第2章 日本歌曲の詩の分析
第5節 アカデミックで保守的、又は古典主藝の作曲家の歌曲の 詩の分析
特徴
日本歌曲のなかでは、第3期(1928〜1952頃)から、現代にわたりアカデミッ クで保守的、又は古典主義の作曲家が活躍している。この作曲家たちの特徴は、
12音技法や、偶然性の音楽などには、あまり興味を示さず、批判的でさえあ った。調性を守った正統的な技法で作られている作品が多い。そして、全体に わかりやすく親しみやすい作品が多い。
1.諸井三郎 1)《少年》について 1)《少年》作詞 三好達治
医=国夕ぐれ
とある精舎の門から 美しい少年が帰ってくる 匿;璽 暮やすい」日に
てまりをなげ
空高くてまりをなげ
なほも遊びながら帰ってくる
塵≡璽閑静な街の
人も樹も色をしづめて 空は夢のやうに流れてゐる
・詩の形式
自由律。三行・四行・三行。三連。
・詩の内容及び特徴
寺院を出、無邪気に遊びながら帰りゆく少年の姿である。がしかし、ドッ ペルゲシガー(自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種)か、又は清純な少年期へ の追憶が。と、はっきりとはわからない中、この曲は不思議な美しさと叙情 性を持っている。
ファンタジーと清澄な美しさを兼ねた詩である。
2.中田喜直 1)《さくら横ちょう》について 1)《さくら横ちょう》 作詞加藤周一
春の宵 さくらが咲くと 花ばかり さくら横ちょう
想い出す 恋の昨日 君はもうこ㌧にゐないと
あ㌧ いつも 花の女王 ほ㌧えんだ夢のふるさと
春の宵 さくらが咲くと 花ばかり さくら横ちょう 会い見るの時はなかろう
「その後どう」「しばらくねえ」と 言ったってはぢまらないと
心得て花でも見よう
春の宵 さくらが咲くと 花ばかり さくら横ちょう
・詩の形式
五・七調。ソネット形式。(中田喜直作曲)
四行、四行、六行。三連。(別宮貞雄作曲)。上記は、中田喜直作曲の詩である。
脚韻が、「横ちょう」「昨日」「女王」「なかろう」「見よう」の「・Ou」と、「と」
r−tO」が規則性なく組み合わさっている。rと」の前の母音も、ra,i,u,e」と まちまちで規則性がない。全体に脚韻としては、単純なづくりである。
・詩の内容及び特徴
詩の内容は、都会的でクールな恋の追憶という感じである。
「春の宵 さくらが咲くと 花ばかり さくら横ちょう」の各2行を現実と みなし、次の「想い出す〜夢のふるさと」と「会い見るの時は〜心得て花でも 見よう」の各4行を回想と空想としている。満開の桜の花の中で過ぎ去った 恋を思い出してる。
3.高田三郎 1)《雨は降る》
1)《雨は降る》 作詞 野上 彰 雨は降る
今朝生れたばかりのとんぼの羽に 雨は降る
五月の森の新しい緑に 雨は降る
茱簑の増した水車小屋に 雨は降る
赤い舌を空に向けて
おおよしきり
さえずっている大茸切に 雨は降る
わたしたちの新しい家に 庭に 営みをはじめた蜂の巣に
ああ 五月の雨が降りつづく わたしたちの新しい希望よ
・詩の形式
自由律。十四行。一連。
・詩の内容及び特徴
歌曲集《前奏曲抄》の三曲目。高原を背景に描かれた、野上杉の詩集《前 奏曲》から、高田三郎が五篇を選び、「生きることへの問いかけ」をテーマに 格調高く作曲された詩で、自然の姿に、生命の喜びと輝きを見る詩である。
「雨は降る」を繰り返すことで、優しく降り続く慈雨への思いを深めてい る。r大茸切」は、ウグイス科の鳥でrヨシキリ」のこと。
4.石桁真礼生 1)《ふるさとの》について 1)《ふるさとの》作詞
匿三重ふるさとの
笛の音の三木露風
小野の木立に
うるむ月夜や
匿黎㌶手はあつき心に
そをば聞き 涙なかじき
匿塾帖経ぬ
君泣くや
同じ心に
母となりても
・詩の形式
五・七調二句を一連とした三連。
・詩の内容及び特徴
第一連の「ふるさとの 小野の木立に」は、故郷のさして広くはない野原 の木立のこと。「笛の音の うるむ月夜や」のうるむという表現から、季節は 春だとわかる。
第二連は、r涙なかじき」と、直接体験の過去を表わす助動詞rき」で終わ っているので、かつての日を偲ぶ追憶である。この、「少女子」はかつての恋 人で十年前の同じ春の夜に笛ρ音を聞き感極まって涙を流した。という内容。
第三連は、十年の月目が経ち、その間に、その恋は破れ、その女性はすで に他人の妻になり手ともの母になっている。しかし、今も笛の音を聞いてあ の頃のように、涙を流しているのだろうか。という間いかけで詩は終わる。
5.別宮貞雄 1)《さくら横ちよう》
1)《さくら横ちょう》作詞 加藤周一 塵ミ重 春の宵 さくらが咲くと 花はかり さくら機ちょう 想い出す 織の昨日
君はもうこ㌧にゐないと
塵:国 あ㌧ いつも 花の女王 ほ㌧えんだ夢のふるさと
春の宵 さくらが咲くと 花ばかり さくら横ちょう 匿…≡国曾い見るの時はなかろう
「その後どう」「しばらくねえ」と 言ったってはぢまらないと
心得て花でも見よう
春の宵 さくらが咲くと 花ばかり さくら横ちょう
・詩の形式
中貝ヨ書直は、五・七調。ソネット形式であったが、別宮貞雄は、四行・四行・
六行。三連としている。
・詩の内容及び特徴 中日ヨ書直の項と同じ。
6.三好 晃 1)《駅》について i)《駅》作詞 高田敏子
匿三国 夏休みを積みこんで 汽車は行ってしまった
塵:璽 がらんとした駅のホームには カンナの花ばかりが赤く 少女は耳をすまして
次に運ばれてくるものを待っている 塵…璽 山すそのあたりに汽笛が鳴り
新しい季節が近づいてきた 匿酉1重 少女たちは いつもこうして 何かを待ちつづける
・詩の形式
自由律。二行・四行・二行・二行。四連。
・詩の内容及び特徴
《四つの秋の歌》の一曲目。
澄み切ったさわやかな高原の小さな駅のイメージ。「カンナ」はカンナ科の春 植球根類。ラテン語では、葦のこと。秋の季語。
汽車を時の流れの比楡と考える。内容は、純情な少女へおとずれる未来の幸 せを願う心が温かいまなざしと、親しみやすい素直な言葉で余情豊かに歌わ
れている。