第 9 章 主要投資インセンティブ
2. 地方税
地方自治体が課す地方税について記載した法律である。主な地方税としては、従業員給 与税、地租又は固定資産税、不動産取得税等がある。
3. 労働に関する法律
(1) 労働法
1931年に連邦法として整備された。個人の労働関係について法解釈上疑問が生じた場合、
労働者に有利な解釈を適用する「労働者保護の法律」である点が特徴である。
長年改正されていなかったが、2012年11月に改正された労働法が公布された。大きな 改正点として、①「試用期間・時間給の設定」や②「人材派遣制度の定義の明確化」が挙 げられる。
① 試用期間・時間給の設定
改正前の労働法体系では原則、雇用期間は無期限で、試用期間の設定は認められなかっ た。そのため、雇用契約の解除は大半のケースが会社都合によるものとみなされていた。
改正法では、雇用関係について次の通り規定している。
・特定作業、特定期間、無期限、一時的期限の中で選択することができる。
・試用期間または初期研修期間を設けることができる。
・明確な取り決めがない場合、無期限の雇用関係とする試用・研修期間中の待遇は、そ の職務に応じた給与、社会保障、福利厚生を享受できる。
② 人材派遣制度の定義の明確化
改正法では、「人材派遣スキームにおける労働」を「人材派遣会社が契約先企業の定めた 作業標準と監督の下で自らの管理下にある労働者を活用し、契約先企業に対するサービス を提供する形態」と定義している。満たすべき要件として次の3つがある。
・契約先企業で行われる業務の全部あるいは大半を請け負うことはできない ・職務の専門性により正当化されなければならない
・契約先企業の労働者と同一あるいは類似した職務であってはいけない
これらの条件が満たさない場合は、契約先企業が雇用主とみなされ、社会保障義務を含 め、改正法に規定された全ての義務を負わなければならないとされている。
ひとくちメモ(8): 労働者利益分配金(PTU)について
メキシコでは、企業活動によって利益が出た場合PTU用の課税所得(繰越欠損金は利用不可)の 10%を労働者に分配することが労働法で定められており、企業にとっては負担となっている。 分配方 法は、全分配金の50%を年間労働日数に応じて全ての労働者に分配し、残りの50%を各労働者が 受け取った賃金水準に応じて分配するというものである。
4. 技術・工業及び知的財産に関する法律
(1) 産業財産権法19
産業財産権とは、工業及び商業に使用される創作に対し、国が一定期間付与する独占排 他的使用権・実施権のことである。例えば、技術的新製品や機械や装置の改良、ある製品 を更に便利若しくは魅力的にする独創的なデザイン、新規の製造工程、商標若しくは商業 標語、ある事業所を識別するための名称、ある製品を識別するかあるいは特徴付ける地理 上の原産地に関する表示などが対象となる。なお、産業財産制度を所管しているのは、メ キシコ産業財産庁(IMPI)である。
(2) 連邦著作権法
連邦著作権法では、知的財産権の一つである著作権の範囲と内容について定めている。
所管は連邦著作権庁だが、経済的権利に関わる商業的な権利侵害については、著作権に関 してもIMPIが査察等を行っている。
(3) 連邦経済競争法20
連邦経済競争法は、経済効率を促進し、競争の自由と競争的過程を保護することを目的 としている。連邦競争法の執行機関は、1993年に設立された連邦競争委員会である。連邦 競争委員会は、貿易・産業省に所属している。
(2) 支店
本国本社を代理して貿易、又は各種サービス(コンサルティング・サービス、技術支援 等)の提供等の商取引を目的とする場合に選択されることが多い形態である。例えばメキ シコで赤字が発生した支店の場合、日本と同一法人であるため、メキシコで発生した赤字 により、日本の本社の課税所得を圧縮することが可能である。
ただし、日本の本社とメキシコ支店は同一法人であるため、メキシコで展開する活動一 切に関して日本の本社が責任を負う。また、現地法人がメキシコ法に基づき設立された企 業であり、メキシコ企業として扱われるのに対し、支店はあくまで外国法人とみなされる ため、相対的に不利な待遇を受ける可能性がある。
(3) 駐在員事務所
支店と駐在員事務所は、法制上明確な定義が確立されているわけではないが、駐在員事 務所は、メキシコにおいて営業活動を行わず利益が発生しない拠点とみなされる。
そのため駐在員事務所は情報収集・提供や商流・物流管理等のみを行い、直接的な財・
サービスの売買主体にはならない。メキシコにおける法人所得税の納税義務はないが、営 業活動を行うことはできない。
(1) 概要
IMMEXは、輸出向けの製造・マキラドーラ・サービス産業振興プログラムのことで、一
時輸入が認められる制度である。主要根拠法はIMMEX政令である。旧来のマキラドーラ
制度とPITEX(輸出品製造のための一時輸入プログラム)を統合し、手続きの簡素化と、
輸出義務に関する条件の緩和がなされたものとなっている。
(2) 優遇内容
IMMEXの適用の利点としては、一時輸入を行うことができること、輸出を条件に輸入に
係る租税が免除・繰り延べされること22、事務手続きが簡素化されることなどが挙げられる。
