第 3 章 直接駆動方式実験機の開発
3.5 直動軸の制御
3.5.3 制御系の改良
これまでの直動軸の検証は単独で行ってきた.実際の測定の場合,直動軸(=
タンジェント軸)には被測定歯車を測定する検出器を搭載して高精度に位置決 めすると共に,歯形測定時に変動が少なく直線運動させる必要がある.そこで,
検出器を搭載し,配線・配管の取り回しを行った状態で,応答性の検証を行っ た.実験条件として,測定速度は 10[mm/s],移動距離はほぼ全域の正方向に 180[mm],負方向に160[mm]とした.
まずは PID+FF 制御則でその駆動性能を検証したところ,制御ゲインを上げ
ると振動が大きくなるために思ったように制御ゲインを上げられず,Figure
3.44(a)のように,位置偏差に60[mm]周期で正弦波状の変動が有る事が分かった.
このような周期的な外乱としてはコギングが考えられるが,原理的にコギング が発生しないリニアモータを採用し,可動部に磁性体を配置していないことか らコギングでは無いと判断した.次の原因として,磁極検知の誤差が考えられ た.変動周期の60[mm]はモータ固定子の磁石間隔と一致する.Figure 3.45は,
リニアモータの概略図である.Figure 3.46(a)のようにリニアモータとリニアエ ンコーダがエアスライドを挟んで反対側に配置されると,エアスライドのガイ ドとスライダの隙間が大きく剛性が低い場合には,スライダの慣性によってヨ ーイング(Yawing)が発生し,リニアエンコーダでの位置検出が実際の動作方向 と逆になってリニアモータの磁極検知に影響し,位置偏差に変動が現れている と考えた.
そこで,Figure 3.46(b)のようにリニアエンコーダをリニアモータの近くに配
置し直すと制御ゲインを大きくしても発振しなくなり,駆動時の位置偏差は
Figure 3.44(b)のように小さくなった.しかし,まだ60[mm]周期の変動が若干残
っており,この変動は制御周期に対して十分長い周期(低周波数)であるため,
制御則において外乱オブザーバを適用して変動を抑えることができると考えた.
そして,直動軸の制御には,Figure 3.47 のようなPID制御に外乱オブザーバと FF 推力を付加した制御則を用いた.まず,指令値 yrefに対する実際の移動量 y との位置偏差 enが式(3.35)で定義され,リニアモータへの出力(推力)Fnは式
(3.36)となる.ここで,Kpは比例ゲイン,Kdは微分ゲイン,Kiは積分ゲイン,
Tsは制御周期を表す.式(3.37)は,外乱オブザーバ出力Fˆobsである.ここで,tobs
はオブザーバの時定数を表す.また,式(3.38)は,応答性を改善するために付加 した FF推力 Fffである.ここで,m は可動部の質量,λ は配線・配管の抵抗係 数を表す.
-4 -3 -2 -1 0 1 2
-100 -50 0 50 100
Position [mm]
Deviation [μm]
-2 -1 0 1 2 3 4
Backward Forward
(a) Initial state
-4 -3 -2 -1 0 1 2
-100 -50 0 50 100
Position [mm]
Deviation [μm]
-2 -1 0 1 2 3 4 Forward
Backward
(b) After changing the mounting position of the linear encoder
-4 -3 -2 -1 0 1 2
-100 -50 0 50 100
Position [mm]
Deviation [μm]
-2 -1 0 1 2 3 4 Forward
Backward
(c) After applying a disturbance observer
Figure 3.44 Performance improvement of the linear axis
S S S S
S N N N N
60mm リニアモータ軸
リニアモータ可動部 コイル
Figure 3.45 Schematic drawing of linear motor
Linear encoder
Linear encoder
(a) Initial position (b) Verified position Figure 3.46 Location of the linear encoder
s 1
tobs
s⋅
+ 1
1
y& y
Figure 3.47 Block diagram of the linear axis
Mover of linear motor (coil)
Shaft of linear motor
( ) ( )
n y n yen = ref − (3.35)
( )
n( )
obs ffi
s i i i
s n d n
n p
n K e e T F F
T e K e
e K
F = + − +
∑
+ + += −
− )
1 1 1
2 (3.36)
( )(
F my my)
F st n
obs
obs && &
) − −λ
= + 1
1 (3.37)
ref ref
ff my my
F = && +λ & (3.38)
この制御則を用いて直動軸の駆動性能を検証したところ,Figure 3.44(c)のよ
うに60[mm]周期の変動が小さくなり高精度に制御できるようになった.この状
態で制御ゲインのチューニングを行い,再度駆動性能の検証を実施した.この ときの駆動速度は,回転軸と同様に測定効率向上を狙って 10.0[mm/s]とした.
その結果,Figure 3.48のように位置偏差は全測定領域で0.30[μm](P-P),等速領
域で0.26[μm](P-P)となり,等速領域の位置偏差は試作機と比べて約1/10となっ
た.更に,その等速領域の位置偏差をフーリエ変換し,0.005[μm-1]付近のピー クが確認された(Figure 3.49).しかし,その大きさは微少であるため,その影 響については歯形測定にて検証する.Table 3.30に最終の制御条件を示す.
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 1 2 3 4 5 6
Time [s]
Deviation [μm]
0 2 4 6 8 10 12
Reference velocity [mm/s]
Reference velocity
Position deviation
0 0.005 0.01 0.015 0.02
0 0.05 0.1 0.15 0.2
Spatial frequency [μm-1]
Amplitude [μm]
Figure 3.49 Fourier analysis of the deviation of linear axis Table 3.30 Parameters for servo control
Resolution of encoder [μm] 0.01
Rated current [A] 0.5
Current limit [A] 1.25
Position constant TP 30
Velocity constant TV 10
Acceleration gain KA 50
Acceleration filter [Hz] 31
Proportional gain Kp [N/μm] 0.24
Integral gain Ki [N/μm/s] 0.006
Derivative gain Kd [N・s/μm] 0.88
Time constant of observer tobs [ms] 500
Feedback cycle [ms] 1
Sampling time [ms] 1
以上まとめると,直動軸の機構には回転軸のような摩擦要因は無いため大き なオーバーシュートは発生しないが,エアスライドの剛性不足が要因と思われ る磁極検知の誤差によって60[mm]周期の変動が発生した.しかし,外乱オブザ ーバを付加した制御則によってその変動を抑制できたので,Figure 3.47 に示し た直動軸の制御則は有効であると言える.
0.005[μm-1] (λ=200[μm])