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横山啓太郎 松尾七重 細谷龍男

ドキュメント内 日本透析医会雑誌Vol. 27,No. 1 (ページ 152-158)

東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科

key words:PD+HD

併用療法,残腎機能,硬化性腹膜炎

Clinical impact of a combined therapy of peritoneal dialysis and hemodialysis

Division of Kidney and Hypertension, Department of Internal Medicine, The Jikei University School of Medicine Keitaro Yokoyama

Nanae Matsuo Tatsuo Hosoya

PD+HD併用療法の臨床効果の検討 149

いう点にある.当初,CANUSA studyでは,PDと残 腎による合計したクレアチニンクリアランス(CCr)

が高い患者群の生命予後が良好であったため,発表当 時は合計

CCr

が高ければ良いと結論された4)

.しかし,

サブ解析で,生命予後に影響を与えたのは残腎機能の

Ccr

であることが判明した.さらに,ADEMEX study と

Hong-Kong study

に お い て,PDに よ っ て

CCr,

Kt/V(小分子物質の除去量)を増加させても,生命

予後に影響を与えなかったと報告された5, 6)

.PD

に対 していかに残腎機能を有することが安定した透析療法 と関連しているかは,日常臨床上強く意識されている.

体液量の増加,ESA不反応性などと残腎機能低下は 深く関わっている.これは

HD

と大きく異なること である.日常臨床上,PDの患者に比べ

HD

患者で残 腎機能を評価する習慣が少ないことは,裏返せば,

PD

において

HD

より残腎機能の影響を大きく受ける ことを表している.

2009

年に制定された本邦の腹膜透析ガイドライン においても,腹膜透析の利点に注目して,腹膜透析を 末期腎不全治療の第一選択とする

PD

ファーストの概 念が提唱され,本邦の実情を鑑み,この概念を「腹膜 透析の利点を十分に生かすために,残存腎機能を有す る患者で,腹膜透析への導入を優先的に考慮する考え 方」と定義すると提言されている7)

PD+HD

併用療法は

1990

年に世界で初めて慈恵医

大で開始された治療法であるが,当初は,HDに移行 する

PD

患者に対して「HDへの準備を整えるための 対策」として発案された治療法であった.すなわち,

併用療法の

HD

は完全に

HD

に移行するというライ フスタイルの変化に対する準備期間として意味付けら れていた.しかしながら,我々は

2000

年代中盤から,

残腎機能が低下した

PD

患者に対する医学的補填のた めに

HD

を併用することを推奨している.その見地 から,PD+HD併用療法の透析様式としての位置づ けは大きく変貌した.

2 PD ファーストの利点

先に述べたように,2010年末での日本の透析患者 は

30

万人に迫るが,PD患者はそのうちの約

3.3%

(9,728人)と少ない2)

.これに対して世界では約 10%

を占めている.PDのメリットとしては,

① PD患者は,HD患者に比べ残腎機能(自己尿)

が良好に維持されている1)

② 24時間連続した透析であるため,不均衡症状 がなく,透析中の低血圧(HD)などの循環器系 に与える影響が少なく,またカリウムなどの食事 制限が緩和されること

③ 在宅で透析ができるため,社会復帰が容易で,

また穿刺の疼痛がないなどの高い

QOL

を達成す ることが可能である

といった点があげられる.我が国の透析導入患者の約 半数が

70

歳を超える現状を勘案すると,これは

HD

に対する

PD

の大きなアドバンテージである.

3 PD+HD 併用療法

本邦では腎移植が限られる状況から,長期維持透析 が求められるため,PD療法においても,海外に比較 して長期施行例が多いことが知られている.本邦では,

PD+HD

併用療法の患者数は

PD

全体の患者数の

20

% を超えていると試算されている.PDのメリットを 生かしつつ,安定した透析治療を継続するために

HD

との併用療法というユニークな治療体系が構築されて いる.前述のように

PD+HD

併用療法は,当初は,

「残腎機能が低下し,HDに移行する

PD

患者に

HD

への準備を整えるための対策として発案された治療 法」であった.しかし,2000年以降,我々は「PD単 独では安定した透析治療を行えなくなった患者に対し,

透析量増加と体液管理の改善を目標に,定期的な

HD

を併用する治療法とする新しい透析様式」と捉えられ ることを提唱している.

