一般的に有機 EL 素子に適すると思われる手 法を記述したが,本論文ではいくつかの例外はあるものの基本的にはこれに則って測 定した.

2.1.1

測定原理

IS法では,エレクトロニクス素子に微小正弦波電圧信号 [V = V1exp(jωt)]を与え, その応答電流信号{I = I1exp [j(ωt + φ)]} の電流振幅と入力信号との位相差より素子 のインピーダンス [Z = V /I = V1/I1exp(−jφ)] を求める (図 2.1) [2].例えば,素子に 高周波電圧を印加した場合,長い緩和時間を有する電子過程は変化する電場に追随す ることができないため,短い緩和時間のインピーダンスのみを得ることができる.印 加電圧の周波数が低くなるにつれて,より緩和時間の長い電子過程も変化する電場に 追随できるようになるため,緩和時間の長い成分を認識できるようになる.このよう

(25)

time magnitude phase shift V1 I1 V I 図 2.1  入力正弦波電圧信号と応答電流信号.

2.1.2

測定機器

IS測定は,入力信号を出力するファンクションジェネレータと,出力信号の振幅と位相 を測定するロックインアンプがあれば測定可能である.しかし,幅広い周波数域の信号 を精度良く測定するためには,周波数応答アナライザ (Frequency Response Analyzer:

FRA)を使用するのが望ましい.FRA はノイズ除去機能に優れ,分析したい周波数成

分の応答のみを解析することができる. また周波数を自動スイープする機能があるた め,簡単に IS 測定を行うことができる.本研究では FRA としてソーラトロン 1260 型 インピーダンスアナライザを用いた.有機半導体は電荷注入のないときには絶縁体で あるので,1296 型誘電率測定インターフェイスを併用している (図 2.2) [1].

(26)

図 2.2  ソーラトロン 1260 型インピーダンスアナライザ (下) と 1296 型誘電 率測定インターフェイス (上).

2.1.3

測定条件

特に FRA を用いる場合,その取り扱いの容易さ故に安易に誤った条件での測定を 行ってしまう危険性がある.実際の測定は下記の事項を確認してから行った. 1. 微小交流信号条件の確認  微小信号条件が成り立っているかを確認する.印加する交流電圧を 10–200 mVrms 程度の範囲で変化させ測定を行い,得られるインピーダンスが印加交流電圧の大 きさに依存しないことを確かめる.ノイズが酷い場合には交流電圧を大きくすれ ば S/N 比が改善されるが,交流電圧が小さい場合に得られる結果と異なってはな らない. 2. 周波数範囲の設定  当然,周波数範囲は広ければ広いほど様々な成分を測定できる.しかし応答電 流信号をロックイン検出するため,測定には少なくとも一周期の信号が流れる必

(27)

からない高周波側から測定することが望ましい. 3. 積算サイクル (時間) の設定   FRA はノイズ除去性能に優れているので,通常は一周期の測定で事足りる.た だし FRA は特定のアルゴリズム (ソーラトロンはデジタル相関法 [1]) で結果を 算出するので,波形がノイズ等で歪んだ場合に,正しい結果と大きく異なる結果 が算出される可能性もある.特に低周波域では S/N 比が悪くなることがあるの で,その場合には二周期以上測定する必要がある.ただし当然その分測定時間も 長くなる. 4. 高周波域の測定  高周波域では FRA と測定素子を繋ぐケーブルでの信号の減衰や,信号がサン プルを通過せずに一部反射する等の現象が起こる.そのような場合には波形が歪 んでしまい,位相検知が正しく行われないため,正確な測定結果が得られないこ とがある.FRA と測定素子を直付けするか,できない場合にはケーブルの長さ を可能な限り短くするとよい.もしくは内部参照機能を使って,素子を接続せず に測定したデータを用いて測定回路の影響を除去してもよい.ただしその場合に は測定時間は倍になる.高周波域に測定範囲が広がれば,より高い移動度の測定 が可能となる.

2.1.4

本研究での測定条件

本研究ではソーラトロン 1260 型インピーダンスアナライザおよび 1296 型誘電率測 定インターフェイスを用いた.直流電圧に 30–100 mVrmsの交流を重畳した.周波数範 囲は 10 mHz–10 MHz とし,高周波側から測定を行った.積算回数は 1 Hz 以上の周波

(28)

数では 1 秒間行い,1 Hz 未満の周波数では 1 回に設定した.S/N 比が低い場合には 1 Hz未満の周波数で 2–5 回の積算を行った.素子は封止しているため,大気中で測定を 行った.なお,室温での測定は全てアルミ製の箱の中で行ったが,これはノイズを低減 するためおよび暗状態で測定を行うためである.低温測定には LakeShore 製の極低温 プローブステーション TTP4 型 [1] を使用したが,この際も暗状態にて測定を行った.

