第 2 章 水素ガス環境中における BCC 鉄の疲労き裂進展特性とその微視的メカニズム
2.2 供試材および実験方法
供試材として市販の工業用純鉄JFE-EFE(JIS-C2504)の熱間圧延板(板厚30 mm)を用いた.
化学成分は0.001C-0.07Mn-0.010P-0.003Sであり,大気中にて測定された降伏応力σYと引張強さ σBはそれぞれ133 MPaおよび252 MPaである.Fig. 2-1(a)(b)に,EBSD観察により得られた,供 試材の微視組織の結晶方位マップと相分布マップを示す.初期組織は 100%フェライトであり,
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フェライト結晶粒径はおよそ100 ~ 200 μmであった.この熱間圧延板の圧延方向とき裂進展方 向が垂直になるように,L-T(Longitudinal-transverse)方向から板厚B = 10.0 mm,板幅W = 50.8 mmの疲労き裂進展試験用のCT試験片を採取した.Fig. 2-1 (c)に,CT試験片の詳細な寸法を示 す.これらのCT試験片の表面には,機械加工の後,エメリー紙およびダイヤモンドスラリーに よる鏡面研磨を施した.
2.2.2 疲労き裂進展試験
ASTM規格E647[13]に準拠した疲労き裂進展試験を,大気中,0.7 MPa窒素ガス中および0.2,
0.7,20,90 MPa の水素ガス中にて行った.試験の応力比は R = 0.1,試験温度は室温(Room
temperature; RT)である.負荷波形は全試験においてサイン波とし,試験周波数は大気中と水素 ガス中の実験ではf = 1 Hz,窒素ガス中の実験ではf = 5 Hzとした.試験には1 MPaおよび120 MPa ガスチャンバー付きの油圧サーボ疲労試験機を用いた.試験容器内に導入できる窒素ガス および水素ガスの純度は99.999%以上であり,容器内の酸素や水蒸気等の不純物量を最小化する ため,試験ガス導入前には窒素ガスおよび水素ガスによる複数回のバッチパージを施した.
各環境下での応力拡大係数ΔKと疲労き裂進展速度da/dNの関係を取得するため,まずは荷重 振幅ΔPを一定に制御した試験を上記の試験環境中にて行い,一方で特定のΔK下での詳細なき 裂進展挙動を解析するため,ΔK値を一定に制御した試験を大気中,0.7および90 MPaの水素ガ ス中で行った.以後,これら2種の試験をそれぞれΔP一定試験,ならびにΔK一定試験と呼称 する.これらの疲労き裂進展試験に先立ち,各試験片には試験開始時の値よりも十分に小さい応 力拡大係数の下で,大気中にて周波数5 ~ 10 Hzの条件で機械加工ノッチ先端から長さ1 ~ 2 mm の疲労予き裂を導入した.また,水素ガス中の疲労き裂進展速度に及ぼす負荷速度の影響を調べ る目的で,周波数を0.01 ~ 5 Hzの間で変化させたΔK一定試験を0.7 MPaと90 MPaの水素ガス 中において追加で実施した.
疲労き裂進展試験におけるΔK値の算出は以下の式に基づいて行った.
) 6 . 5 72 . 14 32 . 13 64 . 4 886 . 0 ( ) 1 (
) 2
( 2 3 4
2 /
3
W B
K P
(2.1)
ここで,Pは荷重,αはき裂長さaとCT試験片の板幅Wの比(a/W)である.試験中のき裂長 さaは,除荷弾性コンプライアンス法を用いた以下の式により求めた.
5 4
3
2
236 . 82 1214 . 9 2143 . 6
46 . 18 6695 . 4 0010 . 1
/
W ux ux ux ux uxa
(2.2)
1 2 /
1
1 )
]
([
P
B
ux EVg
(2.3)
上式において,Eはヤング率,Vgはき裂端開口変位(Crack-mouth opening displacement; COD)で ある.COD の値は,CT試験片の端部に取り付けたクリップゲージ(MTS 社製)により測定し た.また,本研究における疲労き裂進展試験はすべて,以下の式で規定される小規模降伏(Small scale yielding)条件が満たされる範囲内にて行った.max
Y Y
K K
W a
( R )
2 2
4 4
1
(2.4)
2.2.3 観察および分析方法
◆破面観察
ΔP一定試験に用いた試験片に関して,試験片表面におけるき裂周辺部の観察を光学顕微鏡に より行った.その後,大気中での疲労負荷により試験片を分断し,タングステンフィラメント型
のSEM(Hitachi SU1510)を用いた破面観察を実施した.破面観察の際のSEMの加速電圧は15
kVとした.
