3.動
第2節 教育内容構造の意味
本節では,教育内容構造図の意義と意味を明らかにすることに,その目的が
ある。
1.教育内容構造の意義
前節において,考察したように,理解説明型授業構成の原理に即した教育内 容抽出図は,「法則的知識と行為の意味理解」の獲得を目指したものである。
したがって,内容相互の関係は,目的論的連関と因果的関係の二重性で結ば れている。それだけに,論理的にも,心理的にも妥当性のあるものと,なって
いる。
この教育内容構造は,教材化,授業過程を組むときの骨組みをなすもQであ り,授業設計の指針となる。それだけに授業に与える影響は,大きい。
宇佐美寛氏は,授業について,「どのような事実が,子どものどのような概 念構造を文脈として,どのように解釈されたかが重要なのである。」と述べて
いる。
このことは,教材化,授業過程,授業展開の指針となる教育内容構造の重要 性の指摘である。上記のような教育内容構造,その構造に基づく教材化,授業 過程,授業展開がより明確に,具体的に行われれば,既に持っている子どもの 概念構造,概念システムは揺さぶられ,その概念網は,より量的に広がり,質的に 深く結びつくことが可能となる。すなわち,子どもは自分なりのより間違いの 少ない,より説明力ある概念システムをつくり上げることができる。
前節で重要な点は,もう一点ある。教育内容構造は教師自身が「目的一手段」
・「原因一結果」間での問いを活発に往復運動することにより,作成していくと 指摘した。まさに問いによる相互間の往復運動を繰り返すことであるが,この 問いの重要性について,岩田一彦氏は次のように述べている。
入頚の成長の過程は,問いを創造し,それに答えてきた歴史である。科学の進歩 は問いの量的拡大・質的深まりとそれに対する答えの蓄積である。このことは子ど もの成長過程を見ればよく分かる。幼児がいかに多くの問いを周囲の人に投げかけ ているか。大人が幼児の問いに答えきれないでとまどっている状況は一般的である。
問いを持つことは知的探求のエネルギーを持っていることである。一つの問いへ の回答は,新しい問いや関連事象への問いを生み出してくる。 14
このように問うことにより,先に確定した「法則的知識と行為の理念型」も 修正,改善することが可能となる。
このように修正,改善された教育内容構造は,学習目標の設定,学習計画の 作成,等々の指導案の方向性・内容をより効果的に示唆できるものとなる。
2.教育内容構造の意味
前節で示した構造図は,あくまでも教育内容構造図であって,教材構造図で
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はない。この種の混同の危険性について,宇佐美寛氏は次のように述べている。
教師が考えた「教科内容」がそのまま子どもの思考になるように思う傾向がでて くるのである。「教科内容」が抽象的な言葉で整理されていて,子どもの経験とどう 連続しているかは不明なのである。子どもの経験と結びつく力のない言葉のやりと りで授業が進んでいく言語主義が強くなるのである。 15
内容を計画するに当たって,子どもの側の思考を考慮に入れることによって「教 科内容」を屈折・変質させることにより「教材」はできるのである。亭16
この指摘は,逆の面にもいえることである。すなわち教材研究のみに没頭し,
教育内容の論議がされなければ,教育内容は,薄っぺらいものとなり,教育内 容を屈折・変質させてつくっていく教材そのものも,表面二段階にとどまって しまう。したがって,その結果,子どもの思考は深まらず,知識も一回性の知 識に終始してしまい,その子どもなりの法則的知識の獲得はおろか,行為の意 味理解など到底できなくなってしまう。
以上のことを踏まえ,教育内容構造を設定していくことが重要である。
註
*1詳細に関しては,『新訂社会科教育指導用語辞典』教育出版1993.L22,
pp.104一董05.を参照のこと。
*2単元確定の4点の基準は,順序性をあらわすものではない。
*3岩田一彦著『小学校社会科の授業設計』東京書i籍1995.1,p25.
*4前掲書,p.28.
*5森分孝治著「社会科授業構成の理論と方法」明治図書1981.12,p.170.
*6 【表1:ヒ.アジェ理論における思考の発達段階】
段 階 該当年齢 特 徴 1感覚運 動的段階 〈略〉
H前操作
4〜8歳
[直観的思考]的思考 ・知覚の優位性。・思考における一貫性の欠如。
・保存や可逆性の未成立。・強い自己中心性。
・主観と客観の未分化。それは意識化の困難,
関係,理解の不可能,総合力の欠如,混沌によ
る。
m:具体的
8〜12歳
・個々の思考が,ひとつの体系に初めて組織化 操作 される。・クラスないし,クラス相互間の包含関係,順序づけ,可逆性の理解。・操作の成立。
・操作は具体的内容に基づく。・具体的操作の 体系的特性の論理数学的モデルとして九つの群 性体がある。・群性体には,合成性,可逆性,
結合性,一般的同一性,特殊同一性の5つの属 性が含まれる。
IV形式的 12〜 15 ・現実や具体的内容の束縛から自由になり,仮 操作 歳 説演繹的方法がとられる。・全ての可能性の検
討が可能。そのために順列組み合わせの手法が 獲得される。・現実の対象を扱うのでなく,そ れを含んだ命題を扱う。つまり命題間の論理的 関係を操作する。・論理数学的モデルとして,
結合された東一群構造がある。
篠置昭男,乾原正編『学校教育心理学』福村出版1990.7,p.31.
*7宇佐美寛著『思考指導の論理』明治図書1993,pp.155一.166.
*8 岩田一彦「社会科と子ども」社会認識教育学会編『社会科教育学ハンドブッ ク』明治図書1995.3,p52.
*9 知識の分類,構造についての詳細は,岩田一彦編著『社:会科の授業設計』
東京書籍1995.1,pp.38−44.を参照のこと。
*10湯川秀樹,梅樟:忠夫『人世にとって科学とはなにか』中央公論社,昭和42
年,P.48.
*11反証可能性についての詳細は,カール・Rホ.ハ㌧著『推論と反駁』石垣壽郎,
森博訳,法政大学出版局1993.8,p.163.を参照のこと。
*12関雅美著『ホ.バーの科学論と社会論』頸草書房1997.8,pp.2−3.
*13 この教育内容抽出図は,岩田一彦著『授業設計の理論』東京書籍1995.1,
pp68−71.と,森分孝治「社会科における思考力育成の基本原則一形式主 義・活動主義変更の克服のために一」全国社会科教育学会『社会科研究』
第47号1997.ll, pp.7−8.を参考に作成した。
*14岩田一彦著『小学校社会科の授業設計』東京書籍1995.1,p8。
*15宇佐美寛著『思考指導の論理』明治図書1993,p.83.
*16 前掲書,p.102.
.44.
第IV章 理解説明型授業=構成原理に基づく
社会科授業の分析
本章では,これまでの理解説明型授業構成原理の研究成果をもとに,分析フ レームワークを作成し,社会科授業実践及び教科書記述の分析を行う。
また分析結果の考察を通して,社会科学的認識形成における授業構成および,
教育内容の抽出論理の課題を明らかにする。