第三章 罪を犯した人の社会復帰支援の司法と福祉の関わり
第二節 司法福祉について
次に「司法福祉」から司法と福祉の関わりを確認する。司法福祉は、「司法の関与を
必要とする社会問題」の解決・緩和を目指して、法と臨床とが相互理解・相互尊重の原 則に立って協働して問題に取り組む「広義の司法」のあり方を問うものであり、現代社 会でますますその必要性が広がってきている。(山口2005:ⅰ)。司法の中に福祉的実 践を位置付けられるかということを問題としている。ここでは、はじめにその概念を紹 介し、その上で、罪を犯した高齢者と司法福祉の関わりを検討する。
1.司法福祉の概念
歴史的には、司法福祉という実践は,戦後、家庭裁判所調査官が中心になり、司法の
中に福祉の考え方を入れて発展してきたものと言われている。
1960年代に山口幸男は「司法福祉」の概念化を試みた。司法福祉を福祉の一分野と
しながらも「裁つ司法」と「包む福祉」は国家の論理と個人の論理で相容れないことを 前提に、法的実行力による規範的解決と社会的事実としての問題の実体的な解決が表 裏一体であり、この実体的解決の実現を目指すものが司法福祉であると説明する。
23法務省 法務総合研究所研究部(2017)「高齢者及び精神障害のある者の犯罪と処遇に関する研究」法務総合研究所研 究部報告56
制度的には、「対象者の生活問題を解決するための課題を制度へ反映し、実践と制度
•理念を統合することを目的とする」、そして、業務の解決は「最終的に責任を負う立 場にある裁判所を核として、法の精神に添った問題解決に向けて統一された分業・協働 として展開される」(山口2005:17)とする。
加藤幸雄は、近年の虐待事例や成年後見、消費者保護のための権利擁護等、日常生活
における法的な決着と併せて福祉的対応が求められる事案が増えている現状から、司 法福祉の修正をした。司法福祉の修正定義として「司法福祉とは、司法による決定が有 効と思われる課題について、心理、教育、社会福祉などの知見や方法を活用して、当事 者の権利擁護に寄与する実体的な問題解決・緩和を行うための諸施策、諸活動を総称す る」とした。さらに、司法福祉の内包と外延の拡充を整理し、三つのタイプに分類した。
図表3-1 司法福祉の三つのタイプと領域・分野
加藤幸雄 「司法福祉」p14
罪を犯した高齢者は第二分類「法的決定に基づいてプロベーションなど教育的、福 祉処遇が行われている領域」に属する。社会復帰に向けた更生保護、刑務所内プログ ラム事業であろう。例えば、第二章の地域生活定着促進事業で示したように、刑事司 第一 法的決着により問題解決を行うもの
の、実体的問題解決を必要とする領域
少年司法•矯正•刑の執行猶予•刑事少年司 法における犯罪心理•社会鑑定
第二 法的決定に基づいてプロベーションな ど教育的、福祉処遇が行われている領 域
更生保護•矯正•刑の執行猶予•仮釈放、補導 委託、刑務所内外福祉事業(地域生活定着支 援センター)
第三 実体的問題解決を行う際に、法的決着 が課題となってきた領域
児童、高齢者/障害者虐待•DV•地域福祉権 利擁護(福祉サービス利用援助)•成年後見
•被害者援護•修復的司法
2.司法福祉の基本的な考え方としての規範的解決と実体的解決について
司法福祉概念の核となるのが、法的実行力による規範的解決と社会的事実としての実 体的解決である。加藤は規範的解決と実体的解決を次のように説明する。「司法とは、
法律によって黒白の決着を明確にすること(規範的解決)を主な役割とし、福祉は、個 別化された社会問題の解決•緩和をめざし、実情に即した調整機能を果たすこと(実体 的解決)である」(加藤幸雄2012:9)。そこでの司法と福祉の関係性については、お互 いの役割や優先順位を見つけ出すにとどまらず、双方の基盤や価値の違いを前提として、
個別の人への支援の枠組みを作りだすことであろう。その実践を加藤は「司法ソーシャ ルワーク」と名付けた。
罪を犯した高齢者の社会復帰を司法福祉の考え方で説明すると、「法的決定に基づい てプロベーションなど教育的、福祉処遇が行われている領域」での規範的解決として、
裁判によって受刑や保護観察という法的決着がついている。それに対して、実体的解決 としては、教育や福祉的視点からの人の可変性への信頼や更生意欲の後押しとしての環 境調整に価値をおき、個別の人としての特性に配慮し、生存や幸福追求への権利擁護が 司法福祉の実体的解決となろう。
教育との関わりでは、社会福祉士、精神保健福祉士の指定科目として、「更生保護制 度」が新設科目として設置されている。
3.司法福祉の対象領域の拡大
日常生活において、法的な決着と併せて福祉的対応が求められる事案が増えて来て
いる。その対象領域は,家庭裁判所の少年分野から、法律扶助、 被害者援護,更生保 護,矯正,教護,少年刑事事件, 家事審判・調停事件へと拡大してきている。近年の 社会的バルネラブルな罪を犯した高齢者の司法と福祉の連携による社会復帰支援もそ のひとつであろう。
