第 3 章 直接駆動方式実験機の開発
3.4 回転軸の制御
3.4.3 制御系の改良
回転軸は,被測定歯車を搭載した回転軸を精度良く位置決めし,歯形測定時 に安定回転させる必要がある.そのため,DD モータの制御方式として,従来 の歯車測定機と同じパルス入力位置指令制御方式では指令分解能の限界から高 精度な制御のための調整が難しいために,トルク指令を基本とするソフトウェ アサーボによる位置PID制御を採用することにした.その制御則を用いて計測 した指令値に対する回転角の偏差をフーリエ変換したところ,Figure 3.27のよ うにロータリエンコーダの目盛り本数に起因する波数100[/°]とその第二高調波
200[/°]が確認された.これらの振幅は0.043[″]以上であり,実験機のロータリエ
ンコーダの分解能と同等以上なので,回転を安定させるためには,これらの成 分の影響を受けないようにサンプリング定理を満たした計測を行い,その変動 成分を除去するアンチエイリアシングフィルタを設置する必要があると考えた.
そして,想定最高速度で回転させるときの第二高調波の2倍以上の周期でサン プリングする仕様に制御プログラムを変更すると共に,ローパスフィルタ(LPF) を制御系内に付加することにした.具体的には,回転軸のサンプリング周期を
0.2[ms],制御周期を1.0[ms]とし,アンチエイリアシングフィルタとしては,実
装が比較的容易で負荷が少ない単純移動平均を採用した.
0 0.05 0.1 0.15 0.2
0 50 100 150 200 250 300 350 400
Spatial frequency [/°]
Amplitude ["]
Figure 3.27 FFT analysis on the deviation of rotary axis
s 1
θ θ
&Figure 3.28 Block diagram of the rotary axis
Figure 3.28 は,改良した回転軸の制御則である.まず,指令値 θrefに対する
実際の回転角θとの回転角偏差enが式(3.20)で定義され,DDモータへの出力ト ルク τnは式(3.21)となる.ここで,Kpは比例ゲイン,Kdは微分ゲイン,Kiは積 分ゲイン,Tsは制御周期を表す.また,応答性を改善するために式(3.22)のよう な慣性項のみの FF トルク τffを付加した.ここで,J は回転軸の慣性モーメン トを表す.
( ) ( )
n nen =θref −θ (3.20)
( ) ( )
s ffn
i
i i i s
n n d n p
n K e e T
T e K e
e
K τ
τ − + + +
+
=
∑
= −
−
1
1 1
2 (3.21)
ref
ff Jθ
τ = && (3.22)
この回転軸の応答性の検証は,これまでと同じ条件で行い,その結果,Figure 3.29のように等速領域の位置偏差は 0.12[μm](P-P)(角度換算で 0.5[″](P-P))で 試作機に比べて1/10以下となった.縦軸は,理論式(1.1)に基づいて歯形の作用 線方向長さに換算して表している.位置偏差においては,まだ回転開始時に約
1.3[μm] (角度換算で 5.35[″])のオーバーシュートが残っている.これは,ロ
ータリエンコーダのシール抵抗が原因と考えられる静止摩擦によって発生して いると思われる.ただし,このオーバーシュートは加速の初期に発生しており 評価範囲(等速領域)の位置偏差には影響が無いので,以降,この回転軸の制
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 1 2 3 4 5 6
Time [s]
Deviation [μm]
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
Reference velocity [rad/s]
Reference velocity
Position deviation
Figure 3.29 Response characteristic of rotary axis Table 3.25 Parameters for servo control
Resolution of encoder ["] 0.045
Rated current [A] 4
Current limit [A] 4
Position constant TP 1
Velocity constant TV 1
Acceleration gain KA 1
Proportional gain Kp [Nm/arcsec] 0.029
Integral gain Ki [Nm/arcsec/s] 0.006
Derivative gain Kd [Nm・s/arcsec] 0.131
Feedback cycle [ms] 1
Sampling time [ms] 0.2