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実験 1 :合成波形の選定

第 4 章 触覚コンテンツ 1: 生物感

4.4 提示波形の最適化

4.4.2 実験 1 :合成波形の選定

4.1にて述べたように,本論文ではこれまで別々に議論されてきた呼吸と鼓動を統合して 考える.手で抱きかかえられる程度の動物ならば,呼吸運動と鼓動運動は個別に感じるも ではなく,同時に感じるものであることが経験的に明らかであることがその理由である.

呼吸運動と鼓動運動を触覚として同時に提示することの有効性を確認するため,呼吸運動 のみによる触覚と鼓動運動のみによる触覚を合成した波形を生成し,他の波形と比較する 実験を行った.

実験に用意した提示波形は,以下の5通りである.

1. 鼓動運動のみによる波形 (図44 )

49 2. 呼吸運動のみによる波形(図45 )

3. 呼吸波形から鼓動波形を減算した波形(図46 ) 4. 呼吸波形に鼓動波形を加算した波形(図47 ) 5. 周波数の同じ正弦波(図48 )

なお,3,4における合成比率は予備実験によって主観的に“呼吸:鼓動=10:1”と決定 した.

図44 鼓動波形

図45 呼吸波形

50 図46 減算波形

図47 加算波形

51 図48 正弦波形

実験では, 5種類の波形をランダムに7回ずつ提示し,それぞれの波形について生物感 を1(全く生物らしくない)から5(非常に生物らしい)までの5段階で評価させた.なお,各触 覚の強度を均一化するため,被験者には本実験開始の前に,調整法により主観的刺激強度 を均一化させた.実験中,被験者は閉眼し,イヤホンからホワイトノイズを提示すること で視覚・聴覚情報を排した状態で行われた.被験者は21~27歳までの健康な男女7名であ る.

実験の結果を以下に示す.

図49 波形の種類による評価結果

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図49 より,呼吸運動から鼓動成分を減算した触覚において最も評価が高く,正弦波は最 も評価が低かった.これにより,卖純な正弦波から生じる触覚よりも呼吸運動や鼓動運動 から生じる触覚の方が生物らしく知覚されることが分かった.合成波形を比較すると,呼 吸波形と鼓動波形の 2 つを有しているにも関わらず加算時と減算時で評価において差が生 じるという結果が得られた.実験後の内観報告でも加算波形は減算波形と比較して触覚を 比較し感じ難かったとの回筓が複数得られ,結果と合致した.また,鼓動運動の方向(押圧 力または吸圧力)に気づいた被験者はいなかったことから,純粋に触覚の知覚強度に関する 違いであると考えられる.では,両者の違いは何に起因するのだろうか.

筆者はこの原因として,触知覚の非線形性に着目した.一般的に,機械的な刺激によっ て触覚を知覚するには刺激によって皮膚が変形する必要がある.そして,変形の大きさや 周波数によって我々は様々な触感を認識する.加算波形の場合を考えてみると,まず呼吸 運動に起因する圧力によって押方向へ皮膚が変形している状況がある.そこに更なる押圧 方向の圧力が鼓動波形によって提示されることとなる.この場合,皮膚が既に押されてい るのだから皮膚変形の伸びしろは小さくなり,必然的に刺激も小さくなると思われる.一 方減算波形の場合,呼吸運動による押圧力と反対方向への力が鼓動波形によって提示され るので,皮膚は変形し易く刺激も大きく知覚されると思われる.よって,同じ合成比率で あっても減算波形の場合の方がより明確に刺激が感じられ,高評価に繋がったと考えられ る.加算の場合でも鼓動波形の振幅を上げれば減算した場合と同等の効果は望めると思わ れるが,より小さな振幅で提示可能である減算波形が最も効率的であると言える.

以上から,呼吸運動と鼓動運動の 2 つの要素を,呼吸形から鼓動波形を減算することで 合成した波形による触覚が最も効果的・効率的に生物感を提示可能であるという結果が得 られた.