第 9 章 主要投資インセンティブ
6. FTA
(1) NAFTA
メキシコは45カ国との間でFTAを締結しているFTA大国であり、その貿易額に占める FTA締結国との貿易額は約9割を占める(詳細は第3章参照)。地理的な条件及びNAFTA への加盟により、メキシコでは、安価な労働力を利用して労働集約的な工程のみを担い、
資本財や素材を北米から輸入し、最終製品の多くを北米に再輸出するという産業構造が定 着してきた。
1990年代から2000年代にかけて、米国との貿易は飛躍的に拡大したものの、調達と販 売先の両面で極端に米国に依存する脆弱性を抱えることとなった。リーマンショックによ り米国経済が低迷すると、メキシコでは外国直接投資が減少したほか輸出も停滞し、メキ シコ国内経済は急速に失速した。
5,463
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
(百万ドル)
(年)
投資や貿易面での米国への依存は続いているものの、メキシコ政府は各国との協力関係 の拡大を目指しており、EU、EFTA、中米各国、日本などとの間でFTAを発効させている。
さらに近年は、メルコスール諸国、韓国とのFTA交渉を開始し、TPP交渉にも参加してい る。
(2) ALADI(ラテンアメリカ統合連合)
ALADIはメキシコのほか、ブラジル、アルゼンチン等中南米の13カ国の加盟国と、18
のオブザーバー国からなる地域経済統合体であり、域内特恵関税などを通じ、段階的にラ テンアメリカに共同市場を構築することを目的としている。
図表 22-14 ALADI加盟国 加盟国
(13カ国)
メキシコ、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、キューバ、コロンビア、
チリ、パナマ、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ボリビア
メキシコは、中南米各国との間で、ALADIの枠内で特定の品目についての関税を一定割 合相互に減免している。関税についての取り決めは数年間の期限付きであり、更新の是非 については締結国同士の交渉で決定している。
特に重要な協定として、2003年に発効した「ACE55号」がある。ACE55号はメキシコと、
アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、ベネズエラの5カ国との間で、自動 車及び自動車部品について特恵関税を設定する協定で、2003年から段階的に関税を引き下 げ、2011年までに完全に撤廃する取り決めとなっていた73。
ACE発効によりメキシコのメルコスール諸国向け自動車輸出は拡大し、メキシコ産自動 車の輸出先は多様化した。しかし2012年、メキシコからの自動車輸入の急増を受け、ブラ ジルとアルゼンチンが協定の見直しをメキシコに要請。交渉の結果、メキシコから輸入さ れる自動車の無関税枠には1年あたりの上限金額が設定されることになった。
南米諸国は、自動車メーカー各社にとって北米に次ぐ重要な市場である。ACE55号の改 定を受け、メキシコに生産拠点を置く自動車メーカー各社は生産計画及び輸出仕向け地の 変更、ブラジルでの現地生産の検討などの対応を図っている。
現在、ブラジル向けには2015年3月、アルゼンチン向けには2015年12月までの無関 税枠が設定されている。2015年以降の方向性については交渉中であり、その内容は公開さ れていない。現地ヒアリングによれば、現在自由化している自動車部品の輸出にも制限が 加えられる可能性があるとのことで、今後の動向を注視する必要がある。
73 ブラジルとの間では2007年、アルゼンチンとの間では2006年に関税が撤廃された。
(3) TPP
メキシコは、2011年11月にTPP協定交渉への参加意思を表明し、2012年10月に協定 の正式交渉メンバーとなった。TPPにはメキシコの他に、太平洋同盟加盟4カ国の中のチ リとペルーも参加しており、TPPが完成すれば、アジア諸国と中南米諸国の経済統合が一 段と深化する。
