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5.4 日本語の意味の数が中国語より多いグループ(「日>中」)

5.4.1 吸い取る/吸取

日本語の「吸い取る」の意味90

① 液状のものや粉末などを、吸いこんだり他の物に吸い込ませたりして取り 去る。例61を提示する。

② 他人の得た利益や金銭などを取り上げる。しぼり取る。例62を提示す る。

61a:掃除機でごみを吸い取る。(物理的)(三省堂スーパー大辞林)

b:試液をスポイトで吸い取る。(物理的)(三省堂スーパー大辞林)

c:…エネルギーの多くを吸い取ることになる。(抽象的)(BCCWJ)

d:…あるいは人の生命と正気とを吸い取るがゆえに桜の花は美しいとか

…(抽象的)(BCCWJ)

62a:いくら稼いでも税金に吸い取られる。(抽象的)(三省堂スーパー大辞

林)

b:…留学生として日本に来させ、金を吸い取る道具に仕立てた。(抽象的)

(BCCWJ)

「吸い取る」の①の意味に関しては、上に辞書としての意味の説明文では、

物理的な使い方と捉えられやすいが、しかし、例 61を通して、抽象的な使い 方もできると考えられる。具体的には、ゴミや液体など物理的な目的語でも、

エネルギーや生命、正気など抽象的な目的語でも吸い込んで取り去る。よって、

「吸い取る」の①は物理/抽象という両方の使い方ができる。次に、「吸い取る」

の②は抽象的な使い方であると考えられる。具体的には、例 62を通して、あ る具体的な金額ではなく、税金や金などの概念という抽象的な目的語を搾り取 る。よって、「吸い取る」の②は抽象的な使い方である。

「引き起こす」の意味拡張に関しては、まず物理的な意味①から抽象的な意 味②までがメタファーによる意味拡張であると考えられる。なぜなら、二つの

90 三省堂スーパー大辞林

意味は辞書レベルで特に分けられておらず、同じ意味の部分としては、「ある ものを吸い込んで取り去る」である。違う部分としてはただ物理と抽象の違い だけである。従って、動作自体としては、「あるものを吸い込んで取り去る」

という類似部分があるゆえ、メタファーの意味拡張として考えられる。一方、

抽象的な意味①から抽象的な意味②までがメタファーの意味拡張として考え られる。なぜなら、二つの意味には「あるものを取る」という類似性に基づい ての意味拡張と考えられるからである。抽象的な意味①の方はエネルギーや生 命、正気など抽象的な目的語を吸い込んで取り去るという意味である。つまり、

あるものを取るという動作であると考えられる。抽象的な意味②は税金や金な ど抽象的な目的語を搾り取る。つまり、あるものを取るという動作であると考 えられる。同じ意味の部分としては、「あるものを取る」である。違う部分と してはただ抽象物全体とその中の一部分である金銭的なものという違いだけ である。ここで注意したいのは、動作自体としては類似性に基づいたものであ るため、同種類での全体と部分という包括的な関係が成り立っておらず、シネ クドキとは考えられにくいことである。従って、動作自体としては、「あるも のを取る」という類似部分があるゆえ、メタファーの意味拡張として考えられ る。

従って、日本語の「吸い取る」の意味範疇と意味拡張の図は以下となる。

図5. 28「吸い取る」の意味ネットワーク図

一方、中国語の「吸取」の意味91

① 吸收获取(吸い込んで獲得する)。例63を提示する。

63a:…用吸油、草包吸取水面上的油污。(物理的)(BCC)

(油取り、草で水面上の油汚れを吸い取る)

b:吸取养料。(物理的)(現代漢語辞典第7版)

(肥料を吸い取る)

c:…它还能通过车棚上的太阳能板吸取能量…(抽象的)(BCC)

91 現代漢語辞典第7版

(…それはまだ車上のソーラーパネルでエネルギーを吸い取れる)

d:吸取经验教训。(抽象的)(現代漢語辞典第7版)

