長崎大学病院第二内科
key words:透析,医療・介護関連肺炎,耐性菌
Management of pneumonia in dialysis patients following the Japanese guidelines for nursing and healthcare-associated pneumonia Second Department of Internal Medicine, Nagasaki University Hospital
Taiga Miyazaki Shigeru Kohno
透析患者の肺炎診療 87
に起因している.そのため,わが国特有の医療環境を 考慮したうえで,これらの患者群を対象とした「医 療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated
pneumonia; NHCAP)診療ガイドライン(2011
年)」8)が日本呼吸器学会より発行されるに至った.
透析患者は健常者あるいは基礎疾患が軽微な患者と 比較して,免疫能の低下や耐性菌保有率が高いなどの 特徴がみられる.前述の
ATS/IDSA
ガイドラインで は,肺炎発症の30
日以内に慢性透析を受けていた場 合には,HCAPとして扱っている.わが国ではこれま で,外来透析患者の肺炎は市中肺炎として治療されて きたが,今後は,透析や化学療法などで継続的な血管 内治療を受けている外来患者の肺炎は,NHCAPと分 類されることになった.本 稿 で は,2011年 に 公 表 さ れ た わ が 国 独 自 の
NHCAP
ガイドラインを踏まえ,透析患者の肺炎診療について概説する.
1 透析患者における肺炎の特徴
透析患者の多くは外来で透析を受けているが,一般 的な市中肺炎患者と比較して,①耐性菌保有者が多い,
②免疫能が低下している,③腎機能障害のみならず心 機能低下など他の基礎疾患も有していることが少なく ない,④抗菌薬によっては用法・用量の調整を必要と する,などの違いがある.
海外の前向き研究で,外来透析患者の
15〜28% は
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)あるいは多 剤耐性菌を保菌しているとの報告があり9, 10),透析患
者肺炎の分離菌をみても,緑膿菌やMRSA
が多い11)(表 1)
.わが国の透析患者における耐性菌の保菌頻度
表 1 透析患者肺炎の分離菌(海外データ)
病原体 院内(n=73) 市中(n=113)
グラム陽性菌 肺炎球菌属 2( 3%) 7( 6%)
MSSA 0 12(11%)
MRSA 16(22%) 13(12%)
その他 0 2( 2%)
グラム陰性菌 緑膿菌 16( 2%) 24(21%)
クレブシエラ属 10(14%) 12(11%)
インフルエンザ菌 2( 3%) 11(10%)
大腸菌 2( 3%) 4( 4%)
腸内細菌属 9(12%) 5( 4%)
モラクセラ属 4( 6%) 2( 2%)
その他 10(14%) 17(15%)
その他 2( 3%) 2( 2%)
(文献11より)
表 2 日本の透析患者肺炎の分離菌
菌 種 分離数(n=69)
グラム陽性菌 肺炎球菌 7(10.1%)
その他の連鎖球菌 4( 5.8%)
MSSA 7(10.1%)
MRSA 19(27.5%)
その他の陽性菌 2( 2.9%)
グラム陰性菌 クレブシエラ属 6( 8.7%)
インフルエンザ菌 5( 7.2%)
モラクセラ菌 4( 5.8%)
大腸菌 3( 4.3%)
セラチア菌 3( 4.3%)
緑膿菌 2( 2.9%)
アシネトバクター属 1( 1.4%)
その他のグラム陰性菌 1( 1.4%)
不 明 18(26.1%)
(文献12より)
は明らかにされていないが,透析患者肺炎の分離菌は 海外の報告同様,通常の市中肺炎よりも
MRSA
やグ ラム陰性桿菌が多い傾向にある12)(表 2).また,血液
および腹膜透析患者の肺炎による年間死亡率は非透析 患者と比較して約15
倍高く2),特に高齢透析患者で
はさらに高い罹患率および死亡率を示す.2 透析患者の肺炎診療
透析の有無にかかわらず,病院内で入院
48
時間以 降に新しく出現した肺炎は,従来通り院内肺炎と分類 されるため,その詳細は「成人院内肺炎診療ガイドラ イン(2008年)」4)を参照されたい.一方,これまで市 中肺炎として扱われてきた外来透析患者の肺炎や,院 内肺炎と分類されてきた医療・介護関連施設入所患者 の肺炎はNHCAP
と分類されることになった8).