PD+HD

併用療法の良好な体液管理や,エリスロポ

エチン(EPO)不応性貧血の改善に対する有用性が 報告されている8, 9)

.筆者らは,

図 1に示すように,

5〜6

日の

PD

に週

1

4

時間の

HD

を行っている.

HD

は中分子量尿毒症物質の除去効率の良いハイパフ ォーマンス膜の

2.5 m

2を使用し,血流量は

200〜280 ml/分で行っている.

図 1 PD+HD 併用療法の週間スケジュール

5〜6日のPDに週1回のHD(F)を併用する.使用ダイ

ア ラ イ ザ ー は2.5 m2high-flux fiber dialyzers,血 流 量:QB 200〜280 ml/min.HD時間は4時間で施行.

Peritoneal dialysis

Peritoneal dialysis

HD(F)

次に臨床的効果について概略する10)

3-1 臨床的効果

東京慈恵会医科大学附属病院および附属柏病院にて,

2008

12

月までに

PD+HD

併用療法を導入された 患者

56

例を対象とした自験例を示す.

男性

43

名,平均導入時年齢

52±9

歳,平均透析期

90±40

カ月,併用療法に至るまでの平均

PD

期間

45±36

カ月であった.原疾患は糖尿病性腎症

9

名,

慢性糸球体腎炎

36

名,腎硬化症

8

名,その他

3

名で ある.併用療法の開始基準としては,PD単独療法で,

①週あたり

Ccr<50 ml/週,あるいは EPO

抵抗性貧 血(46名)

,②体液コントロール不良(24

名)を呈し た患者で,被嚢性腹膜硬化症(EPS)のリスクの高ま る

PD

7

年以上の患者は除外した.本対象症例につ いて,併用療法開始前と開始後

1

年の時点での体液管 理,尿毒症物質の除去,貧血,腹膜障害の指標につい て比較した.

各項目の併用療法前後の変化を表 1に示す.体重,

HANP,収縮期血圧は併用療法前に比較し,併用療法

開始

1

年後には有意に低下し,体液管理は良好となっ

た.内服降圧薬数も有意に減少した.また小分子量尿 毒症物質である血清クレアチニン(Cr)

,中分子量物

質である

b

2ミクログロブリン(

b

2

MG)は併用療法後

有意に低下し,尿毒症物質除去も改善した.併用療法 前に認められた

EPO

抵抗性貧血は,併用療法後に有 意に改善し,EPO使用量の減量が可能であった.PD による腹膜障害の指標とされている

D/P Cr,PD

排 液中のインターロイキン

6(IL-6)は,併用療法後に

低下した.

3-2 医学的妥当性の検証:EARTH 研究会の設立 わが国において,PD+HD併用療法は急速に広が ったが,その科学的妥当性を評価することは十分なさ れていない.その科学的妥当性を評価するために,

2008

年に,腎代替療法研究会(Evaluating

Adequate-ness Replacement Therapy; EARTH)を設立した.こ

の研究会での

100

例を超える後ろ向き研究の臨床効果 は以前の我々の報告10)と類似していた.また,5年以 上の

PD

歴後に併用療法に移行する症例が約

30% で,

併用療法持続期間も

3

年以上が症例の約

20% を占め

ていた.この結果,併用療法によって長期に

PD

の継

表 1 PD+HD 併用療法前後での臨床効果の比較

併用療法前 併用療法1年後 P 体重(kg) 62.6±11.3 61.1±12.9 <0.01 血圧(mmHg)

収縮期 145±22 138±17 0.03

拡張期 84±17 78±11 0.12

降圧薬数 2.6±1.4 2.1±1.4 <0.01

HANP(pg/ml) 123±104 60±50 <0.01

尿量(ml/日) 253±405 123±331 <0.01

残腎weekly CCr(L/週) 6.7±10.7 1.8±3.9 <0.01

尿素窒素BUN(mg/dl) 61±16 59±13 0.11

血清Cr(mg/dl) 13.5±3.6 12.7±3.1 <0.01

血清b2MG(ng/ml) 35.9±7.5 33.1±7.9 <0.01

血清アルブミン(g/dl) 3.5±0.4 3.6±0.6 0.18 ヘモグロビン(g/dl) 8.2±1.6 10.7±1.2 <0.01 エリスロポイエチン製剤使用量

(U/週) 5,800±1,349 4,556±2,058 <0.01

(U/週)/(g/dl hemoglobin) 698±257 357±244 <0.01 トランスフェリン飽和度(%) 24±13 29±13 0.08 フェリチン(ng/ml) 139±120 138±157 0.74 網状赤血球(%) 1.0±0.6 1.1±0.5 0.76   〃  (×104/nl) 1.85±1.80 3.19±2.16 <0.01

