目 次
巻 頭 言 診療報酬・介護報酬ダブル改定が示す医療の方向性 日本透析医会副会長 隈 博 政 1 透析医療における Current Topics 2011(福岡開催) H 23. 10. 23 透析液水質管理基準とその保守管理 大分大学医学部附属病院腎臓内科 友 雅 司 4 日本透析医学会改訂バスキュラーアクセスガイドラインについて 札幌北楡病院外科 久木田 和 丘 10 長時間透析のメリットとデメリット かもめクリニック 金 田 浩 14 認知症透析患者の臨床―妄想を例に考える― 松江青葉クリニック 春 木 繁 一 19 腎性貧血治療の話題 信楽園病院腎臓内科 鈴 木 正 司 25 超高齢者の透析導入に関する諸課題―導入期の診かた考えかた― 江戸川病院 生活習慣病 CKD センター 佐 中 孜 30 医療制度・医療経済 アメリカ透析医療費の支払い包括化―その実態と問題点― 札幌北クリニック 大 平 整 爾 38 医療経済からみた透析医療の実態整理 大阪大学大学院医学系研究科医療経済産業政策学 田 倉 智 之 44 医療安全対策 東日本大震災における北海道での被災透析患者の受け入れ クリニック 1・9・8 札幌 戸 澤 修 平 49 東日本大震災への対応 協和発酵キリン株式会社 諸 冨 滋 東 田 祐 一 田 中 孝 幸 金 井 文 彦 57 東日本大震災における当社グループの対応 中外製薬株式会社 島 津 敏 喜 61 東日本大震災を振り返って バクスター株式会社オペレーション本部 黒 須 誠 65 東日本大震災におけるメーカー対応と今後の課題 扶桑薬品工業株式会社 三 柳 順 一 北 哲 彦 69 東日本大震災における物流対応について ニプロ株式会社国内事業部 大 庭 茂 樹 74 東日本大震災における透析メーカーとしての対応 日機装株式会社メディカル事業本部営業推進部 杉 田 嘉 子 77 平成 23 年台風 12 号豪雨災害における透析医療 ―被災地からの報告と今後の災害への課題― 新宮市立医療センター内科 龍 田 浩 一 山 中 慎太郎 山 本 脩 人 和歌山県立医科大学腎臓内科・血液浄化センター 半 羽 慶 行 是 枝 大 輔 大 矢 昌 樹 重 松 隆 80 透析患者の肺炎診療―医療・介護関連肺炎診療ガイドラインを受けて― 長崎大学病院第二内科 宮 崎 泰 可 河 野 茂 86THE JOURNAL OF JAPANESE ASSOCIATION OF DIALYSIS PHYSICIANS
第 15 回透析医療費実態調査報告 日本透析医会適正医療経済・制度調査研究委員会/同常任理事会 太 田 圭 洋 杉 崎 弘 章 隈 博 政 篠 田 俊 雄 戸 澤 修 平 山 川 智 之 同適正医療経済・制度調査研究委員会 村 上 秀 一 土 谷 晋一郎 吉 田 豊 彦 同常任理事会 鈴 木 正 司 山 㟢 親 雄 91 透析医療における職種別業務分担に関する調査報告 日本透析医会 山 川 智 之 太 田 圭 洋 山 㟢 親 雄 日本腎不全看護学会 水 附 裕 子 内 田 明 子 佐 藤 久 光 日本臨床工学技士会 川 崎 忠 行 那須野 修 一 松 金 隆 夫 村 上 淳 109 北海道における高齢透析患者の実態 日鋼記念病院腎センター 伊 丹 儀 友 札幌北クリニック 大 平 整 爾 札幌北楡病院 久木田 和 丘 クリニック 1・9・8 札幌 戸 澤 修 平 石川泌尿器科 上 田 峻 弘 126 透析医の腎移植に対する意識のアンケート調査 兵庫県透析医会学術統計委員会 吉 矢 邦 彦 赤 塚 東司雄 荒 川 俊 雄 和 泉 雅 章 今 井 信 行 江 尻 一 成 大 山 敦 嗣 喜 田 智 幸 関 田 憲 一 竹 岡 浩 也 永 井 博 之 野々口 博 史 藤 井 直 彦 藤 森 明 吉 本 明 弘 依 藤 良 一 市 川 靖 二 133 臨 床 と 研 究 ESA治療低反応性 鴨島川島クリニック 水 口 隆 138 PD+HD 併用療法の臨床効果の検討 東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科 横 山 啓太郎 松 尾 七 重 細 谷 龍 男 148 eGFRを透析導入の指標とすることの問題点 大分大学医学部臨床医工学講座 阿 岸 鉄 三 154 アクセス再建とガングリオン切除を同時に行った症例 大野記念病院泌尿器科 杉 浦 清 史 舟 尾 清 昭 杉 田 省 三 吉 本 充 和 田 誠 次 同 内科 伴 啓 彦 同 整形外科 山 内 伸 一 158 コ ラ ム 創作小咄:龍の恩返し 東京女子医科大学名誉教授 杉 野 信 博 161 各支部での特別講演 講演抄録 qqq23 年度 《青 森》 透析患者における末梢血管障害の特徴と治療およびフットケアの重要性について 鳴海病院血管内治療部 野 田 浩 163 《鹿児島》 透析と保険診療 増子クリニック昴 山 㟢 親 雄 165
《大 阪》 東日本大震災における透析医療者の連携 白鷺病院 山 川 智 之 167 《北海道》 透析患者の栄養障害―低栄養と内臓脂肪蓄積について― 浜松医科大学附属病院血液浄化療法部 加 藤 明 彦 169 《愛 知》 患者数を決める要因の基礎的考察―年齢別観察の重要性― 名古屋大学大学院医学系研究科予防医学 若 井 建 志 172 わが国の慢性維持透析の現況と今後の動向 藤田保健衛生大学医療科学部臨床工学科 中 井 滋 174 《宮 城》 腎代替療法としての腎移植―最近の進歩と今後の課題― 仙台社会保険病院外科 天 田 憲 利 176 学術助成論文 qqq22 年度 高齢透析患者の腎移植に対する考え―奈良県におけるアンケート調査より― 奈良県立医科大学附属病院泌尿器科透析部 吉 田 克 法 178 透析患者における血中ホモシステイン濃度と葉酸,ビタミン B12,ビタミン B6濃度について JA長野篠ノ井総合病院臨床工学科 塩 澤 勉 宮 澤 法 幸 中 村 啓 章 同 臨床検査科 羽 生 登 同 腎臓内科 田 村 克 彦 長 澤 正 樹 信州大学医学部病態解析診断学 本 田 孝 行 同 保健学科検査技術科学 大 槻 晋 也 日 髙 宏 哉 185 公募研究助成 qqq22 年度 〈論 文〉 小胞体ストレスと慢性腎臓病 ―小胞体ストレスシグナルによるエリスロポエチン産生経路破綻の分子機序― 東京大学医学部附属病院腎臓内分泌内科 稲 城 玲 子 191 〈報告書〉 男性透析患者におけるファブリー病のスクリーニング 新潟大学大学院医歯学総合研究科腎医学医療センター 丸 山 弘 樹 清 野 詩 子 大分大学医学部マトリックス医学講座 石 井 達 197 透析患者における蛋白結合性尿毒症毒素に関する研究 名古屋大学大学院医学系研究科尿毒症病態代謝学 丹 羽 利 充 199 透析液エンドトキシン濃度の超高感度測定法による検討 水戸中央クリニック腎臓内科 中 澤 了 一 201 マウス腹膜線維症モデルにおける(-)-エピガロカテキンガレートの線維化抑制効果について 長崎大学病院第二内科 北 村 峰 昭 西 野 友 哉 河 野 茂 204 透析医のひとりごと 浦島太郎の血液透析物語 増田クリニック 増 田 一 雄 212 た よ り 青森県透析医会だより 青森県透析医会会長 鈴 木 唯 司 214 岐阜県透析医会だより 岐阜県透析医会会長 澤 田 重 樹 216 常任理事会だより 日本透析医会常務理事 山 川 智 之 218 投稿規定 223
お知らせ 学会ご案内(H 24. 5 月〜8 月) 220 平成 24 年度透析療法従事職員研修のお知らせ(公財)日本腎臓財団 211 〈会告〉 日本透析医会通常総会のお知らせ(H 24. 5. 20) 日本透析医会研修セミナー「透析医療における Current Topics 2012(東京開催)」(H 24. 5. 20) 日本透析医会研修セミナー「透析医療における Current Topics 2012(名古屋開催)」(H 24. 10. 21)
