東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科
key words:PD+HD
併用療法,残腎機能,硬化性腹膜炎Clinical impact of a combined therapy of peritoneal dialysis and hemodialysis
Division of Kidney and Hypertension, Department of Internal Medicine, The Jikei University School of Medicine Keitaro Yokoyama
Nanae Matsuo Tatsuo Hosoya
PD+HD併用療法の臨床効果の検討 149
いう点にある.当初,CANUSA studyでは,PDと残 腎による合計したクレアチニンクリアランス(CCr)
が高い患者群の生命予後が良好であったため,発表当 時は合計
CCr
が高ければ良いと結論された4).しかし,
サブ解析で,生命予後に影響を与えたのは残腎機能の
Ccr
であることが判明した.さらに,ADEMEX study とHong-Kong study
に お い て,PDに よ っ てCCr,
Kt/V(小分子物質の除去量)を増加させても,生命
予後に影響を与えなかったと報告された5, 6).PD
に対 していかに残腎機能を有することが安定した透析療法 と関連しているかは,日常臨床上強く意識されている.体液量の増加,ESA不反応性などと残腎機能低下は 深く関わっている.これは
HD
と大きく異なること である.日常臨床上,PDの患者に比べHD
患者で残 腎機能を評価する習慣が少ないことは,裏返せば,PD
においてHD
より残腎機能の影響を大きく受ける ことを表している.2009
年に制定された本邦の腹膜透析ガイドライン においても,腹膜透析の利点に注目して,腹膜透析を 末期腎不全治療の第一選択とするPD
ファーストの概 念が提唱され,本邦の実情を鑑み,この概念を「腹膜 透析の利点を十分に生かすために,残存腎機能を有す る患者で,腹膜透析への導入を優先的に考慮する考え 方」と定義すると提言されている7).
PD+HD
併用療法は1990
年に世界で初めて慈恵医大で開始された治療法であるが,当初は,HDに移行 する
PD
患者に対して「HDへの準備を整えるための 対策」として発案された治療法であった.すなわち,併用療法の
HD
は完全にHD
に移行するというライ フスタイルの変化に対する準備期間として意味付けら れていた.しかしながら,我々は2000
年代中盤から,残腎機能が低下した
PD
患者に対する医学的補填のた めにHD
を併用することを推奨している.その見地 から,PD+HD併用療法の透析様式としての位置づ けは大きく変貌した.2 PD ファーストの利点
先に述べたように,2010年末での日本の透析患者 は
30
万人に迫るが,PD患者はそのうちの約3.3%
(9,728人)と少ない2)
.これに対して世界では約 10%
を占めている.PDのメリットとしては,
① PD患者は,HD患者に比べ残腎機能(自己尿)
が良好に維持されている1)
② 24時間連続した透析であるため,不均衡症状 がなく,透析中の低血圧(HD)などの循環器系 に与える影響が少なく,またカリウムなどの食事 制限が緩和されること
③ 在宅で透析ができるため,社会復帰が容易で,
また穿刺の疼痛がないなどの高い
QOL
を達成す ることが可能であるといった点があげられる.我が国の透析導入患者の約 半数が
70
歳を超える現状を勘案すると,これはHD
に対するPD
の大きなアドバンテージである.3 PD+HD 併用療法
本邦では腎移植が限られる状況から,長期維持透析 が求められるため,PD療法においても,海外に比較 して長期施行例が多いことが知られている.本邦では,
PD+HD
併用療法の患者数はPD
全体の患者数の20
% を超えていると試算されている.PDのメリットを 生かしつつ,安定した透析治療を継続するために
HD
との併用療法というユニークな治療体系が構築されて いる.前述のようにPD+HD
併用療法は,当初は,「残腎機能が低下し,HDに移行する
PD
患者にHD
への準備を整えるための対策として発案された治療 法」であった.しかし,2000年以降,我々は「PD単 独では安定した透析治療を行えなくなった患者に対し,透析量増加と体液管理の改善を目標に,定期的な
HD
を併用する治療法とする新しい透析様式」と捉えられ ることを提唱している.PD+HD
併用療法の良好な体液管理や,エリスロポエチン(EPO)不応性貧血の改善に対する有用性が 報告されている8, 9)
.筆者らは,
図 1に示すように,週
5〜6
日のPD
に週1
回4
時間のHD
を行っている.HD
は中分子量尿毒症物質の除去効率の良いハイパフ ォーマンス膜の2.5 m
2を使用し,血流量は200〜280 ml/分で行っている.