2.1.5

測定手順

有機 EL 素子のように測定中に劣化したり,特性が変化したりする恐れがある素子の 場合,高周波側から測定するだけでなく,測定手順にも注意が必要である.以下に陽 極バッファ層と発光層を積層させた二層構造の有機 EL 素子を想定した測定手順を記述 する. 1. 印加直流電圧 0 V での測定  印加直流電圧を 0 V とし,キャリア注入のない状態で測定を行い素子全体の幾 何容量を測定する.キャリア注入が起こると後述するように,走行時間効果 [3] や局在準位 [4, 5] 等の影響が現れ,インピーダンススペクトルが複雑となる.ま た印加直流電圧 0 V で IS 測定を行えば,不純物イオンに関する知見を得ること もできる [6, 7].局在準位と不純物イオンの影響はいずれも低周波域のキャパシ タンスの増加として現れるが,0 V ではキャリアが注入されないため局在準位の 影響が現れず,不純物イオンの影響のみを分離することができる. 2. 印加直流電圧依存性の測定  印加直流電圧を正方向に増加させ,キャリア注入が起これば走行時間効果 [3] や 再結合 [8,9],局在準位の捕獲・放出等 [4,5] の影響が現れるので,移動度 [10–15], 再結合時間 [8],局在準位分布 [5, 16] 等の物理量を測定することができる.また

(29)

3. 単層構造素子の印加直流電圧 0 V での測定  発光層,バッファ層それぞれの単層構造素子の測定を行う.1, 2 で得た測定結 果と,幾何容量および緩和周波数を比較することにより,二層構造素子の測定か ら得られたスペクトルのうち,どの成分がどの層に対応しているのかを調べるこ とができる [17].ただし単層構造素子において,注入制限電流が流れるような電 極を用いると緩和周波数を見誤る恐れがある.幾何容量に関しては注入制限電流 となる電極を用いても測定することができる. 4. 有機半導体材料や電極材料を変えて印加直流電圧依存性を測定  材料を変えて測定することによって等価回路をより確実に決定することができ る.また,電極材料を変えて正孔オンリー素子 (Hole Only Device:HOD) や電 子オンリー素子 (Electron Only Device:EOD) を作製すれば,それぞれの移動 度を測定することができる [13].局在準位に関しても,正孔,電子いずれのキャ リアに対する局在準位かを判別することができる [13].バイポーラ素子 (Bipolar Device:BPD) ではどちらの移動度や局在準位を測定しているのか分からないし, 再結合の影響によって正確に測定できない可能性がある [18]. 5. 温度依存性の測定  インピーダンススペクトルの温度依存性を測定し,構造を有する局在準位の放 出率をアレニウスプロットすることによって,離脱周波数を決定することができ, 局在準位のエネルギー位置を決定することができる.また等価回路もより確実に 決定できる [19].有機 MIS ダイオードでは温度依存性によって半導体バルク層と 空乏層を特定することができる [20].

(30)

表 2.1   IS 法の解析に用いる伝達関数の関係. Z Y M ε Z Z 1/Y M/jω 1/jωε Y 1/Z Y jω/M jωε M jωZ jω/Y M 1/ε ε 1/jωZ Y /jω 1/M ε

2.2

解析方法

測定方法もさることながら,解析方法も確立されているとは言い難い.複素インピー ダンス平面での解析のみでは,インピーダンスに含まれる情報の全てを得ることはで きない.また FRA を使用すれば簡便に測定することができるが,解析方法が分からな いばかりに,大量に取得したデータの解釈に行き詰まる場合も少なくない.