診療報酬・介護報酬ダブル改定が示す医療の方向性 1 今年は,診療報酬・介護報酬ダブル改定の年である.厚生労働省は未来に向けてどのような方針 で,このダブル改定を行おうとしているのであろうか. 昭和 22 年(1947)から昭和 24 年(1949)に生まれた「団塊の世代」が 75 歳以上となる平成 37 年(2025)は,今年からわずか 13 年後である.この年には平成 12 年(2010)に 2,941 万人であっ た高齢者人口が 3,500 万人に増加すると見込まれている. すでに高齢社会となっている現在,医療界においても様々な問題が噴出している.特に,急性期 医療を必要とする患者の増加,また看護ケア,リハケア,ADL ケアを必要とする患者の増加,そ して,死亡者の増加である. 将来を見据えた診療報酬改定の基本方針の一つとして,「2025 年の姿として描かれた病院・病床 機能の分化,強化と連携,在宅医療の充実,重点化・効率化等の推進」があげられている. 2011年度の一般病床 107 万床をどう組み替えるのか.2025 年度に向けての方針は,「病院・病床 機能の分化」に取り組み,「高度急性期」18 万床,「一般急性期」35 万床,「亜急性期」26 万床, 過疎地などの病院・病床機能の分化ができない地域は「地域一般病床」として 24 万床を創設し, 合計 103 万床に組み替えることである.そして,長期療養(慢性期)の病床が 23 万床から 28 万床 に増えるが,精神病床が 35 万床から 27 万床に減り,上記の増減と併せるとトータルで 166 万床か ら 159 万床への 7 万床減となる. これで病床が足りるのであろうか? その解決策は,平均在院日数の短縮,つまり「早期退院」 を促す事である.その目的で「退院調整加算」が新設された.しかし,「早期退院」は「医療難民」 を増やしかねない.これを解決するには,病-病連携,病-診連携のみならず,より一層の「医療-介護連携」がきわめて重要となる.「地域連携計画加算」や「退院時共同指導料 1 特別管理指導加 算」,「訪問看護療養費特別管理指導加算」,「訪問看護基本療養費 III」の新設に,「医療-介護連携」 の推進という方向性が読み取れる. では,退院の受け皿としての介護サービスの方針はどうであろうか.2025 年度の介護施設のう ち特養が 72 万人分(2011 年度は 48 万人分,以後括弧内は 2011 年度の数字),老健+介護療養が 59万人分(44 万人分)の合計 131 万人分(92 万人分)であり,39 万人の増加ではきわめて不十分 と考える. そこで,「在宅医療の充実,重点化・効率化等の推進等」という文言にその方向性が示されてい る.具体的には,一つは「サービス付き高齢者向け賃貸住宅」の促進であり,もう一つは「地域で の医療と介護の連携」という形での「看取り」であると考える. 産科,小児科でみられた医療崩壊がさらに進み,今や救急医の疲弊による立ち去りや外科医の減
巻 頭 言
診療報酬・介護報酬ダブル改定が示す医療の方向性
(公社)日本透析医会 副会長隈 博政
少がみられ,その結果,二次救急医療機関の救急外来では重症者がスムーズに治療してもらえない という,救急医療がピンチの状態にある.これを回避するために,「院内トリアージ加算」,「夜間 休日救急搬送医学管理料」が新設された. しかし,もっと重要なことは,「看取り」の場所や方法を真剣に検討する事である.死亡診断の ために,救急車を使って救急外来に運ばれる DOA(death on arrival)を減らすことが必要である. さもないと,1 年間に 160 万人が死亡する時代がやって来れば,救急車を呼んでも全車出動中,ま たは運良く救急外来にたどり着いてもタイムリーに治療を受けられない,という事態が懸念される. では,高度急性期病院がその機能を十分発揮できるように,後方の医療機関は何をなすべきであ ろうか? 今回の改定で,機能強化した在宅療養支援診療所・病院(在支診・在支病)の施設基準が設けら れ,複数の医療機関が連携して要件を満たすことができる事になった.そして機能強化した在支 診・在支病の緊急時・夜間の往診料が従来の往診料よりも高い点数で新設された.つまり,地域に おいて,在宅医療を担う在支診・在支病の機能強化と訪問診療の充実が求められている.地域内で の「かかりつけ医」の連携が待たれる.また,「在宅等における看取りを含めたターミナルケアの 充実」のため,訪問看護における「ターミナルケア加算」が算定しやすく改定された. 透析医療においても,これらの動きの意味をしっかりと受け止め,どう具体的行動を起こしてい くかが問われている.
3 日本透析医会・研修委員会は,これまで年 2 回会員対象の研修 会をシンポジウムまたはカレント・トピックスなどの形式で東京に おいて開催してまいりました.内外の治療環境や社会状況などの変 化に呼応しながら,タイムリーな主題を採りあげて実地医家の参考 となる成果を得るべく努めてまいりました. その成果の多くは日本透析医会雑誌にフルペーパーとして収録さ れており,多くの会員から一定の評価が与えられていることを喜ん でおります.この結果は,多くのエキスパートがこの研修会講師を 快くお引き受けいただけたことやこれらの講演に対して多くの出席 者を交えて活発かつ有意義な質疑応答がなされたことから得られた のでした.小振りの会場で移動せずに済む落ち着いた雰囲気の集会 には,話し手や聞き手の顔が見えるなど,それなりの良さがあろう と自賛しております. さて,透析医単独を会員とする法人組織としての本会がどの道を 目指してどう機能していくかは,絶えず問われてきた重要な課題の 一つでありました.会長および常任理事諸氏は常にこの命題を意識 しながら,これまでも様々な提案や改革が試みられてきたことは諸 賢がつぶさに記憶されていることでありましょう. 年 1 回の研修会を東京以外の地方開催とすることがこの度決定 いたしましたが,「研修会」に新たな息吹を吹き込み活性化を図る 目論見であり,多くの地方会員諸兄の参画を強く要請するものであ ります.この新しい試みが各地透析医会の組織拡大や活発化に繋が り,ひいては日本透析医会の一層の発展に連動することを願って止 みません.新たな法人体制への移行が慎重に検討されている時期で もあり,組織連帯の強化を強く意識する次第です. 地方開催の第 1 回目は福岡市となりましたが,福岡県透析医会 の全面的なご協力とご支援を得ての開催であり関係各位に深謝いた します.今回採りあげた 6 つの主題に対して,活発な討議が為さ れることを切望いたします. 研修委員会委員長
大 平 整 爾
透析医療における Current Topics 2011(福岡開催)
「主題:日常透析に横たわる困難性への挑戦」
研修会:「年 1 回を地方開催に」に決定
要 旨
血液透析膜のフラックスの向上は,低分子量蛋白の 効果的な除去とともに,血液中へのパイロジェンの流 入により誘発される微細炎症の惹起とつながり,透析 患者において動脈硬化,透析アミロイドーシス,栄養 不良などを進行させる.super flux dialyzer の使用, オンライン HDF,内部濾過促進 HD が通常の治療と なりつつある本邦では,透析液の清浄化は「日常的に 維持・堅持されるべき基準」へと変わりつつあり,こ の基準を達成し維持するためには透析液生成・供給シ ステムの保守管理がきわめて重要となってきている. はじめに 本邦の血液透析における特徴としては,患者におい ては良好な生命予後があげられるが,ハード面におい ては多人数用透析液供給システム(central dialysis fluid delivery system; CDDS)と,きわめてフラック スの高いダイアライザー(super flux filter)の使用が あげられる.CDDS の管理は透析液の清浄化において 重要であり,super flux filter 使用においては透析液の 高い清浄度が必要となる. 本稿では,透析液の水質管理基準と透析液清浄化の 有用性を概説するとともに,透析液生成・供給システ ムのデザインおよび保守管理について,我々の関連施 設の取り組みを紹介する. 1 わが国の現況 本 邦 の 透 析 患 者 数 は 2010 年 12 月 31 日 現 在 で 297,126人であり,30 万人に達せんとしている.また 患者数の増加とともに問題と考えられるのが,その高 齢化である.導入患者の平均年齢は 67.75 歳であり, 60歳以上の比率も全導入症例 37,436 例の 89% にも及 んでいる.このように,慢性透析患者の大部分が高齢 者であり,動脈硬化,栄養状態の低下,ADL の低下 などを合併している状態と考えられる1). 患者の生命予後等についての世界との比較であるが, アメリカ,欧州,日本の三地域での維持透析患者の観 察研究である DOPPS2)において,1 年間の mortality の比較では,日本の患者は 6.6%,US は 21.7%,Euro で 16.7% との報告もあり,日本の透析患者の生命予 後は良好であるといえる. 本邦の血液透析治療の,もう一つの特徴としては使 用されている透析膜にある.2006 年にダイアライザ ーの診療報酬機能区分が行われた.この改定によりダ イアライザーは b2-microglobulinのクリアランスによ り以下のように分類された. Ⅰ型 10 ml/min 未満 Ⅱ型 10 ml/min 以上 30 ml/min 未満 Ⅲ型 30 ml/min 以上 50 ml/min 未満 Ⅳ型 50 ml/min 以上 70 ml/min 未満 Ⅴ型 70 ml/min 以上 この改定後より IV,V 型のダイアライザーを使用
透析医療における Current Topics 2011(福岡開催)
透析液水質管理基準とその保守管理
友 雅司
大分大学医学部附属病院腎臓内科 key words:微細炎症,透析液,エンドトキシン,CDDS,バリデーションDialysis fluid quality for hemodialysis therapy and management Department of nephrology, Oita university hospital
透析液水質管理基準とその保守管理 5 する患者数が増加し,その割合は 2008 年 12 月 31 日
現在で全患者数の 92% まで増加している3).また,こ
れらの super flux filter のみならず,逆濾過減少を積極
的に利用するダイアライザーも出現してきている4).
