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第 4 章 クリニカルパスからの文脈的知識の抽出と明示化

4.3 医療行為オントロジーを用いたモデル作成

4.3.2 クリニカルパスで複数の立場を明示するモデル

「帝王切開クリニカルパス」では、帝王切開手術後翌日に「トイレ歩行できる」と いうアウトカムがある。アウトカムである「トイレ歩行できる」が設定される前提と して、帝王切開術後の患者は術前に尿道カテーテルを膀胱に留置して手術室に入る。

これは手術中での排尿を可能にするためである。そして、手術直後、患者は麻酔の影 響で、ベッドからの自律的起床による排尿は困難であり、起床行為が可能な手術後翌 日に尿道カテーテルを抜去され、トイレでの排尿行為が可能となる。この尿道カテー テルの抜去が、アウトカム達成を意味している。このアウトカムを達成するために、

医師と助産師や看護師が異なる目的で実施する複数のタスクが存在するが、このタス クはクリニカルパスに記載されていない暗黙的なタスクである。医療行為オントロジ ーより、このアウトカム達成には「トイレ歩行させる」というタスクがあり、その部 分タスクとして「トイレ歩行判定」、「カテーテルを外す」、「トイレ歩行させる」があ る。各部分タスクには異なる実施職種や目的・意図が存在している。各部分タスクの

目的と意図は、カテーテルの抜去というタスクで手術後の尿路感染症リスク48を下げ て治療効率を高めること、早期離床を促すタスクにより入院中の QOL の向上を計るこ と、患者の状態を把握して「安全にトイレ歩行できる」ための転倒防止タスクによる 安全を確保することが存在し、これらを医師や看護師が判断するタスクも含まれるこ とが明示できた(図 4-8 参照)。

図 4-8 アウトカム「トイレ歩行できる」の設定意図

医療行為オントロジーを用いて、クリニカルパスに記載されていないアウトカムの 意図とタスクの関係を明示された。この明示された結果で作成されたモデルが図 4-9 である。

このモデル作成過程でクリニカルパス作成者は、トイレ歩行させるのが目的でなく、

その患者行動で得られるメリットを医療従事者が把握することが重要である。患者状 態によってはトイレ歩行できる環境を設定することの判断や患者の肉体・精神状態か ら早期起床がデメリットになり場合には早期にカテーテルを外さない判断が大切と 述べている。この判断では医師が患者の病態から判断し、看護師は患者の入院前の生 活状態から判断している。したがって、図 4-9 のアウトカム設定意図を示すモデルは、

感染リスクを下げ、回復を早めるためにカテーテルをできるだけ早く外すことが患者 のメリットになるタスクの前タスクとして、患者がトイレ歩行できる状態か否かの医 師と看護師の判断タスクを設定した。

48) 手術後の尿路感染症を引き起こす最大の要因が尿道カテーテルの留置である。

図 4-9 「トイレ歩行できる」の設定意図モデル

このモデルの作成は、クリニカルパス作成者が各タスクとその実施で得られる重要 な目的や患者状態であるアウトカムの関係を把握していることを示している。つまり、

図 4-8 より、「トイレ歩できる」はタスクである「トイレ歩行させる」のアウトカム であり、その部分タスクにはそれぞれのアウトカムを持っているが、個々のアウトカ ム間での優先順位を上位タスク実施時に判断しなければならない。クリニカルパス作 成者は、その判断では経験で得られる文脈的知識が必要であり、医療の質を向上する ためには大切と指摘している。そして、医療行為オントロジーを用いたアウトカムや タスクの設定意図モデルを作成することで、作成に関与しないクリニカルパス利用者 がタスクやアウトカムの設定意図や目的を把握することができる。さらに、具体的に、

実施者や設定意図と目的、アウトカムを設定すれば、そのタスクの典型的な文脈的知 識は述べることが可能であることを、クリニカルパス作成者は述べていた。

医療行為オントロジーを用いて、複数の職種が関与するアウトカムとタスクの関係 を明示されたモデルの作成により、次のことが判明した。

z クリニカルパスに記載されているアウトカムの達成には、クリニカルパスに記載 されていないタスクの目的や意図をクリニカルパス利用者が把握することが重

要である。

z アウトカム達成では、タスクを実施するか否かを判断する部分タスクが含まれて いる場合、この判断タスクを優先することが大切である。

z 前タスクとしての判断タスクは、患者の病態や生活状態を考慮するものであり、

患者の個別性に対応するタスクになる。

z クリニカルパスに記載されていないタスクの意図や解釈も、目的、実施者、対象、

成果などを設定すれば、クリニカルパス作成者は自らの経験的知識である文脈的 知識を述べることが可能であった。

4.3.3 クリニカルパスで複数のタスクからアウトカムの評価を明示