この電子ポートフォリオに対して,「調理師をやっていて,一番うれし い時ってどんな時?」という質問がくるが,教師に促されても返事を書 こうとする生徒はいなかった。このことは,提出された電子ポートフォ リオに対して生徒一人一人が無責任になっており,かつ,自分の考えを 他者に表現することをためらう状態になっていたと考えられる。そのた
め,質問に答えるべく,新たに調べていこうとする姿が観察されなかっ
た。
教師は,生徒一人一人が前面に出るように,グループの人数を調整し たり,電子ポートフォリオの内容に生徒の考えをつけるよう支援したり,
また,質問をする場合は「○○さんへ」というように,個人名を書くよ うにするなど,生徒の実態に即して生徒一人一人を支援する必要がある。
オ 催促の電子ポートフォリオ
図4.4−9は,販売員のグループが提出した電子ポートフォリオで
ある。
遅れてごめんなさい。
こっちで、6/19日に調べ学習があって、○○屋さんていう所に行って来ました。
そこで、分かったことは1日の働く時間が、○○屋さんでは、A, M8:00〜P, M7:30まで と、お客さんとは普段仕事関係や日常生活のことを話すんだそうです。
品物のならべ方は、お客さんが見やすいように。
それと、別に資格はいらないそうです。
全体の平均で良いのですが、分かったら教えて下さい。
それじゃ、また… 。
図4.4−9 販売員グループの電子ポートフォリオ (網掛けは筆者)
調べ学習で分からないことを,相手に聞いている内容である。また,
その聞いている内容(網掛けの部分)が,答えようがない内容である。
電子ポートフォリオの内容のよしあしを,その都度,教師が生徒に気づ
かせていくことが大切である。
力 電子ポートフォリオの質の違い
図4.4−10と図4.4−11は,保育士グループで提出された両
校の電子ポートフォリオである。
こんちわ〜。
取材に行ったのでその内容をしょうかいしま〜す。
(1日の仕事内容)
ず一つと子供と一緒にいる。
エプロンシアターを中心にしている。
↓
エプロンシアターとは、エプロンの中に人形を入れて劇のようにする。
☆保育園で文字は、あまり教えない→小学校でくわしくおしえるため。
(服装)汚れても大丈夫なもの
図4.4−10 T中が提出した電子ポートフォリオ
はじめまして!私は保育士を目指している○○○です。
私も分かった事を書きます。(突然だけど)
私の調べた事は
1,人気絵本ランキング! 6,幼稚園教員養設家庭とは…
2,保育士になるには? 7,子供をいじめる保育士 3,保育士の資格をとるには? 8,幼児教育科について…
4,保育士の資格について!
5,保育士国家試験受験対策
このくらいですかね!わかったことは。またくわしくしらべてみます!
図4.4−11 H:中のAsaiさんが提出した電子ポートフォリオ 図4.4−10は,実際に保育園に出むいて調べたことを,具体的な 形で電子ポートフォリオとして提出しているが,図4.4−11は,も
っと次元の高いことを,項目だけ示して提出している。つまり,提出さ れた電子ポートフォリオが,自分の関心があるものと質的に違うために,関心を示さなかったことによって,お互い,交流による振り返りが生起 しなかったと考えられる。
ことが,振り返りに影響する。
キ 関心がある生徒がいない
T中学校の公務員(役場)を調べたグループが提出した電子ポートフ ォリオに,相手校のH中学校のだれも関心を示さなかった。
T中学校は学校の近くに町役場があり,実際に保護者もその職員が多 い。しかし,H中学校は,市立であり,市役所は学校から約10キロ離 れた場所にあることから,身近でないことが原因であると考える。
以上の分析の結果から,電子ポートフォリオの質や使われ方が,振り 返りの有無に関係することが明らかになった。
・148一
4.5 ポートフォリオを公開することによる効果
次に,公開することによって単に過去を振り返るのではなく,将来に 積極的に結びつくためのポートフォリオとした点に対して,うまくいっ たのか,何が問題なのかを学習後の生徒のアンケートなどから分析する。
(1) 授業の在り方
ポートフォリオを作成することは,振り返りにより自分の学習を見つ め直し,次への活動に方向付ける目的がある。しかし,生徒個人のこと として閉ざしてしまう授業では,分からないことを調べずそのままにし てしまったり,調べたことをどのように実生活の中で生きて働く知恵に すればいいか,言い換えれば,将来の生き方にどのように応用していく かを得ることができなかったり等の問題が発生して,学習意欲が失われ てしまったり,継続した学習ができなくなったりすることが考えられる。
