第 2 章 文献レビュー
2.5 クリニカルパス
2.5.4 クリニカルパスと医療従事者間の関係
三井(2001)は、クリニカルパス導入によって、従来からいわれている「情報の共有」
の効果だけではなく、パラメディカル9の治療に対する発言権を持つことができたとし ている。その理由としてパラメディカル側の 4 つの変化を挙げている。
第 1 は、クリニカルパスによって医師の治療計画が開示され、パラメディカルが携 わる業務の意味が的確に把握できたこと。これは、医師の頭の中にしかない治療の全 体像下では、自らの業務を治療全体に位置づけすることは困難であったが、クリニカ ルパスにより的確に把握できるようになり、自らの職務における裁量を確実におこな えることができたこととしている。
第2は、話し合いの「場」を提供したこととしている。これは、それまで医師の指 示のもと、個々別々に業務をおこなっていたパラメディカルが、クリニカルパスの作 成や大会で、医師を含めて話し合う「場」を提供された。クリニカルパスを通して、
お互いが討論し、相手の考えを理解し、自分の考えも相手に分かってもらうことが可 能になった。さらに、パラメディカル間の関係は、医師を接点としてつながっていた が、このような「場」ができたことで、パラメディカル間や医師とパラメディカル間 での相互の業務を理解することが容易になった。
第 3 は、話し合いの「場」で、EBM という共通のルールが医師とパラメディカル間 で共有できたことである。このルールがなければ、医師はパラメディカルの発言を意 義あるものとは認めなかったであろう。そして、このルールを共有させるためには、
9) 医師以外の医療専門職。
治療行為の明確な評価方法がクリニカルパスの中に存在しなければならない。
第 4 は、クリニカルパス導入が、患者に対して肯定的な効果をもたらすことを、常 にアンケートで確認したことである。これにより、医師とパラメディカルはともに患 者のために共通目的にすることが可能になった。このことが、さらに話し合いを促 進・充実していった。そして、クリニカルパス導入後、医師は以下のように変化して いったことを述べている。
医師が社会化される過程10で培われた治療を体得しているが、多く医師はそれを「自 分の考え方」と捉えている。医療の標準化は、それの見直しを要求されていると思い、
今までの体得してきたことの否定だと感じた。これは、医師が自らの裁量権を保持す るには、他者からの介入を全て封じなければならないという意識の存在を示している。
クリニカルパス導入後この意識は変化し、多くの医師は治療法方が同様の疾患で他医 師と自らの治療法の違いを知り、他の医師と直接比較される可能性を生み出したこと で、医師自らが強く内省を促す効果があった。この時に重要なことが、治療効果に対 する明確な根拠と成果を示すことである。
さらに、クリニカルパス導入で、医師がパラメディカルの意見を聞くようになった 変化については、パラメディカルの積極的な姿勢もあったが、クリニカルパス作成の 場で EBM に基づくルールで討論したことが要因だと指摘した。
須古(2005)は、IC の充実、チーム医療の推進、医療の標準化を挙げている。その中 で、チーム医療の推進について、クリニカルパスは医療行為をいつ、誰がおこない、
患者への説明をどのようにするかが明確になった。さらに、全職種が作成・改良の過 程に参加することで、それぞれの専門性が発揮され、効率的な医療を提供できる。そ のプロセスを通して、相互の職種についての理解が深まり、コミュニケーションがス ムーズになった。これは情報の共有化により、職種を越えたチーム医療を促進・強化 することができたとしている。
副島(2005)は、クリニカルパスにおける医療事務職の重要性について述べている。
疾患別の原価計算から主要な疾患ごとに算出することが、今後は求められている。医 療の継続性が可能な合理的な診療報酬の設定により、経済合理性にかなう、保険財政 の健全性が保てる医療制度となる。
飛野(2005)は、クリニカルパスが多くの医療従事者の心を引き付けるのは、全ての 医療従事者の協働なくしてクリニカルパスが効果的に機能しないことを、薬剤師の血
10)医師がOn the Job TrainingやOff the Job Training などでプロフェショナルになる課程
液透析11導入時の現場経験から指摘している。そして、クリニカルパスがうまく機能 するには、図 2-4 に示すごとく、医師や看護師、栄養士、薬剤師、臨床工学士などの 全ての職種が作成段階から参加することが必要であると述べている。特に、薬剤師の 立場からは、有効で安全、経済性を考慮した薬物療法をおこなうには、クリニカルパ スはなくてはならないものであるとしている。
図 2-4 クリニカルパスに関わる多職種によるチームの結成(飛野, 2005)
森脇・梅本(2003)は、クリニカルパスを患者中心の医療をおこなう道具とするため に、図 2-5 に示すオクタネットを提示した。それぞれの専門知識を交換し、それを患 者へ提供するネットワークの概念を示すものとなった。さらに、他者への係わり合い が「癒し」の複数化として捉えることから、オクタネットは「情報」に加えて「癒し」
のネットワークともした。
図 2-5 オクタネット:8 角形のネットワーク(森脇・梅本, 2003)
11) 腎臓の血液浄化機能を人工的におこなう医療行為。
リハビリテーションは、リハビリテーション技師などの医療専門職の支援を受けなが ら、患者が身体・精神的に負荷をかけながら治療していく。そのため、クリニカルパ スを利用したリハビリテーションでは、患者の個別性を治療に関与する医療提供者が 把握しておくことが望まれている。そのため、リハビリテーションのケアは患者と医 療専門職が 1 対 1 の関係でおこなわれるが、個々の患者の個別性の把握にはクリニカ ルパスの実施で得られた患者の成果(データや目標達成の有無)に基づいて、医療専 門職が 1 つのチームとして機能することが有効であった(Quigley, 1998)。チームと して機能するには、個々の患者の問題とニーズを共有すること、異なる立場での知識 を共有し活用する環境設定、多様な価値観を認めることが重要な要素であった。さら に、患者の個別性を反映させるクリニカルパスの作成や修正は、チームでおこなうこ とで多様な知識と価値観を反映させることが可能であった。