以上のように,本邦では透析患者の増加,著しい高 齢化が進行している.一方,本邦の血液透析療法の特 徴としては,世界に類をみない super flux dialyzer が 一般的に使用されており,その割合は 90% 以上にの ぼる.また,逆濾過現象を積極的に利用し除去性能の 向上を図るようなダイアライザーも出現してきている. 2 透析と生体適合性 維持血液透析療法において,生体適合性は除去性能 と共にきわめて重要な要素である.血液透析という行 為が生体不適合な要因を内包していることについては, 血液透析中に発熱事象が発生することなどより推測さ れてきており,Henderson,Koch,Shaldon によって interleukin仮説として提唱された5). また,これらの微細炎症は生命予後に大きく影響す る可能性が報告され,「炎症,低栄養,動脈硬化の三 者が関連して生存率を悪化させる」とした MIA 症候 群(malnutrition inflammation and atherosclerosis
syn-drome)という病態概念も提唱されている6).DOPPS において,CRP が 0.1 mg/dl 上昇すると死亡に対する Hazard ratioが 20% 上昇するとの報告もある.また, 微細炎症を改善することにより栄養状態が改善する可 能性を我々も報告7)しており,血液透析中の微細炎症 を抑制することはきわめて重要と思われる. 3 透析液清浄化の必要性 Lonnemannら8)は,膜細孔径の小さな再生セルロー ス膜(CU)と透過性が高いポリスルホン膜(PS),ポ リアミド膜(PA),ポリアクリルニトリル膜(PAN), セルローストリアセテート膜(CTA)を用いて透析液 中のパイロジェンの血液中への流入とサイトカイン誘 導について検討しており,CU 膜において汚染透析液 によるサイトカインの遊離が大きく,特に膜厚の薄い ものほど顕著であることを報告している.さらにパイ ロジェンの透過性は単にフィルターの膜細孔径に依存 するのではなく,膜材料によって異なり,吸着力を有 している合成高分子膜(PS 膜など)では阻止できる ことなどを明らかにしている.この報告より「本邦の 膜機能分類において I 型に属するダイアライザー(大 部分が再生セルロース膜)の使用時において,そのフ ラックスの低さ,膜細孔径の小ささゆえにパイロジェ ンは透過しないのではないか」との認識は改められる べきであり,I 型ダイアライザーのようなフラックス の低いフィルターの使用時においても透析液清浄化は 不可欠と考えるべきである. 透析液の汚染において重要と思われる水棲菌の多く は緑膿菌族であるが,この緑膿菌族からのエンドトキ シンは腸内菌族由来のエンドトキシンに比較してサイ トカイン(IL-b)の誘導能が大きいとの報告も Evans らによりなされている9).パイロジェンとしては,エ ンドトキシンとともに細菌の DNA fragments(oligode-oxynucleotides,6〜20 核酸,1,200〜25,000 Da)があ げられる.この DNA fragments はエンドトキシンよ りはるかに分子量が小さいが,サイトカインを誘導す ることが確認されている10).これらの点からも,透析 液の細菌の検査と無菌化が重要となる. 4 透析液水質基準 2008年,日本透析医学会により透析液水質基準が 策定された(表 1).この透析液の水質基準は世界で 最も厳しい基準となっている.2007 年の日本透析医 学会の統計調査では,ET>0.100 EU/mL の患者群の 死亡に対する hazard ratio が 22〜40% 上昇するとの データが報告されており,標準透析液の基準を超えて 汚染している透析液使用による生命予後不良が確認さ 表 1 透析液水質基準生物学的汚染基準の到達点 ・透析用水 細菌数:100 CFU/mL 未満 ET:0.050 EU/mL 未満
・標準透析液(standard dialysis fluid) 細菌数:100 CFU/mL 未満
ET:0.050 EU/mL 未満
・超純粋透析液(ultra-pure dialysis fluid) 細菌数:0.1 CFU/mL 未満 ET:0.001 EU/mL 未満(測定感度未満) 注) 上記基準のアクションレベル(汚染が基準値より高度に なる傾向を防ぐために,措置を講じる必要がある汚染度) は施設の汚染状況に合わせて設定されるが,一般的には上 限値の 50% とする.
・オンライン補充液用透析液(online prepared substitution fluid) 無菌かつ無発熱物質(無エンドトキシン)
細菌数:10-6CFU/mL未満
ET:0.001 EU/mL 未満(測定感度未満)
れている12).
透析液清浄化の普及の面では透析液清浄化は着実に ひろまっている.2010 年の透析医学会の調査では,
ET濃度測定頻度および透析液細菌検査頻度において,
毎月の施設が 60% 以上,透析液 ET 濃度で 0.001 EU/
mL未満(超純粋透析液,ultra-pure dialysis fluid レベ
ル)の施設が 62%,透析液細菌数 0.1 CFU/mL 未満の 施 設 が 53%,endotoxin retentive filter(ETRF)装 着
コンソール台数においても 74% 以上となっている1). 5 CDDS とバリデーション(Validation) 本邦の透析施設の大部分が CDDS(図 1)を採用し ており,CDDS を用いてオンライン HDF 療法(図 2) が行われている.この CDDS は経済性において有用 であるが,以下のような問題点も存在する. ① CDDS では 異なるメーカーの機器が混在して いる. ② 透析施設に透析液製造所としての役割が求めら れる. 図 1 セントラル透析液供給システム(CDDS) 水処理システム 原液 多人数用透析液 供給装置 ベッドサイド 透析装置 透析装置 透析装置 透析装置 透析装置 透析装置 透析装置 透析装置 透析装置 透析装置 粉末溶解装置 粉末透析液 原 水 プ レ フ ィ ル タ 軟 水 化 装 置 活 性 炭 吸 着 装 置 プ レ フ ィ ル タ R O装 置 プ レ フ ィ ル タ 紫 外 線 殺 菌 灯 R Oタ ン ク U Fフ ィ ル タ 混 合 部 加 湿 部 監 視 部 図 2 オンライン HDF フロー図(多人数用透析液供給方式) 水道水 または 地下水 ① ETRF ETRF 逆浸透装置(RO) 患者監視装置 置換液 ダイアライザー ポンプ 排液 透析装置 透析液 きれいになった 血液 抗凝固剤 血液ポンプ 動脈側 静脈側 透析液 供給装置 A/B溶解装置 ETRF ③ 原水ライン RO水ライン 透析液ライン ETRF ② 補液に用いる透析液は,ETRFを 2 本以上介することが必要であり,ETRF入口は超純粋透析液が担保されて いることが望ましい. 補液ポンプの要件として,流量は前希釈の場合は 18 L/h 以上,後希釈の場合は 8 L/h 程度の性能が必要で ある.また,患者監視装置の静脈圧や透析液圧警報との連動機能があることが望ましい.