2.2.1

Cole-Cole

プロットによる解析

印加電圧信号の周波数をパラメータとし,得られたインピーダンスを複素平面上に 表示したものを Cole-Cole プロットと呼ぶ.インピーダンスより,基本的な伝達関数で あるモジュラス,アドミタンス,誘電率を得ることができる [2].各伝達関数の関係を 表 2.1 に示す.この四つの伝達関数から解析目的に適した伝達関数が選択される.本研 究では,実軸から抵抗成分が分かるインピーダンス (Z) プロット,容量成分の逆数が 分かるモジュラス (M ) プロット,および複素誘電率 (ε) プロットの三つの伝達関数を 選択した. 等価回路を決定するためには少なくとも三つの伝達関数を解析しなければならない. 低周波から高周波までの全周波数域を詳細に解析するためには,Z プロットと M プロッ

(31)

い場合でも,M プロットではインピーダンスを jω 倍しているので,高周波側を詳細 に観測することができる. また等価回路を推定する際に,Z プロットと M プロットだけでは,複数の成分を直 列に接続することしか考えることができない.同様に Y プロットと ε プロットだけで は,複数の成分を並列に接続することしか考えられない.つまり,Z プロットと M プ ロットに加えて Y プロットもしくは ε プロットを同時に解析しなければならない.ま た,Y プロットと ε プロットに加え,Z プロットもしくは M プロットを同時に解析し なければならない.以上の理由で少なくとも三つの伝達関数が必要となる. IS法の解析では Cole-Cole プロットの軌跡から素子の等価回路を推定し,その等価 回路から計算した Cole-Cole プロットの軌跡と測定データを一致させ,等価回路を決定 することが一般的である.このため,典型的な回路要素の Z,M ,ε プロットを図 2.3 に示しておく. 各回路素子の軌跡は以下のようになる. • 抵抗 R (Zプロット)   Z = R であるため,実数軸上の点 R となる. (M プロット)   M = jωR であるため,虚数軸上の直線を描き低周波で原点に収束する. プロット)   ε = 1/(jωR) であるため,虚数軸上の直線を描き高周波で原点に収束する. • キャパシタンス C (Zプロット)   Z =−j/(ωC) であるため,虚数軸上の直線を描き高周波で原点に収束する.

(32)

R Im ε [F/m]

等価回路

Z

プロット

M

プロット

Re Z [Ω] -Im Z [Ω] high ω low high ω low RC f π 2 1 =

ε

プロット

R C R C R C Re M [1/F] Im M [1/F] high ω low high ω low 1/C high Re ε [F/m] low high ω low Re Z [Ω] -Im Z [Ω] high low R Re M [1/F] Im M [1/F] 1/C high low Im ε [F/m] Re ε [F/m] high low ω RC f π 2 1 = RC f π 2 1 = RC f π 2 1 = 図 2.3  典型的な等価回路と Cole-Cole プロット.等価回路とそれに対応す る Cole-Cole プロットは同じ網掛けで示してある. (M プロット)   M = 1/C であるため,実数軸上の点 1/C となる. プロット)   ε = C であるため,実数軸上の点 C となる. • R-C 直列回路の場合 (Zプロット)   Z = R− j/(ωC) であるため,虚数軸に平行な直線を描き,高周波で実軸上の 点 R に収束する. (M プロット)   M = 1/C + jωR であるため,虚数軸に平行な直線を描き,低周波で実軸上の 点 1/C に収束する.

(33)

ε = C 1 + ω2R2C2 − j ωRC2 1 + ω2R2C2 ωを消去すると, ( Reε− C 2 )2 + Imε2 = (C 2 )2 従って,原点付近を高周波側とする半円を描く.直径は C となる. • R-C 並列回路の場合 (Zプロット)  インピーダンスは以下の式で表される. Z = R 1 + ω2R2C2 − j ωR2C 1 + ω2R2C2 ωを消去すると, ( ReZ−R 2 )2 + ImZ2 = (R 2 )2 従って,原点付近を高周波側とする半円を描く.直径は R となる. (M プロット)  モジュラスは以下の式で表される. M = ω 2R2C 1 + ω2R2C2 + j ωR 1 + ω2R2C2 ωを消去すると, ( ReM− 1 2C )2 + ImM2 = ( 1 2C )2 従って,原点付近を低周波側とする半円を描く.直径は C の逆数に相当する. プロット)   ε = C − j/(ωR) であるため,虚数軸に平行な直線を描き,高周波で実軸上の 点 C に収束する.

