第5章 コア・ミーニングの応用における学習者の認知:研究2
5.5 考察
5.5.1 問いごとの考察
ここでは、Q1〜Q9までの認知パターンから得られた考察について、問いごとに整理す る。
Q1のI told the caller to phone again ( ) 24 hours.の認知パターンからは、学習者は 見なしの原理と意味的動機づけも適切に行っていることがわかった。これらのことから、
Q1 においてコア・ミーニングを活用して正答した学習者は、コア・ミーニングに基づく 明示的指導を踏まえその知識を適切に応用した上で、正答していることがわかる。また、
結果として、inの時間的用法の理解に対して明示的指導が学習を促したと言うことができ る。
一方で、コア・ミーニングを用いて誤答した学習者の認知パターンからは、atもしくは onの見立てと意味的動機づけを成立させた上で誤答する認知パターンが見られた。例えば、
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という特定された時間内というイメージだったので」という回答からは on の時間の特定 性を認知していたことがわかる。このことから、Q1 がコア・ミーニングに基づく学習の プロセスでは、正答ではない他の前置詞で見立てや意味的動機づけが学習者の中で成立し てしまい、正しい解釈として認識してしまう事例であることがわかった。
Q2のHe often drops in to see me ( ) Sundays.では、コア・ミーニングを用いてon と正答した学習者のほとんどが、見なしの原理を働かせて出来事と時間の接触関係から日 時の特定性を説明する適切な意味的動機づけを行っていた。このことから、Q2 において コア・ミーニングを活用して正答した学習者は、コア・ミーニングに基づく明示的指導を 踏まえ、その知識を適切に応用した上で正答していたことがわかる。加えて、onのコア・
ミーニングに基づいて行った時間的用法の指導が効果的な学習を促したこともわかった。
一方で、コア・ミーニングを活用せずに既有の語彙・文法知識で on と正答した学習者 も見られ、特に「日付や曜日だからon」とする回答が多く見られた。直観の回答もいたが 数は少なかった(1名)。この認知パターンからは、学習者は既に学習や訓練を蓄積して習 得された前置詞の知識や用法に基づいて判断が可能な場合は、コア・ミーニング使用によ る回答を求められたとしても、既有の語彙・文法知識を優先する傾向が見て取れた。
Q3のHe laughed ( ) me.の認知パターンからは、コア・ミーニングを用いてatと正
答した学習者のほとんどが、見なしの原理を働かせてatの焦点化された点をイメージし、
そこから「方向」や「対象の焦点化」と解釈する意味的動機づけを行っていた。このこと から、Q3においてコア・ミーニングを活用して正答した学習者は、atのコア・ミーニン グに基づく明示的指導がatの抽象的用法に対する効果的な学習を促し、その知識を適切に 応用した上で正答していたことがわかる。
一方で、被動作主が明確な文脈から特定性をイメージし、onとのフィット感を認識する 学習者も存在した。これについては、見立てと意味的動機づけを成立させた上での誤答で あったことから、Q3 が異なる2つの前置詞で見立てや意味的動機づけが成立してしまう 事例があることがわかった。
Q4 のHe kissed her ( ) the cheek.では、コア・ミーニングを用いてonと正答した学 習者の半数程度が接触関係の見立てと適切な意味的動機づけを基に回答していた。残りの 半数程度は接触の見立ての認知パターンのみを表す回答であり、彼らについては意味的動 機づけが適切に行えていたかが不明である。この背景には、kissという単語で表される動 作にすでに接触イメージが内包されていたことから、意味的動機づけを成立させなくても、
コア・ミーニングと文脈との関連付けが容易であった可能性がある。しかし、明示的指導 では、「接触関係」を on のコア・ミーニングとして指導していたため、明示的指導が on の空間用法について効果的な学習を促したと解釈できる。
一方、コア・ミーニングを用いてatと誤答した学習者は、atのコア・ミーニングに基 づき「彼女の頬」を特定のところ(場所)や的(点)としてイメージする認知パターンを 見せた。これらは、見立てと意味的動機づけを成立させた上での誤答であったことから、
Q4 が学習者の学習プロセスにおいて異なる2つの前置詞で見立てや意味的動機づけが成 立してしまう事例であることがわかった。