透析液水質管理基準とその保守管理 7 ③ 各施設の透析機器管理責任者が製造者(manu-facturer)としての責任を求められる. このような問題点があるため,この CDDS におけ る透析装置および透析液水質管理のために,厚生労働 省によって定められた医療機器安全管理責任者の下に 「透析機器安全管理委員会」 を設置し,透析液製造責 任者として一元的管理を行うことを日本透析医学会で は明文化している.また,前述したように CDDS に おいては異なるメーカーの機器が混在しており,すべ ての機器が同一製造者によって保証されることは困難 である.このような場合において,システムのバリデ ーションによる保証が重要となる. バリデーションとは,システムの適格性,安全性に ついて「確認,保証,批准,承認」という手順を通じ て,そのシステムの適格性を保証し,それによって得 られる製品の品質保証を担保することである.製造シ ステムが保証されればおのずと製品の品質が保証され るとの考えであり,透析液についていえば 「CDDS シ ステムにおける清浄化システムがバリデートされれば, 透析液清浄度が担保される」 こととなる. CDDSは RO システム,透析用水作製装置,透析液 供給装置,透析監視装置等により構成されるが,それ ぞれ別の機器メーカーによって製造されたものを施設 で組み合わせていることも多く,それぞれの機器メー カーによるすべてのシステムの保証を行うことは現実 的には不可能である.したがって,このような CDDS の管理は各々の透析施設の責任となる.各施設では透 析用水から末端透析液までの全工程の管理において各 チェックポイントを設置し,そのポイントの汚染の程 度を把握し,末端透析液を基準値に維持することが要 求される.このようにして,CDDS システムのバリデ ーションが可能となる. バリデーションの概念のもとでは,透析液中の生菌 や ET の測定はその清浄度の結果を確認するというこ とよりも,システムが的確かつ安全に稼働しているか を確認するためのものといえる. 例としては,透析液由来オンライン調整透析液(オ ンライン補充液,online prepared substitution fluid) の基準は「無菌かつ無発熱物質(無エンドトキシン)
(sterile & nonpyrogenic),細菌数 10-6未満,ET 0.001
EU/mL未満(測定感度未満)」となっている.この
なかで,細菌数 10-6未満を実測するとしたならば,
1,000 Lの透析液中に細菌がないことを実測しなけれ
ばならないが,実際には不可能である.透析用原水の 汚 染 状 態 を 確 認 し,ETRF の logarithmic reduction
value(LRV)注)を把握したうえでの適切なポイントへ の ETRF を装着・管理することにより,透析液中の細 菌数 10-6未満が達成可能となる(図 3). 2010年の診療報酬改定において「透析液水質確保 加算:10 点」が認められることとなった. この加算を請求するための施設基準についても ① 関連学会から示されている基準に基づき,水質 管理を適切に実施する ② 透析機器安全管理委員会を設置し,その責任者 として専任の医師または専任の臨床工学技士を 1 名以上配置すること 図 3 CDDS におけるバリデーション 102 102 RO 原水 原液 >3 >4 >4 >6 >4 >6 CDDS 管理概念: 無菌エリアの設定 調製装置 多人数 ETRF ETRF 透析液 細菌 透析用水 製造系 透析液調製 供給系 無菌エリア(1) 無菌エリア(2) 透析液 製造系 エンドトキシン 細菌阻止能 (LRV) 阻止能 (LRV)エンドトキシン 106 105 10−4 10−2 10−10 10−6
と定められた. 2011年には ETRF の管理基準も作成され,このな かでは「ETRF 前で日本透析医学会基準の標準透析液 の水質を前提として,超純粋透析液を得るためには LRVで,ET は 2 以上,細菌は 4 以上の性能を維持す べき」と性能について示されている.その使用期間に おいては「ETRF に流入する透析液が日本透析医学会 の透析液水質基準における,標準透析液を担保できな い場合は,製造業者の推奨する使用期間を遵守する. 水質が維持されている場合,ETRF の使用期間は透析 機器安全管理委員会が定める.」とされており,透析 機器安全管理委員会の重要性が明記されている13). また,ISO 基準では生物学的汚染のみならず,透析 液用水の化学物質の基準についても定められているが, 日本の水道法の水質基準にしたがっている原水(水道 水)を使用する限り問題はないと考えられる.地下水 を使用するさいは,水質の検査のもと,適切な処理を 行うことにより化学物質の基準をクリアすることが必 要となる.われわれの関連施設を例にあげると,地下 水において鉄・マンガンの濃度が高い傾向にあったが, 除鉄,除マンガン装置を設置することにより水質基準 をクリアできた.
注) logarithmic reduction value(LRV):ETRF の 性 能 評 価を示す基準14) ET の阻止能の場合 [エンドトキシン対数低減率] LRV=log 10(負荷水のエンドトキシン濃度/濾液中のエ ンドトキシン濃度)で示される. 6 清浄化の実際 CDDSにおける透析液水質管理概要としては以下 のような手順があげられる. 6-1 目標基準値の設定 CDDSでは上流から下流まで清浄エリアが存在す る.そのエリア内の清浄度を決定し,それを担保する. 6-2 管理法と確認法の決定 各エリアの現状に基づき管理方法(洗浄消毒方法, ETRFの交換頻度)とその確認方法を定める. ① ETRF 交換頻度:製造者の推奨する洗浄・消毒 方法を行う場合には,その推奨期間ごとに交換す る. ② 洗浄・消毒方法 ③ ET,生菌の測定法・測定頻度 ④ サンプリング法 6-3 基準値を超えた場合の対策 各エリアの測定値が基準値のアクションレベルに達 した場合には対策を講ずる必要がある.具体的には, 洗浄消毒方法,RO 膜・ETRF・UF フィルタ等の管理 方法を再検討し,基準値を担保できるまでは定期的な モニターを行う.ここでいうアクションレベルは,汚 染が基準値より高度になる傾向を防ぐため,措置を講 じる必要がある汚染度のことで,上限値の 50% が一 般的である. 6-4 治療継続可否の判断 エリアごとが基準値を担保していなくても最終透析 液が基準レベルを担保しているなら透析治療は続ける ことができる.しかし,最終透析液が基準レベルを下 図 4 透析液作成供給システムの消毒工程 透析液供給ラインの洗浄消毒工程 RO装置と個人用透析装置のRO配管ラインの洗浄消毒工程 AB 粉末溶解装置の洗浄消毒工程 月・水・金 火・木・土 洗浄 洗浄 薬液消毒 (過酢酸) 熱水 (クエン酸) 滞留 滞留 プリセット プリセット 洗浄 洗浄 日 毎回 RO 装置 熱水消毒 洗浄 85℃到達 薬液消毒 (過酢酸) 個人用装置 配管熱水連動 滞留 10 分間 熱水保持 プリセット 冷却 洗浄
透析液水質管理基準とその保守管理 9 回る場合には,透析器機安全管理委員会の決定により, たとえば高透過性ダイアライザ(V 型,IV 型)の使用 を中止するなどの透析方法の変更を考慮する.CDDS に代表されるように透析施設ごとに設備は異なってい るため,画一的に論じることは不可能であるが,透析 機器安全管理委員会が中心となって清浄化に取り組む ことが望ましい. われわれの関連施設の透析液供給システムの管理法 を例示する(図 4). ① 透析液供給ラインにおいては,月・水・金は薬 液(過酢酸)消毒,火・木・土においては熱水 (クエン酸)を用いて行う. ② 日曜日に,逆浸透装置(RO)と個人用透析装置 の RO 配管ラインは熱水消毒(85℃)を行い,AB 粉末溶解装置は薬液(過酢酸)消毒を毎回行う. ③ 生菌・エンドトキシンの測定においては,生菌 測定を月 1 回,R2A 培地と好気性菌用センシメデ ィアにて検査する.ET 測定は月 1 回,トキシノ メーター MT 358 にて測定.測定部位は原水, RO(3 カ所),供給装置,個人用 RO ライン,各 コンソール(3 台毎)とする. おわりに 透析液の水質管理基準と透析液清浄化の有用性を概 説するとともに,透析液生成・供給システムのデザイ ンおよび保守管理について我々の関連施設の取り組み を紹介した.super flux dialyzer の使用,オンライン
HDF等の治療が通常となり,透析液水質基準のもと に水質確保加算までも請求できる本邦において,透析 液の清浄化は必須となってきている.本邦のすべての 施設で,透析液の清浄化が日常的に行われ,その清浄 度が維持されることが期待される. 文 献 1) 日本透析医学会統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療 法の現況(2010 年 12 月 31 日現在).日本透析医学会,2011. 2) Goodkin DA, Bragg-Gresham JL, Koenig KG, et al. :
Associ-ation of comorbid conditions and mortality in hemodialysis pa-tients in Europe, Japan, and the United States : the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study(DOPPS). J Am Soc Nephrol, 14(12); 3270-3277, 2003.
