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本研究が扱う個々の同形複合動詞の分析方法

本節は研究目的の小目的2を達成するために、どのような方法でできるか を分析するものである。具体的な実施及び結果は第5章で述べる。

13 三省堂スーパー大辞林

14 三省堂スーパー大辞林

15 現代漢語辞典第7

16 三省堂スーパー大辞林

17 現代漢語辞典第7

18 現代漢語辞典第7

まず日中対照のデータとして、日中の同形複合動詞を意味の数の関係から

「日<中」「日=中」「日>中」という三つのグループに分け、個々の同形複 合動詞を「同音漢語スル動詞による意味範疇補足」「自他動詞による意味範疇 補足」「細かい意味分け」「独特な使い方」という意味範疇の四つの特徴と、

「メタファー」「メトニミー」「シネクドキ」という三つの比喩の意味拡張の 手段で分析する。

3.4.1 意味の数での分類

3.3節で述べたように、同形複合動詞のうち一対の語の意味が全て同じで

ある場合と、一対の語の意味が全て異なる場合を除いて、一対の語の意味の うち,同じ部分と異なる部分がある同形複合動詞が最も意味範疇と意味拡張 という認知の違いを表しているという考え方を述べた。それを踏まえて、日 中対照の個々の同形複合動詞を考察する時、まず意味範疇に最も直接関連す る意味の数という視点で三つの排他的な関係が成立していると考えられる。

つまり、一対の日中の同形複合動詞には必ず日中のどちらかの意味の数が多 いか、あるいは両方の意味の数が同じかという三つの関係に一つに当てはま ることである。そして、本研究においては、日中の同形複合動詞に意味範疇 と意味拡張の分析という観点で、上に述べた日中の意味の数の関係に従っ て、個々の同形複合動詞を分析する。

具体的には、「日本語の意味の数は中国語の意味の数より少ないという関 係」は6.2節「日本語の意味の数は中国語の意味の数より少ない個々の同形 複合動詞」で分析する、「日本語の意味の数と中国語の意味の数は同じという 関係」は6.3節「日本語の意味の数は中国語の意味の数が同じ個々の同形複 合動詞」で分析する、「日本語の意味の数は中国語の意味の数より多いという 関係」は6.4節「日本語の意味の数は中国語の意味の数より多い個々の同形 複合動詞」で分析する。

3.4.2 本研究が扱う日中同形複合動詞に表れる四つの特徴

以上の分類基準に従って、意味範疇と意味拡張を考察する時、なぜ意味の 数が同じになったり、違いになったりになるだろう。それは意味範疇の影響 なのではないかと考える際に、四つの特徴があると見出した。

まずは一対の日中の同形複合動詞の意味範疇の増減は他の語がその役割

(意味)を果たしていることである。つまり、単に一対の日中の同形複合動 詞を考察する際、単語レベル意味範疇の差異について、単語レベル意味範疇 の広い方の言語は単語レベル意味範疇の狭い方の言語の不足している部分に その狭い方の言語の他の語にその不足している意味を補っている。

例を挙げる.中国語「加入」が意味①「加えて入れる、混ぜ入れる」19と意 味②「グループに参加する」20の二つの意味を持つのに対して、日本語の「加 え入れる」は「加えて入れる」21という一つの意味しか持っていない。一方、

19 現代漢語辞典第7版

20 現代漢語辞典第7版

21 複合動詞レキシコン

日本語の「加入する」は「団体・組織などの一員としてその中に加わるこ と」22という意味を持っている.この意味を日本語の「加え入れる」と合わせ れば、中国語の「加入」の意味①と②の意味範疇と同等になる。

もう一つ例を挙げる。日本語の「滑り落とす」には、①「滑り落ちるよう にする」23という意味を持つのに対して、中国語の「滑落」は①「滑り落ちる ようにする」と②「滑って落ちる」両方の意味を持っている。一方、日本語 の「滑り落ちる」は①「滑って落ちる」という意味を持っている。日本語の

「滑り落とす」に「滑って落ちる」の意味を補足すれば、中国語の「滑落」

の①と②の意味範疇と同等になる。

最初の例「加え入れる/加入」は同音漢語スル動詞による意味範疇の補足関 係,つぎの例「滑り落とす/滑落」は自他動詞の互いの意味範疇の補足関係と いう,二つのパターンがあると考えられる。前者は一つの複合動詞に「同音 漢語スル動詞」の意味範疇を追加することで,中国語の同形複合動詞の意味 範疇と一致するようになるという補足関係である24。後者は一つの複合動詞に 対応する他動詞あるいは自動詞の意味を追加することで,中国語の同形複合 動詞の意味範疇と一致するという補足関係である25(もとの複合動詞と補足の 方は必ず自動詞と他動詞の関係とは限らない、同時に他動詞の場合もある。