以下に,NHCAP診療ガイドラインと透析患者にお ける肺炎診療の概要を示す.
2-1 NHCAP の定義
前述のように,従来,わが国の肺炎は市中肺炎と院 内肺炎の二つに区分されてきた.しかし,介護施設な どの医療関連施設に入所している患者や入退院をくり 返している患者,介護を必要とする高齢者や身体障害 者,通院にて血管内治療(透析や化学療法など)を受 けている患者は,市中肺炎と院内肺炎の両方の特徴を 有していることが明らかになり,これらの患者群に発 症した肺炎は
NHCAP
として取り扱うことが提唱され た(表 3).
2-2 NHCAP の特徴
NHCAP
は,予後や原因菌の点で市中肺炎と院内肺炎の中間に位置づけられ,高齢者肺炎,中でも誤嚥性 肺炎が多い.その他,透析や化学療法,免疫抑制薬使 用患者における肺炎も含まれるため,MRSA肺炎のよ うな耐性菌性肺炎や日和見感染による肺炎にも注意が 必要である.また,インフルエンザ後の二次性細菌性 肺炎などは重症化することもあり,肺炎発症後の抗菌 薬治療のみならず,ワクチン接種をはじめとする発症 予防策も重要である.
2-3 検査,診断
一般に,NHCAPに分類される患者の多くは高齢者
であり,喀痰や気管内採痰による微生物学的検査は施 行できない場合も多い.しかし,外来透析患者の場合 には,他の市中肺炎患者と同様,臨床症状(発熱や咳 嗽・喀痰,呼吸困難などの呼吸器症状)と炎症所見,
胸部
X
線で新たな陰影の出現などを認めたら肺炎と 診断し,細菌学的検査を実施する.喀痰はグラム染色 と好気性培養検査を施行するが,口腔内常在菌や気道 の定着菌も混入するため,検出された菌が必ずしも肺 炎の原因菌とは限らないことを念頭に置いておく.同 様の理由で,喀痰の嫌気性培養も推奨されない.気管 支鏡などを用いて採取された下気道由来の痰や気管内 に挿管されている患者の気管内吸引痰は,定量培養を 行う.菌数が10
4cfu/mL
以上であれば原因菌の可能 性が高い(感度90% , 特異度 77%)とする報告もみ
られる13).
その他,尿あるいは喀痰を用いた肺炎球菌抗原検査 やレジオネラの尿中抗原検査が有用であるが,いずれ も信頼度(特に偽陰性)には注意が必要である.非定 型肺炎の原因微生物として,マイコプラズマやクラミ ドフィラが重要であるが,これらの血清学的診断法は 現時点では感度・特異度に問題があり,結果の解釈は 慎重に行う.また,常に結核の可能性を念頭に置いて おくことも重要であり,呼吸器検体の抗酸菌染色と抗 酸菌培養,PCR検査に加え,血液検体でのクオンテ ィフェロン検査が有用である.
2-4 治療区分と推奨治療
市中肺炎および院内肺炎の診療ガイドラインでは,
重症度を基に推奨治療薬が示されている.しかし,
NHCAP
は患者背景が不均一であり,一律に重症度を分類し予後を予測することは困難である.NHCAPの 診療では,科学的エビデンスに基づいた診療が必ずし も適切な医療とは限らない.たとえば,重症肺炎でも,
患者や家族の意思を尊重し,人工呼吸器管理や強力な
表 3 医療・介護関連肺炎(NHCAP)の定義
・長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している
・90日以内に病院を退院した
・介護†を必要とする高齢者,身体障害者
・通院にて継続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学療法,
免疫抑制薬など)を受けている
† 介護の基準(PS≥3):限られた自分の身の回りのことしかできない.
日中の50% 以上をベッドか椅子で過ごす.
