第 2 章 既存の高精度歯車測定機の評価
2.5 実験による検証
2.5.2 取り付け位相の影響に関する実験
試作機における歯形測定において,これまでの実験結果から被測定歯車の取 り付け位相の影響による歯形誤差曲線の変化も問題となった.その原因として は,被測定歯車のインボリュート曲線原点と回転軸中心の偏心による測定誤差,
組み立て時に生じる回転軸中心とロータリエンコーダ中心の偏心による測定誤 差,ロータリエンコーダの目盛り板自体が持つ角度誤差が考えられる.
そこで,歯形測定時に,取り付けた被測定歯車の偏心を測定し,偏心を考慮 したモデルで歯形誤差を算出することで,被測定歯車のインボリュート曲線原 点と回転軸中心の偏心による測定誤差を低減できると考えた.その検証実験と して,測定機に対する被測定歯車の取り付け位相を約45[°]ずつ変化させ,偏心 を測定してから歯形誤差測定を行った.Figure 2.38は測定の概略図である.
ε Measuring height
2nd measuring height of eccentricity 1st measuring height of eccentricity
Upper center
Lower center Artifact
Coupling
Figure 2.38 Measurment method of eccentricity of artifact
そして,測定は次の手順で行った.
(1) 被測定歯車を設置する.
(2) 設置の後,被測定歯車の軸に測定子を当て偏心の測定を行う.
(3) アキシャル方向の高さを変えて2)と同様に偏心の測定を行う.
(4) 歯形測定を行う.
(5) 被測定歯車の取り付け位相を相対的に 45[°]回転させて設置する.
(6) 以後(2)から(6)を繰り返す.
筒型カップリングは,上部のねじが3本で被測定歯車を固定しているのに対 して下部のねじは1本で下部センターに固定されているため,取り付け位相を 変える際にはカップリング下部のねじを緩めて回転させる.
偏心測定は測定子を軸に当てた状態で主軸を回転させ,タンジェント方向の 変位を測定する.偏心量と偏心方向を算出するのに,測定データをフーリエ変 換し,その1次成分のみを偏心として扱う.軸上の偏心を上下2ヵ所で出し,
その結果から測定位置での偏心量を算出する.アキシャル方向の測定位置は測 定機の機構上の問題から,測定歯面の上側の2点を偏心測定位置とする.
歯形測定は測定速度v=0.2[μm],サンプリング周期T=0.5[ms]で行う.測定デ ータは81点平均を取り,高周波成分を除去して評価する.また,偏心成分を考 慮した歯形誤差を算出し,結果を比較する.
Figure 2.39は,偏心測定の結果をまとめた図である.図の右上のデータが0[°]
の結果であり,以下,時計回りに45[°],90[°],・・・,315[°]と続く.一番外側の データは測定位置がアキシャル位置130[mm]付近における測定結果,以下,内 側に測定位置がアキシャル位置 103[mm]付近における測定結果,2 つの結果か ら算出した歯形測定位置(アキシャル位置43[mm])となっている.
この結果を見ると,すべての偏心測定個所において偏心が 1[μm]以下であっ たことが分かる.また,どの取り付け位相においてもアキシャル位置が高い方 が偏心量は大きい.このことから,下部センターの振れが非常に小さいこと,
取り付けの偏心による影響は少ないことなどが推測できる.
上下2箇所から算出した測定位置での偏心量については,測定個所2つの様 子とは大きく変わってしまった.これは,測定点数が少なかったことや2箇所 の測定間隔が短い上,歯形測定位置を挟まず外挿になったためと考えられる.
今後偏心測定を行う際には,測定回数(点数)を増やす,測定位置を増やす,
測定箇所は歯形測定位置を挟んで長くするなどの改善を行う必要がある.
-1 -0.5 0 0.5 1
-1 -0.5 0 0.5 1
Tangent [μm]
Radial [μm]
Axial: about 130[mm]
Axial: about 103[mm]
Axial: about calculated at 43[mm]
Figure 2.39 Measurement result of eccentricity by setting artifact
Figure 2.40 は,偏心を考慮した場合の歯形測定結果である.上から 0[°],
45[°],・・・,315[°]の測定結果を歯形評価範囲で区切ったものである.なお,取 り付け位相ごとに0.5[μm]ずらして並べている.これを見ると,それぞれの取り 付け位相において特徴的なピークの位置などが同じように測定できていること がわかる.しかし,歯形誤差曲線の傾きが大きく変化していることがわかる.
