要 旨
症例は
67
歳の男性で,47歳より血液透析を行って いた.アクセスが閉塞したため,再建が必要であった.再建予定部位にガングリオンがあり,アクセス再建と ガングリオン切除を同時に行った症例を経験したので 報告する.
1 緒 言
ganglion(以下ガングリオン)は弾性硬の球状腫瘤
として触知される原因不明の嚢胞性疾患である.関節 包,腱,腱膜,腱鞘,半月板などより発生し,手足の 背側面に好発する1).80% は手関節周囲より発生して
いる.一方,AVF(以下シャント)に使用される血管は,
多くが前腕の外内側,屈側に存在し,その周辺にはガ ングリオンの発生は少ない.そのためシャント手術に ガングリオンが併存する症例の処理は定まっていない.
今回は同時手術により対処した症例を経験したので報 告する.
2 症例紹介
2-1 病歴および病状 症例は
67
歳,男性.主訴:シャント閉塞
既往歴:47歳にて嚢胞腎のために血液透析を導入
し,その後,左上肢に
2
回,右上肢に2
回のシャ ント手術が施行された.患者は,右上肢の
2
回目に作製されたシャントが閉 塞したため受診した.前腕の中央部で,橈骨動脈と橈側皮静脈が吻合され ていたが,橈側皮静脈は肘下まで硬化し閉塞していた.
尺骨動脈は触れず,吻合,穿刺可能な尺側皮静脈は見 当たらなかった.肘窩で橈側尺側静脈は開存していた
(図 1)
.前腕でシャントの再建は不可能と判断し,肘
窩での再建を計画した.肘窩には2×2 cm
の,皮膚 と癒着のない底部に固定された弾性硬の腫瘤があった.時々,整形外科にて穿刺を受けて粘稠な内容が吸引さ れてガングリオンと推察されていた.しかし,吸引を
臨床と研究
アクセス再建とガングリオン切除を
アクセス再建とガングリオン切除 159
受けてもすぐに再発していた.また,超音波断層法に より静脈下に嚢胞性疾患が認められた(図 2)
.シャ
ント作製後にガングリオンが増大すると,シャント血 管の圧迫による閉鎖や,シャント穿刺時に誤穿刺の可 能性があると考えられた.さらに,シャント再建後に はガングリオンの根治手術が困難となると考えられた ため,同時手術を計画した.2-2 手術方法とその後の経過
手術は静脈をよけて,動脈にそって切開線を設定し た(図 3)
.皮弁に静脈をつけて剥離し,ガングリオ
ンを露出した(図 4).ガングリオンを切除して,取
り残しや副腫瘍がないことを確認後にアクセスを再建 した.深部静脈交通枝と動脈の吻合2)を計画していた が,交通枝が細いため,正中皮静脈の開存している最 も末梢部分を橈骨動脈,尺骨動脈分岐部と吻合した.シャント音は良好であった.
病理組織は線維性結合組織を壁とした嚢腫で,上皮
細胞や滑液細胞は見られず,ガングリオンであった.
手術後
6
カ月現在で再発は見られず,穿刺に問題はな く安定した血流が得られている(図 5).
3 考 察
ガングリオンは通常,疼痛や機能障害がないので,
治療方針は定まってはいない.そのため経過観察,吸 引,手術が行われる.多くの場合,初回の治療として は内容の吸引が行われる3)
.手術による摘出も行われ
る4).再発が多く,穿刺により 40〜60%,手術により 10〜30% の再発が見られる
5).
手関節ガングリオンには鏡視下手術も可能である6)
.
硬化療法も施行されており,炎症とその修復過程によ る瘢痕癒着作用を利用したOK-432(ピシバニール)
7)や,無水エタノール8)が用いられる.
今回はシャント作製を予定した静脈の近傍にガング リオンがあり,何度も吸引を繰り返したが完治しなか った.シャント再建後には切除術が困難となり,また 穿刺の障害となると予測されたため,シャント再建と 切除術を同時に行った.ガングリオン同時手術の報告
図 2 腫瘤と静脈の関係 肘窩に腫瘤があり静脈が騎乗している.
超音波断層写真
図 3 切開線の設定
緑線:ガングリオンの周囲,黒線:静脈の走行,赤線:動脈の 走行,皮膚切開は動脈の走行に沿う.