例えば、「飛び越える/飛び越す/飞越」26)。これは意味範疇の考察に重要な性 質であると考え、同形複合動詞を分析する際の二つの特徴とした。

この二つの特徴の説明としては、先に述べたように、「一つの複合動詞(日 本語か中国語か)の意味範疇にその言語の同音漢語スル動詞の意味範疇を追 加すれば、対応するもう一方の言語の同形複合動詞の意味範疇と同じにな る」というのを「同音漢語スル動詞による意味範疇補足」と定義する。ま た、「一つの複合動詞(日本語か中国語か)の意味範疇にその言語の別の自動 詞あるいは他動詞の意味範疇を追加すれば、対応する同形複合動詞の意味範 疇と同じになる」というのを「自他動詞による意味範疇補足」と定義する。

次に、もう一つの特徴は意味範疇の細分化である。つまり、日中のどちら かの複合動詞の意味範疇が,もう一つの言語の方では二つ以上の意味範疇と して使われているということである。例えば、中国語「成立」27の「組織や機 関が準備出来上がり、存在するようになる」という意味に対して、日本語

「成り立つ」は意味①「要件が満たされてある事柄ができあがる。成立す る」と意味②「事業などが立ちゆく」という二つの意味範疇に分けて使われ ている。ここで注意したいのは、日本語の意味②は意味①の一部分であると 考えられる。このような現象も意味範疇の性質の表れであると考えられ、意 味範疇を分析する際の特徴の一つとした。この特徴の説明文としては、「一つ 複合動詞(日本語か中国語か)の複数の意味範疇を対応する同形複合動詞に 一つの意味範疇として使われる」というのを「細かい意味分け」と定義す る。

22 三省堂スーパー大辞林

23 三省堂スーパー大辞林

24 具体的には、5.2.6節「加え入れる/加入」に参考

25 具体的には、5.2.4節「滑り落とす/滑落」に参考

26 具体的には、5.3.2節「飛び越える/飞越」に参考

27 具体的には、5.4.7節「成り立つ/成立」に参考

最後の特徴は各言語の複合動詞の独特な使い方と考えられる。この独特な 使い方も意味範疇の性質であると考えられる。この特徴の説明文としては、

「以上の三つの特徴にないかつ、一つの複合動詞(日本語か中国語か)の意 味範疇が対応する同形複合動詞の意味範疇に持っていない」というのを「独 特な使い方」と定義する。

ところで、以上に述べてきた四つの特徴の関係について説明しよう。ま ず、前の文で述べたように、「同音漢語スル動詞による意味範疇補足」と「自 他動詞による意味範疇補足」は共に,意味範疇を補足するという共通の性質 である。そして、四つの特徴の関係を整理する時、一つ注意したいところが ある。それは「同音漢語スル動詞による意味範疇補足」、「自他動詞による意 味範疇補足」、「細かい意味分け」の持っている共通的性質と「独特な使い 方」の持っている性質が異なることである。前者の性質に関しては、その三 つの意味範疇の特徴を通して、日中の意味範疇は同じになる。つまり、元々 日中の同形複合動詞で異なる意味範疇を同じ意味範疇にできるという関係を 作り、意味対応(意味範疇が同じになること)の性質が成立する。後者の性 質に関しては、その「独特な使い方」の意味範疇の特徴を通しても、日中の 意味範疇は同じになれない。つまり、元々日中の同形複合動詞に異なる意味 範疇を異なるままで、その言語の複合動詞に属する一種の特徴である。従っ て、これは意味不対応(意味範疇が異なること)の性質が成立する。以上を 踏まえて、四つの特徴には、「同音漢語スル動詞による意味範疇補足」、「自他 動詞による意味範疇補足」、「細かい意味分け」と「独特な使い方」の間に、

意味対応と意味不対応という大きな境界線がある。

最後に、辞書の意味と意味範疇の間に大きいなズレが存在しているという 問題について述べる。辞書の意味はただ意味の説明だけである。これに対し て、意味の使用範囲を意味範疇として捉える時、どこまで使えるかがポイン トになってくる。最も分かりやすいパターンとして、辞書における語義の説 明では特に使用範囲が限定されてないが、実際にはある場面や行動,あるい はある概念にしか使われない場合がある。特に,辞書では語の意味が物理世 界の現実の行動か抽象的な概念かを限定していない場合が多いのに対して、

意味範疇の場合は物理的な使い方と抽象的な使い方に分けている場合が多い と考えられる。そこで本研究でも,個々の同形複合動詞の意味範疇を考察す る際、このような物理的使い方をする意味と抽象的な使い方をする意味を二 つの意味範疇として扱う。具体的には、現実世界で人間の五感によってある 一つの行動や事象を具体的に捉えられる場合を「物理的」と定義する。例え ば、人を殴る、ごはんを食べるなどが挙げられる。これに対して、現実世界 で人間の五感では具体的に捉えられず、ある種の感情や事象をイメージ的に 捉えられる場合を「抽象的」と定義する。例えば、幸せを感じる、人生を過 ごすなどが一例である。従って、本研究は個々の同形複合動詞に辞書義を扱 うのではなく、意味範疇の分析をするため、個々の意味範疇を考察する際、

辞書の意味における物理的意味と抽象的な意味を二つの意味範疇として扱 う。

3.4.3 意味拡張の手法