(経験レッスンから学び、反省する)

上の辞書としての意味の説明文でも、例でも、「吸取」は物理的と抽象的の 両方に使えると考えられる。例63では、a、bとc、dはそれぞれ物理/抽象の 例である。具体的には、油や肥料など物理的な目的語でも、エネルギーや経験 など抽象的な目的語でも吸い込んで獲得する。よって、「吸取」の①の意味は 物理/抽象両方の使い方ができる。

「吸取」の意味拡張に関しては、物理的な意味①から抽象的な意味①までが メタファーによる意味拡張であると考えられる。この二つの意味は辞書レベル で特に分けられていないし、同じ意味の部分としては、「あるものを吸い込ん で獲得する」であると考えられる。違う部分としてはただ物理と抽象の違いで ある。従って、動作自体としては、「あるものを吸い込んで獲得する」という 類似部分があるゆえ、メタファーの意味拡張として考えられる。

従って、中国語の「吸取」の意味範疇と意味拡張の図は以下となる。

図5. 29「吸取」の意味ネットワーク図

「吸い取る/吸取」の日中対照としては、まず、「吸い取る」の物理的意味① の意味範疇と抽象的意味①の意味範疇は、「吸取」の物理的意味①の意味範疇 と抽象的意味①の意味範疇と基本的に対応していると考えられる。しかし、こ こで注意したいのは、「吸い取る/吸取」の目的語がそれぞれに制限があると考 えられることである。例64と例65を見てみよう。

64a:週に1回程度、掃除機でほこりを吸い取ると良いでしょう。(物理

的)(NINJAL-LWP)

(*):(一周一次左右,用吸尘器吸取灰尘会比较好吧)

b:エアコンの開発チームは、ゴミを吸い取る技術を持っていない(物理 的)(NINJAL-LWP)

(*):(空调的开发团队并没有吸取垃圾的技术)

65a:他们的经验都值得我们吸取。(抽象的)(BCC)

(*):(我々が彼らの経験を吸い取るべきだ)

b:确实是从过去的失误中吸取了教训(抽象的)(BCC)

(*):(確かに過去のミスからレッスンを吸い取る)

例64 を通して、日本語の「吸い取る」はゴミやほこりなど物理的な目的語 でも使えるが、中国語の「吸取」は使えない。従って、中国語の「吸取」には 物理的な意味範疇を持っているが、ゴミやほこりなどの目的語以外の目的語に 使うという制限があると考えられる。この制限は日本語の方に持っていないた

め、中国語の「独特な使い方」として考えられる。また、「物理的に吸い込ん で獲得する」と制限している「(ゴミやほこりなど以外)物理的に吸い込んで 獲得する」と「吸い込んで獲得する」という類似部分があるゆえ、「独特な使 い方」の意味拡張の部分はメタファーによる意味拡張であると考えられる。

一方、例65 を通して、中国語の「吸取」は経験やレッスンなど抽象的な目 的語でも使えるが、日本語の「吸い取る」は使えない。従って、日本語の「吸 い取る」は抽象的な意味範疇を持っているが、経験やレッスンなどの目的語以 外の目的語に使うという制限があると考えられる。この制限は中国語にはない ため、日本語の「独特な使い方」として考えられる。また、「抽象的に吸い込 んで取り去る」と制限している「(経験やレッスンなど以外)抽象的に吸い込 んで取り去る」と「吸い込んで取り去る」という類似部分があるゆえ、「独特 な使い方」の意味拡張の部分はメタファーにより意味拡張したものである。ま た、「吸い取る」の②の意味範疇を「吸取」は持っていないため、これも日本 語の「独特な使い方」として考えられる。「独特な使い方」の意味拡張の部分 はメタファーにより意味拡張であると考えられる。それ以外の特徴は特に持っ ていないため、本研究では省略する。