図 4 ガングリオンの摘出
上腕動脈と尺側皮静脈の間よりガングリオンを摘出した.
上腕動脈 ガングリオン
尺側皮静脈
図 5 手術後の状態
抜糸後2週間目,ガングリオンの再発はなく穿刺は容易である.
は検索した範囲には見当たらない.術中に完全に切除 できていると判断したが,再発の可能性はあり経過観 察中である.
4 結 語
現在,経過観察中のガングリオン切除とシャント再 建の同時手術の経験を報告した.
文 献
1) 関谷繁樹,酒井宏哉:ガングリオン.外科,11(増刊); 1434-1437,2008.
2) 杉浦清史,山崎健史,杉田省三,他:広い穿刺部位を維持 する肘窩二次内シャント作製法.日透医誌,24;145-147,
2009.
3) 不動寺純明:皮膚の腫瘤性疾患.レジデントノート,7; 444-446,2005.
4) 岸 清志,山本清司:ガングリオン.臨床外科,48;244- 245,1993.
5) 門田卓士,依田誠克,立石秀郎,他:ガングリオン,鶏眼,
胼胝,疣贅.外科治療,79;404-409,1998.
6) 西川真史:ガングリオンに対する鏡視下手術.整形外科,
57;995-1002,2006.
7) 黒川正人,玉井求宣,中西 新:ガングリオンに対する OK-432(ピシバニール)を用いた硬化療法.日本手会誌,
23;649-652,2006.
8) 亀井さくら,渡邊彰二,保坂善昭:術後に再発したガング リオンに対する治療方法の工夫.形成外科,50;350-351,
2007.
創作小咄:龍の恩返し 161
北国の長い厳しい寒さの中を仮設住宅や避難所で過 ごされた方々,そしてご病人や急患のために雪の中を 診療されたり巡廻された医師,看護師の方々のご苦労 に心より同情申し上げる.
昨年は国難と言うべき天災の上に人災が加わり,さ らに大雨や台風などで大きな被害を受け実に日本列島 受難の年であった.
せめて今年は穏やかに暮せるように龍神の加護を祈 り度いものである.
「辰年」にちなんで被害地の方々に捧げるつもりで 江戸小咄の一端を拝借して小咄を作ってみた.
夏の盛りに天国では一夕お祭り騒ぎで龍神や雷神一 族が「飲めよ歌えよ」でどんちゃん騒ぎをしていた.
お蔭で地上では,雷は鳴るは大雨が降るはで誰も戸外 へ出られなかった.やっと大雨も止み三陸の海岸近く の農家のお父さん
A
が外へ出てみた.すると家の畑 の方で何か泣き声が聞こえる.近づいてみると小さな 龍の落し子が転がって「痛いよーお」と泣いている.どうやら祭りで遊び過ぎ,雲から足を踏み外して落っ こちてきたらしい.Aさんが抱き起してみると片方の 頭に瘤が出来て赤い血も出ている.角も根元から少し 曲っていて頭をひどく畦道にぶつけたらしい.急いで 抱きかかえて家に帰り,角を真直に直し薬を塗って繃 帯をぐるぐる巻いた.やっと泣き止んだので龍の子を 背中におんぶして梯子で一番高い松の木に昇った.て っぺんにそっと置いてやり,家に戻って窓から見てい た.暫くしたら黒い雲が一陣の風と共に降りてきて松
の頂上で止った.父親の龍が現われ龍の子を抱いて雲 に乗せ,音も無く天へ戻って行った.そんな事が起き て
2, 3
年経った昨年3
月11
日に東日本大震災が起っ た.Aさん一家も大地震や津浪で家も壊され流失して しまい,親子3
人は避難所へ移った.復興もなかなか 進まなかったが,秋にはやっと仮住居に引越すことが できた.ほっとしたところであったが,寒い冬がやっ てきて部屋の中まで寒くなった.龍の子が「寒い」「寒い」とべそをかく.その声がだんだん大きくなっ てきたら,また黒い雲が降りてきて
A
さん一家の上 で止まった,父龍の声が聞えてくる.「うちの伜に持 たせてやるから3
人で当って暖まりなよ」と.雲から 龍の子が飛び降りてA
さんの家の前に炬燵を置いた.そして雲に戻って天国へ帰って行った.めでたし,め でたし.