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第1節  教育内容の抽出論理

 本節の目的は,理解説明型授業構成における教育内容の抽出論理と,その過 程及び内容を明らかにすることである。

1.単元の設定

 単元寧1とは,教育実践の歴史において様々な意義を担ってきた射程の長い概 念であるが,ここでの単元とは,ひとつのu謡,主題教科内容の中にある一 つのまとまりという意味において用いる。

 社会科学的認識形成を担う社会科において,単元を設定するにあたり,どの ような条件を考慮に入れ,社会事象を取り上げたらよいだろうか。その条件と して,次の3点を提示する。η

(1)理論と「行為の意味」の明示

 単元として,取り上げる社会事象の基本的条件の第1点目は,理論と行為の 意味が明示されているものを選択することである。

 まず理論の明示について,説明していくことにする。

① 理論の明示

 単元として,取り上げる社会事象は,理論が明示されているものであること が重要である。

 なぜなら,理論とはこの場合,社会諸科学の成果であり,「原因と結果の関 係の明示的表現」℃によって示されており,現段階では,より間違いの少なく,

より説明力の大きい知識だからである。より説明力が大きいということは,逆 に,より反証可能性を十分に持っている,ということである。したがって,検 証が可能となる。

 例えば,「工業地域は用地が得やすく,交通の便のよいところに開発される」

という理論がある単元では,この理論を用いて,「OO地域は,工業用地が得 やすく,資源や製品の輸送の便がよい××港がすぐ近くにあるため,工業地域 がつくられた」という説明力のある知識を目標として設定できる。

 この知識は,「工業用地が得やすい」,「資源や製品の輸送の便がよい」とい う原因と,「工業地域がっくられた」という結果が明確に示されている。した がって,本当にこの理論が妥当であるか,検証することが可能となる。

 またこの原因一結果の関係は,特殊な地域だけのものでなく,その他の工業 地域に転移可能な工業地域立地論となっている。

 このように大胆に,原因と結果が明示されているため,反証も十分可能とな る。このことをさらに明確にするために,理論が明示されていない知識の獲得 例をみてみる。

 「京浜工業地帯は,東京,川崎,横浜を中心とした,我が国最大の工業地帯 となっている。」

 この知識では,原因と結果が明示されておらず,理論が組み込まれていない。

したがって,なぜ京浜工業地帯が,東京,川崎,横浜を中心につくられたのか,

なぜ我が国最大の工業地帯がここにできたのか,等を説明することができない。

 すなわち,この知識を用いて,本社会事象を説明することができないのであ る。典型的な記述的知識である。

 この知識の質では,学習者は,この事実を知っているか,知らないかの一問 一答の答えで展開されることになり,問いと答えの問が短く,思考することが できない。

 以上のことから,単元として,取り上げる社会:事象は,理論が明示されてい るものであることが重要である。

②「行為の意味」の明示

 次に,「行為の意味」の明示について,考察する。

 行為の意味とは,社:会事象に内在している人間の社会的行為の動機である。

社会事象は,人問の社会的行為の軌跡である。したがって,その社会事象をよ り深くとらえるためには,その社会的行為の動機をとらえる必要がある。

一30一

 例えば,企業はできるだけコストを下げ,最大限利潤を追求する,という行 為の意味をとらえることができれば,産業公害の原因も現象的理解にとどまる のでなく,本質的理解へと達することができる。

 このことについて,岩田一彦氏は,次のように図示している。

現象的因果関係の理解 原

Aメチル水銀のたまった魚  や貝を食べた。

B水俣病に

 なった。

本質的因果関係 原

・工場が利益至上主義であ

った。

・企業城下町であった。

         など

結 果

メチル水銀の

たれ流しを 止められな

かった。

A→B

 .    【図HI−1−1:水俣病の原因理解のための2層の因果関係】 4

 上記の図における行為の意味,すなわち行為の突き動かす動機は,次のよう

になる。

 「企業は最大限利益を最優先する,最大限利益を追求するので外部経済を内 部化するが外部負経済を内部化しない5」ということである。

 このように行為の意味を明確に位置づけ,内容構成をはかると,次のような 追求が可能となる。

 「水俣病になった。〈結果〉」,それはなぜか,「メチル水銀のたまった魚や貝を 食べた〈原因〉」ためである,という現象的理解は,さらに企業の行為の意味

を追求することにより,なぜ企業は,「メチル水銀を排出しつづけた〈結果〉」の か,r企業は最大限利益を追求するので,外部経済や内部化するが外部負経済 は内部化しない〈原因〉」ためである,という本質的理解を得ることができる。

 以上,行為の意味の追求を図化すると下記のような図になる。

 水

燈a

ノ な チた。

なぜか?

