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化学と生物 Vol. 51, No. 1, 2013
巻頭言
Top Column
新しき巳年2013年を迎えられましたこ とをお慶び申し上げます. 巳 の語源は,
母親が胎児をお腹の中で包み込む様子を表 したものだそうです.そこから発展的に,
巳は 誕生 を意味することにもなり,さ らに 蛇 という漢字が当てられたことか ら,執念深いことをも意味することがあり ますが,逆にそれが我慢強いことや,恩に 報いることにもなったそうです.
さて,この歳になり,学会活動や教育の 場を通して 農芸化学 について考えるこ とが多くなりました.農芸化学は 化学と 生物 に関する非常に幅広い分野の,基礎 から応用に至る研究・開発を対象とした学 問・技術体系であると認識しています.本 学会関係の先達の方々は,まさにこの分野 の学問と産業において,日本をそして世界 をリードされてこられたことは周知のとお りです.一方では,農芸化学分野の活動が 発展し進展するとともに,細分化が著しく なり,比較的狭い領域の専門家が排出され るようになってきているようにも感じま す.最近の学生の興味も,自身が携わる非 常に狭い範囲に限定されてきているのでは ないでしょうか.こうした細分化は,大学 や官から 農芸化学 という表現が消えつ つあることとも連動しているのかもしれま せん.これは農芸化学に限らず,主として 西洋的な分析・解析的手法を基礎に研究を 進展している学問体系の当然の成り行きと も考えられます.しかし,昨今,限られた 研究・開発分野に携わる集団に対して 村 という言葉で表現することが増えて きているように,限定された集団のなかで は独断的かつ自己肯定的判断がなされるこ とも多々あります.分化した専門家の育成 も必要でしょうが,やはり開かれた分野で なければならないと思います.
一方,すべての事象,物象,科学や概念
には,必ず 境目(さかいめ) がありま す.その境目での活動は方向性が多様であ るにもかかわらずとても活発で熱く,時に は地震のように恐ろしいものにもなります が,時には新しいものを生みだす原動力に なります.W. Pauliは界面の重要性を強調 する意味で “God made solids, but surfaces were the work of the Devil.” と記してお りますが,これは境目(界面)には魔性の ようなエネルギーが蓄えられているととら えることもできます.新しい科学や概念も 境目から生まれるように思います.農芸化 学の 化学と生物 という対比概念もこう した境目を意識しているのではないでしょ うか.分野間の垣根を越えた交流は,学際 的あるいは分野横断的という言葉で表現さ れ,推奨されていますが,現状では分化さ れた分野への帰属意識が強く,境目に位置 する活動に対する評価は必ずしも高くはあ りません.
農芸化学が日本独特の学問体系であると 言われる由縁も,ほかの西洋的学問体系と 少し異なり,境目からの創生あるいは東洋 的な統合の成功経験に立脚していたように 私は思います.現状ではかなり分化が進ん だ農芸化学ではありますが, 巳 のよう に,広い分野を大きく包み込み,力強く,
新生の息吹としての統合的研究・開発・教 育活動を進めることが必要ではないでしょ うか? こうした動きは あそび の精神 での長期的かつ多様な試行が必要で,必ず しも目的直結型とはなりませんし,短期で の成果評価にも不利です.しかしこうした 活動を産官学間で認め,これまでの成果主 義中心の評価とは異なる統合的意識での尺 度での実践・評価により,現代に通じる新 しい農芸化学が見えてくるように思いま す.
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