• 検索結果がありません。

 本研究は、小学生の理科学習における自己効力に焦点を当ててすすめて きた。その結果、理科学習における自己効力の高まりと理科の学習意欲の 向上とが関連していることは検証することができた。しかし、どのような 手だてが児童の自己効力を高め得るのか、具体的なことについては、ほん のわずかの手がかりを得たのみである。

 理科の学習論において、近年、学習者は授業や学習の前から当該内容に 対して既出の考え方をもっており、授業や学習に対して白紙の状態でのぞ んでいるのではない51・52ことが指摘されている。そしてこのような構成主 義学習論の立場からも今まで行われてきたような一斉指導の見直しにつ ながることが示唆されている53。自己効力を学習論と同じようにとらえる ことはできないが、少なくとも本研究の結果は、自己効力を高めるのにも 個人の特性に応じた手だてをとる必要があることを示している。

 したがって、今後の課題として以下のようなことが残されていると思わ

れる。

①はたらきかけの方法に関して

 本研究では、教師の児童に対する一律の言葉かけと意識化定着カードと いう方法を用いてはたらきかけを行ったが、双方とも自己効力を高めるこ とに対する有効性を立証することはできなかった。教師の言葉かけは他者

(権威者)からの評価という性質を、意識化定着カードは自己評価的な性

質をもっているが、実際にはそのどちらもが学校教育のあらゆる場面で行

われている。児童の特性と自己効力の高まりという観点から、どのような

方法がより効果的なのか追究していく必要があると思われる。

②はたらきかけの内容に関して

 本研究では、努力帰属的な考え方と理科学習の価値を取り上げた。

 努力帰属的な考え方に関して、授業実践では、言葉かけも意識化定着カ ードも、「頑張った(努力した)からできた。」「頑張れば(努力すれば)

できる。」という表現ではたらきかけを行った。しかしそのような内容の はたらきかけの自己効力を高めることとに対する有効性を立証すること はできなかった。一方多面的調査では、自信のある児童や成績のよかった 原因を努力に帰属している児童には「頑張ったね。」などの努力を認める 言葉が有効な場合が多く、自信の無い児童や成績がよくない原因を能力に 帰属している児童には「頑張ればできる。」などの励ましの言葉が有効な 場合が多いという傾向をつかむことはできた。

 児童一人ひとりの個性に応じるためには、児童の特性を更に多面的に 捉え、そのこととはたらきかけの内容とを関連づけた研究が必要である

と思われる。

 価値観に関しては、授業実践では、純粋に科学的知識を得ることと科学 的知識の実用的な面に焦点を当て、はたらきかけを行ったが、自己効力を 高めることに対する有効性を立証することはできなかった。しかし多面的 調査の結果、理科に対する価値観と理科の自己効力との間に関連性が認め られている。したがって、難しい問題ではあるが、どのような理科学習に よって児童が価値観を育むのかということも今後の課題であると思われ

る。

 本研究では、自己効力を高めるための教師の手だてを研究対象とした。

しかし授業を通して児童に何らかのはたらきかけようとするのならば、本

来は教師の教材観や児童観、そして授業観にも目を向けなければならない

ことは今さら述べるまでもない。というより授業実践を通して改めてその ことを痛感したというのが本音である。

 さて本研究で取り上げた努力帰属については、第2章第2節の1で述べ たように努力しても課題達成できない児童への配慮を疎かにしてはなら ない。実際、表28・図8にみられるように、成績がよくなかった原因を能 力不足に帰属している児童が多い。確かに達成志向社会だといわれるアメ

リカにおいては、能力不足を認めると人間としての価値も疑わせることに なるため失敗を努力不足のせいにしたがる54のに対して、努力至上主義の 我が国では、努力信仰・努力の美徳化という側面がある55ため、成績のよ くなかった原因を能力不足に帰属させた児童が多かったのかもしれな い。しかし努力してもできないという経験の繰り返しから、児童が学習(獲 得)された無力感を味わっているとしたら問題は深刻である。一つの救い は同じ表28・図8から、成績がよくなかった原因を能力不足に帰属してい る児童の多くが、教師の支援によって「頑張ればできる。」と感じたこと があったと読み取れることである。このことから努力することの価値を踏 まえながらも、努力だけを求めるのではなく、適切な指導・支援によって 課題達成の見通しを具体的に持たせることが伴っていなければならない

と考える。

 ピグマリオン効果の例56ではないが、どの児童にも期待をかけ、たとえ

児童が失敗しても、その児童の特性に応じた方法で指導と励ましを続けれ

ば、いっかはそれが伝わり自己効力も高まるに違いないと信じ、実践でき

る教師でありたい。

謝辞

 本研究は、1994年4月より2年間にわたり、兵庫教育大学大学院自 然系教育講座(理科教育) 松本伸示研究室で行ったものである。

 本研究をすすめるにあたって、絶えずご指導をいただきました松本伸示 助教授に心から感謝し、御礼申し上げます。

 また、主任指導教官としてあたたかくご指導いただきました山田卓三教 授に厚く御礼申し上げます。

 さらに、本研究に貴重なご助言を賜りました本学の塩見邦雄教授に深く 御礼申し上げます。

 調査・授業実践にあたり、快くご協力いただきました大阪府松原市立天 美北小学校の校長先生をはじめ、諸先生方、児童のみなさんに心より感謝

申し上げます。

 そして率直で有益なご助言をいただきました松本研究室の皆様に、心よ り感謝申し上げます。

 本研究が、皆様のご支援のもとに、こうして完遂いたしましたことを重 ねて厚く御礼申し上げます。

 最後になりましたが、このたびの研究の機会を与えていただきました大 阪府教育委員会、松原市教育委員会、そして松原市立天美北小学校の教職 員の皆様に心から御礼申し上げます。

 本学で学んだことを今後の教育実践に生かすべく、さらに研鎭に励む覚

悟であります。

引用文献・参考文献

1文部省,1989,「小学校学習指導要領」,大蔵省印刷局

2学部省,1993,「小学校理科指導資料新しい学力観に立つ理科の学習指導の 創造」,東洋館,p.3

3たとえば、日本理科教育学会(編),「理科の教育」 通巻503号 『特集理 科嫌い・理科離れを考える』,1994,Vol.43, No.6,東洋館

4堀哲夫,1994,「理科教育学とは何か」,東洋館,p.132

5森本信也,1993,「子どもの論理と科学の論理を結ぶ理科授業の条件」,東洋