D/P-cre 0.65±0.11 0.59±0.13 <0.01

PET排液中IL-6(pg/ml) 21.0±21.4 10.3±8.7 0.03

血清CRP(mg/dl) 0.5(0.01>-7.4) 0.2(0.01>-0.6) 0.01

平均±標準偏差あるいは平均(分布)

PD+HD併用療法の臨床効果の検討 151

続が可能になるものの,被嚢性硬化性腹膜炎(EPS)

の危険性の増加が懸念された.

3-3 PD+HD 併用療法と EPS

EPS

PD

期間が長い患者群での発症率が高いこと が明らかになっており,PD+HD併用療法によって

PD

施行期間の延長が可能となった結果,EPSの発症 リスクが高まる可能性がある.

我々は,EPSの発症リスクと考えられる腹膜障害 のパラメータとして,腹膜平衡機能検査(PET)から

D/P Cr

値,排液中の

IL-6

を併用前後で比較したとこ ろ,併用後にどちらも低下を示し,腹膜障害が増悪し ていないことが示唆された.その理由としては,体液 コントロールと中分子量尿毒症物質の除去が改善した こと,PDホリデー(PDを行わない時間)があるこ とにより高濃度ブドウ糖透析液への暴露が減少したこ となどが考えられた.しかしながら,PD排液中のサ イトカイン測定や頻回な

PET

の施行は日常臨床上困 難であるため,より簡便な

EPS

のプレディクターの 探索が必要である.

EPS

の発症は残腎機能低下後,あるいは

HD

移行 後に発症することから,我々は「PDによる透析不足 が

EPS

発症の温床になる」という仮説を立案した.

実際に長期

PD

患者の腹膜は

b

2

MG

で染色される( 211)

.1996

11

月 か ら

2005

10

月 ま で の 過 去

10

年間

,

慈恵大学附属病院で

CAPD

を施行した

219

例の 臨床データから,ヒストリカルコホートにより

EPS

を発症した

25

例を抽出した(平均年齢

57.4±10.1

歳,

平均

PD

期間

7.8±3.3

年,男/女18/7)

.年齢,透析期

間,性別をマッチングさせた非

EPS

症例を対照群に 配置した.EPS発症

1

年前の血清尿素窒素,血清ク レアチニン,

b

2

MG, CRP,腹膜機能検査による PET

カテゴリーを対照群と比較した.EPS発症を目的変数,

各測定項目を説明変数としたロジスティック解析を行 った.

その結果,EPS発症群が対照群に比べ,

b

2

MG

が有 意に高値であった(図 3

.その他の血清尿素窒素,

血清クレアチニン,CRP,PETカテゴリー,尿量は 両群で差がなかった.ロジスティック解析では

b

2

MG

高値は独立した危険因子であった.

b

2

MG

をスクリー ニング検査として使用する妥当性を評価する目的で作 成した

ROC

曲線では,

b

2

MG

のカットオフ値は

37.0

(感度

64%,特異度は 80%)であった.透析量のマー

カーである血清クレアチニンや炎症のマーカーである

CRP

は予知因子ではなく,中分子量尿毒症物質蓄積 状態が

EPS

発症と関連する可能性が示唆された12)

それを受けて,

b

2

MG

値を

EPS

リスクのパラメータと して考えた.

そのため,上述のように週

5〜6

日の

PD

に週

1

4

時間の

HD

を行い,HDは中分子量尿毒症物質の除 去効率の良いハイパフォーマンス膜の

2.5 m

2を使用 し,血流量は

200〜280 ml/分で行っている.現在,

図 2 b2MG で染色された長期 PD 患者の腹膜 長期PD患者の腹膜はb2MGで染色されるが,このことは

「PDによる透析不足がEPS発症の温床になる.」という仮説を 想起させる.(文献11より)

図 3 EPS 発症のリスク比

b2MGEPS発症のスクリーニング検査として有用な因子 である.ロジスティック解析ではb2MG高値は独立した危険 因子であった.(文献12より)

8.8 

13.5  リスク比

1.0 

5.5  15

10

5

0

b2MG<30

30≦b2MG<35

35≦b2MG<40

40≦b2MG

ドキュメント内 日本透析医会雑誌Vol. 27,No. 1 (ページ 152-158)