• 検索結果がありません。

大平整爾

ドキュメント内 日本透析医会雑誌Vol. 27,No. 1 (ページ 42-48)

札幌北クリニック

key words:アメリカ透析医療費,支払い包括化,その実態,包括化の影響

Bundled payments for dialysis in America Sapporo Kita Clinic

Seiji Ohira

アメリカ透析医療費の支払い包括化 39

メリカ医療保険の

HMO(Health Maintenance Organi-zation)は,病院・医師・その他の医療サービス提供

者が一つのネットワークを形成して所属し,個人や会 社が毎月一定の金額を支払うことで傘下の医療機関か ら医療サービスを受けることができる.HMOでは通 常主治医を

1

人定め,すべての医療サービスはまずそ の主治医を経由しなければならないし,保険の種類に よって受けられる医療の範囲が厳しく限定されている.

わが国でよくある患者の意思で随意に病院を変えるこ とは,あり得ない.

2 アメリカの維持透析療法

日本の維持透析の成績は,少なくとも透析へ導入さ れた後の生存期間の面から世界に冠たるものである.

①日本人一般男性・女性,②日本人透析患者の男性・

女性,③アメリカ白人一般男性・女性,④アメリカ透 析患者の白人男性・女性の平均余命が図 1に提示さ れているが,日本人について言えば,透析患者の平均 余命は一般人口のおおよそ半分と考えられる.アメリ カ人の平均余命はいずれの群でも日本人のそれには遠 く及ばない.年間粗死亡率はアメリカが

22.4% であ

るのに対して,日本は

13.0% で明らかに低率である.

生存率における日米のこの差異は,アメリカにおいて,

①透析導入時,重大な心血管合併症が多い,②糖尿病 性腎不全がより高率である,③自家動静脈内シャント

率が低い,④そもそも日本人のほうがより長命である,

⑤多民族構成の国家であるため,民族間で健康観念・

生命観・経済力等々に違いがあるなど,複数の原因が あげられている.

アメリカの腎疾患医自身が,アメリカが医療費に関 して深刻な危機に見舞われていることを痛感しつつ,

支出には見合わない医療の成績に対して

“health out-comes in the US are no better, and arguably significant-ly worse than in these other countries.”

と 慨 歎 し て い る3)

.対策として,①“AVF-first”

キャンペーン,②計 画的な透析導入,③高齢腎不全患者に対する保存的療 法と透析療法の開始の生存期間,ADL,QOLなどを 含めての厳密な比較が,アメリカでなされてきている.

先に,メディケアで末期慢性腎不全(ESRD)に関わ る医療費が突出していると述べたが,この原因の一端 は,出来高払い(fee-for-service)となっている

ESA

製剤・静注用の活性型ビタミン

D

製剤と鉄剤の使わ れ方にあるとされて,今回のアメリカ透析医療費の支 払い包括化(bundled payment)が論議され始めたと 聞き及んでいる.第

56

回日本透析医学会(2011年

6

月,横浜)で特別講演されたコリンズ教授は,“ESAs

and Vitamin D are the largest drivers of treatment cost”

と断定している4)

図 1 日本人の平均余命

2005年新規透析導入患者平均年齢:66.4歳,2005年末生存患者平均年齢:64.4歳.年間 粗死亡率:アメリカ22.4% vs 日本13.0%.(日本透析医学会:わが国の慢性透析療法の現 況(20051231日現在より一部著者追加)

60 50 40 30 20 10

0

30 40 50 60

66 y/o 75 y/o

70 80 90

年齢(歳)

透析患者の平均余命は,

一般人口の約半分である.