(34)

2.2.2

等価回路定数に関する注意点

微小交流信号に対する等価回路定数は通常微分の形で表されることに留意しなけれ ばならない [21].電流と電圧の関係が関数 f (V ) を用いて, I = f (V ) (2.1) で表される素子について考える.素子に加える電圧 V を以下の式のように直流成分 V0 と微小交流成分 V1に分ける. V = V0+ V1exp(jωt) (2.2) このとき,素子を流れる電流 I はテイラー展開を行い I = f (V0+ V1exp(jωt)) = f (V0) + ( df dV ) V =V0 V1exp(jωt) (2.3) となる.ここで電流 I を以下の式のように直流成分 I0と交流成分 I1に分ける. I = I0+ I1exp(jωt) (2.4) 式 (2.3) と式 (2.4) の比較より I0 = f (V0) (2.5) I1 = ( df dV ) V =V0 V1 (2.6) となる.これより,直流成分に対するコンダクタンス g0は g0 = I0 V0 = f (V0) V0 (2.7) となり,交流成分に対するコンダクタンス g1は g1 = I1 V1 = ( df dV ) V =V0 (2.8) となる.式 (2.8) は,例えば素子が R-C 並列回路で表されるとき,抵抗 R は,定常状 態の抵抗ではなく,微分コンダクタンスの逆数であるということを意味している.

(35)

各成分の時定数に関する情報が分かりにくい.キャリア輸送の素過程 (例えば走行や局 在準位の捕獲・放出) に対応する時定数の変化を知るためには,縦軸に静電容量 (誘電 率),コンダクタンス,誘電損率を,横軸に周波数を表示すればよい.後述するが,例 えばキャリアの電極間の走行や空間電荷の形成 [3],局在準位 [9, 22],再結合 [23] 等の 影響がこれらの変化として現れる.また,各成分の時定数の変化を調べるためには,モ ジュラス虚部の周波数依存性が適している [17, 24, 25].

2.2.4

C–V

特性による解析

特に低分子系有機 EL 素子では複数の層を積層させるため,界面で電荷蓄積が起こ る.界面における電荷蓄積はキャリアバランスや再結合領域等を決定する重要な過程 である.従って,電荷蓄積の解析に適した C–V 測定を行うことが有効である [26–28].

2.3

測定試料

2.3.1

フルオレン系高分子

ポリフルオレンは π 電子共役を有する一次元の有機高分子であり,高分子系の有機 EL材料の基本骨格として注目されている高分子である.ポリフルオレンは 9 位にオク チル基やヘキシル基を置換することで,有機溶媒に可溶となり,薄膜化できる.高分子 材料の優位な点として,様々な性質を有するモノマーと共重合することにより,材料 設計を自由に行うことができるということが挙げられる.ポリフルオレンは鈴木カッ プリングで様々な共重合体を得ることができる.これらの共重合体から赤・緑・青の 発光材料が合成されている.

(36)

本研究では,図 2.4 の化学構造式で示される poly(9,9-dioctylfluorene) (F8) およびフル

オレン系高分子である,LUMATIONTMGreen1300 Series light-emitting polymer (LEP)

(SumationTM) [29]や Green K LEP (SumationTM) [29]を発光層とした素子を作製し,

IS測定を行った.F8 は高効率青色発光特性を示し,熱的,化学的に安定である.また高

い正孔・電子ドリフト移動度を有する [30, 31].LUMATIONTM Green 1300 Series LEP

および Green K LEP の化学構造式は公表されていない.なお LUMATIONTM Green

1300 Series LEPは Sumation 社から販売されている発光材料である.

C8H17 C8H17 n 図 2.4   F8 の化学構造式.

2.3.2

素子構造

素子構造は以下の通りである. • ITO/F8/LiF/Ca/Al (BPD) • ITO/F8/Au (HOD) • ITO/PEDOT:PSS/F8/LiF/Ca/Al (BPD)

• ITO/PEDOT:PSS/Green 1300 Series LEP/Au (HOD) • Al/Green 1300 Series LEP/Ca/Al (EOD)

(37)

S n

SO3H

図 2.5   PEDOT:PSS の化学構造式.

• ITO/PEDOT:PSS/Green K LEP/Au (HOD) • Al/Green K LEP/Ba/Al (EOD)

  PEDOT:PSS は吸水性,強酸性等の性質を持つチオフェン系導電性高分子であり,最 高被占準位 (Highest Occupied Molecular Orbital:HOMO) が,F8 の HOMO と ITO の仕事関数の中間であるため,正孔の注入効率を向上させることができる.また,ITO の凹凸を滑らかにすることによる素子安定性の向上や,ITO から発生した In イオンの 発光層への拡散を防ぐ等の効果があると考えられ [32],バッファ層を用いた素子は用 いない素子に比べ,寿命は格段に長くなる [33–35].

