Qユ 24.2
3. 場面接触態度
社会言語学あるいは言語行動研究においては,「場面jの問題が重要となっ ている。重要というよりは,この問題を離れてはこれらの領域が成立しないと
もいえる。
従来から,広い意味での場面差を扱った研究が数多く行われている。そこで は,「これこれしかじかの相手にどう言いますか」とか「かくかくの状況では 方言で話しますか,それとも共通語で話しますか」といったような設問が用い
られることが多い。
つまり,楮手とか状況といった場面での弓馬行動を問う形式のものである。
この設定で得られた回答(多くは言語形式)をもとに,たとえば丁寧度などを 探ろうとするわけである。
これは極めて有効な方法である。しかし,そのベースになる「場面」につい て,回答者がどのように認識しているのか,また場面間の差異をどのようにみ ているのか,といったことは必ずしも明確ではない。乱暴な表現をあえてする と,単なる思いつきで構成された場面もないではない。もちろん,このような 場合においても,得られたデータから場面間の関係を探ることが可能な場合も あることは確かである。
ここでは,言語形式などの問題から離れて,場面そのものを取り上げて,場 面間の関係および場面認識の基底となっている事柄への探りを入れることとす
る。
そのためのひとつの手立てとして,特定の場面(相手や状況)を提示し,そ れぞれの場面において人々が自分のことばづかいにどの程度の気配りを行って いるかの意識(以下,これを「場面接触態度」と呼ぶ)調査を行った。
70 3.場面接触態度
3。L 調査の方法
この調査では,言語行動の生じるいろいろの場薗を,場所や状況を特定した 若干の大場面にまず区分し,次いでその各大場面ごとにいくつかの小場面を設 け,それぞれの場藷に対する被調査者の態度を尋ねるという方法が取られてい る。なお,この調査は自記式アンケート調査の形式で実施されている。
(1)設問形式と選択肢
場面接触態度を問う具体的な設問文は,
ふだん話をするとき,ざっくばらんに話せる根手がいる一方,ことばつか いに注意をはらう相手もいるかと思います。次にあげる相手や場面では,
どの程度ことばづかいに注意しますか。その程度を下の選択肢から選んで ()内にA〜Eの記号を記入して下さい。
となっている。また,A〜Eの選択肢は,
A:非常に気をつけて話す B:かなり気をつけて話す C:ある程度気をつけて話す D:あまり気にせずに話す E:全堅気にせずに話す
であった。
(2)調査対象場面
上記の設問の対象となる具体的な場面の区分と小場薗の数は,豊中調査の場 合と宮津・豊岡調査とでは異なっている。
多くの場面を扱った豊中調査では,設定された大場面は,
a.家庭の中で b.店で買い物や食事をするとき c.近所の人と d.道などを尋ねるとき e. 一般に f. 職場で g.学校で
の7区分(種類)であり,各区分に属する小場面の総数は72であった。
一方の宮津・豊岡の両調査では,上記のうち,
a.家庭の中で b・庸で買い物や食事をするとき e・一般に の3場面,計37場面が対象となっている。
なお,各調査地域における小場面の具体的な内容は,本章の後段の記述また
3.1.調査の方法 71 は「9,調査票」の項を参照されたい。
(3)集計の方法
各場面のそれぞれにおいて,被調査者は旧記に対する自己のことばづかいの 配慮の程度を上記A〜Eのいずれかのレベルで回答している。
そこで,小場面ごとの回答分布表が得られる。たとえば,豊中調査における 大場面aのヂ家庭の中で」に含まれている各駅場面の回答結果は,表3−1の
ようである。ただし,この表は豊中調査の三囲答老をまとめた結果であり,表 中の数値は各回答カテゴリーに属する人数である。なお,小場面の配列は調査 票での提示順によっている。
この團答分布表をもとに,この章の主罵的である,場面ごとの接触態度(丁 寧度意識)を比較検討することができる。しかし,この調査で取り上げられた 場面の数は非常に多く,この種の表をいちいち示すのは繁雑であり実際的でな
い。
そこで,ここでは,接触態度の選択肢A〜Eのそれぞれに,5〜1の点数を