D 2.4 D 2.4 D 3.4

D 3.4 D 4.8

D 4.8 D 6.5

D 6.5 D 8.6

D 8.6 D 11.4

D 11.4(2007)

白人男女 白人男女

透析男性 透析男性 透析女性

透析女性 ←アメリカ白人女性←アメリカ白人女性(2004)(2004)

←アメリカ白人男性(2004)

←アメリカ白人男性(2004)

←女性(一般人口)

←女性(一般人口)

←男性(一般人口)

←男性(一般人口)

3 出来高払いと包括化支払い

一つ一つの医療行為や使用する器材や薬剤に保険点 数が付いていて,その度に加算していく方式が出来高 払いである.新技術や新薬を抵抗なく使用できるため

(必要経費の取り損じがないため)

,過剰診療に傾くこ

とが否めない.これに対して,包括化支払いではある 一連の医療行為に支払いの上限が定められており,実 際に行った医療行為とは関係なく特定の疾患に定額の 報酬が支払われる方式である.したがって,可及的に 使用器材や薬剤を最小限度にしようとする努力が払わ れる.医療費の効果的な使用・節約に繋がる一方で,

過小または萎縮医療や不適切な医療を誘発する懸念が あると言われている.

4 アメリカ透析医療費支払い包括化の実際

新法(2011年

1

1

日施行)は,前年のメディケ アの慢性腎不全への総支出額を

2% 減ずることを規定

している.

4-1 1 回の血液透析(HD)の基本料金

新法での

HD 1

回の基本料金は

229.63

ドルである

(毎年の改定が明記されている)

.日本では「外来患者

4〜5

時間血液透析」の保険報酬は

2,235

点である

(1ドル=77円で換算すると,229.63ドルは

17,682

円 となる)

今回の支払い法は透析施設に対してのみ適用され,

医師は外来透析患者の場合

1

カ月

4

回の診察で

303

ド ルの

doctor fee

を得るが,担当患者への診察回数が少 なければ

fee

は減ぜられる5)

.医師が入院患者を診る

場合には,出来高払いとなる.1カ月の

HD

14

回行 われるとして

303

ドル/月の

doctor fee

1

回当たり

21.63

ドルとなり,1回

HD

の総計は

229.63+21.63=

251.26

ドルとなる.

4-2 加算方式

1

回の

HD

施行は

229.63

ドルであるが,年齢・導入

120

日以内・併存疾患の種類などに対して加算がなさ れる.

① 年齢については,60〜69歳を基準「1」とし,

18〜44

歳:1.171,

45〜59

歳:1.013,

70〜79

歳:

1.011,80

歳以上:1.016のように増額される.

② 併存疾患に対する加算は表 1に提示したごとく である.B型肝炎(1.089)

,HIV/AIDS(1.316) ,

癌腫(1.128)

,性別,人種などは提案されたが加

算は却下されている.

在宅維持透析の推進のために,HDおよび

PD

の訓 練・教育費が算定されている.

4-3 検 査

53

種の慢性腎不全治療に必要な検査(laboratory

tests)が包括化された.

4-4 施設の規模

年間の総

HD

回数が過去

3

年間に

4,000

回/年以下 の施設を

low-volume facilities

と規定し,支払いを

18.9

% 増しとする.HD 4,000回/年は

4,000/155

回/人=

25.8

人(26人)と小規模透析施設となる.僻地など の小規模施設の救済策である.

4-5 薬 剤

全静注薬剤が包括化される.すなわち,頻用されて いる静注薬剤の

ESAs,活性型 VD

製剤および鉄剤が 含まれる.経口薬剤については,静注薬と同効のもの があれば包括化される.経口薬剤だけしかなければ,

包括化は

2014

1

月まで延期される.たとえば,シ ナカルセト(レグパラ®)などが該当する.ESAsは腎 性貧血に顕著な効果を示した効能あらたかな薬剤であ るが,目標

Hb

値は過去にさまざまに揺れてきたし,

依然として高価薬である.Hbの達成目標は多くの大 規模調査から,ようやく「通常は

10 g/dL

以上で

12 g/

dL

を超えないこと」とされるに至った.腎性貧血患 者に対しては短絡的にただ単に

ESAs

を投与するので はなく,同時に慢性炎症,低栄養や心機能低下などの 併存に目を配って対処し,かつ透析液の清浄化を行う ことなどが提言されている.

