第 9 章 触覚コンテンツ総括
10.4 今後の課題
本論文で提案した触覚提示手法は,評価実験や各触覚コンテンツへの導入例によって従 来にはない多くの利点を示すことができたと思われる.しかしながら詳細な部分の多くは 未検証であり,そのポテンシャルは筆者でさえ未だ十分に把握できていない.また,提案 した触覚コンテンツ群はあくまでもプロトタイプの域を出ておらず,今後の研究が待たれ る.以下,未解決の問題について整理しておく.
第2章:
センサ性能の問題から,周波数の触知覚領域全域における性能評価が行われていない.
現在の空気圧センサは応筓速度が 500Hz と本論文の目標に対して低い.このため,空気圧 によるフィードバック制御の更新周波数を上げることができず,実践投入ができない.本 手法に適用可能なセンサは意外に尐ない.これは,必要条件である「高速応筓(1kHz以上で
きれば 10kHz)」「微圧(5kPa 以下)」「正負圧の対応」を満たすセンサの市場的価値が低いた
めである.筆者の手の及ばないところがボトルネックとなってしまったのは尐々残念であ る.しかしながら最近,応筓速度が5kHzという空気圧センサが販売された(ALL SENSORS,
10 INCH-D2-P4V-MINI).今後はこのセンサを用い,本論文では行うことができなかった評価
や制御をする所存である.
第3章:
静的なテクスチャを用いた印象操作の実験をおこなったものの,本来の目的からすれば 本手法のみでテクスチャも提示すべきであるし,可能であると考える.テクスチャに関し ては,人工的に生成する方法と記録したデータを再生する方法がある.人工的なテクスチ ャ感生成の研究は,高いリアリティを有したものが現在までに存在しない.この問題に対 し,筆者所属の研究室においてテクスチャ提示に関する独自の試みを行っているが,多く の問題が存在する.一方,記録したテクスチャ感のデータを用いる手法は既に高いリアリ ティを有する触感通信を実現している例が複数存在することから,今後はまずテクスチャ 感を記録・再生することに取り組んでいく.
第4章:
本章については,やり残したことが多い.ハードウェアでは,センサの誤認識問題が解 決していない.なるべくシンプルにという方針が仇となった格好である.また,400Hzとい うサンプルレートはフィードバック制御を考えるとあまり高速ではない.また,頬部にお
154 ける密閉性の問題を解決していない.
本提案の効果では,触覚のみで程度相手のジェスチャ認識が可能かを具体的に検証して いない.実演展示では十分な効果が認められたものの,展示員の誘導や視覚の影響が存在 するため,それらを除いた評価が必要だと思われる.
第5章:
制御が十分ではなく,より記録値に近しい結果となるような制御アルゴリズムが必要だ と思われる.最も確実な方法はフィードバック制御を導入することだろう.また,動作の 方向と触覚提示の方向が異なる問題を解決していない.
第6章:
動的な吸飲力の対応について,水以外の多様な食品に対する検証が行われていない.こ の問題に対しては,まずデータを記録しなければならないという障壁が存在する.人力で は様々な食品に対してロバストな吸飲力を保つことが難しいため,今後人工的な吸飲装置 を製作する必要があると思われる.
第7章:
物体の判別特性に関して,原理の解明,最適化が行われていない.本章では周波数の変 動が非常に大きく,受容器卖位の議論がし難いことがその問題となっている.また,最適 化については未だ条件,被験者数が尐ない.
また,これは本論文のみならず触覚研究を含めた全ての分野に関わる問題であるが,感 性を扱う場合にその定量的な評価手法が確立されていない.よって,どうしても主観評価 に頼りがちであり,信頼性が低いことが課題である.近年,感性評価の手法については,
青砥らが生理的指標(呼吸,心拍,皮膚電気抵抗,脳波)を用いた定量評価を試みている例[140]
もあるがまだまだ発展途上であり,今後の進展が期待される.
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謝辞
本当に,本当に多くの方に支えられてここまで辿り着くことができました.