だが、罪を犯した社会的バルネラブルな人への福祉的支援は近年始まったものでは
ない。「福祉事業や政策の対象は、一貫して貧困にあえぐ人びとでであった。そのよう な人びとは、貧困と不衛生に加えて無知と孤立と過酷な生育環境とが複合して、犯罪へ 追い込まれがちであった。つまり、“福祉”の対象の核心には刑事施設を入出所する人 の存在があった」(加藤博史•水藤昌彦 2013:1)。
制度の社会福祉と更生保護の関わりとしては、社会福祉に関するあらゆる事項の共
通基礎概念を定めた「社会福祉法」24に更生保護の関わりが、社会福祉協議会を構成す るメンバーとして更生保護事業を経営する者が位置付けられている。(109 条 市町村 社会福祉協議会及び地区社会福祉協議会)。
同様に、教育面でも、2009 年より、社会福祉士受験科目に更生保護が導入され、現
在、司法分野である保護観察官や「医療観察制度」25での社会復帰調整官、指定更生保 護施設への配置など、司法と福祉の関わりが拡大している。
4.法的思考と臨床的思考の違い
法的思考と臨床的思考の違いを説明しているのは廣井亮一である。規範的解決と実体 的解決の間の二重規範をとりあげ、臨床の重視性を指摘し「司法臨床」を概念化した。
廣井は、「法的思考と臨床的思考は基本的に相対したり、矛盾したりをする関係に位置 づけられる」と指摘する。司法と臨床との差異を対比しながら、法的思考と臨床的思考 を整理し、具体的検討の枠組みとして下記のように示した。
図表3-2 法的思考と臨床的思考
準拠の基準 事実の捉え方 時間軸 境界の設定 思考のプロセス 認識の方法
法的思考 法的基準:
実 定 法 的 基 準 に 準 拠。法的な根拠に基 づき、合理的な推論 を重視する。
法的構成:
事実関係の法的 分析・構成によっ て、法的観点から の抽象化と単純 化が行われる。
過去志向性:
過去の具体的事 実 に 拘 束 さ れ る。議論は過去 の法的正当性に 関する紛争に限 定される。
二分法:
法 的 権 利 義 務 関係や有罪・無 罪 の 規 範 的 確 定 に つ い て all-or nothing という 二分法的思考。
論理的整合性:
原理性、整合性、
累計性、一般性な ど に 関 す 論 理 的 要 件 を 満 た す こ とが求められる。
直線的な因果論:
還 元 さ れ た 個 を 起 点 と し て 全 体 捉える。
臨床的(実 体的)思考
個別的基準:
課 題 を 抱 え た 人 及 び 人 と の 関 係 自 体 が準拠する基準。
多面的把握:
事実を全体的な コンテクストに おき、部分と全体 の有機的な理解 が必要。
未来志向性:
基本的視点は現 在から未来。円 環的な認識論に 基づく。
非分割的:
司 法 と 福 祉 の 間 の 境 界 領 域 で あ る 分 割 で き な い 部 分 に 着目する。
螺旋的思考:
積 み 重 ね ら れ た 固 定 化 に 向 か う 動きと同時に、そ れ を 突 き 崩 そ う と す る 双 方 の 動 き に よ る 螺 旋 的 思考過程。
シ ス テ ム 的 認 識 論:相互作用し合 う 個 の 集 合 と い う 全 体 性 を 出 発 点 と し て 個 の 多 様性を把握する。
廣井亮一(2008:25)を参考に筆者作成
廣井は、法的思考を対比させながら臨床的思考法の基本的な枠組みを議論しようとし た。司法と福祉の関係を従来の連携や協力を越える協働であるとし、その本質はコラボ レーション「重ね合わせる」であると説明する。「それぞれの専門職や機関が基盤とす る価値、方法を前提として、ことなる枠組みによるダイナミックな相互作用によって、
事象や問題にあらたな意味を付与するリフレイミングのプロセスである」と、司法と福 祉の自己変革を基にした相互作用による新たな支援の形を生み出す重要性を論じてい る。(2006:61)
ここで述べている司法と福祉の相互作用部分での協働関係による具体的問題解決と は、司法福祉で言われている「規範的解決と実体的解決」の協働と重なるものがある だろう。
図表3-3 コラボレーションのイメージ図
広井亮一「司法臨床の枠組み」p61より
5.罪を犯した高齢者支援と司法と福祉の協働
ここでは、司法福祉における罪を犯した高齢者の位置づけを確認する。罪を犯した 高齢者の社会復帰において、司法と福祉の関係のあり方を検討する時、その協働の形 が求められている。家族や親族等のインフォーマルな社会復帰資源が期待できない高 齢者は、国や地方自治体などの行政を責任主体とした公的な施策を利用することが多 くなる。その際の法的思考と実体的思考の間には齟齬が発生することが多い。例え ば、多くの罪を犯した高齢者が最初に生活基盤をつくるために利用するのが、生活保 護である。だが、生活保護制度の原理・原則としての無差別平等の原理(生活保護法2
福 祉 司
法
相互作用による協働