表 1 併存疾患に対する加算

併存疾患 加算率

心外膜炎(発症3カ月以内) 1.114 細菌性肺炎(同上) 1.135 胃腸管出血(同上) 1.183 遺伝性溶血性貧血 1.072 骨髄異形成症候群 1.099 単クローン性免疫グロブリン血症 1.024

† sickle cell anemia

アメリカ透析医療費の支払い包括化 41

図 2でコリンズ教授は,導入

6

カ月後の

Hb

値は

2000

年と

2008

年とで同一であり,2008年のようなよ り多い

ESA

用量を要する急進な

Hb

上昇に無駄があ ることを述べている.ESAの包括化で本剤の使用法 が厳密・適正化に至ることがアメリカで期待されてい るのであろう.2011年

9

月の発表では,包括化によ

ESAs

使用量の減少が期待されているように生じて いると報告されている6)

.ESA

の包括化は,2006年の 診療報酬改定で日本ではすでに行われている.1,960 点であった人工透析技術料が

2,250

点と上げられて

(+290点)

,ESA

が包括化されたのであった.

この改定後,鉄剤の静注投与が増え,3,000単位

図 2 各年次の ESA 投与後の Hb 濃度と ESA 投与量の推移          (Prof. Collinsより)

1996 2004 2000 2008 By year

13 12 11 10 9 Hemoglobin(g/dl) 8

Hb levels

1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6

By initial hgb :

Peritoneal dialysis, 2007-2008 By initial hemoglobin : 

hemodialysis, 2007-2008

By initial hgb :

Peritoneal dialysis, 2007-2008 By initial hgb : 

hemodialysis, 2007-2008

1 2 3 4 5 6

ケ月

Hb same in 2008 as 2000

All 10+

9−<10 8−<9

<8

1996 2004 2000 2000 2008

By year 30 25 20 15 10 Mean weekly EPO dose (1,000s of units 5

ESA dosing

1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6

Cost D 2008 vs 2000

Incident dialysis patients with a first EPO claim within the first 30 days of ESRD start date & at least one EPO claim in each of the first six months. Graphs by modality, 2007‒2008 combined. Hemoglobin group determined by patient s 

hematocrit on the Medical Evidence form. 

Months after initiation

Months after initiation All

10+

9−<10 8−<9 40 <8

35 30 25 20 15

20 16 12 8 4

図 3 Hb 濃度の分布(2005 年末,2006 年末,2007 年末の比較)

 この3年間で有意な差違はない.(日本透析医学会統計調査員会:図説わが国の慢性透 析療法の現況(20071231日現在).日本透析医学会,2008より)

4.84.8 4.44.4 4.24.2 9.3 9.310.010.0

9.3 9.3

24.8 24.825.425.4

24.3 24.3

33.233.2 33.133.133.833.8

19.5 19.518.818.8

20.1 20.1

8.3 8.3 8.38.3 8.38.3

8未満 8〜 9〜

ヘモグロビン濃度(g/dL)

10〜 11〜 12〜

35.0

30.0

25.0

20.0

15.0

10.0

5.0

0.0

(%)

2005年末 2006年末 2007年末

EPO

の使用量が減ったが,Hb値に著変はなかったと 報告されている.日本では,①鉄剤の適正使用,②透 析量の増加,③透析液の清浄化など,さまざまな努力 により

ESA

使用量が若干減少したが,従来の

Hb

レ ベルを維持しており,過小または粗悪診療に陥ること はなかったと言えよう7)図 3

4-6 医療の質を担保するための罰則(医療監視)

出来高払い(fee-for-service)が包括化支払い(bun-dled payment)へ変更された場合に生じがちな弊害を

回 避 す る た め に,CMS(the Centers for Medicare &

Medicaid Services)すなわち支払い側は以下のような

罰則(quality incentive program; QIP)を設けている6)

① Hb値が

10 g/dL

未満の患者は全患者の

2% 以

下であること.

