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第 2 章 渦法と粒子追跡法による混相流解析手法と数値モデル

2.3 渦法による流れ解析

2.3.8 高速化

(2) 本論文における圧力計算の取り扱い

粒子に働く外力については次節の粒子挙動解析で詳しく述べるが,流れ場の圧力勾配 によって粒子に働く外力がある.これは圧力勾配力と呼ばれており,次式で表される.

p Vp

press

F (2.3.185)

ここで,Vpは粒子の体積である.圧力pには,重力によって生じる対象場全体に働く 圧力(静水圧)と,流れによって生じる局所的な圧力がある.前者の重力による圧力に ついては,上述した圧力場の定式化で用いたNavier-Stokes方程式に外力項として重力の 効果を加えることによって,式(2.3.185)で粒子に働く外力が計算できる.ただし,本 研究では静水圧の計算は省き,重力による粒子に働く外力については,流体と粒子との 密度差によって個々の粒子に常に働く外力として,粒子挙動解析のみで考慮した.一方,

流れによって生じる局所的な圧力勾配力については,高濃度粒子流や局所的に非常に大 きな圧力変化がある場合以外は,粒子運動に及ぼす影響が小さいため,本論文では無視 した.

以上のように,本論文では,圧力場の計算と粒子挙動の計算とを直接的にカップリン グさせていない.そのため,圧力場は,必要に応じて,その時刻における渦度場または 速度場の解析結果から圧力 Poisson 方程式を解くことによって従属的に求める.また,

上述したUhlman[49]により提案された空間に計算格子を設けることなく圧力Poisson方程

式を解く手法については,既存の研究[46], [49], [50], [53]において妥当性が十分に確認されてい るため,本論文では検証を行わない.

ができる.以降に高速化手法の詳細を記す.

(2) Biot-Savart法による誘起速度計算の負荷低減

2.3.3項で述べたように,流れ場に存在する渦要素および境界からの誘起速度は,渦度

の定義式を積分することによって得られる一般化されたBiot-Savartの式を用いて算出す ることができる.

ds G G

dv

G S

V ω n u n u

u (2.3.186)

上式中の Gはスカラー・ラプラス方程式の基本解である.また,RRは以下に示すと おりである.

j i j

i r , R R r r

r

R (2.3.187)

riは解析領域内の任意位置(誘起速度算出点),rjは渦要素または境界パネルの中心位 置である.ここで,二次元における基本解Gを式(2.3.186)に代入すると,次式のよう になる.なお,三次元の場合でも,本項で述べる高速化手法が同様に適用できるため,

ここでは省略する.

R ds dv R

R S

V 2 2 2 2

1 2

1 n u R

u R n R

u ω (2.3.188)

上式の右辺第一項の空間積分は,流れ場に存在する離散渦要素から誘起される速度を 示している.第二項の境界積分は,離散渦要素とは無関係な境界上の速度で決定される 渦度のないポテンシャル流れの速度を表している.第二項を速度ポテンシャルの勾配

で表すと次式のようになる.

R dv

V 2

2

1 ω R

u (2.3.189)

上式の右辺第二項の速度ポテンシャルの勾配 は壁面や流入出面などの境界条件か ら定まる誘起速度であり,境界の分割数に依存する.境界自体の分割数は数百~数千程 度であるため,計算負荷の面ではそれほど大きくない.一方,右辺第一項の渦要素から の誘起速度は渦要素数Nvに依存しており,解析の高精度化を図るには,数万から数十万 程度の渦要素数に達する.そのため,渦要素数Nvが解析全体の計算負荷に及ぼす影響は 大きい.計算の高速化を図るには,Biot-Savart の式中の渦要素からの誘起速度計算に要 する負荷を低減する必要がある.

(3) 高速化手法の導入

上記のBiot-Savartの式(2.3.189)において,渦要素からの誘起速度のみを考えると次

式になる.

v

k

N

k V

k k

k dv

R

1 2

2

1 ω R

u (2.3.190)

渦要素からの誘起速度は,R の二乗に反比例することがわかる.ここで,R は解析領 域内の誘起速度算出点riと各渦要素位置rkとの距離Rk ri rk である.解析領域内に存 在する渦要素が持つ渦強度が同程度であれば,参照点近傍に存在する渦要素からの誘起 速度は大きく,参照点から離れた位置に存在する渦要素からの誘起速度は小さくなる.

現在用いている解析手法の中では,上式を計算する際に,解析領域内に存在する全て の渦要素から誘起される速度を算出している.ここで提案する高速化手法では,上式を 計算する際に,遠方に存在する渦要素からの誘起速度計算を,計算の精度と負荷に応じ てある程度省略することによって,各渦要素からの誘起速度算出に要する計算負荷を低 減させる.以下に高速化手法案を二つ挙げる.

【高速化手法】(図2.3.9を参照)

① 速度算出点から距離Rn以上離れた渦要素からの誘起速度は無視する.

② 全ての渦要素からの誘起速度を重ね合わせするが,速度算出点から距離Rn以上 離れた渦要素からの誘起速度は数ステップおきに計算し,その値を継続して用い る.Rn以内に存在する渦要素からの誘起速度は毎ステップ計算する.

図2.3.9. 高速化手法

Rn

Rk > Rn

Rk < Rn

Vortex element

①では,遠方に存在する渦要素の渦強度が大きい場合に,計算精度の低下が著しく生 じてしまう.

②では,遠方に存在する渦要素に対しても,数ステップおきに計算した値を用いて誘 起速度を算出するため,上記のような問題はない.しかし,計算を省略するステップ数 を大きく取り過ぎると非定常性が損なわれる危険性がある.

本研究では,上記した危険性に留意した上で②の高速化手法を用い,3.2.5項において 高速化手法の有効性と妥当性を検証した.