3月から新しい建物になって、塾も新しくなった。教室はきれいで、広くなった。トイレも 男女別々になって使い易くなった。自習室もできたし、生徒数も増えた。 … しかし、一番大き な発展は数IAのクラスを2つに分けたことだ。
人数が増えると、それだけでこちらとの関係が希薄になるし、学力的上位層と下位層の差も 大きくなるので、何らかの対策をしなければならず、それが課題だった。下位グループにとって 必要なことは、ゆっくりペースの説明をすることであったり、具体的な問題でドリルをするこ とによって説明した内容をひとつずつ確認することであったりする一方、上位グループにとっ て必要なことは、通り一遍の説明ではなく、より突っ込んだ説明をすることであったり、基礎的 なドリルではなく、より発展事項に触れたりしながらテンポよく授業を進めることなので、こ れらの要求を同時に満たすことは非常に難しかったのだ。
結局、クラスを2つに分けるのが最善の策だが、それには人材と箱が必要になる。箱はでき ているので、あとは人材だ。しかしどうしたらいい人が来てくれるのか、全く見当もつかない。
そこでとりあえずホームページの「お知らせ」のところに「人材募集 共に夢を追いかけてみ ませんか」とだけ載せてみることにした。これはどう考えてもおそまつま募集なので2ヶ月ほど 載せてはいたが、遂に恥ずかしくなって消去することにした。ところが何とその消去した日に Oさんが応募して来てくれたのだ。かくして数IAの苦戦グループを集めてOクラスがスター トすることになった。手始めに下位グループは5名限定にしたが、ゆくゆくは半分ずつに分け て、テストごとに「頑張れば上のクラス、成績が悪ければ下のクラス」というふうに競争原理 を用いて刺激的にやりたい。まだ始まったばかりではあるが、Oクラスは非常に好評なので、
数IIBのクラスも11月15日の図形と方程式のテストの結果によって11月22日から2クラス 制に移行する予定だ。
ところで刺激的と言えば、数IAのクラスに中1生がいたりするのも非常に刺激的だ。元々 数IAのクラスは中高一貫校の中3生を対象に開講したが、それに高校受験をした高1生が加 わり、さらに「中2から高校数学」のカリキュラムを作ったことにより中2生が混じるように なった。3学年にわたる子が同じクラスで勉強するから、特に上の学年の子はそれを嫌なことだ と感じることもあったと思うが、大体は「負けるわけにはいかない」と発奮の材料にしてくれ て来たと感じている。だが、さらにそれに中1の子が混じるとなると全く別次元の感覚だ。し かもその子は今回の2次関数のテストで73点、堂々の合格点で何と4位の成績だった。そもそ も稲荷塾のテストは結構難しく、ちゃんと宿題をしたり、復習をしていなければ50点の基準点 をクリアすることができないようになっている。得点が基準点を越えると合格になるが、過半 数が合格したことも、平均が50点を超えたことも私の記憶にはない。合格者の多くは土曜日の
演習の時間にやって来て、テキストの問題を解き直したり、宿題プリントをこなしたりしなが ら、理解が不十分だったところを再発見し、そして質問をするといった究めて地道な努力を繰 り返している。中には非常に恵まれた理解力をもっていて、あまり努力しているようには見え ないのに、すうっと分かって行く子もいるにはいるが、そんな子は究めて稀で、わが塾の歴史 の中でも10人にも届かない。その中1の子が特別な才能をもっているようには現段階では見え ないけれど、やるべきことはやっているし、何と言っても楽しそうに勉強していることが素晴 らしい。これは上の学年の子、特に優秀な子にとってとんでもない脅威だ。私としてはこの展 開が楽しくて仕方がない。
小学生の間に中学数学全部をさらっとやってしまって、中1でその総復習をし、さらに少し 難しい問題でトレーニングを積んで中2から高校数学に入るというのが「中2から高校数学」
