第四章 罪を犯した高齢者の社会復帰支援の課題
第三節 四類型の特性と支援のあり方の検討
⑶ 刑務所に入らないための支援
このような初めて軽微な罪を犯した人への受刑回避のための援助として、刑事司法の 被疑者•被告人段階から福祉が関わり、社会的介入をする取り組みが 2013 年から始ま っている。検察段階での不起訴処分、裁判段階での起訴猶予であり、 刑務所出所後の 社会復帰支援を出口支援とするのに対して、刑務所入所前の社会復帰支援として「入口 支援」と呼ばれている。接見、アセスメント、更生支援計画書の作成、居住環境の調整 等をするというものである。
東京地方検察庁社会復帰支援室34に採用されている松友は、その実績を次のように報 告する。「起訴猶予処分者の社会生活支援は、116日間で 320件であり、男性が多い。
全体の85%がネットカフェで暮らしている、居場所のない人は100%が定職業を持って
いなく、社会の中で孤立している。万引きで初犯といった人に検察段階で接触できれば 立ち直り支援にも取りかかりやすい」(平成25年4月15日福祉新聞)。受刑のデメリッ トとして、龍谷大学法科大学院の浜井浩一教授は、「障害者や高齢者では刑務所で受刑 することが更生につながらないケースがある。早い段階で社会に居場所を作ることが大 事で、入り口支援の実績を積み上げながら社会全体で考えていく必要がある」と述べる。
上記からわかるように、軽微な罪を犯す人は少なくなく、罪を犯したその時に早急に
支援に入ることによって立ち直りに影響する。その支援は個人のニーズと社会のニー ズに対応するものである。だが、課題として、法の整備が立ち遅れているということが ある。現場での混乱が見られる。 例えば、取組みが社会福祉士と弁護士の協議書に基
用するか、しないかは弁護士や裁判官の判断次第である。また、更生支援計画作成のた めの客観的評価のための情報収集の時間は、刑事施設の規定により、短時間の一般面会 である。さらに、ソーシャルワークの観点からは、裁判に更生支援計画をだすというこ とは、検察や裁判長に最初から有罪との印象を与えてしまい、ソーシャルワーカーの倫 理上、人権の問題にも関係するものになってしまう。
ソーシャルワーカーとしての役割として、これまで考えられなかった高齢者の行動に 対して社会が理解できず不安を感じていることを前提にしたソーシャルワークの必要 性がある。その際、ソーシャルワーカーとして求められているのが対象者の理解である。
正確な情報を基にして、何が原因で高齢になって急に罪を犯したのかということの分析 をし、社会へ説明していくことである。例えば、家庭問題か、社会の問題か、あるいは、
認知症等の個人の病気の問題か、などである。社会に説明できる対象者理解をして上で、
どのようなスタンスで関わったらよいのかということの検討が求められている。つまり、
一度受刑すると再犯という負のサイクルに陥る可能性があり、犯罪の繰り返しにつなが る、という危機意識を持ち、事件を起こした原因を知り、その生活問題解決の支援をす ることが支援の目的である。
⑷ 「再犯防止推進法」への入口支援の位置づけ
「再犯防止推進法」に基づく「再犯防止推進計画」(案)の中では入口支援を次のよう に位置付けている。「第3 保健医療・福祉サービスの利用の促進等のための取組(推進 法第17条、 第21条関係)。具体的には、「1.高齢者又は障害のある者等への支援等
③ 高齢者又は障害のある者等への効果的な入口支援の実施」において、 高齢者又は障 害のある者等への効果的な入口支援の実施 ア 刑事司法関係機関の体制整備 法務省は、
検察庁において社会復帰支援を担当する検察事務官や 社会福祉士の配置を充実させる など、検察庁における社会復帰支援 の実施体制の充実を図るとともに、保護観察所に おいて福祉的支援 や更生緊急保護を担当する保護観察官の配置を充実させるなど、保 護観察所における実施体制の充実を図り、入口支援が必要な者に対 する適切な支援が 行われる体制を確保する。イ 刑事司法関係機関と保健医療・福祉関係機関等との連携 の在り方の検討 法務省及び厚生労働省は、Ⅱ第7.1(2)①ウに記載の地域のネットワ ークにおける取組状況も参考としつつ、一層効果的な入口支援 の実施方策を含む刑事 司法関係機関と保健医療・福祉関係機関等との連携の在り方についての検討を行い、2 年以内を目途に結論を出 し、その結論に基づき施策を実施する、法務省、厚生労働省 が担当することになっている。
⑸ 施策化の必要性
「再犯防止推進計画」への入口支援の位置づけに対して、ソーシャルワークの運用の 課題として、2 点指摘できる。1 点目として、多機関を含めての連携である。2点目と しては、釈放後の社会資源についてである。
