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第 6 章 結論 -

6.3 理論的含意

本節では、宮崎大学附属病院におけるアクションリサーチからの発見事項と先行研 究レビューから得られた知見を基に、クリニカルパスを用いるチーム医療のナレッジ マネジメント・モデルを提示する(図 6-1)。

このモデルは、クリニカルパスを用いるチーム医療での知識の創造・共有・活用を 示すものであり、「統合する」、「実践する」、「表現する」、「評価する」の 4 つのフェ イズからなる。4 つのフェイズがスパイラルに展開することで、チーム医療で用いる 知識は量的にも質的にも豊かになっていく。

このモデルおいては、チーム医療のメンバーは、医療提供者でもあるクリニカルパ スの作成者と利用者、評価者、そして患者である。医療提供者は、例えば医師、看護 師、薬剤師、栄養士などである。以下、各フェイズを説明する。

する

・ 説明文と利用者の文脈的

医療提供者とは異なる評価 者の専門知を用いて個別の 記録を評価する

職種で異なる知識を患者 観察者はクリニカルパス作成

者とともに医療行為オントロ

医療プロセスへの主体的 な参画ができる

個別の診療記録を観察する ミュニケーションにより、適

切な医療知識を獲得する

適切な医療知識に基づき

患者 観察者

(アクションリサーチャー)

ジーと説明文を作成する

ついての知識を得る 作成者からクリニカルパス

説明文と自らの体験知 用いてタスクやアウトカムを 達成する

自らがタスクやアウトカム の設定に参画する

説明文基づき、医療提供 者との間で双方向の知識コ 職種で異なる知識の

違いを認識する

説明文を付けたクリニカル パスを利用することで職種 による異なる知識を、相互 に補完する

患者にとって最適のタスクや アウトカムの設定に各自の文 脈的知識を用いている 改善された医療行為 オントロジーや説明文 を参考にする

医療提供者

クリニカルパス作成者 クリニカルパス利用者

医療行為オントロジー と作成者の文脈的知識 知識の共有

が有効

と作成者の文脈的 知識が有効

臨床現場での実践で新た

知識が有効 知識の創造

知識コミュニケーションを 促進することで、将来は な体験知を獲得する

知識の活用

にとって最適な知識に統合 医療行為オントロジー

図 6-1 クリニカルパスを用いるチーム医療のナレッジマネジメント・モデル

「統合する」:Integrating

このフェイズは、職種で異なる知識の違いを認識したクリニカルパス作成者で構成 されるクリニカルパス作成グループが、既存の統合知(標準的医療プロセスや他病院 のクリニカルパス、文献など)と職種や経験などで異なるクリニカルパス作成者の文 脈的知識である専門知を統合し、新たなクリニカルパス(CP)を作成する。ここでは、

クリニカルパス作成者の専門知と既存の統合知の相互作用による相乗効果で、新たな 統合知が創り出される。そして、このフェイズにおいては、職種ごとで異なる文脈的 知識の違いを認識したうえで、職種間の強い連携が必須である。クリニカルパスを用 いるチーム医療では、専門ごとに異なるタスクやアウトカムの設定から患者にとって 全体最適のタスク・アウトカム設定に統合される。したがって、クリニカルパスは、

組織で利用する統合知である。つまり、このフェイズでは、既存の統合知と個々の専 門知の相互作用により、組織で利用できる統合知を創り出している。

「実践する」:Implementing

このフェイズは、「統合する」フェイズで作成されたクリニカルパスに含まれる統 合知を共有したクリニカルパス利用者が、患者の個別性に対応したケアを実践する過 程で、その統合知と自分たちの持っている実践的・文脈的知識である専門知と相互作 用させながら、新たな体験知を獲得する。さらに、個々の患者も医療提供者からのケ アの過程(説明・指導・教育)で、新たな経験知を獲得している。このフェイズでは、

クリニカルパスで統合されたタスクやアウトカムを患者の個別性に適用する際に、

個々の医療提供者の実践的な専門知が重視される。そして、タスクやアウトカムを達 成するためには、臨床現場での他の職種との協働が必須である。他の職種との連携に より、異なる専門知を相互に補完することが求められる。つまり、このフェイズでは、

クリニカルパス利用者や患者が、組織で利用する統合知を共有しながら、患者の個別 性に対応することで、実践的な体験知を創り出している。

「表現する」:Expressing

このフェイズは、クリニカルパス利用者や患者が、「実践する」フェイズで獲得し た体験知をクリニカルパス利用者の文脈的知識である専門知と相互作用させ、診療録 などに明示的な記録として表現する。ここでは、クリニカルパス利用者の専門知に基 づき、患者ごとに異なるケア内容や患者の理解と行動変化を記録として明示する。特 に、患者自身が診療録に記録することはできないので、クリニカルパス利用者は患者 の言動を正確に記録することが重要である。そして、個々のクリニカルパス利用者は、

ケアで得られたデータから、患者の状態を適切に把握し、記録することが求められる。

つまり、このフェイズでは、患者やクリニカルパス利用者が新たに獲得した体験知を 記録として表出化する。

「評価する」:Evaluating

このフェイズは、「表現する」フェイズで記録として明示化された個人の経験知を、

患者の視点を含む多角的な視点を有する評価グループ61で共有し、文脈的知識である 専門知と相互作用させ、クリニカルパス改良のために評価する。ここでは、個々の記 録からクリニカルパスの改良に役立つ統合知が創り出される。そして、患者の視点を

61)診療情報管理士や医療経営専門家、領域が異なる医療専門家で評価グループを構成することが 望ましい。

含む多角的な視点が求められるので、職種間の連携が重要である。特に、記録された 患者の変化と要望が重要な要素となる。つまり、このフェイズでは、クリニカルパス 利用者と患者の個々の経験知を明示化した記録から、クリニカルパス改良のための新 たな統合知を創り出している。

さらに、再び「統合する」フェイズに入り、そこで新しい統合知を用いてクリニカ ル パ ス を 改 良 す る こ と で 、 ク リ ニ カ ル パ ス が 提 供 す る 医 療 の 質 が 向 上 す る 。

Donabedian(1966)が言うように、医療の質には患者の知識と行動の変化も含まれる。

したがって、患者の知識の変化をクリニカルパスの内容に反映させることが、医療の 質の向上にはかかせない。

ここに提示したクリニカルパスを用いるチーム医療のナレッジマネジメントのモ デルは、標準的な医療プロセスを目指す統合知としてのクリニカルパスと説明文のセ ットを基本にしながらも、医療提供者の専門知と体験知を使って1人ひとり異なる患 者の個別性に対応する医療プロセスを提供し、その過程で生み出された新たな体験知 を使って既存の統合知(クリニカルパスと説明文のセット)絶えず改善していくプロ セスを説明している。

言い換えると、クリニカルパスは、不特定多数の患者を想定しながら医療サービス をデザインした標準的・普遍的な知であるが、実際にそれを使って医療サービスを提 供するときには、現実の患者1人ひとりの特殊性に対応しなければならず、その過程 では医療提供者も患者も特殊な体験知を生成していく。その特殊な体験知をクリニカ ルパスの改善に使うことでクリニカルパスの普遍性が高まっていく。クリニカルパス は、一方で標準的・普遍的な医療サービスを目指しながら、他方では患者1人ひとり の特殊性に対応する医療サービスも志向しているのである。