第4章 コア・ミーニングを用いた多義語指導と有効性:研究1
4.2 研究方法
4.2.4 指導方法
4.2.4.1 CBEI:コア・ミーニングの概念と応用方法の明示的指導
CBEIでは、まず、コア・ミーニングの概念に対する理解を促すために、2種類のペア・
ワークを実施した。ペア・ワークは学習者にin, on, atのコア・ミーニングを提示し、選 択肢にある9つのイラストがどの前置詞のコア・ミーニングに該当するかを分類するもの である(付録2)。最初のペア・ワークでは、学習者にとって比較的分類しやすい空間用法 のイラストを使用した。ただし、ここではコア・ミーニングの具体的な説明はせず、それ ぞれのコア・ミーニングとの類似点を考慮して分類するよう指示した。次のペア・ワーク
指導の種類
[CBEI]
コア・ミーニングの概念 と応用方法についての 明示的な説明
(約30分)
[ISCBI]
コア・ミーニングが載っ ている資料を提示・説明
(約15分+解釈のため の時間10分程度)
[TBI]
in, on, atそれぞれの辞書 的意味を提示・説明
(約15分+解釈のための時
間10分程度)
[Control]
指導なし 事前テスト(20分間)
事後テスト(20分間)
では、境界が曖昧な空間用法、時間用法、抽象用法に該当するin, on, atのイラストを同 様に分類するよう指示した(付録 3)。その後、解答を口頭で行い、それぞれの前置詞に は共通する意味を表すコア・ミーニングがあること、それらがコア・イメージとコア記述 で表現されることを口頭で説明した。
続いて、意味処理の促進を目的としてコア・ミーニングに基づく見なしの原理の働かせ 方について説明を行った。その際、スライドを用いながら各前置詞における見なしの原理 の働かせ方と意味的動機づけ(なぜその前置詞がその文で使われているか)について、空 間用法、時間用法、抽象用法の順に説明した(付録4)。以下では、前置詞in, on, atの順 にどのような指導を行ったかについて詳細に述べる。
最初にinについて説明を行った。inのコア・ミーニングはコア記述が、〈空間内〉と表 され、典型的には3次元の空間をもつ容器(container)のイメージであり、コア・イメー ジは次のスライドの左のようなものであると改めて説明した。
図4-3 inの空間的用法の説明に使用したスライド4
inの最も基本的な用例はan apple in the box(箱の中のリンゴ)のように、境界のある 3次元の空間を想定した「容器(container)」のイメージである伝え、inの容器と中身を それぞれAとBに置き換えて説明を行った。それを踏まえてこのバッタの絵に注目させ、草
4 inのスライドで使用したコア・イメージは全て田中他(2007, p.84)より引用。また、空間用法のバ
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がBでバッタがAに該当することを例文(There are grasshoppers in the grass.)と共に確 認し、コア・ミーニングと同様にAとBの関係であることを意識づけた。そして、そのよう な類似点があるために、ここでinが使用できることを強調した。さらに、このinの空間内 を表す物理的空間関係が時間的空間へ拡張することを以下のスライドを用いて説明した。
図4-4 inの時間的用法の説明に使用したスライド
時間的用法の説明にはWho knows what happen in the 22nd century? の用例を用い、
22世紀の1世紀(100年)の幅を時間空間として捉え、未来の時間的空間内(100年という 時間的な幅の中)では何が起こるか誰もわからないことを表す点を説明した。また、時間 用法にもコア・イメージが関連し、この例では21世紀と22世紀を箱として捉え、what will happenという何かの出来事(クエスチョン・マーク)がその空間内にあるという見なしが 可能であると強調した。スライドの通り、21世紀や22世紀がBでその中の出来事がAとな る。inの空間関係は、B in A となり、これは〈Bという空間内にあるA〉というように解 釈することになるため、「22世紀という未来の時間的空間(A)の内にある(=in)未知の 出来事(=B)」になると考えることを説明した。このように物理的空間から時間的空間内 への見なしの原理に基づく投射によって意味が拡張しており、この場合も〈空間内〉とい うコアからずれていないため、inが用いられている事例であることを伝えた。
次に、抽象的用法の説明では、inの物理的空間が表す空間関係が心理的空間のような抽 象的な空間にも拡張されることを述べた。見なしの原理に基づく心理的空間への拡張はの 説明は次のスライドを用いて行った。
図4-5 inの抽象的用法の説明に使用したスライド
この用例では男性が「困っている」という抽象的な心理空間の中にある状態を表してい る。これを見なしの原理に基づいたAとBの空間関係で表すと、「困るという心理空間(= B)
の内(= in)にいる彼(= A)」になることを説明した。具体的には、コア・イメージの 容器と内容物という2つの対象が、He is in trouble.では何に当たるか(投射されているか)
