@ 本6
第2節 今後の課題
第2に、消極的施策から積極的施策への転換について考える。
まず、情意的側面に関する研究に目を向けてみたい。
本研究では自尊感情のもたらす効用に目を向けてきた。ただ、教師対 象の面接による聞き取り調査により、自尊感情が極端に高い生徒の一部 に、自省することができず他者に対する思いやりに欠けるため、集団生 活が行いにくい生徒が存在することがわかった。彼らは不安も低く創造 的態度も高いが、人間性育成の上で問題を含んでいる。こうした事例か ら考えると、自尊感情の育成が、単なる優越感の高揚に陥ることなく、
他尊感情とでも呼ぶべき感情の育成とバランスをとりながら行われな ければならないであろう。
また、カウンセリングは、クライエントが自らの成長力・治癒力によ って精神的に成長していくという意味で、創造性の情意的側面における 積極的施策として期待できる。恩田(1995)*42は、創造性とカウンセリ
ングの関係を考察して、次のようにのべている。「創造性を人格特性の 面から分析すると、心の健康の面からとらえた人格特性とほとんど一致 する」とし、「自発性、独自性、柔軟性、開放性、衝動性、持続性、探 究心、注意集中、共感性、勇気」などをあげて、創造的態度とカウンセ リングがめざすものが一致することを示している。そして、「カウンセ リングは、とくに創造的人格の面において創造性を開発するということ ができよう。」と結論づけている。本研究結果に照らしてみても、不安 の低減や不安のコントロールをカウンセリングを通じて行なうことが でき、情意的側面からの創造性育成の可能性を示唆するものである。
さらに、EQという概念で紹介された能力の育成も、今後注目すべき
ものであると考える。EQの定義はさまざまだが、Goleman, D.(1996)*43は、
自分自身の情動を知る、感情を制御する、自分を動機づける、他人の感
情を認識する、人間関係をうまく処理するという5つの能力をあげてい る。大別すると、自分の感情をコントロールする力と対人関係をコント ロールする力から構成されると考える。本研究において明らかになった ように、いずれの能力も、創造性の情意的側面を育成していく上で重要 な意味を持っている。
次に、認知的側面に関する研究に目を向けてみたい。
本研究においては、具体例とともに思考方略の提示をすることの効果 が確認されたが、これはOsborn, A. F.が開発したチェックリスト法を参 考にしたものだが、これを学校教育レベルで活用できるまで具体化され
たものは見当たらない。江川(1995)*44によってその具体化が試みら れており、創造能力の育成をねらったストラテジー・プログラムとして 現在16種類の創造的思考の原理を生かして、16種類のエクササイズを 考案中である。その完成が待たれるとともに、実際の学校教育現場でど のように教育課程に位置づけていくかの研究も必要である。
第3に、教師による生徒の認知の問題について考える。
不安検査によって得られた結果を教師に示したときに得られた感想 で印象に残った言葉を手がかりとして、今後の課題を考えたい。
まず、本研究により、教師がとらえにくいことがわかった生徒の不安 を、今後いかに把握していくかという課題がある。その点、感想の中で 一番目に付いた「確認できた」「意外だった」という言葉からも、質問 紙による不安調査の有用性が確認されたことは意義深い。今後は、調査 結果をもとに質問内容や分析方法を改善していくことが課題となる。
次に、調査結果をいかに活用していくかという課題がある。「自分の 先入観に気づいた」という感想からは、教師自身が自分の子どもを見る 目の変容させようという意思が感じられる。また、「自分は調査結果を
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うのみにしがちなので」という感想からは、結果を絶対視しないで子ど もを把握する方法の一つとして役立てようという思いが読みとれる。今 後、「子どもの本音が聞こえてきました」という姿勢を大切に、調査結 果を生かしていく努力が望まれる。
最後に、研究を終えての所感を述べたい。
本研究は、冒頭で述べたように、日本の現在の中学生の創造性を 危 機的状況 と見てはじめた研究であった。文献研究の段階では、「すべ ての子どもたちは創造的である」*38という言葉を、現実とはかけ離れ た耳に心地よいだけの飾り文句と感じていた自分であった。しかし、第 5章で行った実験の折、条件を整えた群ではほぼ全員の生徒からすばら しいアイデアが湧き出すのを、実際に体験することができた。まさに、
すべての子どもたちに創造性を感じることのできた一種の感動体験で あった。しかし、その反面、これまでの日常の教育活動の中で、そうし た子どもたちの創造性を引き出すことができなかった、いやむしろ閉じ 込めてしまっていたことを痛感する体験でもあった。
われわれおとな自身が創造性教育に対する考え方を見直していくと ともに、子どもが自己実現のために自分を解放していく力をつけられる よう支援していくことが大切である。それこそが、創造性の育成であり、
生きる力の育成である。
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