3) 日本透析医学会統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療 法の現況(2008 年 12 月 31 日現在).日本透析医学会,2009. 4) Tomo T, Matsuyama M, Nakata T, et al. : Effect of high fiber
density ratio polysulfone dialyzer on protein removal. Blood Purif, 26(4); 347-353, 2008.
5) Henderson LW, Koch KM, Dinarello CA, et al. : Hemodialy-sis hypotension : the interleukin-1 hypotheHemodialy-sis. Blood Purif, 1; 3-8, 1983.
6) Stenvinkel P : Inflammatory and atherosclerotic interactions in the depleted uremic patient. Blood Purif, 19; 53-61, 2001. 7) Matsuyama K, Tomo T, Kadota J : Acetate-free blood
purifi-cation can impact improved nutritional status in hemodialysis patients. J Artif Organs, 14(2); 112-119, 2011.
8) Lonnemann G, Behme TC, Lenzner B, et al. : Permeability of dialyzer membranes to TNF alpha-inducing substances de-rived from water bacteria. Kidney Int, 42; 61-68, 1992. 9) Evans RC, Holmes CJ : In vitro study of the transfer of
cy-tokine-inductin substances across selected high-flux hemodial-ysis membranes. Blood Purif, 9; 92-101, 1991.
10) Schindler R, Beck W, Dppisch R, et al. : Short bacterial DNA fragments : detection in dialysate and induction of cytokines. J Am Soc Nephrol, 15; 3207-3214, 2004. 11) 秋葉 隆,川西秀樹,峰島三千男,他:透析液水質基準と 血液浄化器性能評価基準 2008.透析会誌,41; 159-167, 2008. 12) 日本透析医学会統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療 法の現況(2007 年 12 月 31 日現在).日本透析医学会,2008. 13) 川西秀樹,政金生人,峰島三千男,他:2011 年版 エンド トキシン捕捉フィルタ(ETRF)管理基準.透析会誌,44(9); 977-990,2011.
14) Tomo T, Shinoda T : Standardization of water purification in the central dialysis fluid delivery system : validation and para-metric method. Blood Purif, 27(Suppl 1); 36-40, 2009.
要 旨 2005年の初版に続いて 2011 年に日本透析医学会よ り改訂バスキュラーアクセスガイドラインが発行され た.診療ガイドラインは 1997 年,Dialysis Outcomes Quality initiative(DOKI)が初めて発行したが,その 後各国でガイドラインが発表された.日本では 2004 年の腎性貧血治療が初であったが,その後,本邦でも 数多くのガイドラインが発表されている.本稿では日 本透析医学会のガイドラインの動向を含め,本邦のバ スキュラーアクセスガイドラインのエッセンスを概説 した. はじめに ガイドラインは指標・指針のことである.米国の National Kidney Foundation(NKF)は,エ ビ デ ン ス に基づいた診療ガイドラインの策定を目指して Dialy-sis Outcomes Quality Initiative(DOQI)を立ち上げ,
1997年に Clinical Practice Guidelines をまとめたが,
バスキュラーアクセス(VA)についてもその中に発 表されている1).その後,カナダ,ヨーロッパ,オー ストラリアでもガイドラインが作成され,経時的に改 編されている.本邦では,バスキュラーアクセスとし ては日本透析医学会から 2005 年に 「慢性血液透析用 VAの作製および修復に関するガイドライン」 として 発表された2).この目標は,だれが行っても均一な治 療が提供され,多くの患者が一定の水準の医療を等し く受けられることにある3, 4). 1 本邦における日本透析医学会のガイドライン 日本透析医学会では,「慢性血液透析用 VA 作製お よび修復に関するガイドライン」 に先立ち 2004 年に 「慢性血液透析患者における腎性貧血治療のガイドラ イン」 が刊行された5).2006 年には 「透析患者におけ る二次性副甲状腺機能治療ガイドライン」6),2008 年 には 「慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイド ライン」7),2009 年に 「腹膜透析ガイドライン」8), 2011年に 「透析患者における心血管合併症の評価と 治療に関するガイドライン」9),「透析患者の C 型ウイ ルス肝炎治療ガイドライン」10),そして 2011 年版 「慢 性血液透析用 VA の作製および修復に関するガイドラ イン」11)が発行された.日本透析医学会ではさらに透 析患者の糖尿病治療ガイドライン,さらに透析導入, 非導入と継続中止のガイドラインを策定中である. 2 本邦における VA の変遷 1998年の日本透析医学会による調査では,自己血 管による内シャントは 91.4% で,ついで人工血管使 用の内シャント(AVG)が 4.8%,さらに動脈表在化 2.5%,外シャント 0.2%,その他 0.1% であった12). その 10 年後の 2008 年の調査では,自己血管による内 シャントは 89.7%,ついで AVG が 7.1%,さらに動脈 表在化 1.8%,そのほか動脈直接穿刺 0.1%,長期植え 込み型静脈カテーテル 0.5%,一時的静脈カテーテル
透析医療における Current Topics 2011(福岡開催)
日本透析医学会改訂バスキュラーアクセス
ガイドラインについて
久木田和丘
札幌北楡病院外科 key words:バスキュラーアクセス,ガイドライン,改訂,2011 年A revised edition of Vascular Access Guideline in the Japanese Society for Dialysis Therapy 2011 Sapporo Hokuyu Hospital
日本透析医学会改訂バスキュラーアクセスガイドラインについて 11 0.5%,単針透析 0.2%,その他 0.1% であった13)(表 1). 自己血管による内シャントは減少し,人工血管は増加 している.今後も長期透析症例の増加や高齢化により, 自己血管の荒廃した症例が増加し,同様の傾向が続く と考えられる. 3 改訂 VA におけるエビデンスと推奨度 2011年のガイドラインでは,エビデンスレベルに加 えて推奨度をつけ,2 本立てとしてその項を評価した. こ れ は,Kidney Disease : Improving Global Outcomes
(KDIGO)14)が Grading of Recommendations,
Assess-ment, Development and Evaluation(GRADE)シ ス テ ムを取り入れエビデンスの評価法としたので,日本透
析医学会エビデンスレベル評価委員会でも検討し15),
それに準じたものである.
