第四章 罪を犯した高齢者の社会復帰支援の課題
第三節 四類型の特性と支援のあり方の検討
⑶ 社会復帰における住居の課題 -安住の場所のない高齢者―
社会復帰の課題として住居の問題がある。特に再犯罪の多い満期高齢者にとって重 要なのが住居の支援である。近年制定された「再犯防止推進法」の基本的施策にも住 居の確保支援(第15条)が位置付けられた。同様に、国際連合では、住まいの確保は人 間にとって普遍的なニーズであり、権利でもある、と居住の権利を基本的人権として 認めている29。
現状を確認するために、罪を犯した高齢者の社会復帰における住まいの問題を、ソー シャルワークと法の枠組みから検討すると、資源の状況とどんな解決策がすでにとられ
29 1976年に第1回人間居住会議(ハビタットI)が開かれ、「人間居住に関するバンクーバー宣言」が採択された。
そこでは、適切な住居は基本的人権であり、それを実現することは政府の義務である、と述べている
ているか、それは、有効な支援策となっているのか、実態としての住まいはどのような ものか、がポイントとなろう。
下図は適切な住まいがないことによる社会復帰ができなかったことのデータであ
る。出所時の適当な帰住先の有無と再犯期間は関連しており、出所時の住居確保が課題 であると言える。平成24年に刑事施設に再入所した受刑者のうち、前刑出所時に適当 な帰住先がなかった人の52.5%は1年未満で再犯に及んでいる。
図表4-3 適当な帰住先と再犯に至るまでの期間
政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201406/1.html
矯正施設入所回数が増加するごとに住まいがなくなることが下のグラフでわかる(平 成26年における入所受刑者調べ)。1回目の入所者(14.3%)と5回目の入所者(28.4%) を比べてみると約2倍の開きがある。
図表4-4 入所受刑者の居住状況別の割合
次に、資源の状況を確認する。福祉的観点からの高齢者への住まいの支援で想定され ているのが、高齢者施設である。だが、これは介護保険の認定が必要である。皮肉なこ とに何度も受刑を繰り返している高齢者は刑務所でのカロリー制限のある食事、禁酒、
禁煙、懲役による労働等により、肥満による生活習慣病者はほとんどいない。また、住 所不定により、介護保険者が受刑中は決まらず、出所直後の介護保険施設へ入所は困難 な実態がある。
次に、どんな解決策がすでに取られているのかという点であるが、矯正施設出所者で 帰住先がない人は基本的に更生保護施設に保護観察所が調整する。だが、高齢者の場合、
利用しにくい実態がある。例えば、現在、更生保護制度内にある「更生緊急保護」30で は、目的が就労して自立することであるため、引き受けないことが多い。また、引き受 け不可の理由として、職員不足、支援のノウハウの不足が言われている。例えば、入所 者は目的は就労しており、職員数は少ない。だが、高齢者は日中は施設におり、その間、
通院介助や階段の上り下り、入浴等に配慮が必要になる。また、これまで、就労可能な 年齢の人の支援であったため、高齢者への支援方法がわからないという実情がある。
だが、2009年より、全国に101ある更生保護施設のうち 57施設に社会福祉士を配 置し、各施設が高齢者や障害者を4人ずつ、3カ月程度受け入れるという目標で、社会 福祉士を配置するようになった。社会福祉士の役割は、引受先となる福祉施設との調整 を進める一方で、出所者が社会生活になじめるよう訓練を施す業務が要請されている。
ここでは、更生保護法に位置付けられた福祉的支援ということで、ソーシャルワーカ ーが法をどのように具体化するのかが問われている。高齢者施設、更生保護施設ともに 社会資源として有効に機能していないことが示された。では、実態としての住まいはど のようなものか。
出所直後に高齢犯罪者のための住まいとして想定されている高齢者用福祉施設や更 生保護施設に直接入所できる人は少ないという現状から、実態として、罪を犯した高齢 者はどこに住まいを構えるのであろうか。
窃盗をした高齢者の場合、約半数がホームレスと住居不定者であり、約8割が単身者 である。さらに、犯罪性が進むにつれ、 住居不安定な人(簡易宿泊所,ホームレス,
住居不定)が増加する。(平成20年版 犯罪白書)つまり、その現状は、貧困者用の 住まいに一時的に住まわなければならない実態がある。例えば、住宅保障ミニマムが保