(文献8より)
透析患者の肺炎診療 89
抗菌薬投与が控えられることがある.このような背景 を勘案して,NHCAP診療ガイドラインでは「治療区 分」という概念を取り入れ,A〜D群の
4
群に分けて 考えている(図 1).この治療区分の決定は,患者の
ことをよく知る主治医に委ねられており,肺炎の重症 度だけでなく,患者の基礎疾患や病歴,生活歴,周囲 の支援状況などを総合的に判断し,患者と家族の意思 を尊重して行われる.まず,人工呼吸器などの集中治療を行うか否かを判 断する.集中治療を必要とする場合には
D
群,入院 管理を必要としない場合はA
群に該当する.D群に は該当しないが入院管理を必要とする患者は,耐性菌 のリスク因子がない場合にB
群,一つでも該当すれ ばC
群に区分される.ここでいう耐性菌のリスク因 子とは,90日以内に広域抗菌薬(抗緑膿菌ペニシリ ン系薬,第3, 4
世代セファロスポリン注射薬,カルバ ペネム系薬,キノロン系薬)の2
日以上の使用歴,経 管栄養施行例,以前MRSA
が分離されたことがある 場合を指す.つまり,慢性透析患者であっても上記リ スク因子がない場合はB
群に区分される.各群における推奨治療薬を図
1
に示す.外来治療のA
群では,細菌性肺炎と非定型肺炎の両方をカバーで きるように,b
ラクタム系薬とマクロライド系薬の併 用,あるいはニューキノロン系薬の選択が推奨されて いる.入院治療となるB
群では,まず細菌性肺炎に 有効な抗菌薬の点滴治療が勧められている.無効例で は,マクロライド系薬の追加やニューキノロン系薬へ の変更を検討する.C群では,肺炎球菌と嫌気性菌に 対する抗菌活性を維持し,緑膿菌をはじめとする薬剤 耐性グラム陰性菌にも有効な抗菌薬を選択する.D群 では,レジオネラなども念頭に置いた広域の抗菌薬選 択が推奨される.原因微生物が特定された場合には,抗菌薬の
de-escalation
を検討すべきである.2-5 抗菌薬の用法・用量
抗菌薬の多くは腎排泄性であり,透析患者の場合に は,投与量および投与方法の調整が必要である.抗菌 薬によって透析による除去効率も異なり,一般に
b
ラクタム薬は除去されやすいが,たとえばバンコマイ シンなどは透析膜や血流量によりばらつきがみられる ため,透析患者においてもtherapeutic drug monitor-ing(TDM)は重要である.透析患者に対する各抗菌
図 1 治療区分アルゴリズム (文献8より)
重症で,人工呼吸器装着などの集中治療を考慮する状況
なし あり
D 群:入院 TAZ/PIPC or or
or or or
or
or
or
or or
抗緑膿菌性カルバペネム系薬
(IPM/CS, MEPM or DRPM)
抗緑膿菌性セフェム系薬
(CFPM*2 or CPR*2) 注射用 MTZ +*3 or CLDM
ニューキノロン
(CPFX*2 or PZFX*2) or 注射用 AZM
MRSAリスク(+)
VCM, TEIC or LZD C 群:入院
耐性菌リスク†(+)
TAZ/PIPC 抗緑膿菌性カルバペネム系薬
(IPM/CS, MEPM or DRPM)
抗緑膿菌性セフェム系薬
(CFPM*2 or CPR*2) 注射用 MTZ +*3 or CLDM
ニューキノロン
(CPFX*2 or PZFX*2) SBT/ABPC+
MRSAリスク(+)
VCM, TEIC or LZD B 群:入院
耐性菌リスク†(−)
CTRX*1 SBT/ABPC
PAPM/BP 注射用 LVFX*1 A 群:外来治療
AMPC/CVA or SBTPC マクロライド系薬+
(CAM or AZM)
CTRX*1 マクロライド系薬 +
(CAM or AZM)
GRNX, MFLX or LVFX*1
† 耐性菌のリスク因子
過去 90 日以内に抗菌薬の投与がなく,経管栄養も施行されていな い場合は,耐性菌のリスクなし群と判断.
ただし,以前に MRSA が分離された既往がある場合は,MRSA の リスクありと判断.
*1 嫌気性菌に抗菌力が不十分なため,誤嚥性肺炎疑いでは不適.
*2 嫌気性菌に抗菌力が不十分なため,誤嚥性肺炎疑いでは嫌気 性菌に抗菌活性を有する薬剤(MTZ, CLDM, SBT/ABPC 等)
と併用する.
*3 2011 年 7 月現在,本邦未承認.
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