のカリキュラムだ。だが、たとえば5年生終了時頃、あるいはそれ以前に中学数学の1通り目 が終わってしまったらどうするのか。 … そういう場合は、中1から高校数学に入ることにな るのだ。場合によっては小6から高校数学に入るということが起こるかもしれない。
これまでのところ中1から高校数学に入った子は1人だけだが、今の6年生にもその可能性 をもった子が1人いる。6年生の子は中1の子に比べて塾に入った時期が遅いので、進度は遅 れているが、集中力もあり、何とかなりそうな気がしている。さらに4年生には、間違いなく そうなるだろうと予想できる子が4人いる。今後、こういった優秀な小学生が徐々に増えて行 くに違いない。
ただ目下のところ、世の中一般では優秀な子ほど中学受験に向かって突っ走っているのが現 状だ。多くの家庭にあって、それ以外の選択肢をもっていないからだが、この流れを転換しな ければならない。私も人の価値観を変えるのは容易なことではないことを知っているが、観点 を変えることなら可能だと考えている。そういう意味で「小さな数学塾のヒミツ」を書いたこ とには意味があった。本を読んで入塾することになったというケースも出て来たし、週刊東洋 経済に塾が取材されることになる直接の原因にもなった。その後塾の社会的信用度が高まり、
銀行からの融資を受けることができるようになったのも本のおかげだし、Oさんが塾の戦力に 加わることになるというびっくりするような貢献もしてくれた。 … ちなみにOさんは本当に 優秀な方だ。今後彼に力を発揮してもらって、1人でやって来た以上にいい塾を作って行きた い。とにかく本さま様だ。まだ読んでおられない方は是非読んで頂きたいし、読まれた方は友 人、知人、親戚、縁者、 … 手当たり次第に紹介してもらって(プレゼントにも最適)、売り上 げに貢献して頂きたい。その先に「優秀な子ほど、優秀と言われる中学校に頼らない」となる 日が必ず来ると信じている。
さらに「本」の話のついで話をしておくと、今書いている数学の本がもう少しで書き終わる
というところまでやって来た。自分で言うのも何だが、なかなかの出来だ。まず分かり易い(筈 だ)。しかも深い(と思う)。どこの参考書にも載っていないことにも触れている。 … ところが またまた版元選びで大苦戦をしている。期待していた講談社のブルーバックスは6月半ばから 9月半ばにかけて長い長いやりとりをした挙句だめになった。どうしても突き崩せなかったの は「ブルーバックスは学習参考書ではない」という彼らの認識だ。それに「鉛筆を持たず、読む だけで分かる本を目指す」という編集方針も、私としては受け入れ難かったし、紙面が小さい ので説明をするのに制約があること、本を開いて置いておくことができないので、参考書とし ての使い勝手が悪いこともひっかかるところだった。何とか一致点を見出そうと努力はしたが 無理だった。すごく残念だったし落胆した。しかし来春の出版を目指すにはのんびりしている わけにはいかない。どんどんアタックするしかないのだ。次に話を持って行った幻冬舎エデュ ケーションは幼児教育関連の本を専門にしており、高校数学の本を担当したことのある編集者 がいないということで、交渉の場に着くことすらできなかった。旺文社には「基本的なところ から丁寧に説明されてはいるが、将来東大、京大に合格する学力が積み上げられるように、そ の土台となる部分については少し突っ込んだ説明もしたい」なんて無理だろうと企画書の段階 ではねつけられた。ほかにもいろいろあるが、ぱっとした反応はなく、行き詰っている。とに かくまず1冊出して、それが売れれば、あとは流れに乗って行けるのだがその一歩が踏み出せ ない。知名度、実力共にまだまだ足りないことを実感させられた。 … あるインディアンの雨 乞いは必ず成功するそうだが、その理由は「降るまで続ける」からだということだった。私も この方法を採用しようと思う。(2011年10月15日)