• 検索結果がありません。

触覚におけるスロー再生効果の検証

第 8 章 触覚コンテンツ 5: 触覚のスロー再生

8.4 触覚におけるスロー再生効果の検証

本章では,触覚においてスローモーション再生を行った場合に映像と同様の効果が知覚 されるかについて検証する.まず,記録システム及び提示システムについて述べる.その 後,実際に展示を行った結果について報告する.

8.4.1 記録システム

記録システムは,高速カメラ(カシオ,EXLIM Pro EX1),マイク,照明,振動計測台,PC から構成されている.高速度カメラでは,30fps(通常速度),300fps(1/10倍),600fps(1/20倍),

1200fps(1/40 倍)の 4 種類についてそれぞれ記録した.振動計測台は,昆虫マイク[136]の原

理を応用したものを製作した.構成は,ボイスコイル(音響スピーカ)に円錐型接触子を取り 付け,厚さ1mmのプラスチック板に接触させたものとした.この構成を用いた装置を製作 し,プラスチック板に物体を落下させ,衝突時の板の衝撃を電流値として計測した.計測 された電流値はPCのマイク端子に入力し,wavデータとして保存した.スローモーション で触覚を再生する場合,全体の周波数が低周波方向にシフトするため,普段の触覚研究で は扱わない1kHz以上の周波数も記録する必要が生じる.よって,1/40倍までのスロー再生 に対応するため,記録する周波数のサンプルレートを 44kHz と設定した.また,音声も同

様に 44kHz で記録した.以下に記録システムのブロック図,外観,触覚記録部の構造図を

示す.

129

図125 記録システムのブロック図

図126 記録システムの外観

高速度カメラ

スピーカ PC(マイク端子)

衝突感

マイク 映像

音声

触覚記録部

電流値

触覚記録部

高速度カメラ

照明

マイク

130

図127 触覚記録部の構造

8.4.2 記録内容

8.4.1にて述べた記録システムを用いて実際に3種類の物体をそれぞれ落下させ,プラス

チック板の振動を記録した.物体は,それぞれ特徴的な形状や物性を持つものとしてビン(剛 体・重量物),ナット(剛体・粒状),シリコン(粘弾性体)を選択した.

図128 記録に使用した素材 左:ビン 中:ナット 右:シリコン

円錐型接触子

ボイスコイル

(スピーカ)

プラスチック板

PC(マイク端子)

物体

131 図129 記録の様子

8.4.3 提示システム

提示システムは,LCD ディスプレイ,キーボード,スピーカユニット,アンプ,触覚提 示装置,PCから構成されている(図130 図131 図132 ).8.4.1にて記録された音声のデータ は,音声編集ソフト(Sound Engine)にて各倍率に対応した時間伸長を行った.編集された音 声は映像編集ソフト(Premier Elements 3)にて記録映像と合成し,一つのムービーとして再生 した.記録された触覚データは,インタフェースボード(Interface Corporation, PCI-3523A)で 出力した.その際,スロー提示を行うためにサンプリングレートである 44kHz よりも低い 更新周波数で出力した.以下に出力レートを示す.

1/10倍→4.4kHz 1/20倍→2.2kHz 1/40倍→1.1kHz

触覚提示部として,本提案手法である音響スピーカを組み込んだ装置を製作した.スピ ーカは30cm上部に下向けに取り付けられており,体験者は下から手を入れ,上向きに押し 当てることで手掌部とスピーカコーン間の空気圧を密閉状態に保つ.これは,上から物体 が落ちてくる現象に沿った配置とするためである.

映像はLCDディスプレイで提示した.没入感を高めるため,ABS樹脂製のケースに小型 LCDを入れ,のぞき穴から見る形式とした.また,手の位置と映像の光学的位置を符号さ せるため,のぞき穴部にレンズをはめ込んだ.これにより,臨場感を高めることに寄与し ている.音声は触覚提示部の用脇にスピーカを置いて提示した.

132

図130 提示システムのブロック図

図131 提示システムの外観

Keyboard

Interface Board

Stereo Amplifer

Key Input

Signal

Waveform

Tactile Display

PC

Waveform

LCD Display Data

133

図132 右:映像提示部 左:触覚提示部

図133 左:体験形式 右:実際の体験風景

8.4.4 展示

本内容は学内での発表会,インタラクション2009[137],第14回日本バーチャルリアリテ ィ学会大会[138]にてデモ展示を行った.展示では,8.4.2にて記録したデータを8.4.3にて述 べた方法で編集したデータを使用した.体験者は各素材に対し,通常速度,1/10 倍,1/20 倍,1/40 倍をキーボードによって選択し,映像や音声と同期された触覚のスロー再生を体 験可能とした.展示方法としては,素材を選んだ後にまず通常速度での提示を行い,その 後体験者が希望した倍率のスロー再生を行うという方法を採った.これは,最初に通常速

触覚提示装置 LCD

スピーカ

134

度での体験をすることでどのような現象を体感するのかを被験者に把握させ,8.2における 1番目の要因をより確実に満たすためである.

これらの展示の結果,インタラクティブ発表賞,学術奨励賞を受賞するなど触覚のスロ ー再生に対して高い評価を得た.体験者の意見として最も多かったのは,これまで体験し たことのない感覚を覚えたというものであった.また,感じた触感に対して違和感があっ たという声はあまり聞かれなかった.このことは,音声をスロー再生した場合に感じる変 質感が触覚では生じず,通常速度時と同一の現象と捉えつつもスロー再生によって新たな 側面を感じ得たことを示唆している.

次に,触覚によるスロー効果に関する主観評価を行った.評価方法としては,まず映像 のみで通常速度での再生及びスロー再生(1/40倍)を見てもらい,その後触覚を追加した状態 で通常速度での再生及びスロー再生(1/40倍)を行った.その後,映像のみと比較して触覚を 追加した場合がどう感じたかを 7 項目に関して回筓させた.この 7項目は,映像のスロー 再生の効果を表す際に頻出する形容詞群である.回筓は 3 を映像のみの場合の印象とした 1(とても弱く感じた)~5(とても強く感じた)の五段階で回筓させた.実験協力者は10代から 30代の38名である.

結果を以下に示す.

図134 主観評価結果

図134 より,全ての項目において触覚を付加した場合の方が高い評価となったことから,

触覚によるスロー再生の効果がここでも確かめられた.特に,分かり易さが下がることな 0

1 2 3 4 5

迫力 不思議さ 美しさ 分り易さ 印象深さ 驚き 新鮮さ

135

く印象深さや不思議さが高まるという結果から,スロー触覚による違和感はほとんど無い ものと考えられる.このことから,8.2 にて述べたスロー効果の要因を満たすことができ,

触覚においても映像の場合と同様にスロー効果が存在することが確認できたと言える.

以上から,8.4では触覚のスロー再生を可能とする記録・再生システムを実装し,展示に より触覚のスロー再生が映像と同様の効果が得られることを示した.