すなわち,まず形式によって Randomized Controlled Trial(RCT)を high,観察研究を low,それ以外を
very lowとする.さらに詳細な内容と質あるいはバイ アス等を検討し,1 段階ないし 2 段階の加点あるいは 減点を行って,最終的に A〜D の 4 段階に分けるもの である.したがって,まずは high を仮の A とし,low を C,very low を D としたうえで加点,減点を行って いる.またエビデンスのないものについては expert opinionとして委員会で決定されオピニオン(O)と された.また推奨度については,レベル 1:強と,レ ベル 2:弱に分けるが,臨床的な重要性が expert judg-mentによって認められればエビデンスレベルが弱く ても強い推奨を行えることとした.またその逆もある. これにより推奨度にエビデンスレベルを併記すること とした(表 2). 4 改訂 VA 改訂 VA ではより時系列的に構成することとなった. その結果,以下の構成11)となった(表 3). 第 1 章 VA に関わるインフォームドコンセント 第 2 章 血液透析導入期における VA 作製の基本と 時期 第 3 章 VA の作製と術前・術後管理 ① 作製前の全身・局所・血管の評価(新規作製 VA) ② 自己血管内シャント(AVF)の作製と周術期 管理 ③ AVG の作製と周術期管理 ④ 動脈表在化の作製と周術期管理 ⑤ カテーテルの挿入法と周術期管理 第 4 章 VA の日常管理 ① 穿刺法 ② 感染予防(AVF,AVG) ③ サーベイランス・モニタリング ④ 心機能とアクセス ⑤ カテーテルの管理 ⑥ 患者教育 表 1 本邦の VA の変遷 AVF AVG 表在化動脈 直接穿刺動脈 長期植え込み型静脈カ テーテル 一時的静 脈カテー テル 単針透析 外 シャント その他 1998年 91.4% 4.8% 2.5% ― ― ― ― 0.2% 1.1% 2008年 89.7% 7.1% 1.8% 0.1% 0.5% 0.5% 0.2% ― 0.1% 日本透析医学会統計調査委員会 表 2 KDIGO エビデンスレベル評価法 推奨度 エビデンスの質 強 度 記述法 レベル 1:強 …を推奨する A 高い レベル 2:弱 …が望ましい B 中等度 C 低い D もっとも低い 実際の臨床上はエビデンスのない事項に関して判断が求めら れる.その際は,グレードなしの expert opinion を付けてよ い.しかし専門家の 2/3 以上のコンセンサスを得るものの み採用する. 表 3 2011 年のガイドラインの項目 第 1 章 バスキュラーアクセスに関わるインフォームド コンセント 第 2 章 血液透析導入期におけるバスキュラーアクセス 作製の基本と時期 第 3 章 VA 作製と術前・術後管理 第 4 章 VA の日常管理 第 5 章 VA トラブルの管理 第 6 章 VA の形態と罹病率および死亡率 第 7 章 補遺
第 5 章 VA トラブルの管理 ① 狭窄・閉塞 ② 瘤 ③ 静脈高血圧症 ④ スチール症候群 ⑤ 過剰血流 ⑥ 感染 ⑦ 血清腫 ⑧ アクセス関連疼痛 ⑨ カテーテルトラブル 第 6 章 VA の形態と罹病率および死亡率 第 7 章 補遺 VA の開存率 5 各章のエッセンス [第 1 章] 第 1 章は患者家族に十分な説明を行って VA 作製に 臨むものである. [第 2 章] 第 2 章は VA アクセス作製の基本と時期として,以 前は血清クレアチニンの値を目安にしていたが,今回 透析導入を考慮する VA 作製時期は eGFR 15 以下とし た. [第 3 章] 第 3 章 VA 作製と術前・術後管理の①では,術前評 価に超音波による検査を望ましいとした.②ではタバ チュール内シャントと標準内シャントの優劣について はエビデンスが低いため結論がでなかった.③ではグ ラシルを材質の polyolefin-elastomer-polyester(PEP) と変更した.本邦で使用されている人工血管は expand-ed-polytetrafluoroethylene(ePTFE)および polyure-thane(PU)の 3 種類であり,各々特徴がある.④の 動脈表在化は,内シャント作製不能例や心予備能低下 例に適応がある.⑤では,カテーテルの名称を保険収 載の記載との整合性を図り,「非カフ型カテーテル」 と「カフ型カテーテル」に分類した.長期留置の定義 は数カ月とした. [第 4 章] 第 4 章の①にボタンホール穿刺を加え,エコーガイ ド下穿刺を勧める旨を解説に入れた.②感染予防では MRSA保菌者については AVF ではバクトロバン軟膏, AVGについては軟膏に加えて菌の感受性に合った抗 生物質の予防的投与が望ましいとした.③では視診・ 触診に加え,施設の機材に応じた VA の観察が必要と された.④では 2005 年度版の「心機能」を「心予備 能」と変更し,心予備能を考慮した VA が必要とした. ⑤非カフ型カテーテルの留置期間は 3 週間を超えない ようにするべきとした.⑥患者教育では透析医療は患 者・家族および透析スタッフによる相補的な協働作業 であるとした. [第 5 章] 第 5 章ではバスキュラーアクセストラブルを 9 項目 あげている(表 4).①の経皮的血管形成術(PTA) については,3 カ月以上の開存率が望ましいとした. ②瘤には,経過観察で良いものから緊急手術が必要な ものまである.破裂の危険性がある瘤は緊急手術の適 応である.③静脈高血圧症は,AVF や AVG 造設肢の 局所的または肢全体に生じるシャント血流の静脈環流 不全症状のことであり,インターベンションあるいは 外科的治療が必要である.場合によってはその肢の VAを閉鎖し対側の新たな VA 作製が必要となる.④ スチール症候群は,VA 作製により発症する末梢循環 障害である.時にその VA の閉鎖が必要となる.脳血 流低下によるめまい症状を呈する鎖骨下動脈スチール 症候群もあり注意を要する.⑤過剰血流では,心予備 能を重視しなければならない.シャント血流量は必要 最低限でよい.⑥では感染に対する注意が必要とした. 特に人工血管では敗血症になることを注意しなければ ならない.⑦血清腫は,ePTFE グラフトの 1.7% から 4.2% に生じる合併症である.⑧アクセス関連疼痛は, 透析中,その他でフローチャートを示した.⑨カテー テルトラブルは屈曲,破断,回路接続部破損,閉塞な どがあり,適切なレスキューが必要である. [第 6 章] 第 6 章で VA の形態により,VA 機能異常の発現頻度, また 1 年生存率も異なることが述べられている. 表 4 第 5 章 VA トラブルの管理 ① 狭窄・閉塞 ② 瘤 ③ 静脈高血圧症 ④ スティール症候群 ⑤ 過剰血流 ⑥ 感染 ⑦ 血清腫 ⑧ アクセス関連痛 ⑨ カテーテルトラブル
日本透析医学会改訂バスキュラーアクセスガイドラインについて 13 [第 7 章] 第 7 章では VA の開存率をあげ,若年の男性が最も 開存率が良い. おわりに 2011年版 「慢性血液透析用バスキュラーアクセス の作製および修復に関するガイドライン」 の概略につ いて述べた.VA は血液透析には必須であり,待った なしで臨床に臨む必要がある.VA ガイドラインを一 つの道しるべとして,VA の知識を持ち技術的にも向 上する必要があると考える. 文 献
1) National Kidney Foundation : DOKI clinical practice guide-lines for vascular access. Am J Kidney Dis, 30(suppl 3); s150- 191, 1997. 2) 日本透析医学会:慢性血液透析用バスキュラーアクセスの 作製および修復に関するガイドライン.透析会誌,38; 1491-1551,2005. 3) 佐中 孜:ガイドラインと匙加減.腎と透析,56; 582- 583,2004. 4) 横山啓太郎:パンドラの箱.臨牀透析,24; 1591-1592, 2008. 5) 日本透析医学会:慢性血液透析患者における腎性貧血治療 のガイドライン.透析会誌,37; 1737-1763,2004. 6) 日本透析医学会:透析患者における二次性副甲状腺機能治 療ガイドライン.透析会誌,39; 1435-1455,2006. 7) 日本透析医学会:慢性腎臓病患者における腎性貧血治療の ガイドライン.透析会誌,41; 661-716,2008. 8) 日本透析医学会:腹膜透析ガイドライン.透析会誌,42; 285-315,2009. 9) 日本透析医学会:透析患者における心血管合併症の評価と 治療に関するガイドライン.透析会誌,44; 339-425,2011. 10) 日本透析医学会:慢性透析患者の C 型ウイルス肝炎治療 ガイドライン.透析会誌,44; 481-531,2011. 11) 日本透析医学会:2011 年版 「慢性血液透析用バスキュラ ーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」.透析 会誌,44; 857-937,2011. 12) 日本透析医学会統計調査委員会編:わが国の慢性透析療法 の現況(1998 年 12 月 31 日現在).日本透析医学会,1999. 13) 日本透析医学会統計調査委員会編:わが国の慢性透析療法 の現況(2008 年 12 月 31 日現在).日本透析医学会,2009. 14) Uhlig K, Maclead A, Craig J, et al. : Grading evidence and
recommendations for clinical practice guidelines in nephrolo-gy. A position statement from Kidney Improving Global Out-comes (KDIGO). Kidney Int, 70; 2058-2065, 2006.