(4) 太平洋同盟
2012年6月、メキシコ、チリ、コロンビア、ペルーの4カ国は、それぞれの国が個別に 締結していた二国間FTAの統合を目指して、太平洋同盟(Pacific Alliance)と呼ばれる枠 組みを発足させた。以後、貿易、人の移動、資本の移動の一層の円滑化を進め、高度な経 済統合を達成するために、4カ国首脳による会合が重ねられてきた。2014年2月の第8回 首脳会合では、貿易に関して90%を超える品目の関税が即時撤廃された。2014年6月の第 9回首脳会合では、4カ国の証券市場の統合に対する取り組みなどが合意された。2014年6 月時点で、正規加盟国4カ国の他に、加盟国候補オブザーバーが2カ国(コスタリカ、パ ナマ)、オブザーバーが日本を含め30カ国に達している。
ひとくちメモ(21): メキシコの小売市場① 流通チャネル
メキシコは個人間の貧富の差、及び地域による貧富の差が激しい74。そのため所得階層によって購 入する物の種類や価格帯に加えて、購入する店も異なる。大都市には地場系・米国系のデパートやシ ョッピングモールがあるほか、郊外を中心に米国系の大型スーパー(ウォルマートなど)が点在してい る。しかし、都市から離れた地域には大手チェーンが進出せず、個人経営の小規模小売店しか存在し ないエリアもまだ多くある。
都市部の小売業は先進国並みに発展しているため、日系企業が市場開拓を目指す際、都市の富裕 層のみをターゲットにするのであれば、あまり流通上の問題はない。しかし製品をなるべく多くの国民 に販売しようとすると、地方部でいかに販売するか、チェーンではない小規模小売店にどのように流通 させるかが課題になる。個人経営の店舗を通した販売では、個別店舗からの代金回収がネックになる ほか、代理店を介した販売が中心になるため、マーケティングが間接的になりより難しい。
メキシコの小売市場に参入する際には、自社製品をどの地域のどの所得層に売りたいのか(もしくは 売れそうか)を決めた上で、地域別の豊かさや流通・小売網の発展度合をよく調査しつつ流通戦略を 検討する必要がある。
【写真説明】 メキシコシティの百貨店(左)、郊外の小規模小売店(右)
(出所)現地調査にて撮影
74 地域別GDPは「第24章 地域別の概要」参照。
ひとくちメモ(22): メキシコの小売市場② メキシコ人の食の嗜好は固定的、ただし多様
メキシコのコンビニエンスストアやスーパーマーケットの食品売り場を訪れると、「多様な商品が少し ずつ」並んでいる日本とは違い、「同じものが大量に」売られていることに気付く。
日本発の加工食品で、今ではメキシコ人の生活に溶け込んでいるカップ麺も例外ではない。日本で は毎年新製品が発売され、人気のあるものが定番化されるが、メキシコでは、消費者が新しい味に飛 びつくことはあまりなく、なかなか新製品が受け入れられないそうだ。新しい風味が受け入れられないと なると、他社との差別化が難しい。そのため各社は、メキシコ人が好むチリソースを麺とは別のパック に入れて販売し、好みの味付けに調整できるようにする(従来製品では、カップにパウダーがあらかじ め入っている)、スプーンでも食べやすいように麺を短くする、などの工夫をして市場拡大に努めてい る。
メキシコで販売しているカップ麺には日本にあるような「カレー」「味噌」などといった風味の違いはな い一方で、「にわとり」や「牛肉」、「えび」など、異なるダシの商品が存在する。これは、メキシコ人は地 域によって食への志向が異なり、北部は牛肉を使った料理、南部は鶏肉を使った料理が好まれるため であるという。国土が広いため流行も地域によって異なり、地域別の伝統的な嗜好が現在でも色濃く残 っているため、「全国ブランド」が育成しづらいということもメキシコの食品市場の特徴のようだ。テレビ の普及率は高いが、全国的なテレビCMもあまり効果が見込めないという。
メキシコ人は「好みは固定的」、「ただし地域により異なる」というマーケティング担当泣かせの消費 者といえる。
【写真説明】 コンビニに並ぶ日清食品と東洋水産のカップ麺