法 )
7.2 単一の離散準位を有する単電荷素子の等価回路
図7.1(a),(b)中の点は,式(7.4)–(7.7)において輸送エネルギーから0.5 eVのエネ ルギー準位に単一の離散準位を仮定し,得られたコンダクタンスとキャパシタンスの 周波数依存性である.計算に用いた物理量を表7.1に示す.放出率が走行時間の逆数よ りも大きい局在準位から放出されるキャリアは,印加交流電界の1/2周期中に電極に 到達することができないため,インピーダンスの変化として検知することができない.
そのため,放出率が走行時間の逆数よりも小さい,輸送エネルギーから0.5 eVのエネ ルギーに局在準位を入力した.
コンダクタンス,キャパシタンスいずれにおいても高周波領域で走行時間効果[9–13]
による振動構造が現れていることが分かる.これより高周波側では印加交流電界の1/2 周期中に注入キャリアが対向電極に到達することができないので,幾何容量が測定され る.つまり,第5章で示した連続分布した局在準位を入力した場合と同様に,走行時間 効果が現れる周波数域から走行時間(すなわち移動度)を測定することができる [14–17].
またキャパシタンスにおいて104–105 Hz付近で高周波から低周波に向かってキャパ シタンスが増加していることが分かる.これは低周波域では局在準位に捕獲されるキャ リア密度の割合が増加するためである(付録C参照).それに伴って自由キャリア密度の
割合が減少するために,コンダクタンスは減少する.図7.1(a),(b)中の点線は式(7.1)
および(7.2)から計算した局在準位が存在しない単電荷注入時のコンダクタンスおよび
キャパシタンスである.ただし移動度は周波数に依存せず一定とした.使用した物理 量は表7.1と同じ値を用いた.この場合,局在準位の影響による低周波域のキャパシタ ンスの増加,コンダクタンスの減少が見られず,等価回路がR-C並列回路となること が実験的にも[18],理論的にも[19]示されている.また図7.1(a),(b)中の点に見られ るような低周波域でのキャパシタンスの増加とコンダクタンスの減少は誘電緩和現象 であり,第4章で説明したようにR-C直列回路で等価的に表現できる [20, 21].そのた め,単一の離散準位が存在する単一電荷注入時の有機EL素子の等価回路は,局在準位 が存在しない単一電荷注入時の等価回路(R-C並列回路,Cは幾何容量)に,R-C直 列回路を並列に接続した図7.1(c)のような等価回路になると考えられる.図7.1(c)の 等価回路でフィッティングした結果が図7.1(a),7.1(b)の実線である.走行時間効果に よるキャパシタンス,コンダクタンスの振動はフィッティングできていないものの(局 在準位を無視した単一電荷注入のインピーダンスに対するR-C並列回路によるフィッ ティングでも同様に,走行時間効果による振動は再現できない[19]),その他の挙動は よく再現できていることが分かる.つまり,単一の離散準位は図7.1(c)中のR-C直列 回路によって表される.なお,放出率,捕獲率を変化させた場合の計算結果は過去に 詳細に検討されているが[22],いずれの場合も図7.1(c)の等価回路でフィッティングす ることができる.また,第6章で述べた局在準位評価法を用いれば,局在準位の放出率 を知ることができる.温度依存性を測定し,放出率をアレニウスプロットすれば,局 在準位の離脱周波数,すなわちエネルギー準位を実験結果から求めることもできる.
表 7.1 数値計算に用いた物理量.
測定温度 T (K) 300
有機半導体層膜厚 d (nm) 100
素子面積 S (mm2) 4
有機半導体層の比誘電率 εr 2.82 伝導帯の有効状態密度Nc (cm−3) 1020 輸送エネルギーからの局在準位の深さ Ec−Et (eV) 0.5 局在準位密度Nt (cm−3) 1013 捕獲断面積 St (cm2) 10−15 キャリアの熱速度 vth (cm/s) 107 離脱周波数 ν (K) 1012 微視的移動度µ (cm2/Vs) 10−5
印加直流電圧V0 10
10
010
110
210
310
410
510
610
7Frequency (Hz)
10
410
510
610
7C o n d u ct a n ce ( S )
with a single trap fitted result by a equivalent circuit without trap
(a)
10
010
110
210
310
410
510
610
7Frequency (Hz)
0.5
1
2 5
10
20
C a p a ci ta n ce ( n F )
with a single trap fitted result by a equivalent circuit without trap
(b)
R
bC
bR
p1C
p1
(c)
n
n
図 7.1 式(7.4)–(7.7)より計算した単一の離散的な局在準位を有する有機
EL素子の(a)コンダクタンス,(b)キャパシタンス.計算に使用し た物理量は表7.1に示す.図中の実線は(c)に示す等価回路による フィッティング結果.Rb :有機半導体バルク層の抵抗, Cb :幾何容 量,Rp1, Cp1 :単一局在準位に対応する抵抗と容量.点線は式(7.1)
および(7.2)から計算した局在準位が存在しない単電荷注入モデル.