15) 深川雅史,塚本雄介,椿原美治,他:エビデンスレベル評 価と推奨度とについて.透析会誌,43; 347-349,2010.
要 旨 長時間透析とは,週 3 回・1 回 6 時間以上(週合計 18時間以上),または,週 4 回・1 回 5 時間以上(隔 日透析では週合計 17.5 時間以上)の透析治療をいう. 著者は,「週 3 回・1 回 6〜8 時間の長時間透析と K 以 外制限のない限定自由食」治療法(以下,本法)を実 施しており,食事制限を原則とする他の長時間透析治 療法とは異なる.本法のメリットは,①高血圧の正常 化,②栄養失調の改善,一方,デメリットは,①肥満 傾向,②治療拘束時間の延長による社会復帰の制約で ある.健康家族と同じ食事(食塩)を摂取しても,1 回 6〜8 時間の長時間透析を実施する限り,高血圧を 起こさないのは何故か? 「食塩感受性(SS)と食塩 抵抗性 (n-SS)」に着目し,透析患者高血圧発症のメ カニズムの解明を試みた. はじめに 1960年 Scribner らが,シアトルで維持血液透析治療 を世界で初めて実施し,試行錯誤の末,週 3 回・1 回 8時間透析を維持血液透析治療法とした.週 3 回・1 回 8 時間の長時間透析は,1968 年から Tassin 透析セ ンター(仏)へ引き継がれた.日本で本格的に週 3 回・1 回 6 時間以上の長時間透析を実施したのは, 1988年,佐賀県伊万里市の前田利朗で,その後,北 海道岩見沢市の千葉栄市,福島県いわき市の金田浩, 兵庫県芦屋市の坂井瑠実がこれに続いた.2005 年 12 月に福島県いわき市で,これら 4 名が第 1 回長時間透 析研究会を開催した. 日本における 2010 年 12 月 31 日現在の年別死亡原因 の推移を見ると,心不全>感染症>悪性腫瘍>脳血管 障害>心筋梗塞の順番となっている.心不全,脳血管 障害および心筋梗塞は cardiovascular disease(CVD) と呼ばれ,主として高血圧が原因である.一方,感染 症は,免疫能の低下・栄養失調が主たる原因と考えら れる.以上から,高血圧と栄養失調を改善すれば,透 析患者の生命予後を大幅に改善することが可能になる. 著者は,「高血圧の正常化と栄養失調の改善を同時に 達成すること」を目的として,「1 回 6〜8 時間の長時 間透析と K 以外制限のない限定自由食」治療法(本 法)を選択した.
1992年,Lyon 近郊の Tassin 透析センターの
Char-raらが,445 名の透析患者に「週 3 回・1 回 8 時間の
長時間透析と食塩 1 日 5 g
の食塩制限食治療法(Tas-sin法)」を実施し Kidney Int 誌に報告した1).それに
よると,Tassin 法により,透析導入数カ月後に 445 名 中 98% の患者が降圧薬を中止できた.Charra らは, Tassin法による降圧効果は,「長時間透析による十分 な ECV(extracellular volume; 細胞外液)の正常化」 の結果であると主張した.一方,著者は,「透析時間 の延長による降圧効果」が ECV の正常化よりも重要 であると考えた. 1998年,Charra らは,同一施設・ほぼ同一食塩と 水分摂取量(透析間体重増加量)および Kt/V を有す
透析医療における Current Topics 2011(福岡開催)
長時間透析のメリットとデメリット
金田 浩
医療法人かもめクリニック key words:長時間透析,限定自由食,高血圧,栄養失調,肥満傾向,深夜長時間透析Merit and demerit of long hemodialysis Kamome Clinic
長時間透析のメリットとデメリット 15 る同一患者を用い,先ず,124 名の患者に透析時間と して「5 時間から 8 時間への 3 時間延長」を 1 年間実 施した.その後,患者の事情で,同一患者の 49 名に 「8 時間から 5 時間への 3 時間短縮」を 1 年間実施し た.この二つの研究における各 1 年間の MAP(mean arterial pressure; 平均血圧)と透析後体重の推移を Am J Kidney Dis誌に報告(図 1)した2).「3 時間延長 (8 時間透析)」では高血圧正常化と体重増加を,「3 時 間短縮(5 時間透析)」では高血圧と体重減少を認め たことから,透析時間が透析患者の「高血圧と栄養管 理」の決定因子であると考えた. これら Charra らの報告から,著者は次の仮説を導 いた. 仮説 1 透析時間の延長が「高血圧と栄養失調」を 同時に改善する. 仮説 2 透析時間の延長による降圧効果は,食塩負 荷による昇圧効果を凌駕する. この二つの仮説を実証するため,1998 年から「1 回 6〜8 時間の長時間透析と K 以外制限のない限定自由 食」治療法(本法)を実践し,臨床効果を検討した. 1 メリット 本法のメリットは高血圧と栄養失調の正常化である. また本法の手技の特徴は,食事制限の大幅な緩和と透 析時間の延長,および低血液流量(80〜180 ml/min) の三つである. 1-1 症例の呈示 ① 症例の臨床経過 51歳男性(慢性腎炎)で,4 時間×3 回/週の標準 透析を 8 カ月間実施した後当院へ転院した. ② 血圧管理 6〜8 時間の長時間透析を約 9 年間実施し,転院 3 年以後から 8 時間透析を実施している.透析時間の延 長に一致して,降圧薬は 5 剤から徐々に減量し 8 時間 透析になり全部中止した.MAP も透析時間の延長に 一致して 120 mmHg から 100 mmHg 前後へと低下・ 正常化した.食塩摂取量は 1 日 10〜13 g であった. ③ 透析後体重 62㎏ から 80 ㎏ へと 9 年間に 18 ㎏ 回復した(30 歳 代の健康時の体重は 82 ㎏,身長 178 cm).BMI(body mass index; 体格指数)は透析後,体重の増加に一致 して増大した. ④ 栄養と水分管理 水分管理としての HANP の推移は興味深い.著明な 透析間体重増加量(4〜6 ㎏)にもかかわらず,HANP は全経過を通して 40 pg/ml 以下,大部分が 20 pg/ml 前後であった.この成績から,透析間体重増加量の大 部分の水分は筋肉内に取り込まれ,ECV の増加と高 血圧に関与しないことが推測された. 1-2 当院の 12 年間の死亡率と死因 1999〜2010 年の 12 年間に本法を実施した患者は, 延べ 2,763 名で,死亡は 133 名であった.従って当院 の平均死亡率は 4.5% で,全国平均(9.7%)の 1/2 以 下であった.また,この 12 年間における死亡患者 133名の死因の内訳は,心不全が 0.8% と低く,その 他が 58.6% を占めていた.その他の約 1/2 はカルシ フィラキシスで,この一部に心不全が含まれている. 1-3 高血圧正常化のメカニズム 自由食(むしろ,食塩負荷)が,なぜ,高血圧を起 こさないのか? この問に対する考察を以下に述べる. ① 食塩感受性(SS)と体液感受性(BFS)の測定 方法(図 2)3) SSと BFS の間に高い正の相関が見られ,透析患者 の SS として BFS は有用である. ② 1960 年,Dahl らのネズミを用いた実験(図 3)4) SD ratを用い,9% の高食塩を負荷して食塩感受性 (S)と食塩抵抗性(R)同士の同種継代選抜飼育を行 った.S 群同士と R 群同士の交配により,3 世代以後 に純粋の S rat と R rat を作ることができた.このよ 図 1 透析時間と血圧および栄養
うに,高食塩負荷により高血圧を起こす S rat と高血 圧を起こさない R rat の作成に成功した.
