第 2 章 Hi-Fi 触覚ディスプレイ
2.8 波形の再現性
2.6で製作した装置の体験時,体験者の操作や圧力提示に伴う手掌部自体の変形が度々観 察された.手掌部が変形した場合,必然的に密閉空間における体積の変化が生じるため,
再現性の高い触覚提示を行うためには体積変化を考慮する必要がある.そこで,密閉空間 内の空気圧を監視し,密閉空間内の体積変化によらず適切な圧力となるようにフィードバ ック制御を行うことを試みた.
2.8.1 金属板で覆った場合
空気圧によるフィードバック制御を試行するにあたり,まず金属板でスピーカを覆った 場合における制御有無の比較実験を行った.実験装置は 2.5.1 にて使用した図22 と同じも のである.また,制御には PID 方式を用い,各パラメータのゲインは経験的に求めた.ま た,更新周波数は2kHzとした.提示した周波数は1~10Hzまで1Hz刻み,10~100Hzまで
10Hz 刻み,100~200Hzまで100Hz刻みとした.制御無しの場合の振幅は1kPaとし,1Hz
時の振幅を目標値の振幅と合わせた状態で測定を行った.
実験により測定された出力波形の位相線図とゲイン線図を図29 ,図30 に,制御有無の 場合それぞれの代表波形を図29 ,図30 にそれぞれ示す.
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図29 目標値と測定値の位相線図
図30 目標値と測定値のゲイン線図
-120 -80 -40 0 40 80
1 10 100 1000
Frequency[Hz]
Ph ase lag[d eg ree]
feedback non-feedback
-0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5
1 10 100 1000
Frequency[Hz]
Magnitud e[dB]
feedback
non-feedback
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図31 1Hz正弦波における測定結果(制御無し)
図32 1Hz正弦波における測定結果(制御有り)
結果より,制御無しの場合は低周波領域において位相ずれが大きく(最大位相ずれ
=112.9°),高周波になるほど位相が目標値に近づいた.振幅は,1Hz 時の振幅と大きく異
なったが2Hz以降は比較的安定した振幅を保った.なお,本実験における振幅の結果は2.5.3 の実験結果と若干異なるように見えるが(2.5.3 の実験結果は 1Hz 時から安定していた),本 実験ではアンプ増幅後の値を揃えたのではなく指令値を一定にしたため,1Hz時の振幅の違 いはアンプの特性によるものであると考えられる.以上から,制御無しの場合はスピーカ やアンプの特性が大きく影響し,特に低周波領域における位相や振幅のずれが問題となる ことが分かった.
一方制御有りの場合,位相ずれは大幅に減尐し出力振幅も目標振幅に対して非常に近い 値で安定した.特に低周波における安定性は制御無し場合を大きく上回った.しかし,周
-0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8
0 0.5 1 1.5 2 2.5
Time[s]
Pressure[kP a]
Measured Destination
-0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8
0 0.5 1 1.5 2 2.5
Time[s]
Pre ssure [kPa]
Measured
Destination
35
波数が高くなるにつれて不安定になり,特に位相ずれが顕著に見られるようになった.こ の原因として,制御の更新周波数とセンサ性能の問題が挙げられる.制御有りの場合の測 定結果を見てみると,目標値に対する時間遅れは周波数によらず1ms前後であった.今回,
制御の更新周波数は2kHzであることから,時間遅れの値はこの更新周波数に起因するもの と思われる.よって,更新周波数を高めることで高周波特性が改善されると考えられる.
制御有りの場合では更に,高周波と低周波が交互に出力される波形(人間の鼓動を模した もの)を用いた実験も行った.その結果,この場合においても安定して目標波形に追随して いることを確認した(図33 ).
図33 鼓動運動の波形を用いた測定結果(制御有り)
2.8.2 手掌部で覆った場合
次に,実際に手掌部を用いた場合における制御有無の比較実験を行った.実験装置には,
2.7.2 で述べたアタッチメント(開口径=40mm)に空気圧センサを取り付けたものを使用した
(図34 ).制御方式,更新周波数は前回と同様である.
図34 実験装置
-0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
Time[s]
Pressure[kP a]
Measured
Destination
36
正弦波による実験の結果,2.8.1 の結果と同様制御有りの場合は制御無しの場合と比較し て位相ずれが小さく,振幅も目標波形に非常に近い値を示した.
更に,密閉空間体積を大きく変化させた時の測定値の挙動についても比較した.測定時,
約1秒間隔で手の甲を押し込む動作を行った.また,図33 と同様の波形を使用した.結果 を以下に示す.
図35 鼓動運動の波形を用いた測定結果(制御無し)
図36 鼓動運動の波形を用いた測定結果(制御有り)
図 35 ,図 36 より,制御無しの場合は手が押されるたびに圧力値が大きく変動したが,
制御有りの場合は手を押しても影響はほとんど見られなかった.ただし,高周波成分に関 しては制御有りの場合でも若干目標値からずれる個所が存在した.低周波成分については
-0.3 -0.1 0.1 0.3 0.5 0.7 0.9 1.1
0 1 2 3 4 5
Time[s]
Pressure[kP a]
Measured Destination
-0.3 -0.1 0.1 0.3 0.5 0.7 0.9 1.1
0 1 2 Time[s] 3 4 5
Pressure[kP a]
Measured
Destination
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目標値を保っていたことから,これも2.8.1と同様に制御の更新周波数を上げることで解決 できるものと考えられる.
以上から,通常密閉状態における空気圧によるフィードバック制御を試行し,制御有り の方が安定して目標圧力を提示可能であることを示した.また,密閉空間内の体積が変動 する場合における空気圧フィードバック制御を試行し,通常状態と同様に制御有りの方が 安定して目標圧力を提示可能であるという結果を得た.