また、既有の語彙・文法の知識を適用して on を選択した認知パターンを見せた学習者 もいた。この認知パターンからは、学習者は既に学習や訓練を蓄積して習得された前置詞 の知識や用法に基づいて判断が可能な場合は、コア・ミーニング使用による回答を求めら れたとしても、既有の語彙・文法知識を優先する傾向が見て取れた。
Q5. We talked ( ) the phone.では、「対象が電話という方法・手段と接触する」見立
てでコア・ミーニングを適用した学習者はおらず、結果的に適切な意味的動機づけで回答 した学習者はいなかった。これは、コア・イメージを用いた指導により、具体的な2つの 対象(例:電話の受話器と顔や耳)が物理的に接触するという視覚的なイメージを想起し た学習者が多かったためと考えられる。Q5 は意味的動機づけが適切でなくとも正答が選 択できるケースであったが、受話器と顔・耳の接触関係で文脈的に解釈可能となる用例で はないため、適切な見なしの原理を働かせにくい抽象的な on の用例では、明示的指導が 効果的な学習を促したとは言えない。
一方で、コア・ミーニングではなく、既有の語彙・文法知識を適用した学習者と用法に 関する知識を適用して on と正答した学習者もいた。このように、既に長期間に渡って学 習や訓練を蓄積して習得された前置詞の知識や用法に基づいて判断できる場合には、コ ア・ミーニング使用による回答を求められても、既有の語彙・文法知識を優先的に用いる ケースが見られた。
Q6のHe dipped his brush ( ) the paint.では、容器の中に物体が位置付けられている 状態を示す認知パターンで正解した学習者は、少数であった。その一方、inではなく容器 の中に物体が入り込むイメージを持つintoの見立てに基づき、意味的動機づけを説明する 学習者が多く存在していた。Q6 は見なしの原理を働かせた見立てが適切でなくとも正答
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らinの空間用法に対する明示的指導が効果的な学習を促したとは言えない。
また、on と誤答した学習者は、on のコア・イメージを適切に想起してはいるものの、
文脈やdipが持つ「浸す」という動作の結果まで認知を働かせていないことがわかった。
また、彼らは2つの対象物の空間関係を接触関係として捉えた上で意味的動機づけを成立 させている。したがって、異なる2つの前置詞で見立てや意味的動機づけが成立してしま う事例であることがわかった。また、Q6では単語の捉え間違いのケースも一定数見られ、
これらは学習者が単語の意味を理解出来ていなかったことから誤答を招いた可能性も考え られる。
Q7のUnemployment is ( ) the increase.では正答のonを選択した学習者は、対象物 の接触関係の見立ては試みるものの、そこから抽象的(比喩的)な意味の拡張までは処理 ができていないことがわかった。一部、Q7 の用例とは別の「不変」の意味拡張を見せて いたが、「継続」を連想させるコードは浮上していない。on の抽象的用法に対する明示的 指導が効果的な学習を促したとは言えない。
また、inとonのコア・ミーニングを混同した認知パターンも存在していたが、そこで もinが選択されているため、学習者にとって見なしの原理を働かせることができ、意味的 動機づけも容易であった in が優先された可能性もある。また、atを選択した学習者は、
at のコア・ミーニングによる見立てから、「点」のイメージや「場所」のイメージによる 意味的動機づけを適切に行って解釈する認知パターンを見せていた。このことから、Q7 が正答ではない他の前置詞で見立てや意味的動機づけが学習者の中で成立してしまい、正 しい解釈として認識してしまう事例であることがわかった。
Q7のUnemployment is ( ) the increase.では、コア・ミーニングを用い、かつonと 正答した学習者で適切な見立てと意味的動機づけによって正答の認知パターンを見せた学 習者はいなかった。on を選択した学習者は、対象物の接触関係の見立ては試みるものの、
そこから抽象的(比喩的)な意味の拡張までは処理ができていないことがわかった。
Q7の認知パターンにおける顕著な特徴は、inの容器や空間内の認知パターンを見せた 学習者が多かった点である。彼らは主に、増加の状況を容器とし、その中に失業者がいる 見立てを働かせていた。これは、そのような抽象的な見立てと意味的動機づけによる説明 の方が、学習者にとって解釈が容易であったことが1つの要因であると考えられる。
また、inとonのコア・ミーニングを混同した認知パターンが存在していたが、そこで も inが選択されているため、彼らにとって原理的な説明が可能で、かつ解釈が容易な in