第6章 総合考察
6.3 コア・ミーニングを応用した多義語(前置詞)指導への示唆
本節では、本研究で行った2つの研究について、研究成果の意義を確認するとともに、
それぞれの研究がどのようにコア・ミーニングを応用した前置詞学習・指導への貢献が可 能かについて示唆を試みる。
6.3.1 研究1:明示的指導の具体的なポイントとタスク
研究1の結果から、コア・ミーニングに基づいて前置詞指導を行う際には、コア・ミー ニングが持つ表現のうちどちらかではなく、コア・イメージとコア記述の両方を用いるこ とが前提であることが示されている。またそれらを学習者に提示するだけではなく、さら なる教育介入として、「コア・ミーニングの網羅的意味としての概念」や「フィット感に基 づく前置詞選択の方法」、「コア・ミーニングと拡張的な意味との関連」を明示的な形で指 導することが学習を促進することも示された。これらを踏まえた指導のポイントは、コア・
ミーニングの意味的共通性の概念を理解するタスクを取り入れること、前置詞選択のタス クを実施し、その際、「なぜその前置詞を選択するのか」という意味的動機づけをコア・ミ ーニングの見なしの原理に基づいて説明する(考えさせる)こと、さらには、より抽象的 な用法とコア・ミーニングがどの点で類似点を持つのかという点を説明する(考えさせる)
こと等が挙げられる。
このように、研究1は、先行研究で繰り返されてきた効果検証では議論が深められてこ なかった、コア・ミーニングの何をどのように用い、何に重点を置いて指導をすべきか、
という指導の実践的側面に新たな視点を提供した点に意義がある。
6.3.2 研究2:指導上の重点
研究2については、質的分析を取り入れたことにより、これまでに同様の研究分野にお いて発展が見られなかった学習者の認知活動にアプローチする研究を実施することができ た。これにより、研究分野に新たな研究手法の枠組みを提案した点が意義深い。研究2の 結果からは、コア・ミーニングを使用した前置詞選択における様々な誤答の認知パターン が見られた。この認知パターンは、言い換えれば、コア・ミーニングを応用した前置詞指 導における新たな教育的支援のポイントである。したがって、結果から得られた誤答の認 知パターンに焦点を当て、新たな指導ポイントを示唆として提示する(付録8)。誤答の認 知パターンからは、「コア・ミーニングの概念を指導する際の留意事項」、「文内の単語の意 味や文脈も重視する」、「前置詞の差異を明示する」、「トレーニングの重点」の4つの観点 から次のようにまとめられる。
(1) コア・ミーニングの概念を指導する際の留意事項
学習者の回答からは既有知識を優先した認知パターンも多く見られた。既有知識の適切 な応用による正解であれば一見問題がないように感じるが、その既有知識が一対一対応に よる固定化した意味記憶の知識であれば、その他の用例に出会ったときに混乱や学び直し といった事態が引き起こされる可能性がある。また、コア・ミーニングのような新しい知 識を与えられた場合に、既有知識との結びつきが理解できないまま混乱を起こすことや、
「コア記述=語の意味」として誤った知識を身につけて誤用してしまうことも起こりうる。
これらの事態への対応として、コア・ミーニングの概念を指導する際の留意事項として挙 げられるのが次の5点である。
① 一対一対応の暗記知識よりも汎用性の高い知識としてのコア・ミーニングの応用可 能性を示す
② コア・ミーニングが余計な判断基準とならないよう、既有知識とコア・ミーニング
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③ コア記述は語の意味ではなく中核的なイメージを説明するものであることを強調し、
コア記述を単語の意味として適用できない例があることを説明する
④ 既有知識及び他の用例との関連やコア・ミーニングの共通性を示す
⑤ 固定化した既有知識では解釈できない用例に触れて、用例の背後にあるコア・ミー ニングの概念の理解を促す
(2) 明示的な説明により前置詞の差異の理解を促す
分析からは、コア・ミーニングの混同により誤答する学習者やコア・ミーニングの誤っ た適用をする学習者、また「時間的用法にはatやonを選ぶ」とする固定的な知識により 誤答してしまう学習者もいた。これらの学習者は前置詞の意味の違いが曖昧なままである 可能性が高い。この点を踏まえた指導ポイントは次の3点である。
① in, on, atのコア・ミーニングを示し、それぞれの差異にフォーカスした上で、「な
ぜそのような選択になるのか」という意味的動機づけを明示的に説明・指導する
② 既有知識とコア・ミーニングとの関連を明らかにし、それぞれの前置詞の差異を明 示する
③ in, on, at全てに時間的用法が存在することを伝え、コア・ミーニングでそれぞれの
差異を示す
(3) トレーニングの重点
今回の分析結果から、特に比喩的な意味による用例ではコア・ミーニングに基づく空間 関係の見立てから意味の拡張へと結びつけることが学習者にとって困難であることも明ら かとなっている。また、回答から見られた認知パターンと選択した前置詞の不一致も見ら れた。これらの課題に対しては、認知処理活動を何度も行うことで拡張の処理をスムーズ に行えるように次のようなトレーニングが必要となる。
① 比喩的な用例とコア・ミーニングとの関連を考えるトレーニングを実施する
② 前置詞とコア・ミーニングの対応の修正を行うトレーニングを実施する
(4) 文内の単語の意味や文脈も重視する
学習者の誤用の認知パターンからは、単語の意味や文脈に対する注意が希薄となったこ とで適切な前置詞を選べず、結果的に誤用となってしまう学習者がいた。この点を踏まえ た指導ポイントは次の2点である。
① コア・ミーニングによる解釈が合理的に納得できるものであっても、全体の文脈で 通用するかを判断するよう促す
② 前置詞選択は文に含まれる単語の意味や文脈の影響を受けてなされることから、コ ア・ミーニングによる見立てと単語の持つ意味や文脈との整合性を確認したうえで 前置詞選択の判断をするよう促す
研究2の分析結果からまとめられた教育的示唆は以上である。これらに留意して指導を 行うことで、学習者の前置詞に対する理解が促進することが期待される。
以上、本章では、総合考察として、本研究で実施した2つの研究の要約、研究課題に対 する回答、新たな発見としての3つのバイアス、今後の多義語(前置詞)指導への示唆に ついてまとめた。次節では、本研究の限界と今後の課題について述べる。