表3−1 睡答分布と丁寧度指標(豊中調査「家庭生活場醸」)
小 場 面
A
BC D
E 無答 丁寧度 中央値 瞬上の家族6 56 179 125 58 61 2.70
2.72同年輩の家族
2 29 121
互70 至1073 2.17 2.12
目下の家族 3 正3I15
玉71144 59
2.01 1.96配偶者
0
367 154 144 137
L81 1.76目上の親戚
44 29 255 37
豆228 3.33
3.24間年輩の親戚
6 45 219 157 41 37
2.612.66
最下の親戚6 23 202 176 65 33 2.43 2.47
親戚の子ども 014 132 196 124 39
2.082.06
御用關き6 30 186 169 82 32 2.38
2.41セールスマン
10 38 193
互5188 25
2.44 2.51その他の訪腓者
23 62 221 122 35 42 2.82 2.84
72 3. 場面接角虫態度
与え,その平均値を算出し,その値を場面に対する「接触態度の丁寧度」指標 とすることとした。したがって,この指標は数値の高いほどより丁寧なことを 表す(満点は5点,最低は1点)。なお,「無答」はこの数値算出の対象外とし
た。
場面ごとに,この丁寧度指標を算出した結果が,上表3−1の右から二つ目に 掲げた「丁寧度」の欄である。
この種のデータは表に示されているように,正規分布性を保証しにくい性格 を有している。それゆえに,ここで求めた算術平均よりは,中央値ないしは最 頻値を代表値として採用すべきだといえよう。しかし,表3−1の最右端に参考 的に示した中央値と,ここで取り上げた算術平均値との間にはさほどの違いは 認められない。そこで,以下では数値計算の簡単な算術平:均をもって各場面の 丁寧度を表現することとした。
以下の記述では,ここで求めたヂ接触態度の丁寧度」を単に「丁寧度」と略 することとする。また,場面ごとの丁寧度の比較検討を行う三舎には,丁寧度 の高い場面を「上位場面」,その逆のものを「下位場面」と称することがある。
なお,言うまでもないことであるが,この章で用いる「丁寧度」は,言語形式 など言語行動の表面に現れた形でのそれではなく,あくまで相手に対してどの 程度の気配りをすべきだと思っているかの規範意識レベルのものである。
3.2.場面ごとの結果
先述のように豊中調査と宮津・豊岡調査とでは場面の種類と数が大きく異な っている。ここでは,対象場面数が最大であった豊中調査を中心として,その 調査票に記された場面区分の順に結果をみていくこととする。、
3,2.1家庭生活場面
これは,上記のge 3−1で取り上げたものであるが,ここでは豊中市の全体を 基準に丁寧度の高い順に(つまり,上位場面から)並べ直し,さらに宮津・豊
3.2.場面ごとの結果 73 腿両調査の結果を加えたものを,表3−2として示す。
家庭生活場面においてみると,どの地域においても,二上の親戚」に対し て最も丁寧であり,逆に最も気のおけない相手は「配偶者」であるという点で 一致をみている。また,3都市における丁寧度の数値や順位は,細部では若干 異なるもののよく似た姿となっている。参考のために相関係数を示すと,スピ アマンの相関は,豊中・宮津で.961,豊中・豊悶で.987,宮津。豊悶で.984 であり,またケンドールの順位相関は,それぞれ.945,.982,.964となって いる。いずれも非常に高い相関関係が褐られている。
次に,このデータをもう少し細かくみてみよう。
表3−2には,家族・親族関係の檀手と,それ以外の訪問者相手の場面が混在
している。
表3−2 家:庭生活場醸への接触態度(全甫)
場 面
1234567891011
目上の親戚その他の訪問者 目上の家族 同葎羅の親戚 セールスマン 昌下の親赦 御用聞き 露華輩の家族 親戚の子ども 隅下の家族 配偶者 全場濁の平均
豊 中 宮 津 豊 岡
3. 14 (1)
2.85 (2)
2.47 (5)
2.51 (4)
2.55 (3)
2.26 (7)
2.46 (6)