1点目の「多機関を含めての連携」については、ソーシャルワークの目的である「刑 務所に入所しないために」の課題を解決には、刑事司法と福祉の役割分担や協働支援の ルール化をすることが必要である。つまり、先行的に実践されている警察庁、検察庁、
裁判所、弁護士、社社会福祉士が協働で取り組める枠組みの構築や施策化である。現在 の入口支援は法務省と厚生労働省が主体となって検討され、解決をしている。上記3で 確認したようにそれなりに実績は上がり、受刑は防げられているが、対象者のニーズに 即しているかといえば、身柄釈放後の生活支援ができていないという課題がある。現在、
弁護士や社会福祉士、民間有志によるボランティア的活動によって支えられている実態 があり、活動を支える根拠としての施策が必要とされている。同様に、地域生活定着支 援センターが出所支援後の再犯により、入口支援に関わる場合があるが、組織として根 拠となるものがないことにより、支援の範囲が曖昧になっているという課題もある。ま た、起訴された場合、裁判所や弁護士会も関わることとなる。その際、決定のヒエラル キーが発生しくる。例えば、裁判所が関係する場合、ソーシャルワーカーとしてできる ことは限定される。つまり、入口支援の多機関連携には、裁判所、弁護士会、検察庁、
保護観察所、警察、民間団体を含めたシステムが必要であると考えられる。
次に社会資源の不足の問題がある。検察段階での微罪処分には、保護観察所との連携 施策があり、更生緊急法により、衣食住の支援が受けられるが、身柄拘束がなく起訴さ れた者は 更生緊急保護の対象とならない。この場合、裁判結果は裁判官の言い渡し後 でなければわからないため、執行猶予になるとすぐに社会資源を利用しなければならな い。現状のソーシャルワークでは再犯防止に向けての手段、財源、資源が不足している という課題がある。ホームレスの人は、公園に戻らざるをえなくなり、孤立した高齢者 は元の生活に戻り、なんら生活改善は行われない。その結果は、再犯罪の可能性につな がる。
護観察等の支援がつき、福祉的支援だけでは限界のある高齢者の社会復帰支援である。
たとえ高齢者の罪であっても他人の人権と衝突する場合には、公共の利益が優先され、
一定の刑事司法による制約により、生活が制限される。
⑴ 事例と特徴
他の人に重大な被害を及ぼす犯罪としての性犯罪は、国民が身近に不安を感じる犯 罪として,社会的関心が高い。一般に性犯罪は若者というイメージがあるが、近年、高 齢者が増加している。性犯罪の少年の割合は低下傾向35にある一方,近年の検挙人員に おける高齢者(65歳以上)の強姦,強制わいせつは、20年間(平成7年~平成26年)
で6.3倍に増加している。(平成27年度版犯罪白書)。自身の性的欲求をコントロー ル出来ず、性犯罪を繰り返してしまう性犯罪は再犯率が高いとされ、平成17年よ り、法務省は矯正局と警視庁の連携施策として、性犯罪者の出所時に情報の提供が行な うという取り組みを始めた。「刑事施設の長は,警察庁に対し,13歳未満の者に対する 強制わいせつ目的性略取誘拐及び強盗強姦等に係る受刑者について、釈放予定日のおお むね1か月前に,釈放予定日,入所日,帰予定地等を情報提供する」(実施数は約10年
間(平成17年~28年で1,580人)。社会的保護や被害者保護の観点から上記のような
施策は程度の問題はあるとしても妥当な措置であると考えられる。
⑵ 社会の人びとの認識
野村総研では性犯罪の出所者情報の提供に関連して、社会の人びと意識調査を行った
(野村総研2005:1-21)36。それによると、近年の日本の治安の悪化を懸念している人
が多いことが明らかになった。「この2~3年、我が国の治安が悪化していると感じてい
る人は89.5%いた」。さらに<人びとの性犯罪者の社会的管理についての解釈>として、
「性犯罪前歴者の情報公開は約 9 割が情報を法務省以外にも共有されることに賛成し ている」。その結果、<今後、どんなことが起きると考えられるか>ということの人び との予測として、監視が強化される社会になると感じている。だが、監視社会の評価と しては,「積極的に推進すべきだとする人が32.9%、安全のためには仕方がないという
人が34.2%、監視社会につながらないよう制約を加えるべきだという人が 27.8%」と
別れている。制度を用いた結果として<どんなことが起きると考えられるか>について は、「出所者の社会復帰が阻害されることに38.5%,犯罪者の人権やプライバシーの侵 害についても23.3%の人が懸念している」。このような人びとの意見からは、性犯罪前
35 平成26年は,昭和60年と比べると,強姦が2分の1,強制わいせつが約3分の1になった。
36 「治安に対する意識調査」野村総合研究所広報部 2005年5月13日