第 3 章 直接駆動方式実験機の開発
3.6 二軸駆動性能の検証
回転軸への指令値 θrefに対する実際の回転角 θ との回転角偏差 erotが式(3.39) で定義され,指令値 θref と回転角偏差 erot の和をインボリュート歯形の理論式
(1.1)で換算した直動軸の移動指令 y'refに,実際の直動軸の移動量 y が追従する
精度を二軸同期誤差 esync として式(3.40)で定義する.実験は各軸の検証と同様 に,3.2節で示したMediumの測定条件に基づき,歯面測定を想定して各軸を制 御して行い,回転角θは回転軸のロータリエンコーダ,移動量yは直動軸のリ ニアエンコーダを用いて計測し,二軸同期誤差esyncを算出した.
実験結果として,回転軸の変位量に追従した直動軸の同期誤差をFigure 3.51 に 示 す . そ の 結 果 , 同 期 誤 差 は 全 測 定 領 域 で 1.22[μm](P-P), 等 速 領 域 で
0.38[μm](P-P)となった.これらの結果を直動軸単体での位置偏差と比較すると,
同期誤差は全測定領域で約0.9[μm],等速領域で約0.12[μm]悪化した.これは,
追従目標である回転軸に等速領域で変動があるために,直動軸自身もその影響 を受けたことが原因と考えられる.また,回転軸が回転開始時に持つオーバー シュートにも追従しようとして,直動軸は加速領域で変動が大きくなり全測定 領域の同期誤差が大きくなったと考えられる.
回転軸はその制御ループ内にローパスフィルタ(LPF)を持つため,この LPF を通過した後の値を直動軸の指令値に付加して同期させることもできる.しか し,LPF を通過した後の回転軸の偏差 eaveは直動軸の最小分解能以下の値とな るため,直動軸は本来の指令値に追従するのと同じである.回転開始時にはeave
は最小分解能以上となるが,その回転軸のオーバーシュートによって直動軸が 振動的となるのは望ましくない.
-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5
0 1 2 3 4 5 6
Time [s]
Deviation [μm]
Figure 3.51 Synchronous deviation of follow-up control
0.38[μm](P-P)
3.6.2 軸毎の制御による検証
各駆動系の制御方法検討時と同様に,回転軸および直動軸それぞれに歯形測 定を想定した指令を与えて駆動させる方法で二軸駆動性能を検証する.Figure 3.52は,軸毎の制御のブロック線図である.
y yref
s y& 1 ms
ms2+λ
Observer
ref
θ
θ LPF PID
s
θ &
1 s2J⋅
PID 2
db
esync
erot
elin
eave
2 db
Figure 3.52 Block diagram for synchronous control
2 θ
sync b
y d
e = − (3.41)
回転軸への指令値θrefとその値にdb/2を乗じた直動軸への指令値yrefがそれぞ れ与えられて駆動し,実際の回転角θと実際の直動軸の移動量yとの二軸同期 誤差 esync を式(3.41)で定義する.実験は各軸の検証と同様に,3.2 節で示した
Medium の測定条件に基づき,歯面測定を想定して各軸を制御して行い,回転
角θは回転軸のロータリエンコーダ,移動量yは直動軸のリニアエンコーダを 用いて計測し,二軸同期誤差esyncを算出した.
実験結果として,回転軸の回転角と直動軸の移動量から算出した直動軸の同
期誤差をFigure 3.53に示す.その結果,同期誤差は全測定領域で2.05[μm](P-P),
等速領域で0.34[μm](P-P)となった.これらの結果を直動軸単体での位置偏差と 比較すると,同期誤差は全測定領域で約1.7[μm],等速領域で約0.08[μm]悪化し た.これは直動軸の駆動精度が悪化したのではなく,回転軸単独の位置偏差が
-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5
0 1 2 3 4 5 6
Time [s]
Deviation [μm]
Figure 3.53 Synchronous deviation of independent control
この結果を回転軸への追従による検証結果と比較すると,同期誤差は全測定
領域で約0.8[μm]悪化したが,等速領域では約0.04[μm]ながら僅かに向上した.
これは,直動軸への指令が回転軸の変動の影響を受けないために等速領域にお いては安定し,加速時のオーバーシュートについては,直動軸が追従しないた めに回転軸単独の精度と同等となり,回転軸への追従による検証結果より大き くなったと言える.
しかし,先にも述べた通り,変動する回転軸に追従して直動軸が振動的にな るのは測定機の性質上望ましくなく,測定において重視すべきは加速領域より も等速領域である.よって実験機の制御においては,回転軸に直度軸を追従さ せる制御方法ではなく,回転軸および直動軸それぞれの指令値に追従し,お互 いの駆動に影響を及ぼさない制御方法を採用することとした.
0.34[μm](P-P)