2.3.3

素子作製手順

1. ITOがパターニングされたガラス基板の洗浄 ITO透明電極がパターニングされたガラス基板を次の順序で洗浄した. (1) 超純水で超音波洗浄 (2) アルカリ溶液で超音波洗浄 (3) 超純水でリンス

(38)

(4) アセトンでリンス 2. PEDOT:PSSのスピンコート H. C. Stark (GmbH)社から販売されている BAYTRON(R) P CH8000 [36] を PVDFフィルターでろ過した後,洗浄した ITO 基板上にスピンコートした.塗 布後は水分が残存しないようにホットプレートで十分に加熱した. 3. 発光材料のスピンコート 発光材料を xylene 溶媒もしくは toluene 溶媒に溶かしてスピンコートした.塗布 後は窒素置換したグローブボックスへ移し,酸素や水分を除去するためにホット プレートで加熱した.これ以降,封止するまで大気暴露はしていない. 4. 陰極の蒸着 グローブボックス内で陰極金属を蒸着した. 5. 封止 熱硬化樹脂もしくは光硬化樹脂を用いた.揮発性の不純物や気泡が封止中に入ら ないように,封止材を長時間減圧下で暖め脱泡した.蒸着済み基板に封止材を載 せ,封止ガラス基板を上から張り合わせた.封止が完了した後に大気中に素子を 取り出した.なお全ての素子において画素面積は 2×2 mm2である.

(39)

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[34] S. Karg, J. C. Scott, J. R. Salem, and M. Angelopoulos, Synth. Met. 80, 111 (1996).

(42)

[35] S. A. Carter, M. Angelopoulos, S. Karg, P. J. Brock, and J. C. Scott, Appl. Phys. Lett. 70, 2067 (1997).

(43)

3

単層構造素子

(ITO/F8/LiF/Ca/Al)

のインピーダンス分光測定

3.1

はじめに

フルオレン系材料の基本骨格である poly(9,9-dioctylfluorene) (F8) を,陽極 (ITO) と 陰極 (LiF/Ca/Al) で挟んだだけの単純な構造を有する有機 EL 素子の測定を行った.得 られた結果より ITO/F8/LiF/Ca/Al 有機 EL 素子の等価回路を決定した.電荷輸送方 程式を微小信号解析することによって,決定した等価回路が物理的に妥当であること を示した.

3.2

発光閾値電圧以下における測定結果

発光閾値電圧以下における F8 単層構造 (ITO/F8/LiF/Ca/Al) 有機 EL 素子の Z プ ロット,M プロットを図 3.1(a), (b) にそれぞれ示す.いずれにおいても R-C 並列回路 で表される一つの半円を描いた.この R-C 並列回路は C が F8 の誘電率と膜厚から推 定される静電容量と一致することから F8 バルク層を表していることが分かる.あわせ て,電極/F8 界面層は存在しないことが分かる (F8 バルク層と異なる時定数を有する 界面層が存在すれば,これに起因する半円が観測されるはずである). Zプロットより,印加電圧を増加させると抵抗値が減少することが分かる.これは,

(44)

電圧増加に伴う空間電荷の形成,あるいは移動度の増加に伴う抵抗の減少によると考 えられる.また M プロットより静電容量の値が一定となることが分かる. 測定周波数が高くなると,バルク抵抗 Rbと幾何容量 Cbの並列回路は Cbと見做せる ようになるため,図 3.1(a) 中の挿入図 (原点付近の拡大図) から,Cbと抵抗 Rs (電極の 抵抗,90 Ω) との直列回路となることが分かる.このように Z プロットでは電極抵抗 分だけ半円が右にシフトし,M プロットでは電極抵抗は半円に接する線分となる.こ れらの結果から,発光閾値電圧以下では図 3.2 に示す等価回路で表されることが分かっ た.なお図 3.1 中の実線は,図 3.2 の等価回路から計算したインピーダンスを表示した ものである.

