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図4一① H本アクセント分布図 (平山,1980に基づいて作成した)
轟.アクセントの実態
はじめに
本章では,東京都民,大阪市民のアクセントの実態,およびそれと性,年齢,
学歴,職業,出身地,居住経歴などの社会書語学的属性との関係について見る ζとにする。また東京と大阪とにおける結果の対銘的考察についてもふれる。
アクセントは,いわゆる言語形成期に習得された言語習慣のうち,もっとも 変わりにくいものの一つと一般にいわれている。さまざまな出身地,居住経歴,
年齢屡,学歴,職業など混質的な性格の無畏から構成された大都市という環境 の中で,それがどのような状態を示すかを明らかにしたいというのが,この調 査の申でアクセントを取り上げる主な匿的である。研究の分担は次の通り。
東京。調査項欝の選定一佐藤(亮)。録音の聞き取り,アクセントの判 定・分析一南。分析方法の検討一南,江川。
大阪。調査項目の選定,録音の聞き取り,アクセントの判定・分析一杉藤。
東京と大阪の結果の対比一南。
以下の記述では東京と大阪との聞で,分析の基準,記述方法などが必ずしも 一致していないところがいくつかある。これは主として両都市におけるアクセ ントの事情の相違,およびそれぞれの担当者の硬究上の関心のありかのちがい に基づくものである。
なお,本章におけるアクセントの表記は,
ヘ ノ
高く発音される拍………○ 上昇調の拍………○
低く発音される拍………○ 下降調の掛・・……○
で表わすこととし,アクセントの滝はとくに示さなかった。
また,参考のためにアクセントの全国分布図を掲げておく(図4一①参照)。
4.1.東京のアクセント
4.1.1.調査の概i要
(1)調査地点・被調査者
調査地点は,東京における面接調査の他の項目の揚合と同じである(1.2.
参照)。
被調査者も,原則的にいえば,東京での面接調査の他の諸学露の場合と同じ である。
ただしあとで述べるようなアクセントの調査方法の事情によって,面接調査 に応じたすべての被調査者(667名)からアクセントの資料が得られたわけで はない。分祈に使用できるアクセントの資料が得られなかった場合の主なもの は次の通りである。
a 被調査者が目が悪いなどの理由で調査項目を読むことを拒否したり,読ん でも誤りが多かったりした揚合。
b 調査員の不注意で,アクセント調査の全部または一部を実施しなかったり,
録音に失敗したりした場合。
なお,使用不可能の部分が一部にとどまる資料については,4.1.2.で述べる ような調査結果の処理・補正を行なって,調査できた部分をできるだけ分析の 対象に加えることを試みた。
最終的に分析の対象とし,ここでその結果を報皆するのは621名分について
である。
(2)調査方法・調査項目
調査は,面接調査の途中で次にあげることなり36項賃からなる短い文を,こ
4.1. 東京のアクセント 165 れまた次にあげる指示によって被調査者に読んでもらい,それを録音した。
指示文:「今から文をお見せしますから,できるだけふだんお読みになるのと 同じように読んで下さい」
調査項厨:
11!1!1111
ニワガヒロイオトガスル ヤマガミエル マドガオオキイ ハルガスギタ イロガウスイ ハコガチイサイ ハリガホソイ カサガホシイ ウタガキコエル コノオトガスル コノマドガオオキイ コノニワガヒロイ コノヤマガミエル コノハルガスギタ コノハコガチイサイ コノウタガキコエル コノイロガウスイ
ヘノ ヘノ ヘノ
轟音山窓春色箱針傘異音窓庭山春箱歌色
︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ ︵ 〆一\ ︵ ︵ニノカサガホシイ コノハリガホソイ ホガシuイ スガチイサイ イチゴガアマイ アサヒガノボル ハヤシガミエル ハシラガフトイ
タマゴガオオキイ アタマガオオキイ ハサミガキレル サカガミエル
クマガデル カミナリガナル タベモノガホシイ
ドングリガアル デンシャガキタ アカトンボガトブ
(傘)
(針)
(帆)
(巣)
(苺)
(朝日)
(林)
(柱)
(卵)
(頭)
(鋏)
(坂)
(熊)
(雷)
(食物)
(団栗)
(電車)
(赤蜻蛉)