◆EBSD・ECCI 観察
一方でΔK一定試験に用いた試験片については,試験後ファインカッターを用いて試験片を板 厚中央部に沿って切断し,切断面をエメリー紙,ダイヤモンドスラリー,コロイダルシリカ懸濁
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液(ストルアス社製 OPS)により研磨して切断によるダメージ層を除去した.これらの研磨面 に対し,EBSD法とECCI法による分析を実施した.
EBSD観察は熱電解放出型のSEM(FE-SEM)(JEOL JSM-7001FKM)により加速電圧15 kVの 条件で行った.結晶方位データのスキャンには六角形グリッドを用い,ビームステップサイズは 観察倍率に応じて0.1 ~ 1.0 μmとした.方位データの分析には市販の解析ソフトウェアTSL OIM
Analysis Ver. 7 を用いた.また,本研究では得られた方位データから,KAM(Kernel average
misorientation)法およびGROD(Grain reference orientation deviation)法によってき裂周辺の塑性 ひずみ分布の可視化を試みた.KAM法は各分析グリッドを取り囲む6つの隣接するグリッド内 の平均方位差をマッピングするものであり,局所的な塑性変形の程度や幾何学的に必要な転位
(Geometrically necessary dislocation)の密度を定性的に反映するものである[14–16].一方でGROD 法では,対象とする結晶粒の基準方位とその結晶粒内に位置する各分析グリッドとの方位差を マッピングする.今回は各結晶粒の基準方位を,その結晶粒の平均方位として定義した.
EBSDの観察視野と同一の領域に対して,SEM内の反射電子検出器を用いたECCI観察を実施 した.ECCI法は,試料の結晶方位と電子線方位との関係性によって電子の試料内部への侵入深 さが変わり,それに起因して得られる反射電子の強度変化を利用して,結晶中の格子欠陥をコン トラストを付けて可視化する手法である[17].基本的な観察にはタングステンフィラメント型の SEMを用いたが,高分解能や高コントラストが必要な場合にはFE-SEM(Zeiss Ultra 55)を用い た.また,観察の際の加速電圧は15 ~ 30 kVとした.
◆TEM 観察
EBSD および ECCI における観察面,または疲労破面から直接微小薄膜サンプルを採取し,
TEMによる疲労き裂周辺の転位組織の可視化を行った.サンプルの採取は収束Gaイオン/電子 複合ビーム加工観察装置(JEOL JIB-4500)を用い,FIB加工により行った.Fig. 2-2に破面から のサンプル採取のプロセスを示したSEM像を示す.サンプル採取中の破面や研磨面へのダメー ジを防止するため,採取対象となる位置には加工前に厚さ数μmのカーボンまたはタングステン によるコーティングを付与し,加工後はサンプルを銅製のグリッドに固定した.
薄膜サンプル中の転位組織の観察には電解放出型の収差補正機付きFE-TEM(JEOL JEM-2100F またはFEI Titan G2)を用い,走査型TEM(Scanning transmission electron microscope; STEM)観 察モードにより加速電圧200 ~ 300 kVの条件で行った.通常の平行電子線を用いたTEM観察に 対し,STEM法では試料の厚さや曲げ効果によるコントラストを最小化し,より高分解能で転位 線を観察することができる.また,これに加えてサンプルの結晶学的方位を調べる目的で,同一 のサンプルに対し平行電子線モードで制限視野電子線回折パターン(Selected area electron
diffraction pattern; SADP)を取得した.なお,これらのTEM観察と分析は,オスロ大学(ノルウ
ェー)との共同研究および同学所属の博士後期課程学生,Domas Birenis 氏の学位論文研究の一 環として行われたものである.
Fig. 2-1 (a)(b) Microstructure of the pure iron used in this study analyzed via EBSD and (c) the shape and dimensions of the CT specimen for fatigue crack growth tests. (a) and (b) are the crystallographic orientation map and phase map, respectively.
14 30.530.5 61
10.3 50 8.
63 5. 2-φ12 7.
10
14
c)
001 101
111
RD
TD
Iron gamma Iron alpha
200 μm 200 μm
a) b)
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Fig. 2-2 SEM pictures showing the extraction process of a thin-foil sample for transmission electron microscopy observation from the fracture surface using FIB machining.