第二章 罪を犯した人の社会復帰に関連する制度・施策
第三節 刑事司法と社会福祉の協働施策
⒈ 出口支援の施策 -地域生活定着促進事業―
2009 年、国は刑務所から出所する社会的バルネラブルな高齢者や障害者に特化した 社会復帰支援事業の施策に取組み始めた。身寄りのなく、帰住先のない矯正施設から出 所する人への事業であり、「地域生活定着促進事業」として、更生保護法のもとで福祉 的支援を行うというものである。具体的事業は「地域生活支援センター」(以後、支援 センターという)として、各県に設置が始まり2012年には全国47都道府県に一箇所ず つ開設された。
その目的は「高齢又は障害により、福祉的な支援を必要とする矯正施設退所予定者及 び退所者等に対し、各都道府県の設置する『地域生活定着支援センター』 が、矯正施 設、保護観察所等と連携•恊働しつつ、その社会復帰及び地域生活への定着を支援し、
再犯防止対策に資すること」というものである。
支援対象者は「障害や高齢により社会復帰が困な福祉的支援の必要な人」と限定さ
れ、年間約1,000人を見込んでいる。事業実績は年々上がっており、増加する高齢者犯 罪者では、他の年齢層に比べて2年以内の刑務所再入所者が大きく減少している。
業務及び運営に関する基本的事項は「地域生活定着支援センターの事業及び運営に関 する指針」(厚生労働省•援護局総務課長通知)に定められている。そこに示されてい る業務内容は①コーディネート業務:矯正施設退所予定者の帰住地調整支援、②フォ ローアップ業務:矯正施設退所者の施設等への定着支援、③相談援助業務:矯正施設 退所者等への福祉サービス等についての相談支援、④地域支援業務:地域のネットワ ークの構築と連携促進、である。
課題として、矯正施設や保護観察所と社会福祉との連携があげられ、現在、事例を通
して、双方が自己変革をしながら新しい合意点を検討している段階にある。
2.入口支援の施策化 -試行事業-
地域生活定着促進事業は、矯正施設からの出所者を対象とした施策だが、近年、刑 務所に入らないための支援の必要性が問われている。罪を犯した人の 社会復帰を福祉
福祉的ニーズをもとに「医療面」「収入面」「居所•生活面」「就労(日中活動)」
を中心に地域での生活を可能にする「更生支援計画」をたて、裁判時に証拠書類として 提出するというものである。その取組みは拡大しているが、現在のところ各地で多様な 形で展開され、統一された支援の形にはなっていない。検察と連携した社会復帰支援 室、弁護士会と連携した裁判段階での証拠資料提出、NPO法人による更生支援計画提出 による減刑や受け入れ施設の調整等である。
先駆的に実践しているのが東京都である。刑務所へ入る前(被疑者•被告人段階)か
ら福祉が関わる取り組みを2013年から始めた。東京地方検察庁で社会福祉アドバイザ ーとして勤務している松友(2014 当時)はその取組みを次のようにまとめる。「起訴猶 予や執行猶予付きの判決の後、障害や高齢等の社会的援護の必要な状態にある人を、再 犯防止のために社会的支援へ繋ぐ」という役割がある。
京都では、京都地方検察庁と京都社会福祉士会との連携により、高齢者や障害者で
犯罪が軽微で前科がなく、被害弁償されている人を対象に、起訴猶予処分相当であるが そのまま釈放すれば再犯になる可能性の高い人を社会福祉士につなぎ、社会生活を継続 させている。入口支援が取り組まれている背景に検挙人員の約 9 割が微罪処分、不起 訴、執行猶予等になるという状況がある。
このような早期解放の制度はダイバージョンという刑事システムの取組みである。
警察、検察、裁判、矯正、保護という一連の流れの途中から外に出すという支援である。
例えば、警察段階における微罪処分、検察段階における起訴猶予、裁判段階の執行猶予,
矯正段階での仮釈放、刑事施設等への収容の制限などである。伊藤はダイバージョンの 目的を刑事司法システムの負担軽減と同時に社会復帰の促進効果をあげる。「ダイバー ジョンの目的は、(犯罪者)ラベリングの回避による社会復帰の促進(刑事司法システ ムの流れの先に進めば進むほど、犯罪者としてのラベル貼りは強くなり、社会復帰も難 しくなる。流れの先に進めることが不要な者については、なるべく早期に解放して社会 への復帰を容易にする」 (伊藤:2015;103)。
厚生労働省は平成28年4月に入口支援の整理をした。①「犯歴の有無を問わず、
支援にニーズがあって、真に支援を求める人がいれば、その人の真意に沿って、地域に おいて福祉的支援が受けられる必要あり」、②「本事業は、限られた社会保障の資源を、
長期間の身柄拘束で地域とのつながりを失った人へ特に優先して活用し、広域調整によ って、必要な支援を地域で受けられるようにするもの」、③「本事業の対象外となった、
犯罪をした障害者•高齢者も、支援ニーズがあり真に支援を求めるなら、既存の各種福
祉的支援の対象」。ただし、支援同意の必要性を「支援同意のない事案は、そもそも全 ての福祉的支援の対象外」強調している。
今後の課題として、実態としての犯罪者の社会復帰支援を政策がどう受け止めてい
くかが重要になっている。社会的バルネラブルな罪を犯した人が増加する現在、今後の 動向が重要である。
図表2―5 検察庁による入口支援の取組
図表2-6 入口支援の流れ
法務省 http://www.moj.go.jp/content/001237210.
しかし、制度化されていない、入口支援は課題が多い。入口支援に取組んだ検察庁
からは次のような課題が報告されている。①出口支援における地域生活定着支援セン ターのような調整の仕組みがない 。② 福祉サービス等の利用につながった後のフォ ローアップが不十分 。③ 更生緊急保護対象者の個々の特性に応じた受け皿や就労先 の不足。④ 業務負担の増加と要員の不足。