3.3

発光閾値電圧以上における測定結果

発光閾値電圧以上における F8 単層構造有機 EL 素子の Z プロットを図 3.3 に示す. 低周波域 (図 3.3 の第 4 象限) において誘導成分が観測された [1–4].図 3.3 の (a) と (b) に示すように,誘導成分が一つのみ現れる素子と,二つ現れる素子が存在した.従っ て,発光閾値電圧以上での等価回路は,発光閾値電圧以下の等価回路に誘導成分を表 す R-L 直列成分を一つ,もしくは二つ並列に加え,図 3.4(a), (b) のように決定した. 図 3.3(a), (b) 中の実線で示すように,図 3.4(a), (b) から求めたインピーダンスは実験 結果とよく一致することが分かる.

(45)

(a)

0

0.5

1

Re[Z] (M )

0

0.2

0.4

0.6

0.8

-I

m

[Z

]

(M

)

0 V 0.5 V 1.0 V 1.5 V 2.0 V ITO/F8 (113 nm)/LiF/Ca/Al Applied dc bias A.C. modulation voltage

0

0.5

1

Re[Z] (MΩ)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

-I

m

[Z

]

(M

)

0 0.05 0.1 0.15 0.2 Re[Z] (kΩ) 0 0.05 0.1 -I m [Z ]

low

high

ω

high

ω

0

0.5

1

1.5

Re[M] (1/nF)

0

0.5

1

Im

[M

]

(1

/n

F

)

0 V 0.5 V 1.0 V 1.5 V 2.0 V ITO/F8 (113 nm)/Li/Ca/Al Applied dc bias

0

0.5

1

1.5

Re[M] (1/nF)

0

0.5

1

Im

[M

]

(1

/n

F

)

ω

low

high

(b)

図 3.1  ITO/F8/LiF/Ca/Al 有機 EL 素子の発光閾値電圧以下における (a)Z プロット,(b)M プロット.(a) 中の挿入図は原点付近の拡大図で, 直列抵抗の存在が分かる.図中の直線は図 3.2 に示す等価回路によ るフィッティング結果である.

(46)

R

S

R

b

C

b 図 3.2  ITO/F8/LiF/Ca/Al 有機 EL 素子の発光閾値電圧以下における等価 回路.Rs, Rb, Cbは,それぞれ電極等の接触抵抗,有機半導体バル ク層の抵抗,バルク層の容量.

(47)

0

2

4

6

Re[Z] (kΩ)

0

2

4

-I

m

[Z

]

(k

)

ITO/F8 (62 nm)/LiF/Ca/Al

5 5.5 6 6.5 7 Re[Z] (kΩ) -0.5 0 0.5 -I m [Z ] (k Ω)

0

0.5

1

1.5

Re[Z] (k )

0

0.5

1

-I

m

[Z

]

(k

)

low

high

ω

low

high

ω

low

ITO/F8 (57 nm)/LiF/Ca/Al

(a)

(b)

図 3.3  ITO/F8/LiF/Ca/Al 有機 EL 素子の発光閾値電圧以上における Z プ ロット.(a) は誘導成分が一つの例.(b) は誘導成分が二つの例.M プロットでは誘導成分がほとんど見えないため,Z プロットのみ示 す.印加直流電圧は (a),(b) いずれも 12 V.図中の直線はそれぞ れ図 3.4(a),(b) に示す等価回路によるフィッティング結果である.

(48)

R

S

R

b

C

b

R

1

R

2

L

1

L

2

R

S

R

b

C

b

R

1

L

1

(a)

(b)

図 3.4  ITO/F8/LiF/Ca/Al 有機 EL 素子の発光閾値電圧以上における等価 回路.(a) は誘導成分が一つの場合.(b) は誘導成分が二つの場合. Rs, Rb, Cbは,それぞれ電極等の接触抵抗,有機半導体バルク層の 抵抗,バルク層の容量.R1, L1,R2, L2は,低周波域の誘導成分に 対応する.

(49)