③ 1974 年,Dahl らの,「S rat と R rat の相互腎移
植」の血圧に対する効果(図 4)5)
Dahlらは,腎臓が「S rat と R rat」の決定因子であ
ることを証明するため相互の腎移植を行った.R rat の左腎臓を摘出し,S rat の左腎臓をドナーとして R
ratの左側腎摘出部に移植する.その後,R rat の右腎
臓を摘出し,ドナー腎臓(S rat)の 1 腎のみとした. その結果,S rat の腎臓を移植した R rat の血圧は S rat の特性を帯び上昇した.逆に,S rat に R rat の腎臓を 移植すると,血圧は R rat の特性を帯び低下した.す なわち,S rat と R rat の血圧特性は腎臓にその原因が あることを証明した. ④ 二つの高血圧を起こす「食塩感受性・内因性循 環物質(食塩感受性尿毒素)」の証明(図 5) まず 1961 年に,de Wardener らが「食塩感受性・ 内因性循環物質」として「Na 利尿ホルモン」の存在 を予告し6),他の研究者が証明した.次に 1992 年, Vallanceが「食塩感受性・内因性循環物質」として ADMA(asymmetric dimethyl-L-arginine)を発見した7).
⑤ 1980 年,Bartter らの「EH(essential hyperten-sion; 本態性高血圧)患者における SS と n-SS」 の成績の比較(図 6)8) 18名の EH 患者に,食塩 1 日 0.5 g(7 日間)から 15.0 g(7 日間)へ増量した.15.0 g 負荷後の血圧上 昇群(SS)は 9 名,不変群(n-SS)は 9 名で,その割 合は 1 対 1 であった. 図 3 Dahl のネズミの実験
Selective inbreeding in SD rats ―高食塩食(9%)を負荷―
図 4 S rat と R rat の相互腎移植の血圧に対する効果
図 6 食塩(水)感受性(SS)の成績(1980 年) 図 2 食塩感受性(SS)≒体液感受性(BFS)の算出方法 図 5 食塩感受性・内因性循環物質の存在
長時間透析のメリットとデメリット 17 ⑥ 1982 年,Dorhout-Mees らの,「腎機能と SS or
n-SS」の成績(図 7)9)
腎機能障害を有する 22 名の患者に食塩負荷を行い
SS indexを求めた.SS index は Ccr<30 ml/min で指
数関数的に上昇した. ⑦ 1990 年,Omae らの「透析治療と SS or n-SS」 の成績(図 8)3) 56名において透析導入直後 1 週と 3 週の 2 点で BFS を求めた.血液透析は 5 時間×3 回/週であった.3 週 において,82% の患者が n-SS,18% が SS であった. ⑧ 透析時間と降圧薬非服用率 透析時間の延長に一致して,降圧薬非服用率は高い 正の相関を示し増大した. ⑨ 本法による高血圧正常化と SS,n-SS の関係 図 9に著者の推測を示した. 2 デメリット 本法のデメリットは,肥満と治療拘束時間の延長に より社会復帰への制約が生ずることである.またその 対策として,深夜長時間透析による完全社会復帰への 支援が必要になることである. 肥満については,BMI と死亡の相対危険度は,透 析患者では健常者と真逆の reverse epidemiology を示 した(図 10)10). 治療拘束時間の延長による社会復帰の制約への対策 として,深夜長時間透析を当院では 3.2 年間実施して 図 7 腎機能と SS・n-SS の成績(1982 年) (Koohman HA : Hypertension, 4(2); 190-197, 1982) 図 8 透析治療と SS・n-SS の成績(1990 年) 図 9 本法による高血圧正常化と SS,n-SS の関係(推測) 図 10 BMI と死亡の相対危険度 血液透析患者と健常者の比較.
(Kalantar-Zadeh, Kopple JD : Kidney Int, 63; 793, 2003)
いる. 深夜長時間透析の適応条件を図 11に,深夜長時間 透析の透析条件を図 12に示す.また深夜長時間透析 のタイムスケジュールと監視方法は図 13である. おわりに 週 3 回・1 回 6〜8 時間の長時間透析を行う限り, 健常者と同じ食事を摂取しても,高血圧と栄養失調は ほぼ同時に正常化した.腎機能正常の EH 患者では, 食塩負荷が高血圧を起こす患者(食塩感受性)と起こ さない患者(食塩抵抗性)が半々であった.腎機能が Ccr<30 ml/min になると食塩負荷により指数関数的 に食塩感受性指数が増大し,ほぼ例外なく降圧薬を必 要とするような高血圧状態となる.透析患者では,透 析時間が延長すればする程食塩摂取量に関係なく,高 血圧が低下・正常化した. 食塩負荷により高血圧を起こす性質を食塩感受性, 高血圧を起こさない性質を食塩抵抗性という.食塩感 受性と食塩抵抗性は,①腎機能正常者では腎臓,②腎 機能障害患者では Ccr,③透析患者では透析時間,が 決定因子となる. 結論として,透析患者の高血圧を正常化する鍵は, 食塩制限や水分制限に励むことではなく,透析時間を 延長し食塩感受性尿毒素を除くことにより,患者の “食塩に対する血圧反応性” を「食塩感受性から食塩 抵抗性」へと転換する事である. 文 献
1) Charra B, Calemard E, Ruffet M, et al. : Survival as an index of adequacy of dialysis. Kidney Int, 41; 1286-1291, 1992. 2) Charra B, Laurent G, Chazot C, et al. : Hemodialysis trends
in time, 1989 to 1998, independent of dose and outcome. Am J Kidney Dis, 32; 63-70, 1998.
3) Matsuoka H, Kimura G, Sanai T, et al. : Normalization of in-creased sodium sensitivity by maintenance hemodialysis AJH, 3; 628-631, 1990.
4) Dahl Lk and Schackow E : Effects of chronic excess salt in-gestion : experimental hypertension in the rat. Canad Med Ass J, 90; 155-160, 1964.
5) Dahl LK, Heine M and Thompson K : Genetic influence of the kidneys on blood pressure : Evidence from chronic renal homegrafts in rats with opposite predispositions to hyperten-sion. Circ Res, 34; 94-101, 1974.
6) de Wardener HE, Mills IH, Clapham WF et al. : Studies on the efferent mechanism of the sodium diuresis which follows the administration of intravenous saline in the dog. Clin Sci, 21; 249-258, 1961.
7) Vallance P, Leone A, Calver A, et al. : Accumulation of an en-dogenous inhibitor of nitric oxide synthesis in chronic renal failure. Lancet, 339; 572-575, 1992.
8) Fujita T, Henry WL, Bartter FC, et al. : Factors influencing blood pressure in salt-sensitive patients with hypertension. Am J Med, 69; 334-344, 1980.
9) Koomans HE, Roos JC, Boer P. et. al. : Salt sensitivity of blood pressure in chronic renal failure. : Evidence for renal control of body fluid distribution in man. Hypertension, 4; 190-197, 1982.
10) Kalantar-Zadeh K, Block G, Humphreys MH, et al. : Reverse epidemiology of cardiovascular risk factors in maintenance di-alysis patients. Kidney Int, 61; 793-808, 2003.
図 13 深夜長時間透析のタイムスケジュールと監視方法 図 12 深夜長時間透析の透析条件