問題解決的な学習を進めるためには,やはり他者との関わりは避けて 通れない。生徒の学習を生きたものにするためには,振り返りによって 認識された「自分がどのように考えたのか」「何が分からないのか」「何
に迷っているのか」等について支援する他者が必要である。そこで,ポ ートフォリオをより積極的なポートフォリオとして位置づけ,ただ単に 知識が保存されたものとしてだけでなく,交流を通してより深い振り返 りが保存されたポートフォリオとする目的で学習に関わる人の中で公
開した。
(2> 生徒の観察と学習後のアンケート結果からの考察
授業を観察していると,生徒同士の交流により,一人一人の生徒が自 ら考えて調べ学習に取り組んだり,知らないことに気づき深い振り返り にいたったり,お互いを励ましたりする様子が観察された。また,専門
らに深まることが一人一人の変容を分析して分かった。
図4.5−1は,相手校との交流に対して生徒たちがどのように感 じたのかのアンケートをまとめたものである。
〈相手の学校と交流することによって感じたこと〉
(調査人員48名一自由記述から抜粋)
1 2 3 4 5 6 7 8 9
自分の学校の人とは違う意見が聞けた。
短期間でもいろんな考えを言い合えるようになったのはすごい もう少したくさんの人とメール交換やテレビ会議をしてみたかった
楽しい。
H申学校の人の意見を聞いて自分の意見を見直すことがあった けっこう男の人が積極的だと思った。
且中の人たちは,いろんな返事をくれたりしていた。いい人たちだな
と思った。
おもしろい
考え方が違うなあと思った。
10向こうの人はいろいろ調べているなあと思った。
11いろいろなことを教えてくれてとてもよかった。
12やっぱりH中学校の人とは違う意見が聞けてうれしかった。
13交流をしてみていろんな考えがきけたこと
14自分のなりたい職業以外の話を聞けてよかった。世の中にはいろいろ な職業があって,それなりの大変さや楽しさがわかった。
15やっぱり,他の人の意見も聞いた方がいい。
16相手の学校にはどんな夢を持つ人がいるのか知れてよかった。
17いろんな夢があった。
18考え方も違うし,自分の就きたい職業についての意気込み 19どこの学校の人もそれぞれの仕事に就きたいんだなあと思った
20みんなきちんと将来のことについて考えているということが分かった 21はずかしかった。自分が分からなかったことが少しでも分かったから よかったと思う。
22相手の学校とうまく交流していくのは難しいと思った。
(4人)
23緊張した。
24大変
図4.5−1
交流についてのアンケート結果この結果を見ると,全体的に交流に肯定的な意見が見られる。なかで も,1,11,12,13,15のように「交流によっていろんな考えや違う意見が 聞けた」とポートフォリオを公開することでいろいろな意見やアドバイ スを得ることができたという感想が見られた。また,5の「自分の考え
一150一
を見直すことがあった」のように,ポートフォリオを元にした交流が深 まり,自分自身を見つめるきっかけになっている感想も見られる。
しかし,一方で,22のように「交流は難しかった」と答えている生徒 もいる。その理由として,「コンピュータ入力がにがて」が主な理由で あると考えられる。また,24の「大変」は,一人で何人かと交流しなけ ればならず,それをこなしていくことが大変だと感じている。
交流に参加してもらった地域の人のアンケートには,アセスメントす る側からの心構えとして「生徒が進路決定をするための大事な時期にさ
しかかっていることを考え,『夢はつぶさず,しかし,現実に目を向け させる』ためにはどのように書き込むかを十分検討する必要がある」と し,「場面に応じて生徒と同じ目線で一緒に考えたり,スーパーバイザ ー的立場で接したりすることによって,よりよい人間関係をつくるよう 努めた。また,結論を与えるのではなく,自ら考えたり調べたりできる
ようなコメントを返すよう心がけた」と記述している。
今後は,学習の目的に応じてアセスメントしていただく方と教師が学 習の進め方や書き込みの仕方等について密に連絡をとり,生徒の調べ学 習の進度にあわせたサポートが大切である。同時に,コンピュータ環境 の整備や生徒の技術向上はもちろんのこと,交流の在り方についても双 方の教師で綿密な打ち合わせも必要である。
また本実践では,離島・へき地等学校のよさ(「生徒お互い仲がいい」
や「家庭・地域社会みんなで生徒を育てようとする気風がある」等)を 生かし,教師が生徒のニーズに応じて信頼できる方をアセスメンターと してお願いするなど学習環境に配慮した。また,事前に,生徒にはお互 いのプライバシーを考えることについて指導した。