図 1 PD+HD 併用療法の週間スケジュール
週5〜6日のPDに週1回のHD(F)を併用する.使用ダイ
ア ラ イ ザ ー は2.5 m2のhigh-flux fiber dialyzers,血 流 量:QB 200〜280 ml/min.HD時間は4時間で施行.
Peritoneal dialysis
Peritoneal dialysis A
B HD(F)
次に臨床的効果について概略する10)
.
3-1 臨床的効果
東京慈恵会医科大学附属病院および附属柏病院にて,
2008
年12
月までにPD+HD
併用療法を導入された 患者56
例を対象とした自験例を示す.男性
43
名,平均導入時年齢52±9
歳,平均透析期間
90±40
カ月,併用療法に至るまでの平均PD
期間45±36
カ月であった.原疾患は糖尿病性腎症9
名,慢性糸球体腎炎
36
名,腎硬化症8
名,その他3
名で ある.併用療法の開始基準としては,PD単独療法で,①週あたり
Ccr<50 ml/週,あるいは EPO
抵抗性貧 血(46名),②体液コントロール不良(24
名)を呈し た患者で,被嚢性腹膜硬化症(EPS)のリスクの高ま るPD
歴7
年以上の患者は除外した.本対象症例につ いて,併用療法開始前と開始後1
年の時点での体液管 理,尿毒症物質の除去,貧血,腹膜障害の指標につい て比較した.各項目の併用療法前後の変化を表 1に示す.体重,
HANP,収縮期血圧は併用療法前に比較し,併用療法
開始1
年後には有意に低下し,体液管理は良好となった.内服降圧薬数も有意に減少した.また小分子量尿 毒症物質である血清クレアチニン(Cr)
,中分子量物
質であるb
2ミクログロブリン(b
2MG)は併用療法後
有意に低下し,尿毒症物質除去も改善した.併用療法 前に認められたEPO
抵抗性貧血は,併用療法後に有 意に改善し,EPO使用量の減量が可能であった.PD による腹膜障害の指標とされているD/P Cr,PD
排 液中のインターロイキン6(IL-6)は,併用療法後に
低下した.3-2 医学的妥当性の検証:EARTH 研究会の設立 わが国において,PD+HD併用療法は急速に広が ったが,その科学的妥当性を評価することは十分なさ れていない.その科学的妥当性を評価するために,
2008
年に,腎代替療法研究会(EvaluatingAdequate-ness Replacement Therapy; EARTH)を設立した.こ
の研究会での100
例を超える後ろ向き研究の臨床効果 は以前の我々の報告10)と類似していた.また,5年以 上のPD
歴後に併用療法に移行する症例が約30% で,
併用療法持続期間も
3
年以上が症例の約20% を占め
ていた.この結果,併用療法によって長期にPD
の継表 1 PD+HD 併用療法前後での臨床効果の比較
併用療法前 併用療法1年後 P値 体重(kg) 62.6±11.3 61.1±12.9 <0.01 血圧(mmHg)
収縮期 145±22 138±17 0.03
拡張期 84±17 78±11 0.12
降圧薬数 2.6±1.4 2.1±1.4 <0.01
HANP(pg/ml) 123±104 60±50 <0.01
尿量(ml/日) 253±405 123±331 <0.01
残腎weekly CCr(L/週) 6.7±10.7 1.8±3.9 <0.01
尿素窒素BUN(mg/dl) 61±16 59±13 0.11
血清Cr(mg/dl) 13.5±3.6 12.7±3.1 <0.01
血清b2MG(ng/ml) 35.9±7.5 33.1±7.9 <0.01
血清アルブミン(g/dl) 3.5±0.4 3.6±0.6 0.18 ヘモグロビン(g/dl) 8.2±1.6 10.7±1.2 <0.01 エリスロポイエチン製剤使用量
(U/週) 5,800±1,349 4,556±2,058 <0.01
(U/週)/(g/dl hemoglobin) 698±257 357±244 <0.01 トランスフェリン飽和度(%) 24±13 29±13 0.08 フェリチン(ng/ml) 139±120 138±157 0.74 網状赤血球(%) 1.0±0.6 1.1±0.5 0.76 〃 (×104/nl) 1.85±1.80 3.19±2.16 <0.01
D/P-cre 0.65±0.11 0.59±0.13 <0.01
PET排液中IL-6(pg/ml) 21.0±21.4 10.3±8.7 0.03
血清CRP(mg/dl) 0.5(0.01>-7.4) 0.2(0.01>-0.6) 0.01
平均±標準偏差あるいは平均(分布)
PD+HD併用療法の臨床効果の検討 151
続が可能になるものの,被嚢性硬化性腹膜炎(EPS)
の危険性の増加が懸念された.
