第 3 章 直接駆動方式実験機の開発
3.8 測定精度向上の検討
3.8.3 測定データのフィルタ処理
測定データのフィルタ処理には,通常,移動平均を使用しているが,産業技 術総合研究所よりガウシアン(Gaussian)フィルタの優位性を示された.現在,ISO でもガウシアンフィルタが提唱されており,より測定結果のばらつきを小さく するためにフィルタ処理の影響について比較・検証を行った.
ガウシアンフィルタとは,輪郭曲線を求めるためのフィルタで重み関数がカ ットオフ値で50%の振幅伝達率となる正規(ガウス)分布の位相補償フィルタ であり,比較的鋭い遮断特性を持つ.重み関数の中央からの位置を χ,輪郭曲 線フィルタのカットオフ値をλcoとすると,その重み関数は式(3.46)による.
( )
2
1 − ⎜⎜⎝⎛ ⋅ ⎟⎟⎠⎞
= ⋅ CO
x
CO
e x
s π αλ
λ
α (3.46)
4697 . 2 0 ln =
= π
α (3.47)
振幅伝達率は重み関数のフーリエ変換によって与えられるので,平均線のた めのフィルタ(ローパスフィルタ)の特性は式(3.48)による.ここで,a0はフィ ルタを適用する前の入力信号の振幅,a1 は平均線となる出力信号の振幅,λ は 入力信号の波長である.
2
0
1 ⎟
⎠
⎜ ⎞
⎝
− ⎛ ⋅
= λ
λ π α CO
a e
a (3.48)
未処理の歯形測定データ(Raw)と共にガウシアン(Gaussian)フィルタと移動平 均(SMA)で処理した結果を Figure 3.73に示す.同時にガウシアンフィルタと移 動平均の差(Gauss-SMA)も示した.同様に,未処理の歯すじ測定データ(Raw)と 共にガウシアン(Gaussian)フィルタと移動平均(SMA)で処理した結果および2つ のフィルタの差(Gauss-SMA)をFigure 3.74に示す.これらの結果より2つのフ ィルタの特性に僅かな差が認められるが,評価への影響は小さい.よって,現 時点ではこれまで同様に移動平均によるフィルタ処理を採用し,将来,優位性 をより明確にした上でガウシアンフィルタを採用する.
-4 -2 0 2 4 6
0 5 10 15 20 25 30 35 40
Roll length [mm]
Profile deviation [μm]
-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
Difference [μm]
Raw SM A Gaussian Gauss-SM A
Figure 3.73 Filtering of profile deviation
-4 -2 0 2 4 6
0 10 20 30 40 50 60 70
Length [mm]
Helix deviation [μm]
-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
Difference [μm]
Raw SM A Gaussian Gauss-SM A
Figure 3.74 Filtering of helix deviation
3.9 まとめ
試作機における測定の繰り返しばらつきを改善するために,直接駆動(DD)方 式の実験機を開発して以下の結論を得た.
(1)DD 方式の回転軸と直動軸の制御方法において,歯車測定機の従来方式
と同じパルス入力による位置指令制御系でも試作機より高精度な制御が できるが,トルク指令制御の方がより高精度に制御できた.
(2)回転軸の制御則には,PID+FF制御を採用し,更に制御ループ内でのエイ リアシングを回避するためアンチエイリアシングフィルタを付加するこ とで高い駆動精度が得られた.
(3)直動軸の制御則には,PID+FF制御を採用し,更に磁極検知の誤差が原因
と考えられる周期的な変動に対して,リニアエンコーダの取り付け位置変 更や制御ループ内にオブザーバを付加する事で高い駆動精度が得られた.
(4)回転軸と直動軸の二軸同期制御方式については,回転軸に直動軸を追従 させる方式よりも,各軸が独立の指令値に追従する方式の有効性を示した.
(5)実験機での歯形測定の結果,速い測定速度においても試作機よりも測定 誤差が低減している事を確認した.また,実験機での高速測定において,
試作機の評価結果より高い繰り返し性を確認した.
(6) 測定誤差をより小さくするために,レーザ測長機の環境補正係数を自動 的に取得するシステムを開発し,測定前にその係数を決定すれば効果的で あることを示した.
(7) 単純形状基準器等の測定子の変位が大きな測定の場合に測定子のたわみ が誤差になる可能性を示し,トルク指令制御を改良した「測定力一定制御」
を提案して検証した.さらに検証の必要性はあるが,その有効性は示せた.
以上より,試作機の問題点に対して実験機で採用したDD方式の機構の有効 性を示せた.また,実験機では精度は高いが剛性の低いエアスライドおよびエ アベアリングを採用したが,システム同定結果に基づいて制御方式を改良する ことによって安定した制御および高い測定精度を達成した.さらに剛性の高い エアスライド等を採用すれば,駆動精度および測定精度の向上が見込め,歯車 測定機の従来の制御方式での安定した制御も可能になると思われる.
そこで,これらの結果に加えて,偏心による誤差の対策や検出器の改良およ び空間誤差の補正等を適用して歯車校正システムに組み込める高精度歯車測定