対象となる品目、一時輸入状態で国内滞留が認められる期間、及び輸入に係る租税免除 の可否について図表 9-1に示した。なお、一部の品目については特別要件の履行が必要と なり、認可される国内滞留の期間も短い為、注意が必要である。
図表 9-1 IMMEXの対象となる品目と国内滞留期間
政令 品目名 国内滞留期間 租税免除の可否
政令4条 のⅠ
燃料、潤滑油等生産工程で消費される 財、輸出商品を構成する原材料・部品、
容器・梱包財、ラベル・パンフレット等
18カ月 ・輸入付加価値税(輸
入IVA)、相殺関税の
一律免除
・輸入関税: 原産地・仕 向地、輸入者の活動に より免除の可否が決ま る
政令4条 のⅡ
コンテナ、トレーラーケース 2年間 ・輸入IVA、相殺関 税、輸入関税いずれも
21 詳細は第6章を参照のこと。
22 但し、品目による。
免除 政令4条
のⅢ
生産工程で使用する機械設備、機器、工 具、計器類、型、交換部品、汚染防止、調 査・職業訓練、安全、演算・通信、試験、
測定・測量、製品検査・品質管理、輸出製 品に直接係る資材の取扱用設備・機器、
管理用機器等
プログラムの有効 期間中
・輸入IVA: 免除
・相殺関税、輸入関税:
免除されない
政令の添 付によっ て特別要 件履行が 求められ る品目23
一部の糖類 6カ月 ・いずれも免除されな
関税分類(HSコード24)72類の鋼材 9カ月 い 一部の食用の家禽の肉及びくず肉、一部
の粉状ミルク、カフェインを除いていない コーヒー、中古の空気タイヤ類
12カ月
HSコード50類から63類に分類される 繊維製品
12カ月
(出所)メキシコ経済省、JETRO「メキシコの経済基礎知識第2版」、JETROウェブサイト国・地域別情 報より作成
またIMMEX制度下では、従来のマキラドーラ制度及びPITEXよりもIVAの還付申請
手続きが迅速化されている。通常はメキシコ国内で購入した財に賦課されるIVAの還付は 申請受理より45営業日以内でなされるが、IMMEX企業の場合は申請受理より20営業日 以内に、「認定企業」(本章5. 認定企業登録制度を参照)の登録を併せ持つIMMEX企業の 場合には申請受理より5営業日以内に還付される。
(3) IMMEX制度の登録・維持のための要件
IMMEX登録及び維持にあたっては、図表 9-2に示す八つの要件を満たす必要がある。
なお、自社では生産設備を保有せず生産行為を委託先に委ねる企業であっても、IMMEX 登録を行った上で予め委託先をメキシコ経済省に登録した場合は、一時輸入などの恩恵を 受けることができる。
図表 9-2 登録及び維持の要件
要件 ① 所得税法に則り、所得税を納税するメキシコ居住の法人であること
② 年間50万ドル相当以上、若しくは年間総売り上げの10%以上を輸出すること
③ メキシコ国税庁(SAT: Servicio de Administración Tributaria)の高度電子
署名(FIEL)証明書を有すること
④ 現行の連邦納税者登録(RFC)を有すること
⑤ 税務上の住所、並びにIMMEX操業を行う他の住所がRFCに登録してあり、
且つ同登録が現行のものであること
⑥ 貿易オペレーションに関する年次報告を提出すること
⑦ 国立統計地理情報院(INEGI:Instituto Nacional de Estadística y Geografía)に対し月次報告を行うこと
⑧ IMMEX政令添付Ⅳに基づく輸入品の在庫管理を行うこと
(出所)メキシコ経済省、JETRO「メキシコの経済基礎知識第2版」、JETROウェブサイト国・地域別情 報より作成
(4) 留意事項
IMMEXは、申請企業が実行しようとしている輸出プログラムに対して認可がなされる仕
組みで、1企業に対しては1プログラムまで認可される。プログラムは、統括企業IMMEX、
工業IMMEX、サービスIMMEX、シェルターIMMEX、アウトソーシングIMMEXの5
つに分類されている。
また、2013年10月に国会を通過した税制・社会保障制度改革の結果、IMMEXなどの 一時輸入において輸入IVAが課税されることとなった。2014年中に制度の詳細が公布され、
2015年より発効するとされている。ただし、一定以上の要件を満たす企業については、IVA の保税の継続が認められるという救済措置が採られた。要件については操業経験、企業規 模、サプライヤーの租税義務履行証明の有無等によってA~AAAの3つのレベルに分けら れており、認定のレベルによって企業に対して与えられる恩典が異なる。
ひとくちメモ(9): 日系企業の多くは「A」を取得
先に示したように、2014年の税制改正において2015年からは一時輸入の際にも輸入IVAを支払 わなければならないという制度に変更されたが、一定以上の要件を満たす企業については、IVAの保 税の継続が認められるという救済措置が採られている。
現地ヒアリング調査によれば、日系企業各社はIVAの保税を継続するため、認定制度への申請を 行っているそうだ。認定要件及びそのレベルは先に示したとおりである。「A」の取得は従前と同程度の 労力で取得が可能であるが、「AA」もしくは「AAA」の取得には取引先の情報が大量に必要になり、そ の労力は大きい。そのため、「AA」もしくは「AAA」を目指す日系企業はそれほど多くないそうである。
「AA」以上の取得にどこまでメリットがあるかも不明な状況の中、とりあえず「A」を取っておく日系企業 が多いというのが実態である。