これらの調査項胃のうち,1.のニワガヒロイから20.のコノハリガホソイ までは,アクセント以外の他の種類の調査項屠(6項昌)を隔てて,もう一度 同じやりかたで発音したものも録音した。
指示文:「おそれいりますが,先ほどと岡じ文をもう一度読んで下さい」
この方法をとった最初の意図は,アクセントの現われの安定度を見ようとし たものだが,ここでの報告のかぎりでは1回目と2園揖を区別せずにまとめて 集計した結果だけを示すことにした。
166 4. アクセントの実態
2!.のホガシロイから最後の36.のアカトンボガトブまでは,1項鼠1回の 発音である。
上記の諸項呂を選んだ目的は次の通りである。
a !.のニワガヒロイから20.のコノハリガホソイまで。これは,2拍の名詞 のアクセントの五つの類(第1類から第5類まで,金閏一,!943,1974)のそ れぞれから2語ずつ選んである。主として被調査者各人のアクセントのタイプ たとえば:京阪式アクセントか東京式アクセントか,あるレくは一型アクセン
トかといったこと一を見るためである。以後,この種の項目の語を総称する ときは「類別語彙」と呼ぶ。
b 類別語彙の中の1!.のコノオトガスルから20.のコノハリガホソイまでは,
それぞれ問題の名詞にコノを付けた形である。これは,東京の場合はとぐに一 型アクセントの話者について,問題の語が文頭に来た場合(1.〜1G.)とそうで ない場合(11.〜20.)とのアクセントの現われのちがいを見ようとするのが,
最;初の意図であった。ただし,ここでの報昏の限りでは,1.から10.までと,
!1。から20.までを区別することなく,まとめて集計した結:果だけを示すことに
した。
c 21.のホガシロイから36.のアカトンボがFブまでは,東京の地回野相者 の間でも,アクセントにゆれが見られるものをいくつか選んだ。もっぱら東京 の地元嵐身者の被調査者(その定義については4.1.4.で述べた)につい て,全体的な傾向と,年齢その他の社会言語学的属性によるちがいを調べよう
とするものである。以後,この種の項自の語を総称するときは「個別語彙」と 呼ぶ。
(3)資料の作成・資料の性格
被調査者の発音を収録した録音テープは,担当者(本四の執筆者,南)がひ とりで全部聞き取りを行ない,記入用紙に各項昌の哲学の発音ごとのアクセン
トを記入した。その際の聞き取りの方針は,きわめて簡略な音声学的記述であ る。たとえば,次の程度である。
ニワガヒロイ ニワガヒロイ オトガスル オトガスル
4.1.東京のアクセント 167 ヤマガミエル ヤマガミエル
カサガホシイ カサガホシイ マドガオオキイ マドガオオキイ
聞き取り,記入に当たっては,それぞれの項貝の問題の名詞(十助詞ガ)の 部分のアクセントだけに注目し,後続の動詞,形容詞の部分のアクセントは無 視することにした。
聞き取りを行なうのを一入の担当者に限ったのは,アクセントの判定の基準 をできるだけ一定に保とうとしたためである。もちろん,担当者を一人に限定 したとしても,相当長:時事の聞き取り作業の間終始一定した判定ができるとい うわけではない。判断に苦しんだ個所も少なくないし,また聞き取りの誤りも あったと思われる。そうした危険性を見込んだ上で,複数の者が聞き敵つた揚 合の結果のばらつきを防ぐために,あえてこの方式をとった。ただし,判断に 迷ったものについては,他の一,二の所員にも聞かせて,その上で判定をした 場合もいくらかある。
聞き取りにおける音声学的記述をごく簡略なものにとどめたのは,担当者の 音声学的観察の能力の程度,比較的多数の資料を限られた時閥内で聞くこと,
録音の質(使用録音機,および録音の環境)などを考慮した結果,精密な観察 を行なうことは無理と考えたためである。
今まで述べてきたような調査の方法および資料作成の方法が,一般的にいっ て被調査者墨入燧人のアクセント,そしてある地域社会のアクセントの実態を 知るための方法としてもっともよいものであるかどうかについては議論の余地 があると思われる。しかし,無作為抽出された多数の被調査者を複数の調査員 が調査する揚合にさしあたってとりうる実行可能なものとして,上述のような 方法をとった。
つまり,ここで使訳する資料で知ることが出来るアクセントは,調査項目の ところであげた簡単な文を被調査者が読む限りにおいて現われたアクセント,
そしてそれを源則として一一人の入間が聞き敢つた限りのアクセントというべき ものである。