に触れ、さらに、「境界の見えない心理的な空間(trouble)を容器と見なし、その容器内 に彼という対象が存在していると見なす」と説明した。加えて、この見なしが成立してい るからこそinがこの用例に適合していることを伝え、この見なしと意味的動機づけとコ ア・イメージとの整合性こそが適切な前置詞選択の鍵となることを指導した。
onの指導においてもinと同様にスライドを用いながら空間・時間・抽象の順にコア・
ミーニングに基づく見なしの原理と意味の拡張について説明を行った。もっとも基本的な 用法である空間的用法については、onのコア・ミーニングにおけるコア記述が〈接触関係〉
であり、水平面や垂直面、点への接触にも使用できる特徴を反映したコア・イメージがあ ることを説明した。指導では、立方体と球体をそれぞれAとBに置き換えて説明を行い、
空間的用法の用例であるI have a bump on my head.では、A(a bump)とB(my head)
は接触関係にあり、コア・ミーニングにあるAとBと同様の関係性であると述べた。
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図4-6 onの空間的用法の説明に使用したスライド5
次に、inと同様に、時間的空間関係に基づく用例への拡張は、見なしの原理を働かせた コア・ミーニングの投射によってなされ、接触関係というコア・ミーニングに基づいた時 間的空間は「特定の日・時」を表すものとして考えることが可能であることを説明した。
具体的には、events on Christmas Dayという例にも触れ、クリスマスは12月25日という 日と接触して離れない対象として捉えることが可能であり、ここから〈接触関係〉という コア・ミーニングを持つonは、クリスマスや誕生日のようにある特定のある曜日や日に〈接 触〉して離れないという意識から日時が固定化・特定化され、「特定の日・時」という意 味合いが生じると説明した。スライドでは、I met her on a rainy day.という用例をもとに 説明し、私と彼女の出会いという出来事が、「雨の日」という特定の日・時にあった事実 から〈接触〉して離れることがないためにonが用いられていると述べた。また時間的空間 における用法も、それぞれの出来事や対象はA(I met her)とB(rainy day)になり、接 触の空間関係を表すコア・イメージの見なしによる投射が可能であることから、時間的空 間に意味が拡張して使用されていることを強調した。
5 共通イメージは全て田中他(2008, p.14)、スライドの右のイメージで、空間・時間用法は田中(2007, p.87)
より引用(円は筆者が加えた)し、抽象用法のイメージ図は刀祢(2005, p.168)より引用した。
図4-7 onの時間的用法の説明に使用したスライド
次に、抽象的空間関係への拡張についてもスライドを用いて説明を行った。抽象的用法 では、対象の抽象度が上がるために、AとBで見なす対象が実体の見えにくい抽象化したも のとなることを説明し、例えば、I put blame on him.の場合、コア・ミーニングにあるA とBを、A(the blame)とB(him)と見なし、実体の見えない責任(blame)をなすりつ けるイメージとなると指導した。また、ここでも接触関係というコア・ミーニングが見な しの原理に基づく投射によって意味の拡張がなされていることを強調した。
図4-8 onの抽象的用法の説明に使用したスライド
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次にat の指導を行った。atの指導においてもスライドを用いながら空間・時間・抽象 の順にコア・ミーニングに基づく見なしの原理と意味の拡張について説明を行った。atの コア・ミーニングにおけるコア記述は〈場所(・・・のところに)〉であり、コア・イメー ジは下のスライドの左にあるものを採用して改めて説明を行った。
図4-9 atの空間的用法の説明に使用したスライド6
基本的な物理的空間の説明には She’s standing at the window.を用例として用いた。こ の用例の空間関係はA(She)とB(window)の物理的空間関係を表すことになるが、彼 女が窓のところ(周辺)のどこかに立っているという空間的な位置関係を意味することに なると説明した。また、コア・イメージのようにBを背景としたAの漠然とした位置関係 に見なしが成立しているからこそatがこの用例に適合していることを伝え、この見なしに 元づく意味的動機づけとコア・イメージとの整合性こそが適切な前置詞選択の鍵となるこ とを指導した。
時間的空間関係に基づいたatの用例について指導を行った。これについては、漠然とし た時を表す用例であるWe’re going to go home at Christmastime this year.を用いて説明 を行った。
6 共通イメージは全て田中他(2007, p.88)より引用し、全ての用法における右のイメージは全て田中
(2007, p.89)より引用(※女性を表す図2名分と円は筆者が加えた)。