まず,公私に渡り多くの貴重なご指導を頂きました梶本裕之先生に心より感謝いたしま す.あるときはスタッフとして研究室運営のいろはを,あるときは教育者として学生指導 の方法を,あるときは研究者として本質を見抜く術をそれぞれ教えて頂きました. 先生の ご助言,ご指導があってこそ,私は本研究を無事まとめ上げることができたのだと強く思 います.
中嶋信生教授,高橋裕樹准教授,下条誠教授,長谷川晶一准教授には,審査を通して多 くの貴重なご意見を頂きました.深く御礼申し上げます.
野嶋琢也先生(現 電気通信大学大学院)には,研究に関して多くの助言を頂きました.先 生の研究に対する真摯な姿勢は私への良い教訓となっております.
青木孝文君,三武裕玄君,永谷直久君,古川正紘君とは,同じ博士後期課程の学生とし て幅広い議論を行い,多くの知見と刺激を共有させて頂きました.私は研究室内で唯一の 博士後期課程だったため,同じ立場で議論ができる場があったことは非常に有り難いこと でした.
研究室の後輩である小島雄一郎君,中田五月君,加藤弘君,石井明日香さんとは,多く の研究題目を共に遂行してきました.彼らの斬新な視点や高い行動力で研究を進めていく 様は私にとって勉強になることが多く,大きな助けとなりました.特に第4章は中田五月 君との共同研究によって得られた成果であり,本研究に大きく貢献しています.
梶本研究室の秘書である生田涼子さんには,出張や物品購入等で大変お世話になりまし た.心より謝意を表します.
他,私に容赦なくプレッシャーをかけ,突き上げてくれた後輩の皆さん,どうもありが とうございました.みなさんの溢れるエネルギーを目の当たりにしたおかげで,現状に満 足することなく上を目指す,いわゆる“背伸び”の状態を維持し続けることができました.
ここに名前を挙げた方の他に,稲見研究室の皆様,ロボメカ工房の皆様など,数え切れ ないほど多くの方に日頃から支えていただき,また苦楽を共にする喜びを頂きました.暑 くお礼申し上げます.
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関連発表
論文
1. 橋本,大瀧,小島,永谷,三谷,宮島,山本,稲見:Straw-like User Interface:吸飲感 覚提示装置,日本バーチャルリアリティ学会論文誌,Vol.11 No.2,pp.347-356,2006.(in Japanese)
2. 橋本,中田,梶本:Hi-Fi触覚提示に関する研究:ハードウェアの基礎的検討,日本バ ーチャルリアリティ学会論文誌,Vol.14 , No.4, pp.491-499, 2009.(in Japanese)
国際学会(査読付き国際会議)
3. Y.Hashimoto, M.Kojima, T.Mitani, S.Miyajima, N.Nagaya, J.Ohtaki, A.Yamamoto and M.Inami, "Straw-like User Interface", 1st EUJAPAN FORUM 2005 on the Promotion of European and Japanese Culture and Traditions in Cyber-Societies and Virtual Reality, Laval Virtual 2005, France Laval, 2005/4/18-19.
4. Y.Hashimoto, M.Kojima, T.Mitani, S.Miyajima, N.Nagaya, J.Ohtaki, A.Yamamoto and M.Inami, "Straw-like User Interface", SIGGRAPH2005 emerging technologies, Los Angeles USA, 2005/7/29-8/4.
5. Y.Hashimoto, N.Nagaya, M.Kojima, S.Miyajima, J.Ohtaki, A.Yamamoto, T.Mitani and M.INAMI, "Straw-like User Interface: Virtual experience of the sensation of drinking using a straw", Proceedings of ACM SIGCHI ACE 2006, Hollywood USA, 2006/6/14-16.
6. Y. Hashimoto, H. Kajimoto: A Novel Interface to Present Emotional Tactile Sensation to a Palm using Air Pressure, in Proceeding of the 26th annual CHI conference (CHI2008), pp.2703-2708, Firenze, Italy, 2008/4/5-10.