 メチル水銀の

スまった魚 竓Lを食べ

ス。

なぜか?

 工場がメ

̀ル水銀:を

r出して

「た。

なぜか?

 企業は最大限利益を追

≠キるので,外部経済は 熾秤サするが外部負経済 ヘ内部化しない。

【図皿一1−2=行為の意味への追求過程】

以上のことから,単元として,取り上げる社会事象を検討し,行為の意味を 明示していくことが重要である。

(2)生活・社会との関係

 単元として,取り上げる社会事象の基本的条件の第2点目は,生活・社会と の関係が深いものを選択することである。

 子どもの生活にとって,また社会における多くの人々の生活にとって,重要 な意味を持つ社会事象を単元として設定することである。

 また過去において現在において直面している社会問題及び,これからの展望 を与えるような社会的事象であることが重要である。

①子ども自身の生活とオーバーラップできるもの

 例えば,代表的なものをあげるならば,「水とくらし」という単元である。

 地域の人々の水の需要の増大にともなって,近年,特に水不足に悩まされる ことが多くなり,水源の安定した確保が重要な社会の課題となっている。

 この単元では,社会生活にとって,もちろんのこと,子どもたちの毎日の生 活基盤となっている学校,家庭から学習をスタートさせることが可能である。

  「水不足になったらどうする?」という問いに,「水道が止まる」,「水が自 由に飲めなくなる」と言っているうちは,切実感がなく,本気で考えられてい なかったものが,「わたしの家のハムスターが死んじゃう」,「プールで泳げなくなる」,

等のように,自分の生活とオーハ㌧ラップすることにより,生き生きとした切実感 を持つようになる。

 特に小学校中学年の段階では,抽象的思考のレディネズ6が十分整っていない。

したがって,絶えず,生活とオーハ㌧ラッフ.,すなわち,「言語一→経験の重層構造を 往復する運動が上下の両方向に十分に大きい幅で行われる」ηことが重要にな ってくる。

 以上のことから,子どもが自己の生活経験と結びつけられるような社会事象 を単元として設定する必要がある。

②社会がよくみえるもの

 例えば,「ごみと住みよいくらし」という単元である。この単元を例に岩田 一彦氏は次のように説明している。

  身近なところにある新聞やトイレットペーパーから,清掃工場における紙ゴミの  氾濫,古紙の回収のためのボランティア活動,自治体のゴミ減量運動,我が国の森  林資源の現状,世界の森林の破壊などへ,次々とつながっている社会事象のネット

一32一

 ワークが見えてくる。噸8

 すなわち,当該社会事象は他の社会事象との関係性も強く,追求すればする ほど様々な社会事象と結びつき,網の目を広げていくことが可能となっている。

 このように一つの単元から,社会が,世界が見えてくるものであることが重 要である。

③持続性・一般性のあるもの

 一回性のものでなく,持続性・一般性のあるものが重要である。例えば,貿 易摩擦の問題である。貿易摩擦の問題は,時代と共に内容こそ輸出抑制から輸 入拡大へと変わっているが,その本質は,当事国どうしの産業構造に連動し,

市場規模と輸出入の不均衡によって起こる永続的な問題であり,国際理解・国 際協調を図る上でも重要な社会事象である。また本単元における学習成果を通

じて,これからの貿易摩擦の方向と内容を未来予測することも可能となる。

 また例えば,「自動車生産のさかんな豊田」という単元において,事例地「豊 田」だけの個別性,特殊性の自動車生産ではなく,事例地を通して「日本の自 動車生産」のしくみ,構造がみえるもの,一般性をもつものであることが重要

である。

 この場合なら,本単元において,次のような知識を獲得できる。

 ・産業を取り巻く条件が変わると,その条件に適合した製品を生産する。

 ・生産コストを下げ,短時間で一定の量を生産する。

 ・品質のよい製品を生産する。

 ・合理的,多角的な経営をする。

 上記の知識は,豊田という事例地だけでなく,自動車産業はもとより,広く 工業生産を説明できる一般性を持っている。

(3)興味・関心のもてるもの

 子どもが現在,興味・関心のもっていることはもとより,興味・関心を今,

現在もっていないもめでも,子どもの知的好奇心を揺さぶり,探求していきた くなるような反応を導き出せる単元であることが重要である。

 そのためには,次の3点を踏まえておく必要がある。

 ・身の回りの問題に置き換えられるもの。

 ・問題解決の方法や,見通しが後一歩で見えるもの。

 ・学習成果を他の事象に転移できるもの。

 もう一つは,教師自身が興味関心のもてるものであることが重要である。教 師自身が熱意のもてるものでなければ,授業設計の意欲が持続深化せず,表