(7.4)–(7.7)によりコンダクタンス,キャパシタンスの周波数依存性を計算した結果で ある.計算に用いた物理量は表7.2に示す.その他の物理量は表7.1と同様の値を用い た.図7.1(a),(b)と比較すると,図7.2(a),(b)には局在準位によってキャパシタンス,
コンダクタンスが変化する周波数が二つ存在することが分かる.このため図7.1(c)の ようにR-C並列回路に二つのR-C直列回路を並列接続させた等価回路でフィッティン グした.フィッティング結果は図7.1(a),(b)の実線で示している.やはり走行時間効 果は再現できないものの,二つの周波数域で変化するコンダクタンスとキャパシタン スを再現できていることが分かる.単一の離散準位と同様に,本論文で提案する局在 準位評価法により,それぞれの局在準位の放出率やエネルギー準位を知ることができ る.以上より,n個の離散準位が存在する有機EL素子のインピーダンスは,R-C並列 回路にn個のR-C直列回路を並列接続させた等価回路で表されることが推測できる.
表 7.2 図7.2の計算に用いた物理量.
輸送エネルギーからの局在準位の深さ Ec−Et1 (eV) 0.5 輸送エネルギーからの局在準位の深さ Ec−Et2 (eV) 0.7 Et1における局在準位密度Nt1 (cm−3) 1013 Et2における局在準位密度Nt2 (cm−3) 1013
100 101 102 103 104 105 106 107
Frequency (Hz)
101 102 103 104 105 106 107
C o n d u ct a n ce ( S )
with two discrete traps fitted result by
a equivalent circuit without trap
(a)
R
bC
bR
p1C
p1
R
p2C
p2
100 101 102 103 104 105 106 107
Frequency (Hz)
0.5
1
2 5
10
20
C a p a ci ta n ce ( n F )
with two discrete traps fitted result by
a equivalent circuit without trap
(b)
(c)
n
n
図 7.2 式(7.4)-(7.7)より計算した二つの離散的な局在準位を有する有機
EL素子の(a)コンダクタンス,(b)キャパシタンス.計算に使用し た物理量は表7.2に示す.それ以外の物理量は表7.1と同様の値を用 いた.図中の実線は(c)に示す等価回路によるフィッティング結果.
Rb :有機半導体バルク層の抵抗, Cb :幾何容量,Rpi, Cpi(i= 1,2) : 離散準位に対応する抵抗と容量.点線は式(7.1)および(7.2)から計 算した局在準位が存在しない単電荷注入モデル.
る場合のコンダクタンスとキャパシタンスの周波数依存性を計算した結果を図7.3(a), (b)に示す.連続準位は不規則系半導体によく見られる指数関数分布とした.
Nt(E) =N0exp
(
−Ec−E kT0
)
(7.8) ここでN0は輸送エネルギーにおける局在準位密度,T0は局在準位のエネルギー幅を表 す特性温度であり,N0 = 1021 cm−3eV−1, T0 = 500–700 Kに設定した.それ以外に使 用した物理量は表7.1と同じ値に設定した.なお連続準位は,エネルギー幅∆E=0.01 eVの100個の離散準位が0–1 eVのエネルギー範囲に連続しているとして計算した.
図7.3(a), (b)において,走行時間効果が現れる周波数域よりも低周波で,キャパシ
タンスは低周波に向かうにつれ連続的に増加し,コンダクタンスは連続的に減少して いる様子が見られる.このキャパシタンスとコンダクタンスの変化は,離散準位の場 合と同様に,局在準位の影響である.走行時間の逆数よりも低周波でのみこのような 現象が現れる理由は,走行時間の逆数よりも高周波で局在準位から放出されるキャリ アは,印加交流電界の1/2周期の間に電極まで到達することができないので,インピー ダンスの変化として検知することができないからである.
連続準位はエネルギー幅∆E kT の離散準位を複数仮定することで表現すること ができるため,図7.3(c)のように等価回路においても複数個のR-C直列回路を接続さ
せた.図7.3(a), (b)中の実線が等価回路によるフィッティング結果であるが,計算結果
によく一致していることが分かる.つまり連続準位を有する単一電荷注入時の有機EL 素子の等価回路は図7.3(c)のようになることが分かった.
図7.3(a), (b)のように,低周波域で連続的に変化するアドミタンスの周波数特性は
過去に様々な有機EL素子で報告されている [4, 5, 16, 17].しかしそれらの報告では,局 在準位を無視した単電荷注入のインピーダンス [式(7.1)および(7.2)]に,移動度の周
波数依存性[式(7.3)]を仮定したモデルで解釈されており,局在準位の影響に関しては これまでにほとんど考察されていない.それに対して式(7.4)–(7.7)を用いて実験結果 を解析したり,第6章で説明した局在準位分布評価法や式(5.43)を実験結果に適用し たり,等価回路によるフィッティングを行う等すれば,局在準位に関する知見を得るこ とができるため,有機EL素子の動作解析や劣化機構の解明に役立つと考えられる.