② Hb値が

12 g/dL

を超過する患者は全患者の

26

% 以下であること.

③尿素除去率(URR)が

65% を超過する患者は全

患者の

96% 以上であること.

これら

3

条件を満たさない施設は,支払いが総額の

2% を上限として減額される(Hb<10 g/dL

の項目が

最 重 要 と さ れ て い る)

.2007

年 に 既 述 の

3

項 目 を

CMS

へ報告した

4,713

施設について分析すると,1施 設当たりの減額が年間

12,000

ドルになるという.46.1

% の透析施設は

3

項目を充足していてペナルティー はなく,残りの

53.9% について減額高を算定すると

22,000

ドルとなる.この

22,000

ドルは

1

回の

HD

に換算すると,1.45ドルに相当する6)

医療監視は,2014年には

Kt/V・血管アクセス・入

院率・骨代謝等々の領域へも及ぶと噂されている6)

さらに,アメリカ国内の平均を基準とはせず,各項目 について絶対的な基準値を設定するという動きを

CMS

は予告している.しかし,これら項目の可否は 透析スタッフの熱意や技術に負うだけではなく,患者 自身の療養態度にも影響される部分が無視できず,臨 床的な成果が診療報酬支払いに直結することには問題 が少なくないと考える.“Pay-for-Performance(P4P)

(成果主義)は,医療機関が高質で効率的な医療サー ビスを提供した場合に高い診療報酬を支払うという動 機付け制度であり,時代の潮流はそれへと傾いている が,採用している英米では成績を上げるために重症患 者を取り扱わない病院が出てきたなど問題が生じてお

り,慎重な検討が必須となろう.

5 支払い包括化に対する論評

色々な立場の識者が包括化支払いについて意見を述 べているが,これを主として

Am J Kidney Dis

誌の

2011

4

月号掲載の論著から概観したい8〜14)

ASN

理事長の

Bonventre

は,過小治療がことに貧 血対策と

HD

時間設定に現れることへの懸念を表明し ている5)

.Tufts Medical Center

Weiner

は「興奮を 呼び,かつ,恐れを感じさせる大改革であり,CMS がその支払い方法に成果主義を採り入れた点が注目さ れる.得られた結果から出費抑制と質の担保がどうな ったかが検証されるであろう」と述べている8)

.Stan-ford

大の

Winkelmayer

9)は,コントロール群を置か ずに患者から同意を得ずにこの方式を突き進めること へ強い懸念を表明している.Lacsonら(Fresenius

Medical Center,大規模透析提供会社)

10)は,「支払い 側である

CMS

dialysis industry

とは相互に公的資 金に関わる立場にある.FMCは質の高い透析を提供 する義務を担うが,同時に出費への配慮も欠かせず,

包括化支払い法は正しい方向性を示している」として いる.

FMC

と同じ立場にある

DaVita(Nissenson

ら)11)

は「長年に渡って検討されてきた結果の包括化ではあ るが,dialysis provider注)は種々の面で挑戦を受けてお り,包括化の到来で新たな研究が必要となる.provider も医師も新制度に適合していく必要がある」と要約し ている.

Johnson

12)お よ び

Bhat

13)は,非 営 利 小・中 規 模透析施設の立場から,出費抑制などに利点があるが,

一方にいくつかの懸念事項があると以下のように指摘 している.

① 小・中規模施設では

QIP

による罰則を回避す ることは大規模施設に較べて容易ではなく,将来 的に予定されている

QIP

はさらに事態を難しく することを懸念する.

② 使用する医療機器や薬剤の購入において大規模 施設のような「数」の強みがなく,購入価格を低 く設定できかねる.

③ すでに始まっている透析施設の資本的な統合が 促進する恐れがある.

Peckham

14)は在宅透析を支援する立場から,支払

いの再編成が透析を向上させ得る可能性を秘めている

ドキュメント内 日本透析医会雑誌Vol. 27,No. 1 (ページ 42-48)