Figure 2.41は,各取り付け位相における全歯形誤差と歯形こう配誤差であり,
偏心を考慮した場合と考慮していない場合についてそれぞれ示す.この結果よ り,偏心を考慮した場合と考慮していない場合との差異は少ないことが分かる.
これは,偏心量そのものが小さいからであると思われる.よってこの結果から,
取り付けの偏心による影響はその他の測定誤差要因に比べて小さいと言える.
また,測定結果から取り付け位相1周を1周期とするような振幅0.5[μm]の成分 が見られる.取り付けの偏心を考慮した場合でも改善がなかったことを考える と,この誤差の原因としては,回転軸中心とロータリエンコーダ中心との偏心 やロータリエンコーダの角度誤差などが有力であると考えられる.
以上の実験より,取り付け位相の影響による歯形誤差曲線の変化について,
被測定歯車の取り付けの偏心による影響は少なく,測定機の回転軸中心とロー タリエンコーダ中心の偏心の影響が大きいと推測できた.
0 5 10 15 20 25 30 Roll length [mm]
Profile deviation [2μm/div]
0[°]
45[°]
90[°]
135[°]
180[°]
225[°]
270[°]
315[°]
Figure 2.40 Profile deviations simulated eccentricity by setting artifact
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
0 45 90 135 180 225 270 315 360
Setting phase [°]
Deviation [μm]
Total profile deviation
Total profile deviation with compensation Profile slope deviation
Profile slope deviation with compensation
Figure 2.41 Comparison of influence of eccentricity by setting artifact
2.6 まとめ
試作機の測定精度評価を行う過程において明らかになった測定速度や被測定 歯車の取り付け位相等が歯形誤差曲線に及ぼす影響について,誤差モデルや試 作機の構成から検討し,さらに試作機で検証して以下の結論を得た.
(1) 高速データ読み取り装置を構築して解析した結果,測定データに約1[μm]
振幅の高次成分が含まれており,測定速度が結果に影響を及ぼしている原 因はその高次成分によって現れるエイリアシングであることが分かった.
(2) 高速データ読み取り装置にて高速サンプリングと移動平均フィルタを検 討し,エイリアシングの影響が低減して測定の繰り返しばらつきが小さく なることが分かった.
(3) 測定データをフーリエ解析した結果,高次成分は試作機の機構に起因し ていることが分かり,機構を改善する必要性を示した.
(4) 誤差モデルによる歯形測定における誤差要因の検討および取り付け位相 を変更した実験検証から被測定歯車の取り付け位相によって測定結果が 変化する原因としては,測定機の回転軸中心とロータリエンコーダ中心の 偏心が最も大きいことが推測できた.
以上より,主軸の回転駆動系や測定子の直線駆動系の構成要素のわずかな誤 差が測定値の高次成分として結果に影響しており,動作速度を維持したまま高 次成分を除去するためには,根本的に機構を改善する必要があることを示せた.
一方,ロータリエンコーダについては,その校正表から±0.85[″]の角度誤差が 存在することも判っている.これは基礎円直径が100[mm]の歯車を測定する場 合の歯形こう配誤差に換算すると±0.4[μm]の測定誤差となる.そこで,更なる 高精度化の方策としては,高精度ロータリエンコーダを用いた比較校正[48-51]
や自己校正型ロータリエンコーダ[52]の採用がある.前者は回転軸と同軸上に 高精度ロータリエンコーダを設置し,その高精度ロータリエンコーダに対する 測定機のロータリエンコーダの角度誤差を測定するものである.後者は,回転 軸のロータリエンコーダの目盛り板に複数個のセンサヘッドを等間隔に配置し,
等分割平均法[48,49]による高精度な角度誤差測定を可能にするものである.い ずれも求めた角度誤差を用いて測定機のロータリエンコーダの角度を校正して 偏心の影響を低減できる.
そこで,まずは駆動機構に起因する誤差を改善するために,回転駆動系と直 線駆動系の新機構を提案し,開発することにした.