7. Y. Hashimoto, M. Iinami, H. Kajimoto: Straw-like User Interface (II): a new method of presenting auditory sensations for a more natural experience, Euro Haptics 2008, pp.484-493, Madrid, Spain, 2008/6/10-13.
8. Y. Hashimoto, H. Kajimoto: Emotional Touch: A Novel Interface to Display "Emotional"
Tactile Information to a Palm, SIGGRAPH2008 New Tech Demos, Los Angeles, USA, 2008/8/11-15.
9. Y. Hashimoto, H. Kajimoto: An Emotional Tactile Interface Completing with Extremely High Temporal Bandwidth, SICE Annual Conference 2008, Chofu, Japan, 2008/8/20-22.
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10. Y. Hashimoto, S. Nakata, H. Kajimoto: Novel Tactile Display for Emotional Tactile Experience, Int. Conf. on Advances in Computer Entertainment Technologies (ACE2009), Athens, Greece, 2009/10/29-31.
国内学会
11. 橋本,小島,永谷,三谷,宮島,稲見:Straw-like User Interface(SUI):吸飲感覚提示装 置,インタラクション2005論文集,pp.81-82,2005/2/28-3/1.
12. 橋本,小島,三谷,宮島,永谷,山本,大瀧,稲見:Conspiratio(コンスピラチオ):吸 飲感覚提示によるインタラクティブなエンタテインメント,第1回エンタテインメン トコンピューティング研究会,情報処理学会研究報告2005-EC-1,pp.9-12,東京工業大 学,2005/6/4.
13. 橋本,梶本:空気圧を利用した手掌部への``やわらか``な物質感提示手法,WISS 2007, 長崎 ハウステンボス,2007/12/05-07.
14. 橋本,梶本:生物感提示装置,インタラクション2008,東京 学術総合センター/一橋 記念講堂,2008/3/03-04.
15. 橋本, 中田, 梶本:Emotional Touch; Hi-Fi触覚提示に関する研究(第3報)- 圧力のフィー ドバック制御, 日本バーチャルリアリティ学会 第 13 回大会論文集 奈良 奈良先端 科学技術大学院大学, 2008/9/24-26.
16. 中田, 橋本, 梶本:鼓動・呼吸運動を模した触覚刺激による生物感の提示, エンターテ イメントコンピューティング2008,金沢 金沢歌劇座,2008/10/29-31.
17. 橋本,梶本:スローモーション触覚再生装置,インタラクション 2009,東京 学術総 合センター/一橋記念講堂,2009/3/05-06.
18. 橋本,梶本:触覚のスローモーション再生における知覚特性,日本バーチャルリアリ ティ学会 第14回大会論文集,東京 早稲田大学,2009/9/9-11.
実演展示(海外)
19. Y.Hashimoto, M.Kojima, T.Mitani, S.Miyajima, N.Nagaya, J.Ohtaki, A.Yamamoto and M.Inami, "Conspiratio", Laval Virtual 2005, 2005/4/20-24.
20. Y.Hashimoto, M.Kojima, T.Mitani, S.Miyajima, N.Nagaya, A.Yamamoto, J.Ohtaki and M.Inami, "Conspiratio", ARS Electronica 2005, ARS Electronica Center, Austria Linz, 2005/8/30-2006/9/8.
21. Y.Hashimoto, N.Nagaya, M.Kojima, S.Miyajima, J.Ohtaki, A.Yamamoto, T.Mitani and M.Inami, "Straw-like User Interface: Virtual experience of the sensation of drinking using a straw", Proceedings of ACM SIGCHI ACE 2006, Hollywood USA, Jun.2006.
22. Y.Hashimoto, N.Nagaya, M.Kojima, S.Miyajima, J.Ohtaki, A.Yamamoto, T.Mitani and M.Inami,"Conspiratio", WIRED NextFest2006, New York USA, 2006/9/29-10/1.