5.4 日本語の意味の数が中国語より多いグループ(「日>中」)
5.4.2 引き起こす/引起
め、中国語の「独特な使い方」として考えられる。また、「物理的に吸い込ん で獲得する」と制限している「(ゴミやほこりなど以外)物理的に吸い込んで 獲得する」と「吸い込んで獲得する」という類似部分があるゆえ、「独特な使 い方」の意味拡張の部分はメタファーによる意味拡張であると考えられる。
一方、例65 を通して、中国語の「吸取」は経験やレッスンなど抽象的な目 的語でも使えるが、日本語の「吸い取る」は使えない。従って、日本語の「吸 い取る」は抽象的な意味範疇を持っているが、経験やレッスンなどの目的語以 外の目的語に使うという制限があると考えられる。この制限は中国語にはない ため、日本語の「独特な使い方」として考えられる。また、「抽象的に吸い込 んで取り去る」と制限している「(経験やレッスンなど以外)抽象的に吸い込 んで取り去る」と「吸い込んで取り去る」という類似部分があるゆえ、「独特 な使い方」の意味拡張の部分はメタファーにより意味拡張したものである。ま た、「吸い取る」の②の意味範疇を「吸取」は持っていないため、これも日本 語の「独特な使い方」として考えられる。「独特な使い方」の意味拡張の部分 はメタファーにより意味拡張であると考えられる。それ以外の特徴は特に持っ ていないため、本研究では省略する。
68a(*):戦争に負けた失敗軍を引き起こす。(抽象的)
b(*):倒産した会社を引き起こす。(抽象的)
「倒れたものを引っぱって起こす」の抽象的な使い方があるとすれば、何か 抽象的なものがよく悪化するようなことになって、それを改善する・良くにす ると推測できるが、例68 では、「引き起こす」より、「立ち直る」を使う方が 普通であると考えられる。結果的に、「引き起こす」としての文では、明らか に不自然である。従って、「引き起こす」は物理的な使い方と考えられる。
「引き起こす」の意味拡張に関しては、まず物理的な意味①から抽象的な意 味②までがメタファーによる意味拡張であると考えられる。理由は、二つの意 味が辞書レベルで特に分けられていないし、同じ意味の部分としては、「新し い事態を生じさせる」であるからである。違う部分としてはただ物理と抽象の 違いだけである。従って、動作自体としては、「新しい事態を生じさせる」と いう類似部分があるゆえ、メタファーの意味拡張として考えられる。一方、物 理的な意味①から物理的な意味②までがメトニミーの意味拡張として考えら れる。なぜなら、この二つの意味は時間の連続の関連性の部分と全体の関係に よる意味拡張であると考えられるからである。物理的な意味①は症状やアレル ギーなど物理的な目的語を新しい事態として捉えられ、生じさせる。つまり、
何かを生じさせるというニュアンスである。物理的意味②は負傷者や倒れてい る人を倒れたものとして捉え、それを引っぱって起こすという意味である。こ こに注意したいのは、物理的意味②はまず時間的に誰かが立っている状態から 倒れて、その後、その人を引っ張って起こすという一連の二つの事態である。
一方、物理的意味①には、前の動作に特に注目せず、ただ新しいことを起こす という一つの事態だけである。ここの③の後半の動作、人を引っ張って起こす は①の意味に対応していると考えられる。つまり、「新しい事態を生じさせる」
はどのような事態かというと、「あるものを引っ張って起こす」という事態で ある。従って、物理的意味②は全体の動作で、物理的意味①はその中の後半で ある一部分の動作だけである。よって、「誰かが立っている状態から倒れて、
その後、その人を引っ張って起こす」という一連の時間的な事態から、後半の
「新しい事態を生じさせる」という意味も喚起できる。従って、物理的な意味
①「新しい事態を生じさせる」から物理的な意味②「倒れたものを引っぱって 起こす」までが、メトニミーの意味拡張として考えられる。
従って、日本語の「引き起こす」の意味範疇と意味拡張の図は以下となる。
図5. 30「引き起こす」の意味ネットワーク図 一方、中国語の「引起」の意味93:
① 一种事情,现象,活动使另一种事情,现象,活动出现(一つの事情、現 象、活動よりもう一つの事情、現象、活動が現れる)。例69を提示する。
69a:他的反常举动引起了大家的关注。(物理的)(現代漢語辞典第7版)
(彼の異常行動はみんなの注目を集めた)
b:…引起众人的哄堂大笑。(物理的)(BCC) (…みんなの笑いを引き起こす)
c:…引起世界各国的注意…(抽象的)(BCC)
(…世界各国の注意を集めた…)
d:…已引起了群众的极大不满。(抽象的)(BCC) (…観衆の大きな不満を引き起こした)
上の辞書としての意味の説明文でも、例でも、「引起」という複合動詞には 物理的か抽象的かのような限定はないと考えられる。従って、例 69では、a、
bとc、dはそれぞれ物理/抽象の例である。
「引起」の意味拡張に関しては、物理的な意味から抽象的な意味までがメタ ファーによる意味拡張であると考えられる。この二つの意味は辞書レベルでは 特に分けられておらず、同じ意味の部分としては、「一つの事情、現象、活動 よりもう一つの事情、現象、活動が現れる」という「新しい事態を生じさせる」
であると考えられる。違う部分としてはただ物理と抽象の違いである。従って、
動作自体としては、「新しい事態を生じさせる」という類似部分があるゆえ、
メタファーの意味拡張として考えられる。
従って、中国語の「引起」の意味範疇と意味拡張の図は以下となる。
93 現代漢語辞典第7版
図5. 31「引起」の意味ネットワーク図
「引き起こす/引起」の日中対照としては、まず、「引き起こす」の物理的意 味①の意味範疇と抽象的意味①の意味範疇は「引起」の物理的意味①の意味範 疇と抽象的意味①の意味範疇と対応していると考えられる。しかし、日本語に おける「引き起こす」は物理的意味②の意味範疇を持っているが、中国語の「引 起」はその意味範疇を持っていない。従って、「独特な使い方」として考えら れる。また、「独特な使い方」の意味拡張の部分はメトニミーにより意味拡張 した部分である。それ以外の特徴は特に持っていないため、本研究では省略す る。