下する現象は,小胞体ストレス改善薬(20
n M
salubri-nal)によって URP
活性化を抑制することで改善した(図
1) .
これらのことから,小胞体ストレスシグナル経路は,
HepG 2
において誘導性EPO
産生経路の活性化に対して抑制的に働くことが示された.
3-2 EPO 産生経路(低酸素応答経路)転写因子 HIF に 対する小胞体ストレスの影響
上記の小胞体ストレスによる
EPO
産生低下の機序 として,EPO産生経路の主要転写因子であるHIF
の 転写活性へのURP
経路の抑制的関与が推測される.よって,UPR活性化状態での
HIF
の核内移行や,HIF 転写活性への変化を検討した.まず,小胞体ストレス誘導存在下での
HIF
の核内 蓄積量はいずれのHIF
サブユニットHIF-1 a , HIF-2 a
においても変化は認められず,CoCl2による両HIF
サ ブユニットの核内移行の亢進は小胞体ストレスによっ て影響されなかった.それと同様に,UPR活性化は 核内におけるHIF
の転写活性(transactivation)に変 化を与えず,具体的にEPO
以外のHIF
標的遺伝子,た と え ば
VEGF
やGLUT-1
な ど のmRNA
の 発 現 はUPR
活性化条件下でも抑制されることはなかった.さらに,レポーターアッセイによる
HIF
転写活性の 評価によっても,低酸素やCoCl
2刺激で亢進するHIF
転写活性は小胞体ストレス存在下,つまりUPR
活性 化によって変化しないことが確認された(図 2).
以上のことから,UPRの活性化は,HIFの核内移行 や
HIF
自身の転写活性には影響を及ぼさないことや,小胞体ストレスによる
EPO
転写活性抑制は,HIFの 転写活性抑制によるものでないことが明らかにされた.このことより,小胞体ストレスによる
EPO
産生能低図 1 小胞体ストレスによる誘導性 EPO 産生経路の抑制
EPO産生細胞HepG 2は,CoCl2刺激(100nM,16時間)による低酸素応答経路(HIF 経路)活性化によってEPO mRNA発現が亢進する.しかし,小胞体ストレス誘導剤(4 ng/ml tunicamycin; TUN,50 ng/ml tapsigargin; THG)刺激下では,URP活性化(GRP 78 mRNA発現量にて評価,右図)に伴ってEPO mRNA発現が有意に抑制される.さらに小 胞体ストレスによるEPO産生低下は,小胞体ストレス改善薬(20nM salubrinal; SAL)
によってURP活性化を抑制することで改善した.*:p<0.05 v.s. untreated control group,
#:p<0.05 v.s. CoCl2-treated group,$:p<0.05 v.s. TUN or THG-treated group EPO/actin mRNA GRP 78/actin mRNA 2.0
1.5 1.0 0.5 0
12.0 9.0 6.0 3.0
TUN+SAL 0 小胞体ストレス (−)(−) TUN THG
未処理 CoCl2
TUN+SAL
(−)(−) TUN THG 未処理 CoCl2
下のメカニズムは,少なくとも
UPR
経路によるHIF
への直接的な転写抑制作用ではなく,別の経路にてEPO
産生経路を抑制していることが示唆された.3-3 EPO 産生経路の制御に関与する UPR 分子の同定 これまでの成果によって,小胞体ストレスは
HIF
活 性化で誘導されるEPO mRNA
発現亢進を抑制するこ とが明らかにされた.それによって,小胞体ストレス シグナルUPR
がEPO
産生系に作用することが示唆さ れた.そこで,URP経路をつかさどるどの分子がこの 現象に関与しているのかを,URP分子群高発現HepG 2
における誘導性のEPO
産生能の変化にて検討した.URP
経路は,主にIRE 1,ATF 4,ATF 6
などの転写 因子によって制御されているので,それら分子を高発現させた
HepG 2
における誘導性EPO
産生能の変化を検討した.
その結果,ATF 4を高発現された
HepG 2
でのみ,低酸素や
CoCl
2で誘導されるEPO mRNA
の発現量が 抑制されることが示された(小胞体ストレス下低酸素 刺激;51.0+4.3% 抑制,小胞体ストレス下 CoCl
2;43.2+4.1% 抑制,p<0.05 v.s. 小胞体ストレス誘導剤
未処理対照群)
.ちなみに ATF 4
高発現はHepG 2
の 細胞生存率やtransfection
後の細胞増殖(48時間以 内)には影響を及ぼさなかった(いずれの群において も細胞生存率は90% 以上,p>0.05) .