3-3 PD+HD 併用療法と EPS
EPS
はPD
期間が長い患者群での発症率が高いこと が明らかになっており,PD+HD併用療法によってPD
施行期間の延長が可能となった結果,EPSの発症 リスクが高まる可能性がある.我々は,EPSの発症リスクと考えられる腹膜障害 のパラメータとして,腹膜平衡機能検査(PET)から
D/P Cr
値,排液中のIL-6
を併用前後で比較したとこ ろ,併用後にどちらも低下を示し,腹膜障害が増悪し ていないことが示唆された.その理由としては,体液 コントロールと中分子量尿毒症物質の除去が改善した こと,PDホリデー(PDを行わない時間)があるこ とにより高濃度ブドウ糖透析液への暴露が減少したこ となどが考えられた.しかしながら,PD排液中のサ イトカイン測定や頻回なPET
の施行は日常臨床上困 難であるため,より簡便なEPS
のプレディクターの 探索が必要である.EPS
の発症は残腎機能低下後,あるいはHD
移行 後に発症することから,我々は「PDによる透析不足 がEPS
発症の温床になる」という仮説を立案した.実際に長期
PD
患者の腹膜はb
2MG
で染色される(図 2)11).1996
年11
月 か ら2005
年10
月 ま で の 過 去10
年間,
慈恵大学附属病院でCAPD
を施行した219
例の 臨床データから,ヒストリカルコホートによりEPS
を発症した25
例を抽出した(平均年齢57.4±10.1
歳,平均
PD
期間7.8±3.3
年,男/女18/7).年齢,透析期
間,性別をマッチングさせた非EPS
症例を対照群に 配置した.EPS発症1
年前の血清尿素窒素,血清ク レアチニン,b
2MG, CRP,腹膜機能検査による PET
カテゴリーを対照群と比較した.EPS発症を目的変数,各測定項目を説明変数としたロジスティック解析を行 った.
その結果,EPS発症群が対照群に比べ,
b
2MG
が有 意に高値であった(図 3).その他の血清尿素窒素,
血清クレアチニン,CRP,PETカテゴリー,尿量は 両群で差がなかった.ロジスティック解析では
b
2MG
高値は独立した危険因子であった.b
2MG
をスクリー ニング検査として使用する妥当性を評価する目的で作 成したROC
曲線では,b
2MG
のカットオフ値は37.0
(感度
64%,特異度は 80%)であった.透析量のマー
カーである血清クレアチニンや炎症のマーカーである
CRP
は予知因子ではなく,中分子量尿毒症物質蓄積 状態がEPS
発症と関連する可能性が示唆された12).
それを受けて,b
2MG
値をEPS
リスクのパラメータと して考えた.そのため,上述のように週
5〜6
日のPD
に週1
回4
時間のHD
を行い,HDは中分子量尿毒症物質の除 去効率の良いハイパフォーマンス膜の2.5 m
2を使用 し,血流量は200〜280 ml/分で行っている.現在,
図 2 b2MG で染色された長期 PD 患者の腹膜 長期PD患者の腹膜はb2MGで染色されるが,このことは
「PDによる透析不足がEPS発症の温床になる.」という仮説を 想起させる.(文献11より)
図 3 EPS 発症のリスク比
b2MGはEPS発症のスクリーニング検査として有用な因子 である.ロジスティック解析ではb2MG高値は独立した危険 因子であった.(文献12より)
8.8
13.5 リスク比
1.0
5.5 15
10
5
0
b2MG<30
30≦b2MG<35
35≦b2MG<40
40≦b2MG