の起源を調べ,等価回路の回路定数がどのような物理量を与えるのかという知見を得 るため,電荷輸送過程を解析し,インピーダンスを算出した.発光閾値電圧以下では 電子,正孔のうちのいずれか一方のみが注入されている.従って,発光閾値電圧以下 の測定結果を単電荷注入 (single injection) モデル [5–11] により考察を行った.解析に は,電流の式,ポアソンの式,電流連続の式を用い,拡散電流および捕獲準位の存在 を無視した (付録 A 参照).最終的に, Y1 = G1+ jB1 (3.1) を得た.ここで, G1 = gΩ3 6 Ω− sinΩ (Ω− sinΩ)2+(Ω2 2 + cosΩ− 1 )2 (3.2) B1 = gΩ3 6 Ω2 2 + cosΩ− 1 (Ω− sinΩ)2+(Ω22 + cosΩ− 1)2 (3.3) である.g は低周波域におけるコンダクタンス (すなわち微分コンダクタンス) であり, 次式で与えられる. g = 9 4εµ V0 d3 (3.4) εは有機半導体の誘電率,µ は有機半導体のキャリア移動度,V0は印加直流電圧,d は 有機半導体の膜厚,Ω は走行角である. 式 (3.2),(3.3) から分かるように,単電荷注入モデルの等価回路は図 3.5 に示すよう な R = 1/G1, C = B1/ωの R-C 並列回路となる.これは図 3.2 に示す IS 測定より決定 した発光閾値電圧以下における等価回路とよく一致する.ただし,単電荷注入モデル では電極抵抗を考慮していないため直列抵抗成分は含まれていない.

(50)

は角周波数 ω とキャリア走行時間 ttの積で与えられるため,単電荷注入注入モデ ルの等価回路定数にはキャリア走行時間 (すなわち移動度) の情報が含まれていること が分かる.

R=1/G

C=B /ω

1

1

図 3.5  単電荷注入モデルの等価回路.G1, B1はそれぞれ式 (3.2),(3.3) で 与えられる. 式 (3.2), (3.3) より,コンダクタンス,キャパシタンスの周波数特性を図示すると,図 3.6のようになる.高周波域から低周波域に向かって,コンダクタンスは増加し,キャ パシタンスは減少していることが分かる.これは,微小電圧信号により注入されたキャ リアによる空間電荷が微小交流電圧に完全には追従できずに,電流に位相遅れを生じ るためである.高周波域においては,注入キャリアは交流電界に追従できないため,幾 何容量が測定される.コンダクタンスに関しても,同様の理由により変化が生じる.こ れを走行時間効果 (transit-time effect) と呼び [5, 8, 10–12],これを利用してキャリア移 動度を測定することができる. 等価回路定数や走行時間効果を利用した移動度の決定法についての説明および F8 有 機 EL 素子の等価回路定数から移動度を決定した結果については第 5 章で述べることに する.

(51)

(a)

(b)

10

-3

10

0

10

3

10

6

ω

t

t

(rad)

0.6

0.8

1

G

(

ω

)/

G

(0

)

10

-3

10

0

10

3

10

6

ω

t

t

(rad)

0.8

1

C

(

ω

)/

C

g e o 図 3.6  式 (3.2), (3.3) より計算した単電荷注入モデルの (a) コンダクタン ス,(b) キャパシタンス.tt:キャリア走行時間.

図 2.2  ソーラトロン 1260 型インピーダンスアナライザ (下) と 1296 型誘電 率測定インターフェイス (上). 2.1.3 測定条件 特に FRA を用いる場合,その取り扱いの容易さ故に安易に誤った条件での測定を 行ってしまう危険性がある.実際の測定は下記の事項を確認してから行った. 1
表 2.1   IS 法の解析に用いる伝達関数の関係. Z Y M ε Z Z 1/Y M/jω 1/jωε Y 1/Z Y jω/M jωε M jωZ jω/Y M 1/ε ε 1/jωZ Y /jω 1/M ε 2.2 解析方法 測定方法もさることながら,解析方法も確立されているとは言い難い.複素インピー ダンス平面での解析のみでは,インピーダンスに含まれる情報の全てを得ることはで きない.また FRA を使用すれば簡便に測定することができるが,解析方法が分からな いばかりに,大量に取得したデータの解
図 4.3  ITO/PEDOT:PSS/F8/LiF/Ca/Al 有機 EL 素子の M プロットの (a)F8 層,(b)PEDOT:PSS 層の膜厚依存性.
図 4.8(a), (b) の等価回路に交流電界を印加することを考えると,それぞれ次式のよ うな関係がある. ( Q  ∗ S d ) = V 1 exp(jωt) (4.1) R dQ dt + Q(0 S d ) = V 1 exp(jωt) (4.2) ここで Q はコンデンサの蓄積電荷量,S は素子面積,d は誘電体の膜厚である.上式 より Q を消去し,ε 0 S/d = C とすれば (この C は図 4.8(b) のコンデンサの容量), ε ∗ = ε 0 1 + R 2 C 2 ω 2 −
+7

参照

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