よって,小胞体ストレス誘導剤処理によって
EPO
産生経路が抑制される機序には,ストレスシグナルUPR
経路の転写因子ATF 4
が関与することが示され た.3-4 EPO 遺伝子エンハンサー領域への UPR 転写因子 ATF 4 の関与
低酸素や
CoCl
2刺激によるEPO
誘導産生経路へのATF 4
の関与を詳細に検討するために,まずATF 4
高 発現がHIF
の核内移行や転写活性に影響を及ぼすか 否かを検討した.その結果,ATF 4はHIF
活性に変 化を及ぼさなかった.具体的に,低酸素やCoCl
2刺激 によるHIF
の核内蓄積量はATF 4
発現量に依存しな いし,EPO以外のHIF
標的遺伝子VEGF
やGLUT-1
の発現にも影響を及ぼさなかった.これは,小胞体ス トレス誘導剤で刺激をした時に見られる現象と同じで あった.図 2 小胞体ストレスによる EPO 遺伝子エンハンサー活性の抑制
7回連結させたHIF結合部位(HRE×7),あるいはEPO遺伝子3末端エンハンサー領 域(Enh)をLuciferase(Luc)遺伝子下流に結合させたレポーターベクター(上段図)
をHepG 2にtransfectし,24時間後にCoCl2や小胞体ストレス刺激を加えた.そのさいの
HRE,およびEPO遺伝子エンハンサー活性の変動をレポーター活性にて検討した.その
結果,HIFの転写活性はCoCl2刺激で亢進し,それは小胞体ストレス条件下,つまり
tu-nicamycin(TUN,4ng/ml)刺激,あるいはUPR転写因子ATF 4高発現によって変化を
認めなかった(左図).しかし興味深いことに,EPO遺伝子エンハンサー活性は小胞体ス トレス条件下で著しく低下した.この過剰小胞体ストレスシグナルによるEPO産生低下 は,ATF 4を介したエンハンサー活性の低下に起因することが示された(右図).*:p<
0.05 v.s. untreated control group,#:p<0.05 v.s. CoCl2-treated group.
3.0
2.0
1.0
2.0 1.5 1.0 0.5 HRE-Luc
HRE×7
Luc Luc
EPO 3 enhancer-Luc Enh
レポーター活性 (変化率)
CoCl2 小胞体ストレス(−) (−) TUN ATF 4
未処理 CoCl2
(−) (−) TUN ATF 4 未処理
小胞体ストレスと慢性腎臓病 195
さらに,HREを用いたレポーターアッセイにおい ても,ATF 4高発現は
HIF
の転写活性を低下させるこ とはなかった(図2) .しかし興味あることに,誘導
性EPO
産生経路に重要なEPO
遺伝子3
末端領域に位 置するエンハンサー領域を用いたレポーターアッセイ によって,EPOエンハンサー活性に対するATF 4
の 関与を検討したところ,ATF 4高発現は低酸素やCoCl
2で誘導されるEPO
エンハンサー活性を著明に抑 制することが明らかにされた(図2) .さらに Transfac
data base
を用いた転写因子結合部位予測解析で,その
EPO
エンハンサー領域内にはATF 4
結合部位と思 われるモチーフが確認され,EPOエンハンサーにATF 4
が結合する可能性が見いだされた.一連の成果より,小胞体ストレスによる
EPO
産生 経路の抑制メカニズムとして,ATF 4は直接HIF
の 活性(核移行やtransactivation)には影響を及ぼさな
いが,EPO遺伝子エンハンサー領域に結合して,そ のエンハンサー活性を低下させ,EPO遺伝子の低酸 素応答性を破綻させる可能性が示唆された.3-5 ラット,マウスにおける CoCl2による腎臓・肝臓 EPO 産生誘導に対する小胞体ストレスの影響 ラット,あるいはマウスは
CoCl
2(60 mg/kg)皮下 注 射24
時 間 後 に,腎 臓 お よ び 肝 臓 に お い てEPO
mRNA
発現亢進,および血清EPO
レベルが上昇する.このさい,CoCl2と同時に腎臓や肝臓に形態的,機能 的障害を与えない低濃度の
tunicamycin(0.3 mg/kg)
を腹腔内投与すると,小胞体ストレスシグナルが亢進
(GRP 78 mRNA発 現)す る 一 方 で,両 臓 器 の
EPO mRNA
発現が著しく抑制された(図 3).同時に,血清 EPO
レベルもCoCl
2単独投与で認められる血中濃度 上昇が小胞体ストレス存在下では抑制された(CoCl2単 独 投 与:4,890 pg/ml,CoCl2+tunicamycin同 時 投 与:175 pg/ml,p<0.05)
.このときの腎臓における
小胞体ストレスシグナルの活性化程度を,抗GRP 78
抗体を用いた免疫組織染色にて検討したところ,腎臓 のEPO
産生細胞が局在する尿細管間質の細胞におい て有意に亢進していることが確認された.これらの
in vivo
の成果はin vitro
の実験結果を裏付 けるもので,おそらく腎臓EPO
産生細胞において小 胞体ストレス,つまりストレスシグナルUPR
が亢進 すると,CoCl2応答性のEPO
産生誘導が著明に低下 すると考えられる.4 考 察
これまでの我々を含めた国内外の研究から,小胞体 ストレスが腎臓病と深く関わることがわかってきた.
特に糸球体・尿細管障害の表現型,たとえば蛋白尿,
図 3 小胞体ストレスによるラット腎臓,肝臓の EPO 発現量の低下
ラットにCoCl2(HIF安定化剤,60 mg/kg)を投与すると,腎臓や肝臓でEPO mRNA 発現が亢進する.しかし同時に小胞体ストレス誘導剤tunicamycin(0.3 mg/kg)を投与し,
腎臓や肝臓に機能障害を与えない程度の小胞体ストレスシグナルを惹起させると,UPR 経路の活性化(GRP 78 mRNAの発現亢進)に伴って,両臓器のEPO mRNA発現が著しく 抑制された.*:p<0.05 v.s. untreated control group,#:p<0.05 v.s. CoCl2-treated group.
25 20 15 10
0 5
40
30
20
10
0
mRNA発現変動(actin補正)
小胞体ストレス状態
(TUN 投与)
CoCl2
小胞体ストレス状態
(TUN 投与)
GRP 78 EPO
腎臓 肝臓
− + + − − + + −