30 更生保護法、85条1項に位置付けられており、刑務所から釈放された人や保護観察無しの執行猶予付き判決を受け た人等に対し、緊急に、帰住のあっせん、金品の供与・貸与、医療や就職の援助、社会生活の訓練等を行う。更生 緊急保護の対象となるのは、①刑事上の手続または保護処分による身体の拘束を解かれた人、②親族からの援助 や、公共の衛生福祉に関する機関等の保護を受けられない、または、それらのみでは改善更生できないと認められ た人、③更生緊急保護を受けたい旨を申し出た人である。保護の期間は原則6か月以内である。
障されているとはいえない更生保護施設、自立準備ホーム、生活自立支援施設、 無料 低額宿泊所、簡易宿泊所、ホームレス緊急一時宿泊事業(シェルター)等である。そこ での住環境は高齢者の生活には馴染まず、階段があったり、段ベットだったりする。
また、高齢犯罪者の多くは集団生活に苦手意識を持ち、個室を希望する。だが、上記
のような施設の多くは、現物給付であり、共同居室の集団生活である。プライベートな 空間は少なく、飲酒は禁止である。このような住環境に不満•不安•孤独感を感じる人は 少なくなく、ストレスから失踪したり、再度、罪を犯す人もいる。
岩田(2016:411)は、住問題について、セーフティネットとしてのミニマムの必要性
を「ヒトとハコの限界によって、ミニマムは柔軟に運用されていく可能性が高い。」「と どめのない規制緩和で、どのようなハコ、ヒトでも可とするような選択が迫られてしま う可能性が高い。いわゆる『ブラック』な宿泊所や施設が隙間産業として入り込んでく る」と警告を示す。 このブラックビジネスといわれる無料低額宿泊所の中には、「健 康で文化的な生活」とはほど遠い住まいがある。例えば、元社員寮等を借り上げ、個室 をさらに板塀で区切り、一人2畳くらいのスペースに居住者を住まわせる。食事代、光 熱費代として、生活保護の最低生活費上限一杯までの費用を徴収する。入浴は週二回ほ どに制限され、トイレも共同である。タバコ代も残らない状況である。罪を犯した人の 中にはここに居住する人は少なくない。理由は,誰でもいつでも入れるからである。一 般に必要とされている入居時の煩雑な手続きはいらず、年齢、職業、過去、家族、保証 人、手付金等が一切不要である。生活困窮を抱えている高齢者犯罪者への生活保護費目 当てのこのような搾取は、高齢犯罪者の被害を生み出している。このような環境では、
長期間の生活は困難であり、すぐに飛び出し、金に困り、再犯をする。これは、社会復 帰支援の目的である「再犯防止」とも矛盾する。住宅問題を解決しなくて、再犯防止は 成り立たない。政策のなんらかの規制が必要である。
生活困窮者への国の住まいの政策としては、2006年施行された「住生活基本法」が
ある。国民生活の安定向上と社会福祉の増進を図ることが目的に明記され、 その第 6 条には「居住の安定の確保」として「住生活の安定の確保及び向上促進に関する施策の 推進は、住宅が国民の健康で文化的な生活にとって不可欠な基盤であることにかんが
ットに関する現状と論点」が示されており、その対象者として「住宅に困窮する低所得 者」が含まれている。具体的には、低額所得者•ハンセン病療養所入所者•ホームレス•
犯罪被害者等19種の対象者が具体的に列記されている。だが、刑務所出所者は書かれ ていない。
再犯罪につながりやすい出所直後の緊急的な対応として、基本的認識において「国と
地方公共団体の役割分担」がある。そこでは、「低額所得者等住宅に困窮する者への最 低限の生活水準の確保等については国が責任をもって行うべきである」としている。ま た、福祉との連携として「生活の質の確保・向上を図るには、地域における福祉との連 携が不可欠」との認識を示し、新たな住宅困窮者に対する公営住宅の活用として、自立 までの緊急的なステップとして弾力的な入居を検討している、とある。上記に述べたよ うに出所後の「緊急的なステップ」は最も必要とされている部分である。
結論として、罪を犯した高齢者への住居の社会資源については課題が多く、再犯罪と の関わりが大きいことが示された。社会関係や家族関係が受刑中に断たれ、身寄りがな くなった高齢者は、住居がなければホームレスや再犯者になってしまう。
現在とられている支援策は公的資源が少なく民間頼りになっている状況がある。特に、
ブラックビジネスとも言われている無料低額宿泊所が大都市では、社会資源として利用 されている状況からは、今後、何らかの適切な支援策が求められている。その際、問題 となるのが、必要悪という考え方である。無料低額宿泊所は、本人の保護と社会の保護 の両立に寄与しているという実情をどうとらえるのかということである。それは、法的 不整備を埋めるためにどのようなソーシャルワークがとられるべきか、ということが問 われている。